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1-6

 遥希が教室に入ると、意外な事に既に登校している生徒がいた。

 銀色がかった髪をした長身痩躯の男子で、席は丁度遥希の前になっている。

 ともあれ、遥希が自席へ向かうと、男子生徒が振り向いたので、挨拶を交わす。


「おはよう」

「やあ、あんたが後ろの席かい?」

「ああ、とりあえずはよろしく」

「オーケー、俺は暁壬凪(あかつきみなぎ)。壬凪でいいぜ」

「伊都遥希だ。いきなり名前呼びはハードル高くないか?」

「そうか? ああ、日本だとそうなのかもな」


 挨拶の後、壬凪はニヤリと笑ってそう返す。

 顔立ち自体は相当に整っており、かなりのイケメンと言って良かったが、表情や雰囲気がそれを相殺するかのように、残念な雰囲気を漂わせていた。


「その言い分だと、帰国子女か何かか?」

「まあ、そんなところさ。世界を股にかける神秘の探究者って奴でね」

「………………」


 会話の中で想定外に残念な語句が飛び出し、遥希は思わず後ずさる。

 一方の壬凪は気にした素振りもなく、話を続ける。


「まあ、それでも俺もまだ子供だからな。高校くらいは腰を据えて通おうと思ってさ。一番縁の深い日本で学校に通う事にした訳だ」

「そ、そうか」


 壬凪の言い様に、遥希は思わず天を仰ぐ。

 この学校で出会う生徒が、立て続けに変人揃いな事に、思わず呆れた様だった。


「それで、遥希の事も教えて貰って良いかい? 内部生だと助かるんだが」

「……帰国子女の割に、日本の高校に案外詳しいんだな」

「そりゃ、日本はミステリーの宝庫だからな」

「そう言う事か……。残念ながら、俺も外部進学組だ」

「なら、外部生仲間だな」


 そう言って、壬凪は再度ニヤリと笑う。

 どうやら遥希は、壬凪の高校生活での最初の友達という扱いになったらしい。

 その後会話を進めて分かった事は、壬凪は日本の高校に進学するため、親元を離れ一人暮らしをし始めたという事だった。


「まあ俺の場合は、親元を離れるって言葉が的確かは分からんけどな」

「まあ、分からなくもないが……」

「そういう遥希はどうなんだ?」

「俺の方も色々あってね。この春から、親戚の婆さんのところで世話になっている」


 そう言って、遥希は用意していた架空の経歴を語る。

 親戚の家に厄介になっており、その家が神社と話すと、壬凪は興奮した様に話してきた。


「待て、遥希は神社の子供なのか? 将来は神職か!?」

「落ち着け、俺はただの居候だ。将来的には神社を出て行く予定だよ」

「そうか……、残念だ」

「いや、神社に幻想を抱き過ぎだろ……」

「遥希は分かっていない! 土地神や伝説の武具が奉納されている、日本の神社のミステリーさを!」


 どうやら壬凪のツボを刺激したらしく、その言葉にも熱が入る。

 と、その時、横から冷や水を掛けるように、言葉が投げ掛けられた。


「外人さんなのかな? 流石に神社に夢を見過ぎだと思うけど」


 思わず二人が振り返ると、赤みがかった黒髪の女生徒と目が合う。

 勝気な雰囲気の中々の美少女だが、キツめな印象の方が強く感じられた。

 それでも物怖じせず、壬凪は言葉を返す。


「まあ、遠からずという感じだな。俺は暁壬凪、神秘の探究者だ」

「……そういうタイプか。あたしは咫宕緋咲(あたごひさき)。よろしくしたくないけど、変な縁が出来ちゃったわね」

「伊都遥希だ。同感だが、まあよろしく」

「あんたはまともなのかな? ま、よろしく」


 どうやら、ようやくまともな生徒に当たったらしい、と遥希が安堵していると、静かだった壬凪が再起動してきた。


「待った……。苗字が咫宕という事は、緋咲ちゃんは咫宕神社の関係者かい?」

「緋咲ちゃん? 初対面から名前呼びはどうなの? 確かに咫宕神社の縁戚には当たるけど、いきなり馴れ馴れしいわね」

「ああ、すまない。日本のマナーにそぐわない自覚はある。それより、君は咫宕神社の関係者なんだな!」


 興奮する壬凪に対し、流石に怖くなったのか、緋咲は遥希を盾にするように移動する。

 遥希はそれを見てため息をつき、壬凪を窘めにかかった。


「落ち着け、暁。咫宕さんがドン引きしてる」

「む……すまん、了解した。それと、俺の事は壬凪で頼む」

「……壬凪、咫宕神社の何が君をそんなに引き付けるんだ?」

