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一般大学生、Giftをもらう

5月18日


「Giftって単語には“才能”って意味があるんですよ...」

昔受けた英語の授業を夢の中で見たような気がした。


――――――――――――

大学の授業が終わって、カラオケ店に向かった。

20時まではお客さん、20時から29時まではアルバイトだ。従業員は半額で利用することが出来るため、授業とバイトの間はルームで課題に勤しんだり、歌ったりしている。


まぁ機械には俺の歌声の良さは分からないよな...!!!


開き直って部屋を出て、スタッフとしてフロントに立つ。

バイトの業務は、フロント、調理、清掃と大きく分けて3つだが、特に清掃が好きで、お客さんが帰ったらすぐに部屋に向かって片付けを始める。

お客さんがどのように部屋を使うのか、これを見ればなんとなく人柄が分かるような気がして好きだ。


24時を過ぎると終電もなくなり、朝までお客さんは帰らなくなる。そうなってしまうとやることがない、俺の好きな清掃をすることがなくなってしまう。

今日を除いては―――


8号室のお客さんが26時に退店した。

帽子を目深にかぶっていて独特な雰囲気をまとっていたような気がする。

すぐに清掃に入ったが、鼻をつくような、海岸?磯?のような臭いが部屋に充満していた。

くっっっっっっっさい、これは清掃してられねぇわ。

―換気扇を回して、ドアを全開にすること30分―

そろそろ臭いも取れた頃合かと入室するが、まだ臭い。

これは臭いの元が部屋に残されているに違いないと発生源を探すと、テーブル下にピンポン玉くらいの個体でも液体でもないような、消臭剤の中身のような異物を見つけた。ただこれは消臭剤ではなく、臭剤だ。

直で触りたくないからビニール手袋を装着して拾おうとするが、拾えない。

なぜかそれを掴むことができない、ビニールで滑っているような感覚があり、覚悟を決めて直接手で拾った。



5月19日


なんとも形容しがたい感触だったことだけを覚えている。

時刻は11時18分

8号室の清掃に入った後の記憶はなく、自室で目覚めたことに驚いている。

シャワーも浴びていたようだし、問題なくバイトはやりきったようだと、店長とのLINEで分かっているが気味が悪い。

自室を出てリビングに向かうが誰もいない。そりゃそうだ、父も母も仕事だし、妹は高校に通っているんだから、この時間に家にいるのは自分だけだ。簡単に食事を済ませ、13時からの授業に間に合うように家を出た。


電車に乗ってふと気になり自分のSuicaの履歴を確認するが、5時12分に改札に入り、自宅の最寄駅を5時44分に出た履歴がある。全く覚えていないが、深夜のバイトの後はクソ眠いので考えることをやめて、車内で眠りについた。

最寄駅から5分ほど歩けば大学に着くが、俺の学部棟は駅の反対の端にあるため、そこからさらに5分ほどずーっと寝ぼけたまま、歩いていた。


15号館に入った瞬間に目が覚めた。


(授業くそだりぃ)

(この人の名前なんだっけ?)

(今日の小テストで20点を下回ったら落単だ...)


無差別に、その場の人間の心の声が全て脳内に入ってくる。

気が狂いそうだ、助けてくれ、やめろ、と頭を抱えて机に突っ伏した。

聞きたくないと思ったら、聞こえなくなった。

「神はついに俺に特殊能力を与え賜うたのか」

独りごちる俺はさながら、主人公の気分だった。この力で世界を救うか、征服するか、はたまた同じような能力者達と秘密結社を作るか、闇の組織から追われて逃走劇になるのか、そんな妄想が一気に膨らむ。


もう一回やってみようと、心の声を聴いてみようとすると、それはいとも簡単に聴こえてきた。

「まじで能力者になったかもしれん」

そんな感想を抱いている間に、俺は失神した。


「...おい...高田...起きろ......始まるぞ...」

俺を起こす声が聞こえた。

「おはよ、原田」

こいつは俺の数少ない友達で、ほとんどの授業はこいつと一緒だから、出席や課題は助け合っている。

原田には俺が休み時間に寝ていたように見えたようで、教授が来たから起こしてくれたそうだ。


「...であるからして、準同型の核とした場合には、同型写像になるんですね!」

教授は何かを一生懸命に説明してくれているが俺にはさっぱりだった。というのも俺は文系で、必修科目の中に理数系が4単位必要だったから受けているだけ、元より数学はからっきしなんだよね。

