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設定は緩め
「まあまあ、アルメティアお嬢様。とてもお似合いです」
「ありがとうガーベラ。この髪型とっても素敵だわ」
「アルメティアお嬢様だからこそです」
金の髪と金の瞳が、夕暮れの光を反射して輝いている。
アルメティアは鏡に映る自分に笑いかけた。うん。可愛い。自信もっていこう。
自画自賛だけど、そう思って今夜のパーティに挑まなくてはいけない。自然な笑顔の裏には、秘めたる決意があった。
アルメティア・リックス。彼女の名前である。
リックス侯爵令嬢として、17年間健やかに育ってきた。
父は王城で宰相の地位についている。忙しく過ごしているので王都のタウンハウスにはあまり帰って来れていないのが残念なところだ。
兄が一人いるが、兄もまた王城で騎士団に所属している。城内駐屯所にて生活しているため、彼もまたタウンハウスには滅多に帰ってこない。
ちなみに母は王都の伯爵家出身だが、王都より自然あふれる領地にいたい、とのことで、アルメティアが王都の貴族学校…アカデミーへ入学するのを機に、早々に領地に戻ってしまった。今は父に代わり女主人として悠々自適に領地を切り盛りしているのだ。
そんな両親が出会ったのが、アカデミー時代の春のパーティであった。そこで知り合った両親は愛を育み、卒業後すぐに結婚。そして現在に至る、である。
アカデミーでは年二回パーティが催される。貴族社会のマナーや社会性を学ぶためだ。
学校主催とは言え、学校役員は皆貴族であり、この国の王族も主賓として参列することになっている。
なにせ去年からこの国の第3王子、ガートルド・メイデンが王族ではあるが貴族の一人として入学しているのだ。去年は恐れ多くも遠巻きに見ていた令嬢たちが、今年は虎視眈々とガートルドの隣を我物にしようと息巻いている。
アルメティアは残念ながらその戦に参戦するつもりはない。壁の花になるつもりでいるが、あわよくば自分も素敵な男性とダンスを踊ったりときめきを感じたい、と思っていた。
「やあ、ティア」
「ゼルドお兄さま!もういらしてくれたのね」
「可愛いティアのためだからね」
「エスコートよろしくお願いします」
決まった婚約者のいないアルメティアは、兄にエスコートを頼んでいた。年齢的に婚約者がいても不思議ではないが、父と兄が色々考えてストップしているらしい。
「ティア、随分きれいに飾ってもらったね」
「ええ。ガーベラの腕がいいのよ」
「まるでひまわりのようだ。さあプリンセス、こちらへ」
「いやだわ。かしこまって」
アルメティアはぷんすかしつつも、兄のおふざけに付き合う。ゼルドの手をとり、家の前の馬車まで進んだ。
「今日は父上も少し顔を出すと言っていたよ」
「でも、最近また忙しいみたいで、夜遅くに帰宅されてるらしいの。わたしが起きる頃にはもうお仕事へ向かわれているわ。そのうち体を壊さないか心配」
「はは!父上も早く引退して母上のいる領地へ行きたがっているんだ。今は引き継ぎもあって、より多忙なんだと思うよ」
「領地へ帰られる前に倒れないといいけど」
ゼルドとアルメティアは思わず笑ってしまった。だが、馬車を降りればそこはパーティ会場。学生とは言え家の名前を背負っての参加になる。
ゼルドは騎士の仮面をすっぽりかぶって、恭しく手を出した。
「さあ、僕の可愛いプリンセス、行きましょうか」
「ありがとう。ゼルドお兄さま」
主人公にお兄さまあり。の話が多いです。