「咫宕神社は、この辺で最も歴史ある大きな神社だからな。であるなら、そこに奉納されるものや神社の歴史に、ミステリーが隠されている可能性は高いだろう!」

「ご高説のところ悪いけど、仮に神社に何かあっても、あたしも知らないわよ。というより、立ち入れないが正しいかな」

「む……、そうか。確かに、神社からすれば俺は素性が知れないし、調査も難しいか。そこは考えないとな……。サンキュー、緋咲ちゃん」


 幸い、壬凪も自己完結して落ち着いたようだが、今度は緋咲の方が鳥肌を抑える様な表情をしていた。


「その『緋咲ちゃん』っての辞めてくれない? 寒気がするんだけど」

「緋咲ちゃん、風邪か? 薬なら一応あるぞ?」

「あんたはアホか! ちゃん付けを止めろって言ってるの! 呼び捨ての方がまだマシよ!」

「ああ、分かったよ。緋咲、これで良いかい?」


 呼び名の事で緋咲は壬凪に抗議するも、暖簾に腕押しな壬凪に対し、諦めた様にげんなりした表情を見せる。


「だから、名前……。まあ、いいわ。話が通じそうにないし」

「咫宕さんは、それで良いのか?」

「ま、無駄な労力は嫌いだし。そろそろ、皆も登校してきたしね」

「なるほど……。入学早々お疲れ、咫宕さん」

「全くね。それと、あんたも名前で呼んで、遥希」

「……俺も?」

「ええ。コイツだけが名前呼びだと、変な噂が立つでしょう」

「……ああ、分かった。よろしく、緋咲」


 そう言って、二人は疲れたように苦笑する。

 入学早々、変な生徒に絡まれた事で、早くも戦友の様な意識が芽生えたらしかった。


 その後は、それまでのトラブルが嘘のように、入学式は何事もなく終了し、遥希は再び教室に戻っていた。


 入学式では生徒会長の挨拶もあったのだが、華美良(かみら)は登校時の雰囲気とはまるで別人であり、生真面目な生徒会長としての顔で堂々と挨拶を行っていた。

 遥希としては、その猫被りっぷりに半ば感心していたのだが、周りの生徒の反応を見ると、華美良の美人さと、その有能な雰囲気に心を奪われていた者も少なくなかったようだった。


 教室のHRでは、各人の自己紹介の際に、壬凪が悪い意味で教室全員の度肝を抜いたりもしたのだが、一応は大きな問題もなく終える。

 妙に疲れた初登校を終え、帰ろうとする遥希に対し、前の席から声が掛かった。


「遥希、緋咲。親睦を深める意味で、これから飯なんかどうだい?」

「いや、遠慮する」

「あたしも。正直、今日は疲れたわ」


 疲れの元に対し、二人はすげなく返すが、壬凪は構わず話し続ける。


「う~ん、そうか。校舎に出没した、謎の美少女のミステリーについて、是非とも語りたかったんだけどな」

「謎の美少女? 一応、あんたも女の子に興味があった訳?」

「ああ。勿論、俺はノーマルだからな。……ではなく、誰も見た事がない神秘的な容姿の美少女がいたらしいと噂が立っていてな。だけど、新入生に該当者はいなく、また内部生も見ない顔だという話らしい」

「へえ……、内部進学組も知らないのは珍しいわね」

「分かって貰えて助かる。そこに不可思議さを感じ調査してみると、この様な写真が出回っていると教えて貰ったところさ」

「ちょ……、これって盗撮じゃないの! ……ってホントに綺麗な子ね」


 遥希は、二人の話に妙な既視感を感じ、後ろから覗き込む。

 そこには、見覚えのある少女が友人達と一緒に写っていた。

 どうやら、入学式の準備をしているところを、何者かが盗撮したらしい。


「ここまで可愛いと、嫉妬する気も無くすわね。……って遥希、どうしたの? この子に惚れた?」

「い、いや。そういう訳じゃないけど……」


 よくよく考えれば、上手く紗雪と合流出来ないと、トラブルになるかもしれない可能性にようやく思い当たり、遥希は頭をフル回転させる。

 しかし、それは遅きに失したようだった。


「遥希、……何か知っているな?」


 あっさりと急所を貫く壬凪の言葉に、遥希は答えられない。

 その様子を見て、緋咲も事情を察したらしい。


「あたしも興味あるわ。遥希、あんたも来るわよね?」

「ちょっ……。緋咲、それは話が違わないか」

「この場で騒ぐよりはマシでしょう?」


 緋咲の言葉を聞いて、遥希はがっくりと肩を落とす。

 初登校日のトラブルは、まだまだ終わりそうになかった。

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