協力者、現る
「ちょっとエルシー、嬉しいんだけど急展開過ぎてびっくりよ」
「ごめんなさいソフィア」
あれから6日後。いつものように公爵邸に向かう馬車に、今日はソフィアが乗っている。
「毎週お茶会をしていたのも初めて知ったわ。学校で全く会話がないから心配していたのよ」
「ちょっと事情がありまして」
「今まで言えなかったのに、どうして今になって私をお茶会に誘ってくれたの?」
「ちょっと事情がありましてその2」
「もう、こっちは真剣に心配しているのに」
「だって、ようやくソフィアをノア様に紹介できるんだもの、嬉しくて。お兄様の作戦に感謝だわ」
お兄様が考えた作戦はこう。
ノア様が想いを爆発させてしまうのが発狂の原因だから、協力者を作り、その人に私への気持ちをぶつけることで想いが爆発してしまうのを避けようというものだ。
今までノア様の発狂癖を直そうとして失敗していたのは、発狂癖を完全になくそうとしていたからじゃないかと考えたってお兄様が言っていたけど、この作戦ならノア様の負担も少ななそうよね。
そして、この協力者をソフィアにお願いすることになったの。だからこうしてソフィアを公爵邸に招待したわけなんだけど……。
「作戦って何の話?」
「ちょっと事情がありましてその3」
「もうそれは分かったから」
「事情は全部、着いてから話すわ」
「分かったわ。楽しみにしておく」
「でも、その前に注意事項が……」
「注意事項?」
ソフィアが首をかしげる。
「多分、今日は音量がすごいから耳には気を付けてください」
「……え?」
首を傾げたまま、目をパシパシさせるソフィア。人に会いに行くときに聞く注意事項じゃないもの、そうなるわよね。
ノア様の発狂の話はまだできないとはいえ、注意しておくに越したことはない。
「もしかして、これから珍獣に会いに行くの?」
「違います」
「でも耳には気を付けるの?」
「念のため」
「なんで?」
「事情がありまし」
「それはもういいってば」
「あら残念」
◇◆◇
「ガイック公爵邸をこんな間近で見ることになるなんて……」
「本当に綺麗よね」
お屋敷に着きちょっと緊張しているソフィアを連れて中に入ると、いつも通りイーサンが迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました、エルシー様、そして、マルカム伯爵令嬢。私はノア様の側近を務めております、イーサン・ホワイトと申します。以後お見知り置きを」
「ソフィア・マルカムと申します。よろしくお願いします」
「それではお部屋にご案内いたします。都合によりサロンではなくノア様の私室にご案内いたしますがご了承ください」
「分かりました」
顔には出ていないけれど、多分ソフィアは驚いているんでしょうね。
普通、来客はその家のサロンに案内され、そこでもてなしを受ける。私室に入れるのは家族や恋人、本当に親しい友人だけだから。
逆に私はサロンでお茶をしたことはあんまりない。ちょっと残念だわ。
階段をのぼり、廊下を歩く。部屋の前に着くと、いつもの窓チェックが始まった。
「問題ありません」
「ありがとう、イーサン」
「今日はいつもとは違う髪型だから、音量注意よ」
「承知しました」
「え、何?私これから猛獣に会うの?」
「違うわよソフィア。ノア様よ」
「ガイック様は猛獣だったの?」
「そうじゃないわよ。ほら、早く入りましょ」
もう何が何だか分からなくなっているソフィアを連れて中に入ると、ノア様がお茶の用意をされていた。
「ノア様、ごきげんよう」
「やあエルシー。……今日は、ツインテールなんだね?」
「はい。どうでしょうか?」
今日は可愛らしいベージュとピンクのドレスなので、それに合わせて髪型もかわいらしくツインテールにしてもらったの。ゆるっと巻かれたツインテールはハンナの自信作。ヘアアクセサリーもレースをチョイスした、久々の甘々コーデよ。
くるっと一周回り、ノア様の表情を確認すると。
「あら?」
ノア様の瞳からツーっと一筋の涙が零れ落ち、ガクリと膝を折った。
「今日も、今日も僕の天使がまばゆいほどに輝いている……。ありがとう世界、ありがとう神よ、ありがとうツインテール……。ふわっとした髪型がエルシーのやわらかな雰囲気と見事に調和している……ドレスも淡い色彩がかわいらしさを最大限に引き出しているし、靴がかわいい……レースの髪飾りも儚く柔らかくかわいい……このスタイリングは天才すぎるな……?あとクルッって回るのは何なんだ?行動がかわいすぎる。ドレスがお気に入りだったのか?は?かわいすぎるだろう」
両手で頭を抱え天井を向き、右に左にクネクネ動きながら呟く。
こ、このパターンはレアよ!動きが若干不気味だけど、いつもみたいな発狂とは少し違う。……って、いけないいけない。私が驚いている場合じゃないわ。ソフィアのフォローをしてあげないと。
冷静沈着、文武両道のノア様がいきなり発狂したらソフィアもびっくりしちゃう。
「ソフィア、これはね……ってあら?」
どうやって説明しようか考えていたのだけど。
ソフィアの表情は、なぜかとても嬉しそうで、その眼には輝きがあふれていた。




