第三節 イブキの修学旅行その2
第三節 イブキの修学旅行その2
イブキを含むあーだこーだ高校一行は、気付けば那覇空港に着いていた。
「流石沖縄、秋だってのにムシムシ暑いぜ!」
イブキは上機嫌で沖縄上陸を果たした。
担任教師は口を開いた。
「はじめに行くのは、なんとかビーチだぞ。希望者だけ、泳いでくれ」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!! アタイは泳ぐぜ!」
イブキは意気揚々としていた。
――、
なんとかビーチに到着。
「さて、泳ぎますか」
「俺はパス、日焼けしたくねーし」
「女かおめぇは」
「るせ!」
「もう高校生だしねぇ」
「ね、海だからってはしゃぐのは……」
男女ともに泳ぐ者はまばらな様だ。そんな中――、
「待ってたな青い空に蒼い海。アタイは今から、泳ぐぜ!!!!」
ハイテンションな生徒が一人。
イブキである。
時代錯誤のダサダサの名前付けが付いたスクール水着に、浮き輪を持ったイブキは、準備体操などせずに着水していった。
「バシャバシャ」
「ひゃっほーい! 水が気持ちいいゼ!!」
バタ足で進むイブキ。フォームはでたらめだったが、十分に楽しんでいる様子だった。
と、そこへ――、
「ザザーン」
イブキの上半身を飲み込むほどの高波が、急に訪れた。恐らく大型の船が沖合で通って行ったのだろう。
「!?」
「ザザーン」
高波がイブキを襲う。
「ああ――!!」
イブキは水中へと沈んでいってしまった。数秒後、
「ッぷは!」
イブキはようやく水面に顔を出すことができた。
「!!」
そして異変に気付く。
(アタイの浮き輪が……、無い!!)
浮き輪は波に流されてしまった様だった。
「わっぷ! わっぽ!」
イブキは溺れてしまった。バタバタと足を動かし、只々手を動かすだけで精一杯だった。次第に体は衰弱し、イブキの体は徐々に水中へと沈んでいく。
「イィーン! 誰か、わっぷ! お助けをぉ! わっぽ!」
悶え苦しむイブキ。
その時――、
「! アレは……」
「あっ、イブキさん……!」
常盤さんと佐伯さんがイブキの様子に気付いた。
「待ってて、イブキ!!」
常盤さんは水着ではなく外出着だったが、イブキを助けるべく果敢に海へ飛び込んでいった。
「ハッ……ハッ……!」
見事なフォームのクロールでイブキに近付いていく。
「イィーン!」
イブキの首から上が完全に水中に沈んでしまった、その瞬間――、
「ザバーン!」
常盤さんがイブキに追いついた。イブキを担ぎ、言う。
「大丈夫!?」
「かっかぁ……海水飲んだぁ……辛い」
「つかまって!」
常盤さんはイブキを背負い、そのまま泳ごうとした。
(一人なら簡単なのに……一人背負っただけでこんなに難しいとは……)
常盤さんは泳ぐのに苦戦していた。
そこへ――、
「コレにつかまれ!!」
「!?」
「!!」
教師が浮き輪を持ってイブキと常盤さんの前に現れた。
「はぁー、間に合った……」
佐伯さんがさっきの間に教師を呼んでいたのだ。
「ありがとうございます! ほら、これ!」
常盤さんがイブキに浮き輪を差し出す。イブキは浮き輪につかまり、言う。
「かはっ! かはっ! 助かった……かはっ!」
――、
浜辺にて、
「もう大丈夫か?」
「ふぃー、一時は死ぬかと思ったゼェ」
「にゃはは。イブキったら、もうー」
イブキは落ち着きを取り戻した様子だった。
「アタイはもう泳がん! 終われぇ! 終われ、終われぇ!」
イブキは豪語していた。本当に落ち着きを取り戻したのだろうか……。
「泳げないなら浜辺から離れるなよ」
担任教師も、呆れていた。と、そこへ――。
「うおっ! 常盤が濡れ濡れだ」
「ブラ透け……てはないな。惜しー」
「水も滴るいい女ってか?」
男子がゾロゾロとやってきた。
「コラー! 男子ぃ、見世物じゃないんだから!!」
「常盤、向こうの着替え室で着替えて来い」
怒れる常盤さんを、担任教師がそっと諭した。
――、
「今回、溺れかけた者が出た。よって、原則泳ぐのは禁止なー。浜辺で海水をかけ合う程度にするように!」
『はーい』
教師が、生徒全員を集めて、注意喚起をした。
数分後――。
「それー!」
「パシャパシャ」
「やったなー、それ!」
「パシャパシャ」
地味かと思われた海水のかけ合い。それは予想以上に結構盛り上がった。
「……」
それを砂浜で一人、体育座りで眺める者が――。イブキである。
(こんなの、アタイが望んだ修学旅行じゃない……!)
「よーし、そろそろここを離れるぞー。今日は少し早いが、ホテルに行く!」
「!」
教師の一声に反応するイブキ。
(ホテル……)
夜が迫る……!