お兄様の助言
短めです!
買い物も無事終わり、馬車に乗って帰る途中、私は改めてお兄様にお礼を言った。
「お兄様、今日はオペラに連れて行ってくれて、お買い物も付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ一緒に行ってくれてありがとう。1日楽しかった?」
「ええ、とても!ノア様とは滅多に出かけられないから、久しぶりにお出かけできて嬉しかったわ」
ノア様と一緒に街を歩いたら、間違いなく広場で号泣しながら床を転がるもの。
「……エルシー。本当にノア君との婚約は辛くない?」
急にお兄様の声が緊張と心配を帯びる。
ノア様との婚約が辛い……って、どういう意味かしら。
「辛い……?いいえ、そんな事ないわ。どうして?」
「ノア君と一緒に出かけられない。エスコートもほとんど無い。ダンスも1曲だけ。……彼がエルシーを蔑ろにしていないことは分かっている。でもね、兄として心配になってしまうんだよ。いつもはこんなこと聞かないんだけど、つい、ね」
「お兄様……」
お兄様の気持ちは分かる。私たちは「普通」じゃないから。心配になるのも当然よね。何ならずっと心配を外に出さないでいてくれたことが有難いし、申し訳ない。
「ありがとうお兄様。でもね、もうそれが当たり前なの。だから辛くないし、私……ノア様のことが好きだもの」
「……それは今日、嫌ってくらい分かったよ。本当は、エルシーが辛そうなら彼に文句の100や200でも言ってやろうと思っていたんだけど、嬉しそうにプレゼントを選ぶ横顔を見たらそんな気も無くなってしまった」
「え、私、そんな顔していたの?全くの無自覚だったわ……」
お兄様が楽しそうに頷く。
「幸せそうなエルシーが見られたから、しばらくはまだ何も首を突っ込まないでおくよ。でもねエルシー、最後に1つだけ。お兄様からの助言だ」
「助言?」
「好きな相手だからって何でも肯定する必要は無いんだよ。1番は相手じゃなくて自分で良いんだ。例え相手が世界で1番愛おしい人でもね」
まるで小さい子どもを諭すみたいに、目を見てゆっくりと話すお兄様。
「1番は、自分……」
そう呟くと、お兄様は大きく頷いた。
「エルシーは優しすぎるから。もっとエルシー自身と向き合ってみるのもいいんじゃないかな?」
お兄様の言葉は、とても易しいようでとても難しかった。