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ミーア殿下のターンです。
手に入らないものはないと信じている。
ユーリッヒの薔薇姫と、呼ばれ蝶よ花よと育てられたのは、ユーリッヒ王国第4王女のミーア・ユーリッヒである。
穏やかな王である父と正妃である母には王女が4人いた。いずれの王女たちも父王に似て争いを好まず、穏やかな性格で、穏やかな生活を送っていた。
王位は一番上の姉が継ぐことになる。姉妹のなかで一番穏やかな姉は、同じように穏やかな公爵子息を婿に迎え、父王の跡を継ぐべく勉学に勤しんでいる。
しかし、ミーアはそんなぬるま湯につかったような生活が息苦しくてたまらなかった。
穏やかであることはいいことだ。争いも少ないし、生活水準も悪くない。貧富の差も少なく、民が皆幸せであれば上に立つ者として、これほど幸せなことはない。
だが、果たして自分の人生はこのように穏やかで満足できるのか。
否、ミーアは違った。
あれを望めばあれを手にし、これを望めばこれを手にできる。
幸せだ。幸せな世界に生きている。
でも、その幸せな世界を少し出てみたかった。
自分で努力してつかみ取る、そんな経験をしたいと思った。
そんなときに、メイデン国への留学の話がミーアにきた。本らならば3番目の王女が行く予定であったが、姉に懇願して譲ってもらった。
自分の世界を広げたい。学んだ知識を生かして将来姉の役に立つような人間になりたい、と。
穏やかな家族は、ミーアの申し出を快く受け入れた。
その結果が今である。
世界は新しい。穏やかであることはいいことだが、相手と競い合い高めあうことのすばらしさや、人一倍の努力の結果が報われた瞬間等…もちろん自国でも経験することはあったが、ここまで身に染みることはなかった。
そして、ミーアは必ずや手に入れたいと思える、運命の人に出会うことができた。メイデン国のガートルド殿下だ。聞けばガートルドも兄がいて、王位を継いだ兄の役に立ちたいからと、必死に勉強しているとのことだ。
わたしと一緒だ…
ミーアはそれだけで心がぎゅうとなる。決めた。ガートルド殿下のお傍にありたい!
でも姉の役に立ちたいという気持ちに偽りはないので、外交などを通じてユーリッヒ国と密な関係を築いていこう、そう思った。
ミーアとガートルドは、二人とも身分も釣り合い、見目麗しく周囲からお似合いだと言われることが多かった。
現にガートルドは非の打ちどころがない。そんな彼に釣り合う女性でいようと、ミーアも勉学や礼儀作法に必死に取り組んだ。
そんななか、ミーアの通うアカデミーでパーティが開催されるという。もちろんガートルドにエスコートされて会場入りすると、周囲の視線はミーアとガートルドに集まった。
ファーストダンスの相手は、最初断られていた。苦手だからと。しかしミーアが懇願することで、ガートルドはしぶしぶ承諾したのだ。
そしてファーストダンスを踊り、周囲はもう二人を祝福しているかのような空気になる。
だから気づけなかった。ガートルドが自分以外の令嬢と二人でダンスを踊っていたことに。
胸の奥がざわざわする。
あの令嬢は誰?わたしのガートルド殿下を奪わないで。
どろどろした黒い熱情。
それは嫉妬だった。