SIDE:C 側近の苦労
イーサン目線、エルシーが学校に着く前のお話です
俺、イーサン・ホワイトは今現在とても悩んでいる。というのも、お仕えするノア様が医者から安静にするように言われているにもかかわらず学校に行くと言ってきかないからだ。
「ノア様、医者のいう事をきちんと聞いて、今日はお休みになってください」
「寝不足だからか?」
「はい、そうです」
「それをいうなら、僕は常に寝不足だよ」
さも当然のようにそういって寝間着を脱ぎ始めた。だめだ、この人俺が何と言おうが絶対に行く気だ。
「幼等部から今まで、ずっと学校をお休みされていなかったのもあるのかもしれませんが、貴方は倒れたんですよ?安静にする必要があると思うのですが」
「……そうかもしれないが、学校になんと報告するんだ?」
「婚約者からのプレゼントが嬉しすぎて倒れたので念のため休みます、なんて言いませんよ。ただの体調不良と伝えます」
「嘘は良くない。僕は今こうしてイーサンと言い合いできるくらいには元気だ。やっぱり行くしかないな」
「だめです」
「……」
一度やると決めたら決していう事を曲げないのは、もうずっと昔から知っている。この方がどれだけ努力を惜しまない人なのかも、知っている。今日も俺が譲歩することになるのだろうか。いや、さすがにぶっ倒れた翌日だぞ。ぴんぴんしているように見えてまだ病み上がりなんだ。今日だけはなんとしても説得しなければ。
「今日は小テストもありませんし、課題の提出なら私がします。日替わりランチは白身魚のポワレで、ノア様のお好きなトマト煮込みは明々後日です。旦那様も奥様も今日は休んだほうがいいとおっしゃっていたではありませんか」
「たとえそうでも、行きたい」
なぜだ!1日くらい休んでも問題ないし、普段のノア様なら間違いなくメリットの大きいほうを選ぶはずなのに。どうしてそこまで学校に……。
「授業を休むのが嫌なのですか?ノア様は勉学でも十分すぎるほどの成果を出していらっしゃいます。今日1日休んでも、問題ないのは一番ご自身がご存じのはずです」
「確かにそうだが、行きたい」
また撃沈……。ああっ、こうしている間にももうすぐで制服に着替え終わってしまう。急げ、どうにかノア様が言うことを聞く人を思い浮かべろ……!
その時、俺の視界に小さな箱が入った。
あれは――!
「分かりました。この手はあまり使いたくなかったのですが……」
ノア様がそれを手にする前に、俺は箱を手で持った。ちなみに手袋をしているから指紋はつかない。
「エルシー様からの伝言です。もし今日お休みされなければ、プレゼントは没収、お見舞いにも来ません、とのことです」
これは真っ赤な嘘だ。ノア様がこの世で最もいう事を聞く人物、エルシー様のお名前を出してでも今日は休んでもらう!申し訳ありません、エルシー様。
「エルシーが……?」
そして案の定、効果は抜群だ!さっそく締めたばかりのネクタイを緩めようとしている。エルシー様効果、恐るべし。
「はい」
「学校に行けば、エルシーはお見舞いに来ない……」
「はい」
「それはつまり、ちゃんと今日休めば、エルシーが今日も僕のところにやってきてくれるという事か?」
「はい……。はい?」
ん?ちょっと待ってくれ。嫌な予感がする。
「2日連続で天使と会えるのか……?」
「ええと」
しまった。勢いでお見舞いに来ないとか言ってしまったけど、そもそもエルシー様がお見舞いに来るかは分からないんだ。……まあ、お優しいエルシー様の事だ、おそらく今日もお見舞いに来てくださるはずだけど。
「それなら、学校に行かなくてもエルシーに会える……」
「はい?」
まさか。あんなに頑なに休むのを拒んでいたのは。
「無遅刻無欠席を継続させたいからではなく、勉学の為でもなく、エルシー様に会うために学校に行きたいとおっしゃっていたのですか?」
「そうだ。何をそんなに驚いているんだ?」
「……いえ」
「エルシーに会えないなら学校なんて今すぐに辞めてやる。エルシーが褒めてくれるから勉強だってやるんだ」
「さようでございますか……」
「エルシーに会えるなら休むぞ」
ノア様は白いほほを紅潮させて、着替えたスピードの2倍の速さで制服を脱ぐ。急いで替えの寝間着を渡すと、これまたものすごいスピードで着ていく。そして……。
「エルシーが来るまで寝ることにする。おやすみ」
速攻で眠りについた。
「お、おやすみなさいませ……」
あんなに俺が苦労しても止められなかったノア様を一瞬で眠りにつかせるとは……。エルシー様パワーに改めて驚きつつ、部屋着の回収をしていく。
やはりまだ疲れが残っていたのか、ノア様はあっという間に寝息を立て始めた。なんだろう、赤ちゃんの寝かしつけを終えた親はこんな気持ちなのだろうか。
「……はやく学校に連絡しに行って、紅茶でも飲むか」
一仕事終えた俺は、静かに部屋を出たのだった。




