SIDE:B 噂の出どころ
ノア目線のお話です。短めです。
「いつも送っていただいてありがとうございます、ノア様」
「当然のことだよ、エルシー。それじゃあまた来週、お茶会を」
「はい。楽しみにしています」
馬車を降りるとエルシーがふわりと花のような笑みを浮かべる。可愛すぎる。いくらなんでも可愛すぎる。
「可愛い。本当に可愛い。なんでこんなにエルシーは可愛いんだ」
「ノ、ノア様、心の声が漏れ出ています」
またやってしまった。毎回、エルシーへの想いを抑えようとしても上手くいかないんだ。エルシーが可愛すぎて仕方がない。今もこうやって恥ずかしがっているのがもう可愛い。可愛いが止まらない。
「それでは、失礼します」
「ああ。またね」
エルシーが婚約者になってからずっと、このお茶会を週に1回開いている。家まで送るのも毎回だ。なのに、毎回毎回エルシーに会うと想いがあふれ出すし、別れ際は毎回毎回さみしい。
名残惜しいが、すぐに家に戻らなくてはならない。そう、僕にはやるべきことがある。
◇◆◇
自室に戻ると僕は早速イーサンを呼んだ。
「お呼びでしょうか」
「イーサン、1つ頼まれてくれ」
「例の噂について、ですか?」
噂についてもう知っていたとは。恐らくハンナから聞いていたのだろう。ならば話が早い。
「ああ。噂の出どころを突き止めてほしい」
「それだけでよろしいのですか?」
「ああ。何か問題が?」
「いえ、問題はございません。……大方、噂をしていた生徒の名を聞き家に圧力をかけようとしたところエルシー様に止められた、と言ったところですか」
少々呆れた様子で言い当てる。大体合っているから悔しい。なぜ何も言っていないのに分かるのだろうか。
「……何故そこまで分かる」
「分かりますよ。貴方はエルシー様のことになると途端に冷静さを失いますから。黒の貴公子が聞いて呆れますね」
「辛辣過ぎないか?」
「事実ですので」
彼のズケズケした物言いは今に始まった事ではない。ただ、筆頭公爵家の長男である僕に対して正直に意見を言ってくれる者はイーサンくらいだし、彼は半分兄のようなものだ。だから特に咎めるようなことではない。それに――
「エルシーは僕を信じてくれているし、噂は全く信じていないだろうね。でも、エルシーの不名誉になりかねない噂を流し、少しでも彼女の穏やかな日常を壊した者を私は許す気はない。1人たりとも、な」
それに、彼の言う通り僕はエルシーのことになると気持ちが抑えられなくなる。ミルクティー色の柔らかな髪も、エメラルド色のつぶらな瞳も、優しい心も。何もかもが、全てが、愛おしくて。彼女を守りたくて。
「……だから君の言う通り少し熱くなってしまった」
「自覚がおありなら大丈夫ですね。この件の調査は私にお任せください。貴方がいつ何をしでかすか分からなくて不安なので」
「……ああ」
今またさらっと辛辣なことを言われた気がするが流しておこう。