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黒の貴公子の秘密

久しぶりの更新になってしまいました…

「グスングスン」

 お茶の用意ができた後もノア様がなかなか泣き止んでくださらないので、私は落ち着くまで待っている最中だ。


 今日は特にすごかったけど、昔からノア様は私を見るだけで発狂してしまうのだ。今みたいに泣くことも多いのよ。


 こんな姿を公の場で見せる訳にはいかないので、このことは公爵家の重大機密の一つになっている。この姿を知っていいのはノア様に近しい人物だけだから、ソフィアにこのことを伝えられないの。


 さっき部屋に入る前にイーサンが防音チェックをしていたのもノア様発狂ボイスが外に漏れないようにするため。学校で目を合わせず会話もせずエスコートも最低限にしているのも、ノア様の発狂スイッチが入らないようにするため。婚約破棄の噂が出てしまったのはそのせいなんでしょうけど…。本当はノア様が私の事を大切に思ってくださっていることは十分すぎるくらい伝わっているわ。大事なことだからもう一度。十分すぎるくらい。


「……すまないエルシー。いつも情けないところばかり見せてしまって。せっかくの紅茶も冷めてしまう」


 そんなことを言っているうちにノア様が落ち着いてきたみたい。項垂れて眉を八の字にするノア様。これはかなり落ち込んでいる証拠!ちょっと、いえ、かなり可愛いんですがそんなこと言っている場合じゃないわね。フォローしないと。


「お気になさらないでください。冷めても紅茶はおいしいですし、また淹れれば大丈夫ですから」

「ありがとう。エルシーは本当に優しいね。可愛い。大好き」


 さっきまでシュンとしていたお顔が急にパッと明るくなる。


「本当のことを言っているだけですわ。そろそろ落ち着いてきました?」

「ああ。泣き止んできた」

「それは良かったです。紅茶、淹れましょうか?」

「いや、僕にやらせてくれ。せめてものお礼だ」

「よろしいのですか?」

「もちろん」


 この国では紅茶は使用人に用意してもらうのが通常だけど、貴族自らもおいしい紅茶を淹れられることは一種のステータス。そしてノア様の淹れる紅茶はとてもとてもおいしいの。しかもノア様はただおいしく淹れられるだけじゃなくて所作も美しい。全く無駄がなく、それでいて丁寧。洗練された動きも香り高い紅茶を淹れるテクニックも、一朝一夕では身につかない。ノア様の努力が詰まっているから、淹れる様子を見る度にこの方を好きになる。


「はい、お待たせ」

「ありがとうございます、ノア様」


 紅茶を一口飲む。さわやかな香りがいっぱいに広がって、とてもおいしい!


「とてもおいしいです、ノア様!」

「大好きなエルシーの好みは完全に把握しているからね。そう言ってもらえてよかったよ。可愛い」


 にこりと微笑むノア様の破壊力たるや。婚約者になってもう10年くらいになるけれど、いまだに慣れない!顔面の強さに!…って、そう、そうよ。婚約者と言えば、婚約破棄の噂のことノア様に一応伝えておかないといけなかったんだわ、危ない危ない。


「そういえば、ノア様。お伝えしたいことがございますの」

「ん?なんだいエルシー」

「実は今日学校で、ノア様が私との婚約を破棄するという噂を聞きました。もちろん、私は信じてい――」


 ガッシャ―ン!!


 私が言い終わらないうちにノア様の手からカップが滑り落ちた。そして――


「……コンヤクハキ。コンヤク、ハキ。僕と、エルシーが?婚約破棄?」


 俯いてぶつぶつ呟くノア様。まずい、これはまずいわ。誤解が生じている気がするわ!


「ノア様、落ち着いてください。噂です、噂が流れているだけですわ!私はそんな噂全く信じていませんし」

「……」

「ノ、ノア様?」

「ああ、すまないエルシー。焦らせてしまった?エルシーが僕を信じてくれているのは分かっているよ。僕は君との婚約を破棄するつもりはないしね。絶対に。何があっても」


 テーブルを見つめているその視線はいつも私に向けるものとは違う、どこか冷えた視線。ノア様の纏う空気の温度だけが氷点下まで下がっているような感覚になる。


「その噂をしていたのは誰だい?名前は?学年やクラスは分かる?」

「ええ。お話したことは全くない方々でしたがお名前は分かります」

「そうか。さすがエルシーだね。人物の把握も完璧だ」

「お褒めいただき光栄です。ですがノア様、その方たちに何もしないと約束していただけない限り、お名前はお教えできません」

「……今日はあくまでも噂の報告をしたいだけってことなんだね」


 ノア様と目が合うと、纏うオーラが元に戻った。どんな時でも絶対に私と目を合わせるときに表情が柔らかくなるから、それが嬉しい。私の意思を汲み取って尊重してくださることも嬉しい。


「そうです。申し訳ありません」

「謝らないでエルシー。噂が出ていることに気が付かなかったんだ、僕が責められるべきだ」

「まだ大きな噂にはなっていないようですし念のためご報告しただけですから、大丈夫です」

「そういってもらえると助かるよ。対応は私が考えておくからとりあえずは様子を見るという事でいいかい?」

「はい。ノア様がそれで納得してくださるのなら」

「分かった。報告ありがとうエルシー。今日は噂をしていた者の名前は聞かないでおくよ。僕が何をするか分からないから」


 ノア様の眼光がまた鋭くなる。ノア様って普段は温厚だけど怒ると圧倒的に怖いタイプの方だから本当に何をするか分からない。ノア様の為にもあの方々のお名前は言わないほうがいいわね。


「それにしてもエルシーは本当に優しいね。女神だ。いや、天使か。いや、やはり女神……いや、笑顔のかわいらしさを考えると天使か……」


 あ、一瞬でいつものノア様に戻ったわ。私は女神でも天使でもない、ただの伯爵令嬢なのだけど……。とりあえず噂の報告はできたから、無事ミッションコンプリートね!

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