「初級数学~大学から始める数学~」なんて名前だったから選んでしまったのが運の尽きで、理系の学ぶ大学数学を今から始めよう!もちろん数学Ⅲまでの知識は皆あるよね?って感じのテンションの授業だった。


そんなわけの分からない授業より俺は今、心を読む力のトレーニングで忙しかった。

俺は、この精神感応(テレパシー)を開いたり閉じたりして、使いこなせるように練習を繰り返した。

「チャンネルオープン!!!」

これは俺が能力を使うときに心の中で発するイケイケワードだ。

閉じるときのワードは考え中だ。

初級数学の授業中に開いたり、閉じたりするのはマスターした。俺は天才なのかもしれん。自分の才能が怖い。才能といえば、この力はこれからGiftと呼ぼう。うん、かっこいい。


次の授業は英語の授業で、名作映画を英語で見るだけの何とも楽な授業だ。

今日は人魚姫が人間に恋をするアニメ映画だった。

それはさておき、この授業中には、心を読む対象の範囲を調節する練習をした。さっきのようにキャパを越えた情報量で失神していては困るしね。


教室に居る40人の心を順に聴いていく。

(このシーン好き!)

(OB訪問嫌だなぁ)

(ルシァ...どうして...)

いったん止めよう。

心に傷を負っているファンデッドが1名紛れ込んでいた。君も歌い手になって、有名になればワンチャンあるぞ!強く生きろよ!


(眠い眠い眠いねむい...ねむ...zzz)

(...あ...げ...)

(...............)

まだ力を使いこなせていないようで、はっきりと聴き取れない対象も居るし、全く聴こえない人間も居るようだ。

これは連続でGiftを使っているからなのか、力不足か、要検証案件だ。

初日からこれなら上出来だろう。

やっぱり俺は天才なのかもしれないな。

天下の早稲田に入学し、特殊能力にも目覚めて、彼女もいて、イケイケだ。イケイケ過ぎてもはや怖い。

高田大智、幸せな人生を歩んでいます、神様ありがとう、運命のいたずらでも、巡り会えたことが幸せなの

いけない、俺の中の撫子が出てきてしまったぜ。


今日の授業は終わり、またカラオケに向かった。

今日は17時から24時までなのですぐにフロントに立って接客をしていたが、

クソ楽しい。

来店するお客さんの心が聴こえ放題なのだ。

(この子に聞かせるために練習してきたんだ)

(なんで先輩とカラオケ来なきゃアカンねん、はよ帰りたいわぁ)

「すれ違ってますよ、お客さん」

おっと危ない、心の声が漏れてしまったが、まぁギリギリセーフでしょう。


18時に近づくにつれて、店もだんだん忙しくなってきた。チャンネルを開くことも忘れて働いた。

18時半頃には落ち着き、またチャンネルを開こうとしたが、開かない。何度試しても開かない。あれだけ聴こえていた心が聴こえなくなった。

どーしてんなんだよぉぉとカイジの声が脳内再生される。まじでどうして???

使いすぎたのカナ?MP切れみたいなことなのカナ、魔法の聖水飲めばいいのカナ?でもこの世界には売ってないネ!!(笑)(笑)

とオヂサンみたいな心の声を漏らして、明日になればきっとMPは全快になっているはずだ!!と帰宅して眠りについた。


5月20日


今日は10時45分から授業があるから9時には起きていた。高校生までは8時に登校するために7時までに起きていたのに、もう起きられる気がしないなぁなんて考えていた。

就職したら9時出社になるのか!?

そしたら7時に起きなきゃならないのか!?

無理だ、社会に出たくない、働きたくない、俺はGiftで何か新規事業を立ち上げて...


そういえば、今日は俺のチャンネルはオープンするのだろうか?試しに母の心を聴こうとしてみる。

聴こえない。なーんにも聴こえない。

終わった、俺の能力は1日限りだったんだ、というか、普段から妄想している俺の妄想が飛躍して人の心が読めると思い込んでいただけなのかもしれない。あんな超常現象が起こるはずがない。

「ははは...一般就職しなきゃだな...早起きの練習しておかなきゃだな...」

正直めっちゃ悔しい。国立大学が不合格だった時より悔しい。

現実逃避していたら家を出る時間になったので、大学に向かった。


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