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とんでもない爆弾

「ノア君が自分から発狂癖を直したいって?」


 お兄様が、驚きのあまり紅茶に入れようとしていた角砂糖を落としてしまった。


「おっと、失礼。……まさか彼が自分から言うとは思わなかったな」

「ええ。私は心配で仕方ないの」


 ノア様が発狂癖克服宣言をされてから数時間後。家に帰った私はお兄様に相談をしていた。なぜなら――


「ノア様は昔もそれを試みて、体調を崩されたから」


 そもそもどうしてこの歳まで発狂癖を直さなかったのかというと、直さないと言うよりは直せなかったからだ。


 昔、何度かノア様が発狂癖を直そうとしたのだけど、気持ちを言葉にするのをずっと我慢して、飲み込んだせいでノア様は日に日に顔色が悪くなっていった。そして、倒れてしまった。


 それを何回か繰り返した後、ノア様の発狂癖を直すのは無理だということで、「普段は距離を取り発狂を防ぐ」という対策を取るようになったのだ。


「直すことが難しいことは、彼が1番よく分かっているはずさ。それでも決めたんだ。エルシーに出来ることは、もう分かっているんだろう?」

「……ええ」


 数時間前の会話を思い出す。


『またノア様が体調を崩されるのは嫌です』

『……それでも、直していきたい』


 澄んだ赤紫の瞳には固い意思が見えた。こんな目をしたノア様は絶対に折れないのは分かっていたから、私は頷くことしか出来なかったのだ。


「ノア様が体調を崩さないような、緩やかな直し方があればいいなと思って、考えているんだけど、難しくて……。お兄様だけが頼りなの。何かアドバイスを貰えないかしら?」


 そう聞くと、お兄様がピクリと動いた。


「お兄様だけが……頼り……」

「ええ。ノア様のこと、相談できるのはお兄様だけだもの」

「世界一優秀で妹想いの優しくてかっこいい最高のお兄様だから?」

「……ええ」


 本当はそもそもノア様の事情を知っていて、かつ、割となんでも話せる人物がお兄様しかいないからなんだけど、多分それを言うとお兄様は拗ねてしまうので、とりあえず頷いておく。


「世界一優秀で妹想いの優しくてかっこよくて頭が良くて運動もできてバイオリンも上手で最高のお兄様だから、いい解決策を考えておくよ」

「本当?ありがとう、お兄様!」


 お兄様の前についている形容詞が若干増えたけどこちらも面倒なのでスルー。ごめんね、お兄様。


 けれど、お兄様は特に気にすることなくルンルンで紅茶を飲んでいたのでノープロブレムね。


 〜〜〜

 翌日、学校に到着すると、教室内がいつもよりざわざわとしていた。何かあったのかしら……?


 ソフィアが私の姿を見つけるなりこっちにやって来る。


「おはようソフィア。何かあったの?」

「おはようエルシー。さっきガイック様の側近の方が来て、ガイック様の欠席を先生に伝えていたのよ」

「ああ、それでこのざわめきなのね」


 ノア様は幼等部からずっと無遅刻無欠席だったもの。そんな方が欠席する訳だからちょっとした騒ぎになるのも頷ける。


「その様子だと、理由を知っているみたいね」

「ええ、まあ……」


 知っていますとも。昨日、あの後お医者様が来て、やはり寝不足との診断結果だった。それくらいなら学校に行くと言い張っていたノア様だけど、お休みされるなんて私もびっくりよ。


 イーサンが念の為明日は気絶させてでも休ませるって言っていたから、まあ、彼に言いくるめられたのでしょう。


 それにしても、どうやって伝えれば良いのかしら。私のプレゼントが嬉しすぎて倒れた、なんて言えないし……。


「最近お疲れだったみたいよ」


 とりあえず無難な返しをする。嘘はついていないからセーフよね?


「何かの病気とかではないのね?」

「お疲れなら何か元気になる贈り物を差し上げないと」

「お見舞いに行こうかしら!」


 いつの間にか話を聞いていた女子たちが話に割り込んできた。


 男子もこちらの様子をちらちらと窺っている。


 皆さんそんなにノア様の様子が気になるのね。さすがノア様、やっぱり次期公爵様は心配され度が違うわ。


 ただ、プレゼントやお見舞いをする程の病気じゃないから、どうなのかしら……。


「お話中申し訳ございません。大変ありがたいのですが、医者から静養するようにいわれておりますので、お見舞いや贈り物は全てお断りさせていただきます」


 ナイスタイミングでイーサンが教室に戻ってきたわ。


 私がプレゼントはやめた方が……とか言うとご令嬢達から一斉攻撃をくらいそうだけど、側近のイーサンが言うなら彼女たちも従わざるを得ない。


 予想通り、残念がったり悔しがったりしながら、みんな席に戻っていく。


 これで平和になる……と思っていたら。イーサンが最後に爆弾を投下した。


「ああ、エルシー様は本日()公爵邸にお越しください。医者からも許可は得ていますし、何よりノア様が心待ちにされていますから」


 ちょ、イーサン……!?!?!?そんなこと言ったら女子ーズから一斉攻撃を……ってほら、みんながこっちを睨んでいるんですけど……!?


 イーサンに助けを求めようとすると――


「放課後にお迎えに参りますね。では、私はこれで失礼します」


 ――帰ってしまった。


 イ、イ、イーサンの薄情者~~~~!!!

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