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奇術邸殺人事件  作者: Kan
7/12

7 マジックのタネ

 その日も、尾形の捜査は続けられたが、消失の部屋から死体が消失し、ばらばらになって出現したトリックは一向に分からなかった。

 安西を逮捕するには、犯行手段の立証が不可欠である。ところがその見通しが立っておらず、警察は躍起になって、安西を取り調べしていた。

 ところで、鉄仮面の男が施錠に使用したはずの消失の部屋の鍵はどこからも見つかっていない。胴体から発見されなかったということは、犯人が今も持っているのか。

 尾形は、安西説を採らなかったが、消失のマジックを見破ろうと考えて、警視庁で、四谷黎斎の過去の映像をチェックすることにした。

 四谷黎斎は、消失マジックを得意としたようである。その中でも特に有名なマジックでは、空中に吊り上げられた箱の中から消失するのである。箱は燃え上がってしまう。そして黎斎は、客席の後ろから登場するのだ。もし、事件当日に行われるはずだったマジックの全貌が掴めたら、大いに捜査が躍進することになるだろう、と尾形は思った。


 尾形は、実際にどのようなトリックが使われることが多かったのか、手品関係者に尋ねて歩いた。四谷黎斎のかつての仕事仲間であった、鳩使いのマジシャンは、板橋区の自宅で白い鳩と戯れながらこう答えた。

「それはですね。実は黎斎先生に扮した安西さんや伊坂さんが、手品の最中に、先生とすり替わっていることが多かったんです」

「なんですって……」

「すり替わりです。たとえば、有名な吊り下げられた箱から消失するマジックでは、まず、黎斎先生に扮した安西さんが箱の中に入ると見せかける。それは振りで、本当は入っていないのですね。黎斎先生は、客席の後ろ側に最初から隠れている。箱を吊り上げ、それを燃やしてしまうのですが、その中にははじめから誰もおらず、客が呆気に取られているところで、ステージの後ろから黎斎先生が登場してくるというわけです……」

「あれには、そんなからくりがあったのですか……」

 尾形は感心して唸った。タネが分かっても、プロでないと到底演じられそうにない高度なマジックである。


「ええ。そもそも、弟子のおふたりは、黎斎先生に背格好が似ていたからこそ、アシスタントとして弟子入りできたわけです。それはすり替わるためのアシスタントだったんです」

「それじゃ、声真似もできたのですか……?」

「ふたりともできたはずですよ? 鉄仮面の時、黎斎先生は変わった声をするでしょう。あれは、すり替わっても、声で気づかれないようにするための作り声だったんです」

 ということは、今回もどこかで偽物の四谷黎斎とすり替わっていた可能性もある、ということだ。


 尾形は、貴重な情報を手に入れたと思って、鳩使いと別れると近くのファストフード店でフライドチキンをテイクアウトして公園で食べた。風が吹いている。そして再び、あの奇術邸へと訪れた。


 恭子夫人に出迎えられて、尾形と部下の長澤は、まずエレベーターを調べることにした。なぜ、エレベーターなのか。というのも、安西の部屋は二階にあり、消失の部屋は一階にあったので、生首を運ぶにはエレベーターか、螺旋階段か、ロビーの階段のいずれかを使わなければならないことになる。事件当日の犯人の足取りを調べようとしていたのだ。

 エレベーターは、三階、二階、一階、そして地下一階に停まるようになっていた。尾形は何か惹きつけられて、地下一階のボタンを押した。すると、エレベーターは地下に急降下し、すぐにドアが開いた。


 地下室は二つあり、手品の練習をする教室のような部屋が手前に、物置部屋が奥にあった。物置部屋は、手品の大道具やら小道具でいっぱいになっていた。人体を切断する巨大な箱、透明なガラスケース、本当に人を斬れそうな剣、張りぼての白い壁、巨大な紫色のカーテン、木製の鍵のかかる扉、内側になんでも隠せる上着などがある。どんなマジックに使われるのか想像がつかないものもあった。それらの多くが埃を被っている。尾形は、こんなところに生首を一旦隠したのではないか、と思った。しかし、よく考えるとそんな犯人に時間はなかったのかもしれない。


「いくら考えても、分からないな……」

 もう一歩なのだが、と尾形は悩む。新鮮な空気を吸いたいと思って、庭に出ると明日香が走ってきた。顔色が悪い。

「刑事さん!」

「どうしました?」

「あの、あ、安西さんは犯人じゃありません!」

 そう言われても、と尾形は苦しむ。しかし、明日香は尾形の胸ぐらを掴んで離さない。

「落ち着いてください。何か根拠があるんですか?」

「だって、安西さんは悪い人じゃありません。犯人はきっと伊坂哲也さんと恭子さんです」

 尾形の目が輝く。あの二人が犯人だと、と警察官の血が騒いだ。

「それはまた何故?」

「動機があるからです。伊坂さんは、お父さんに業界から追放されかけてたし、後継者と囁かれている安西さんの存在も邪魔でした。それはうちの資産を狙って、伊坂さんと結婚したがっていた恭子さんも同じはずです。ふたりは共犯だったんです」


「そのことについては何も言えないが……」

「いえ、それだけじゃないんです……」

 明日香は、疲れたように尾形の胸ぐらを離し、ふらりと歩いた。

「もう一つ、気になることがあるんです。安西さんが部屋に寝ていた時、みんなでドアを開けようとしましたね?」

「ええ」

「その時、伊坂さんが「起きてください」と言ったんです。確かに安西さんは睡眠薬を盛られ、ベッドの上で眠っていました。でも、あの状況では、まだ安西さんが眠っていたかどうか誰にも分からなかったはずなんです。犯人以外には……」

「確かに。それは不自然な発言ですね。君はあの時、何を思いましたか?」

「てっきり、安西さんも殺されているのでは、と」

「そうですね。状況から考えるとその方が自然でしょう。参考にさせていただきましょう」

 と尾形は真剣な顔をして言った。

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