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お兄様とオペラへ

エルシー視点に戻ります!

 その日の夜、部屋で学校の課題をやっているとふいにノックの音が聞こえた。


「エルシー、僕だよ」


 この甘くて柔らかい声は、お兄様だわ!私は急いでドアを開けた。


「やあ。……もしかして課題中だったかな?邪魔してすまない」

「いいのよ、気にしないで。ちょうど集中が切れてきたから」


 4つ上のクリスお兄様は、国立中央大学で経営学を専攻している。最近忙しいみたいでほぼ会えていなかったのに、どうしたのかしら?


「実は学校の課題が一段落してね。今週の週末、エルシーをオペラに誘おうかと思って」

「オペラ!是非行きたいわ!」

「本当かい?良かった。エルシーと出掛けるのも久しぶりだね」


 ふわりと微笑むお兄様。キリッとしてクールなお顔のノア様とはまた違うタイプの美形だから、微笑みの威力が凄い。


「そうね。オペラも久しぶりだから今から楽しみだわ」

「ああ。僕も楽しみだよ。というわけだから、ハンナ。準備をよろしく頼んだよ」

「かしこまりました」

「それじゃあ、僕はこれで。お互い課題を頑張ろうね。おやすみエルシー」

「はい。おやすみなさい、お兄様」


 ノア様とは()()防止のためほとんどお出かけが出来ないから、必然的にインドアになりがちなのよね。そろそろどこかに行きたかったらナイスタイミングだわ。


「良かったですね、エルシー様」

「ええ!」

「ああ、そうです。もしお時間があれば、オペラの帰りにガイック様へのプレゼントを買われてはいかがですか?」

「ノア様への?」


 今は6月、ノア様のお誕生日は12月だからまだまだ先なはずなのだけど。


「実は昨日イーサンから聞いたのですが、ガイック様は最近新しく領地や商会の仕事を公爵様から任されたそうです。そのためか寝不足の状態が続いているようで」

「まあ、そうだったの?」


 初耳だわ。昨日お会いした時にも全く分からなかった……。あ、でも、もしかして。


「もしかして、昨日いつもよりノア様の発狂度が高かったのはお疲れだったから?」

「そうかもしませんね」


 疲れていると1周回ってハイテンションになっちゃう時ってあるわよね……。


「それじゃあ、ノア様は相当寝不足なのかもしれないわ」

「なかなか休んでくださらないとイーサンがボヤいていました」

「ふふっ。想像つくわ。ああ見えてイーサンは心配性だもの」


 普段はノア様に厳しめだけど、なんだかんだ世話焼きお兄さんなのよね。


「でも、そんなにお忙しいならお茶会の回数を減らしたほうがいいんじゃないかしら」

「それはできません」


 ハンナが激しく首を振る。


「どうして?」

「恐らく、エルシー様と会えないとガイック様はますます体調を崩されます」

「……それもそうね」


 確かに、本当にしんどいなら事情を話してお茶会の回数を減らしているはず。そうしないということはそうしたくないのでしょうね。


「でも話を聞いたからには何か贈らない選択肢は無いわね。お兄様と一緒に選んでくるわ」

「はい。それがよろしいかと思います」


 何を贈ればいいのかしら。寝不足のノア様にぴったりなもの……。

 その日は寝るまでの間ずっと贈り物について考えた。


 ◇◆◇


 週末、お兄様とオペラに行く日がやってきた。ちなみに今日のために学校の課題を前倒しでやりました。偉い、私!


「エルシー、準備はできた?」

「ええ、できたわ」

「今日のドレスもすごく似合っているよ。やっぱりエルシーは明るい色が良く似合う」

「本当?ありがとう、お兄様」


 お兄様に褒めてもらえた今日のドレスはパステルイエローカラー。初夏なのでさわやかなものをチョイスしたの。


「それじゃ、行こうか」

「いってらっしゃいませ」



 伯爵家の馬車に乗ること30分。会場に着くとたくさんの人でにぎわっていた。


「人が多いわね」

「今日観るのは人気の演目だからね」


 そう。これから観るのは今大人気でチケットがなかなか取れない「秘密の恋」なの。お兄様が伝手を使ってチケットを手に入れてくれたみたい。


 オペラハウスの中に入り席に座る。この始まる前のワクワク感が好きなのよね。


「エルシーは観劇前に予習する派?」

「たまに予習することもあるけど、1回目は何も知らない状態で楽しみたいから基本はしないわ」

「同じだね。僕もそのタイプだ」

「じゃあ今は2人でワクワクしているのね」

「そういうことになるね」


 お兄様とオペラの話や学校の話をしているうちに開演時間がやってきた。


「秘密の恋」は、ライバル関係にある2つの家の男女が出会うところから物語が始まる。初めは敵対する家の人という事もあって、主人公のカルロとヒロインのクラウディアは会えば喧嘩ばかり。でも、話していくうちに相手の弱いところも見え始め、徐々にいとおしさが増していく。


 そしてついに2人はお付き合いをすることになるのだけど、対立関係の家の者との交際を周りが許すはずもなく、2人はこっそりと会うしかない。一緒に街を歩けないし、周りから祝福もされない。交際がばれないように気を遣う日々。


 なんだかデジャブだわ。このオペラを観るのは初めてなはずなのに、この状況はよく知っている気がする。なんだったかしら……。


 ――――ああ、そうだわ。私とノア様みたいなんだわ。私たちの家は敵対関係にはないのでそこは全く違うのだけど、ノア様の発狂を秘密にするために会うのは基本ノア様の部屋の中でだけ。学校ではほとんど会話しない。はたから見れば交際中だなんてわからない状況はよく似ている。


 カルロとクラウディアはとても悲しそうで、愛し合っているのに秘密にしなければいけない悲しみを歌い上げる。演者の気持ちのこもった歌に会場からもすすり泣く声があちらこちらから聞こえる。


 けれど、2人はただ悲しみに暮れるだけでは無かった。このままではいけないと両家の関係の修復を決意。最後は無事に両家の対立を終わらせ、物語は幸せな結末を迎えた。


 人前で手を繋いで、一緒に歩く。結婚は色んな人達から祝福されて。今まで出来なかったことが当たり前になった。


 それが羨ましいと思ったのは、どうしてなのかしら。

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