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プロローグ『ある、長閑な午後』

初投稿です。


ジョブ。

職業、ひいてはその人物が得手としているものを指し示す言葉である。ギルドカードに、レベルとともに刻まれ、その人物がどのようなものを得手としているのかを図ることが出来る。

この認識はあながち間違いではないが、現在において、その認識では不足である。


現在、ジョブ(ギルドカード)が果たしている役割は、上記の内容に留まらない。

それは、その人物に適した職業を端的に表す、人生においての最適解を導き出すコンパスとしての役割である。


無論、職業といっても一般的に想像される職業だけでは無い。経済学者や、商人のような、頭脳労働を担う職業もあれば、大工や剣聖、刀剣使いなどのような、肉体労働を担う職業も存在する。

実際に見たことは無いが、追跡者などという、ストーキングを連想してしまうが故に、公表されることのない職業もあると聞いている。


どのような仕組みでこれらの職業が選出されているのかは不明であるが、職業から離れた行動ほど、あるいは近い行動ほど、不得手、もしくは得手となってゆくというデータも実際に出ており、これを基にして人生設計を行なっている人間も少なくない。ランダムに、聞き取った調査では、ジョブに従った人間の方が成功者が圧倒的に多かった。


いわば、ジョブとは運命を言語化したものなのだ。

誰しもが持っているそれを、コンパスの如く指し示し、人生という名の航海を快適にする道具なのである。


故に、ジョブに逆らった生き方を行う者は、賢いとは言えないだろう。それがどんなジョブであったとしても、それが天命なのであるのだから。

『国立魔導ギルド 第27代所長 クーネル・N・サンダース』


そこまで読み進めた所で、本を一旦閉じた。

表紙には、初級魔法入門と刻まれている。

よほど丁寧に扱われていたのだろうか。発刊されたのはおよそ100年以上も前の物であるのにも拘らず、傷や汚れなどが全然見当たらない。


「…なるほど。」

えっ。お師匠にこれ読めって言われたから読んでみたけど、ヤバくない?

わざわざ100年以上も前の古臭い本を渡してきた時は、何が狙いなのか全く分からなかったけど、これが言いたかったのか。

頭が痛くなってきた。

「おう、読んだか。」

頭を抱え込んだ僕に背後からぬっと、顔を覗き込ませた師匠がこともなげに言ってきた。

「つかぬ事をお聞きしますが…。」

「言ってみな。」

僕が次に言う言葉が分かっているのか、師匠はニヤリと、悪人面を歪ませながら言ってきた。

「ジョブを明かさないのって…、まずいですよね?」

「まずいな。金や研究成果で身分を保証する商人や研究者はともかく、切った張ったが生業の冒険者じゃ、明かさないことは、信頼関係の不成立を意味する。」

無精髭をじゃりじゃりと撫でながら、そう師匠はのたまわった。

「…ジョブがありません。ってのは通りませんよね?」

薄々察しながらも、そう聞かずにはいられない。

「そんなん、聞いたこともないわ。」

「あっははー。そりゃそうですよねー。」

乾いた笑いが出てきてしまう。

ポケットにしまい込んだカードに目をやると、ジョブ欄のみが空白だった。


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