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ひまわりの憂鬱  作者: ゆずこ
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さて、とアルメティアは思い悩む。

先日の未来視の能力は、いつどんな時に発動するのか、色々と検証してみたが、いい結果は出なかった。

そもそもが、能力の悪用を懸念して、一切書物に記録はない。


 とりあえず、文献が残っていないのなら、次の未来視で条件を考えるしかない。しかしそれがいつなのか不明だと、急に心配になってしまう。

あれは本当は悪い夢だったのか。


 この国では魔法はないが伝承として精霊の話は幼い頃の童話でよく目にした。実際はわからないが。この未来視の能力は何に由来するものなのだろうか。



 自分で考えることにも限界があり、アルメティアは領地で隠居している祖母へ手紙を書いた。




「ティア!おはよう!」

「シャニア、今日もお元気そうで」

「聞いて…ついにわたし、婚約者が決まったの!」



 アカデミーの教室で顔を合わせたとたん、この話である。

シャニアも恋愛結婚希望だったような気がした…と、アルメティアは口を挟もうとしたが、幸せそうに婚約者との話をしているので、今は聞き役に徹することにした。


 尚。シャニアの婚約者はアカデミーの3回生で、今年18になる伯爵家の方だった。まもなく卒業を迎える。シャニアと婚約者はお互い相性が良かったようで、アカデミーでも頻繁に会っているようだ。

恋愛結婚希望とはいえ、結果オーライではないか。


羨ましいなあ、とアルメティアは思う。

自分にはまだ婚約者はいないし、どうやら父と兄が牽制をかけているという話もあり、しかも自分の未来視の力によれば、まさか殿下の婚約者になり不幸な結末待ち…

それを回避するために婚約者にならないようにと接触を避けているというのに…




早く幸せになりたい!



 と、考え事をして歩いていたからだろうか。アルメティアは誰かにぶつかって盛大によろめいてしまった。



「すまない!大丈夫か?」


 ぱし、と誰かがアルメティアの腕をつかむ。聞き覚えのある声。



ガートルドだった。

ここ最近よく会うなあ、と一瞬思うが、それよりも。




「ガートルド殿下!申し訳ございません。わたしがしっかり前を向いて歩いていなく…殿下にお怪我は?」

「俺も前を向いていなかった。痛いところは?足をくじいたりは?」

「まあ、殿下、わたしは物語に出てくるような華奢な令嬢ではありません。殿下にぶつかっても転倒すらしない、ちょっと強めのしがない令嬢ですわ」

「はは、なんだそれは」



 ガートルドが申し訳なさそうな顔をしているので、どうにか話をそらそうとしたが、まさかのガートルドの笑顔。



アルメティアはその笑顔に、胸がきゅっと締め付けられる感じがして、息をのむ。

そして、まだガートルドに手を握られていることに気づいた。



「で、殿下。お手を」

「ああ、すまない。とにかく怪我がなくてよかった」

「こちらこそ殿下にお怪我がなくて安心いたしました」

「だてに鍛えてはおらぬよ。ああ、近々身内の使いで登城することはあるか?季節の花が満開になった」




 近いうちに、と約束し、ガートルドは従者を伴い歩み始める。


「特に、ひまわりは、君によく似ている。アルメティア」



 すれ違い際に、小声で名前を呼ばれた。

ぶわっと頬に熱が集まる。早鐘を打ち始めた心臓は、早々に落ち着いてくれなかった。







その夜である。





「ティア、と呼んでも?」


「あ──…君にしてみると、喜ばしい婚約ではないかもしれないが…正直、俺は喜んでいる」


「ティア、俺は君を」






 目を開けてみれば宵闇。叫ぶ余裕すらもなかった。


何だ、

なんだこれは。


 アルメティアはベッドの天蓋を瞬きもせずに見つめる。



未来視?いつの未来?

なぜこのタイミングで?



昼間の一件があってからなので、むしろこちらは夢ではないだろうか。








「えええええ…」




 確かにガートルドは見目麗しい美丈夫である。背も高く、日々鍛錬をしていることもあって、程よくついた筋肉。夜空に溶けそうな夜色の髪…


 正直に打ち明けると、あの夜テラスでワルツを踊った瞬間、目が離せなかった。アカデミーで何度か見かけたことがあるが、話しかけるには恐れ多く。


 だから、回廊で会って話したことも、今日の出来事も、心が躍るほど嬉しい出来事だったのだ。



しかし、未来視によれば、婚約者の道をつかみ取ったアルメティアはどうなった?


ミーアに罵られ、陥れられ、真っ暗な未来しかないではないか。


 それに、万が一本当にミーアの手で事件が起きたことが明るみに出れば、王城で勤めている父や兄にも迷惑がかかるのでは…最悪、領地の民やその家族は…。

そう思うと、やはり先見の結末は回避せねばならない。




アルメティアは、静かに目を閉じる。





「ティア」



 そう呼んだガートルドの声が、とても優しくて、とてもくすぐったいように感じる。こんなにも喜ばしい未来なんてあるだろうか。だけど、手放さなければならない。


 建国王妃は、王と自分が幸せになる未来だけしか見なかったのだろうか。その過程に、自分と同じような苦悩はなかったのか。






「困ったわ…」



 両親と同じように恋愛結婚したいわ、なんて夢に夢見ていたけれど、スタートラインに立った瞬間にこの仕打ちなんて。




 

ティア、と呼ぶガートルドの声だけが、耳に残る。



ガー様:名前を呼んだ!

と、小躍りしてるかもしれません。

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