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1-2 『最序盤で、最難関』

———あれから数分後。

僕は、夢の異世界にはしゃぐわけでも、第一異世界人を求めて森から抜け出すわけでもなく、木の上で、胃を抑えながら思案に耽っていた。


「とりあえず木の上に登ったけど、これからどうすればいいんだ?獣対策としては間違っていないはずだったんだけどなぁ...。」


そう独り言ちながら、軽く周囲を見渡す。

ついさっきまでは気づかなかったが、少し落ち着いてみると、ここが日本じゃないことが突きつけられる。

さっき見た時計では17時を示していたのにも拘らず、太陽は真上に存在していることもそうだが、そこらをウロウロする動物や虫はもちろん、鬱蒼と茂る木々に至るまで、どれもが神秘的な気配を漂わせている。日本の森が神秘的ではないという話ではなく、その醸し出す雰囲気の濃さ、格、とでもいうのだろうか、それがまるで違う。


もっとも、空に別格のバケモンがいるので霞んでしまうワケなのだが。

「———っはぁーーー。」

大きく、そして静かに深呼吸をする。

空気にしたってそうだ。

息を吸って吐く、その動作だけで、体力が回復していくことが感じられる。

ここの大気にはプロテインでも含まれているのだろうか。

こんなところで修行したら、そりゃあ隕石だって砕けるわ。…流石に無いな。

テンプレ的に考えれば、僕もいつかは手からビームだとか炎だとか出せたりするんだろうけど…。

「ま、それもこの世界で生活できればの話なんですけどね。」

そう言いながら、空へ顔を戻す。

空にはドラゴンが旋回をしていた。

そう、旋回をしていたのだ。

「こういう場合、獲物を見つけたか、あるいは警戒すべき敵を見つけたか、はたまたドラゴンの巣が近くにあるってことなんだろうけど…。それらしいの周りにいないし、みつかってるよなぁ、これ。」

僕としては、新たな選択肢、気分で旋回してました。を、是非とも希望したい。

「ん〜。人間、絶望的状況に陥ったら、みっともなく足掻くものかと思ってたけど、本当にどうしようもなくなったら一周回って落ち着くんだなぁ。」

ははは。と、乾いた笑いが止まらない。


なんでもないように振舞ってはいるが、実際のところ、学ランの下は冷や汗が滝のように流れ、一挙一動に満身の力を込めている。

周囲を見渡した時だってそうだ。

低体温症寸前になったあの頃、それ以上に震える体を、満身の力を込め、自然体に見えるよう、細心の注意を払っての行動だった。


気づかなければ良かったと、心底思う。

演技なんて、自分が最も苦手とするものの一つだし、体が震え出すほどの緊張感なんて、出来れば体験することなく生涯を終えたかった。

しかも、その緊張感を途切らせることなく、終わりの見えない短距離走に臨むなんて、いくらお金を積まれても御免だ。


それでも、それに全霊で臨んでいるのは、偏に死にたくなんてないからだ。

少しでも気を抜けば死、あるのみだと本能で理解しているからだ。


死の恐怖によってか、全身の神経が研ぎ澄まされ、1分1秒が何倍、何十倍にも長く感じられるようになった。タキサイキア現象、とかいうやつだろう。

いい話のネタになるなこれ。

もう、会えないんだろうけど。


…今までの人生が走馬灯のように過っては、消えてゆく。

初恋に初優勝、初めての満点に、初めての赤点。ハブられ続け、先生にペアを見つけてもらった中学時代。

卒業前には先生に嫌味を言われたっけなぁ。

今となっては、全てが良い思い出に見えてくるのだから不思議だ。



「人生って、ままならないものだよな。そうそうないぜ、こんな開幕ハードモード。」

…嗚呼、人生とはクソゲーであるという持論は間違っていなかったことがここに証明された。


…。

いやいや待て。

なに終わったー。みたいな感じになってるんだ。

良い人生だったって、大往生して、バカにした奴らに見返してやるんだろう?!

何諦めてるんだ馬鹿野郎!

「気合入れてけ。まだゲームは終わっちゃいない。諦めたらそこで終了だろうが。」

掌に爪がめり込むまで力を入れ、空中にいるヤツを睨みつける。

僕はまだ生きている。

絶対この世界から抜け出して、元の世界に帰るんだ。


こんな序盤で出逢った奴なんて、テンプレ的には雑魚って相場が決まってるんだ。終わってなんかやるもんかよ!


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