第十一節 ノブ
第十一節 ノブ
漢松本、高校二年の冬――。
それはある日起こった。
「私、ノブ○○っていうんです」
「そうか、俺は松本だ」
ちらほらと雪が空から降る日の、下校中に松本はノブ○○に話し掛けられた。○○と打つのが面倒なので、これからはノブと呼称する。
「あのぅ、もごもご……背が高いんですね」
「(はきはきしねぇ奴だな)ああ、俺は180以上あるからな」
松本はノブのなよなよとした態度を気に留めたが、当たり障りのない言葉を返した。
「あのぅ……勉強、頑張ってください。じゃあ……」
ノブは去って行った。
(何だったんだ……?)
松本は雪がちらほらと舞い降りる寒空の下、一人残された。
翌週――、
「松本くぅん……」
「!」
いつもの通学路を下校中、またしてもノブが松本に話し掛けた。
「あのぅ……、電話番号、教えてくれませんか?」
「!」
ハッとなる松本。その強面の風貌から多くの人に話し掛けられるコトは少なく、携帯電話の電話帳はほぼイブキの連絡先のみという松本だ。
※松本一章の十二、十四節参照。
(連絡先を交換するのはいつぶりだろう……?)
松本は心なしかほっこりとした気持ちになり、電話番号を教えてしまった。
「×××‐××××‐5648だ」
電話番号を小汚い字でメモしたノブは、深々と頭を下げ、去って行った。
この一連の行動が、後に悲劇を生むとは、松本はまだ、知らないでいた――。
月日は過ぎ、その年のクリスマスイヴ――、
「やっほい! 今年も来たぜ、クリスマス!! アタイは新型の似てんどうスネッチ本体をご所望するぜ!!!!」
イブキが元気よく吠えていた。
「バカヤロウ、お前は高校受験が控えてる身だ。勉強に専念しろ」
「イィーン。アタイ、ゲームがしたい……」
松本の忠告を聞いたイブキは、悲しみに打ちひしがれ、涙した。
と、そこへ――、
「ブー、ブー、ブー」
松本の携帯が鳴った。
「!」
電話主を確認する松本。携帯は、非通知と表示されていた。
(素性を明かしたくねえ奴か。誰だ?)
松本はひとまず電話に出るコトとした。
「もしもし?」
「もしもし。私です」
電話主は、ノブだった。
「ああ、あんたか。何の用だ?」
「えっとあのその……あっとそのえの」
「何だ? 簡潔に話せ」
「もごもご……これからも宜しくお願いします……」
「ん? ああ、よろしく」
「やったぁ!」
「!?」
ノブは急に声を上げた。歓喜の声を、上げたのだった。当然、不審がる松本。
「? どういうコトだ? 何がやったんだ?」
「まだ、言ってませんでしたね」
突如として仰々しく改まるノブ。
「好きです」
「! ! !! !?」
松本は、天地がひっくり返った様な気持ちになった。
(何だ? コイツ、馬鹿か? 告白なら最初に言えよ。あと、はきはきしゃべれ)
ぐわんぐわんと思いが巡る松本。
「うふっ」
一方のノブは、笑みがこぼれていた。
その一声から、喜びに満ち満ちているのが伝わってきた。松本は恐怖とイラ立ちを持ちつつ、勇気を出して言う。
「(こんな危険なBBAとは関わってはいけない)あの、そういうコトならスマンがお断りだ。アンタを恋愛対象にはできない……」
「えぇー、ショックぅー……ガチャン! プープープー」
電話は途切れた。
(!? 断ったから、キレて電話切ったのか……? それとも、普通に公衆電話使ってたら金が無くなったのか……?)
「マツモトキ〇シ、誰からの電話だ?」
電話が終わるのを珍しくジッと待っていたイブキは、松本に話し掛ける。
「俺は松本だ。何でもない。おそらく、お前の人生には1ミリも関係の無い電話だ。(それにしても……)」
松本は、改めて思う。
(とにかく……関わってはいけない……)
クリスマスも終わり、年が明け、ノブとの電話の記憶が薄れかけていた1月のある日――、
「ブー、ブー、ブー」
松本の携帯が鳴った。
「!」
電話主を確認する松本。携帯は、非通知と表示されていた。
(なんか悪い予感が……)
松本は嫌々ながら、電話に出た。
「もしもし……?」
「もしもし、私です」
「!」
電話主は、またしてもノブだった。
「私、もうすぐ名字があなたと同じ、松本になるんでしたよねー」
「!?」




