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1-4 『なぞってみたい、テンプレ展開』

眼が覚めると、空は茜色に染まり始めていた。

「えっ、なんで外で」

そこまで言いかけたところで、段々と記憶が戻ってくる。

そうだ。川の水を飲んだら意識が急に…。

「大丈夫ですか?」

「うぇあっ」

急に耳元から声が聞こえ、体が跳ね上がった。

慌ててその場に立ち上がり、背筋を伸ばす。

「あれ?」

辺りを見回すが、何も無い。

夢か。

「誰もいないのに声が聞こえてくるなんて、末期だなぁ。」

あまりに日本が恋しくても、聞こえて良い幻聴と悪い幻聴があるだろうに。

よりによって女の子の声なんて、自分のキモさが恥ずかしく思う。

「あの」

何が問題って、あんな声出す知人なんて、一人だっていないってことだ。

あんな声出せる人に会ったことがあるなら、絶対忘れないよ。

「しかしなんで、あんな綺麗な声が聞こえてきたんだ?幻聴が聞こえるほど、アニメ見てた記憶はないんだけどなぁ。」

「あう…」

どうやら僕の頭は末期状態にあるらしい。

「ヤバイ。一度ならまだしも、また聞こえてきやがった。」

こういう時はどうすれば良いんだ?

女の子の幻聴が止まらないぞ。

「いや待てよ、女の子の声が聞こえてくるってことは…。」

「!!ようやく気づいて」

「煩悩にまみれてるって事か!」

「…。」

こうしちゃいられない。早速座禅を組んで邪念を払わないと。

どうすんだっけか?あ〜そうそう、足はこう組んで無心になるんだった。


無心無心無心無心無心無心無心…。

「あのっ!!」

「うぇあっ!」

足を組んだまま、飛び跳ね、勢いそのままに地面に強打した。

「痛っーーー。」

後頭部を抑え、地面をのたうち回る。

「あっ、いえ、そんなつもりじゃ…。」

涙でぼやけた焦点が段々と合ってきた。

「あのっ。先程はすみませんでした。まだ痛みますか?」

妖精がそこにいた。

肩に腰掛けられるほどに小さな体を目一杯縮めながら、親に叱られた子供のようにこちらの顔を伺っている。

風になびく銀の髪に、必要最低限の装飾が施された簡素な服装。やわらかな印象を与えながらも、聡明さを感じさせる瞳は、しかし今は不安げに揺れていた。

一つ一つの所作は自然でありながらも、その全てが洗練されており、高貴な家の出であることが察せられる。


加えて、小川のせせらぎを思わせる声に、赤の他人を気にかけるその性格…!

現代ではもう、アニメかドラマの中でしか見ることが叶わない理想の存在が其処には在った————。

「夢じゃないよな。」

思い切り頬をつねる。痛い。

「ええっ?!」

あ、わたわたしてる。かわいい。

「ん゛ん゛っ。失礼しました。突然のことに気が動転してしまっていました。察するに、あなたが助けてくださったんですね。どうもありがとうございます。」

「えっ、はい。」

キョトンとしてる。かわいい…じゃなくて。

折角異世界人に会ったんだ。図々しいが、生きる術を教えてもらわないと…!

この娘と仲良くなりたいなんて理由じゃないから、これを逃したら、次はいつになるのかが分からないっていう、切羽詰まった事情によるものだから…!

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?恩人の名も知らぬというのは無礼に当たりますから。」

そう、これはあくまでも礼儀に則ったもの…!女の子の名前を知りたいなんて、邪な欲求からくるものでは決してない!

「名乗るほどの者でもありません。お好きにお呼びください。」

チィッ!流石にいきなり名前を聞くのはタブーだったか!

ならば!

「それでは、是非何かお礼をさせて下さい。」

ポケットから財布を取り出し、目当てのものを選び取る。

「いえ、そんな大したことはしていませんので、お金は結構ですから!」

くっ、しないぞ。屈してたまるか!諦めるな僕ぅ!

「なら!ならせめて、お金以外のものでお礼をさせて下さい!」

「分かりました。はい。そこまで仰られるのなら、ありがたく頂戴します。」

これ以上は譲れない、という意思が通じたのか、困ったような、それでいて嬉しそうな顔で頷いた。

ッシャア!成功だ!

「どうかこちらをお納めください。500円玉、というものです。」

「500エンダマ、ですか?」

怪訝な顔をしながら、手にとってあちこちを覗き込む彼女。


異世界転移ものの定番、硬貨を美術品として献上する、だ。

偽造通貨対策として、高度な技術がふんだんに施された現代日本の硬貨、その精緻さは、中世レベルじゃ到底真似できない。

手作りなら同レベルのものを作れるだろうが、それでもかなりの腕が要求される。

価値のアピールにはうってつけだ。


狙い通りならそれでよし、そうでなくても、工業レベルが伺える。まさに神の一手と言っても良いのでは?

と、自画自賛していると、彼女が血相を変えて詰め寄ってきた。

「これってかなり価値のあるものじゃないですか!返します!」

やべっ。

狙い通りにことが運んでいることに、思わず笑みが溢れそうになる。

思案するような感じで、手で口元を抑えたがバレていないだろうか?


「それは無理ですよ。」

「無理?」

不思議そうに、小首をかしげる彼女。

セーーフ!あっぶね、気をつけないと。

「いえ、それはもうあなたに差し上げたものですから、返すと言われても困ります。要らないのでしたら、其処らにでも捨ててください。」

「っじゃあ、あなたにあげます!」

「それでは、あなたに頂いてばかりになってしまいます。受け取れません。」

「〜〜っ」

頬を膨らませ、空中でジタバタする彼女。

地団駄を踏んでいるつもりなのだろうか?


フゥ、と大げさにため息を吐く。

「分かりました。それなら、私のお願いを一つ聞いて下さい。それなら対価が釣り合うことになるはずです。」

ここが正念場だ。

「っ、分かりました。」

体を固め、目を細めた彼女。


…ヤバイ。思った以上に500円玉って価値があるように見られたらしい。糞みたいなお願いするって警戒されてるよ。

かわいい女の子にお礼しつつ、仲良くなるっていう作戦が崩壊しそう。


ええい、ままよ!

「名前、教えて下さい。」

どうだ!なろう小説直伝、無茶なお願いと思わせての、仲良くしたいアピール!相手は死ぬ…ことはないだろうけど、好感を持ってくれるはずだ!

「…それは、そういう意図で言っていると受け取ってよろしいのかしら?」

纏う雰囲気が変わり、まるで別人のような口調で語りかけてくる。

警戒混じりの視線が、敵を見る目に変わっていた。心なしか、背筋に氷を入れられたような気持ち悪さもしてくる。


…あれ?


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