表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひまわりの憂鬱  作者: ゆずこ
2/9




 シャンデリアがきらきら輝く。アカデミーとは言え大きな会場だ。この人混みは生徒よりも来賓の方が多いのでは、と錯覚できてしまうほどである。


「ティア、こっちよ」

「シャニア!」


 扇子で口元を隠しながら、友人であるシャニアの元へ寄る。



「ティア、今日のドレスも髪型もとっても素敵よ。髪と瞳の色でそろえたのね。まるでひまわりだわ」

「ふふ。ありがとう。だって、今日のパーティで運命の人に会えるかも…!そう思うとはりきっちゃった」

「ティアのご両親はこのパーティでお知り合いになったのよね。いつ聞いても素敵な話よ。わたしも政略結婚より恋愛結婚したいわ」




 ねー、っと微笑みあっていると、会場がざわつく。主賓の登場だ。




「ガートルド殿下よ」

「今日も凛々しいお姿ね」

「正装も素敵だわ」

「あら…殿下のお傍に控えていらっしゃるのは…」

「先月から国賓として隣国のミーア殿下がアカデミーに通われているでしょう」

「ガートルド殿下とお並びになられて、絵になりますわ」




 扇子の向こうで、ご令嬢たちがひそひそ話している。シャニアと議論したかったことが全て解決される会話であった。

周囲の会話に耳を向けることって、とても大事だ、とアルメティアは思う。



 パーティはいつになく華やかに、豪華絢爛だった。国賓が来ているからだろう。しかし、会場にいる誰もが若い二人に釘付けである。誰がどう見ようとも、ミーアがガートルドに熱をあげていることは一目瞭然だった。何せ片時もガートルドから離れないのだ。

 この分では、ファーストダンスはミーアとだろうが、誰もがガートルドに手を取られ、ステップを踏みたいと思っていた。



「シャニア、これとってもおいしい」

「このデザートもよ」


 しあわせ!とつかの間のごちそうタイムを満喫していたアルメティアたち。ふと、邸内のライトがひと段階暗くなり、ワルツの曲が流れた。



「あ、やっぱりガートルド殿下はミーア殿下と踊るのね」

「あら、シャニアったら殿下のこと…」

「まさか!わたしの好みと正反対よ。むしろ殿下とダンスができるってことは、少なくともこの会場で注目の的になるってことよ。ダンスのあとに、殿方からのお誘いがあると思わない?」



 な、なるほど!殿下を利用するってことね、とは口が裂けても言えなかった。中央のホールに視線を向ければ、美男美女が軽やかにステップを踏んでいる。

アルメティアは、二人の世界は自分と違う、と改めて実感できた。

 

 ファーストダンスのあと、ガートルド殿下の姿が見えなくなった。逆にミーア殿下は多くの誘いを受けて、次々とダンスを踊っていた。すごい体力だ…。





 アルメティアは、ホールの熱気にあてられて、テラスへと出た。大丈夫、邸内騎士もテラスの前にいる。一人にはならないことを確認し、柵に手をついた。



「わあ。星がきれい」

「リックス嬢もそう思うか」


 急に家名を呼ばれて、他にも休んでいる人がいることに気づく。

ぱっと声の主を確認すれば…




そこには夜空に溶けそうな、濃紺の髪とサファイヤの瞳。ガートルドだった。




「ガートルド殿下がいらしたとは存じ上げず、無礼をいたしました」


 最上級の礼をし、アルメティアはほほ笑んだ。


「いや、いい。俺も夜風にあたりに来たんだ。騒ぎになりたくない。無礼など気にせず、そのままで」


 アルメティアは思案に暮れたが、殿下の言葉を無下にするわけにもいかない。




「ありがとうございます…先ほどのお言葉ですが…ガートルド殿下も星を見るのがお好きですか?」

「ああ。執務の合間に見上げることもある」

「そんな、遅くまで…ご自愛ください」

「いや、兄上…現国王の補佐として立派になれるよう邁進しているところだ。そうだ、リックス嬢の父君は宰相であったな。そして兄君は邸内騎士として登城されている。ありがたい話だ」

「もったいないお言葉にございます」

「兄君に関しては、君にへんな虫が寄り付かないようにと、会場でもギラギラしていたぞ」

「えっ!ゼルドお兄さまったら!」



 あ、と思わず素が出てしまった。口元に手をあてて、ちらとガートルド殿下を見れば、まさか、笑っていたのだった。



「はは。いいんだ、気にしないでくれ。リックス家のご令嬢と言えば、宰相である父君が縁談をかたっぱしから断りまくっていると、周囲の貴族から抗議の声が出ている。それに兄君も、あれだけ露骨に牽制していては…さぞや愛されているのだろう」


 なにそれ…と、アルメティアは頬に熱が集まるのを感じた。まさかわたしの結婚事情を殿下のお耳に入れてしまうなんて…

うう…と、声にならないでいると、目の前にガートルドの手が差し伸べられた。



「どうかな。一曲」


 サファイヤの瞳が、邸内からの灯りでキラキラしている。

とてもきれいだ。


 アルメティアは笑顔で手をとり、窓から聞こえるワルツに合わせてステップを踏んだ。




「時間のようだ。では、リックス嬢」




 優雅に別れの挨拶をして、最後に手をとられた。


流れるように、手の甲に唇の感触。



驚きの隙を与えず、ガートルドは去っていった。





 その後自分がどう立ち回ったのか、記憶になかった。リックス邸へ戻った瞬間、アルメティアは気を失い倒れてしまう。騒然となるリックス邸を、静かに月が見下ろしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