表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇術邸殺人事件  作者: Kan
5/12

5 生首の出現

 明日香の叫び声を上がり、それが引き金になって、現場は混乱に陥った。彼女は、ぐらりとよろめいて、地面にしゃがみ込むと、

「お父さんが……!」

 と言って、呻き声を漏らしながら、頭を抱え込んだ。すぐに真が助け起こそうとする。


「すぐに洋館に戻って、警察に通報しよう!」

 という葛城の一言により、由依たちは明日香を起こし、歩いてきた坂道を駆け上ることになった。この場で、携帯電話を使って、通報することもできたが、付近にまだ犯人がうろついているのでは、という恐怖心があったので、とにかく洋館に戻ることにした。

 由依は、坂道を登りながら、ちらりと洋館を見上げた。洋館の螺旋階段がある窓の中を誰かが走っているように見えた。しかし、それが何かはっきりとわかる前に、視界から消えてしまった。

(気のせいかな……)

 恐怖が幻を見せているのだと、由依は思った。


 洋館の玄関に戻ると、もう午後九時を過ぎていた。由依があることに気づいて頓狂な声を上げる。

「おかしい……。ここに安西さんの靴が残っているよ。あの人は出かけたんじゃないの?」

 先ほどは気づかなかったが、確かに安西の靴が靴箱に置かれている。恭子夫人は、その言葉に青ざめる。

「まさか……」

「ねえ、安西さんの部屋に行ってみようよ!」

 と明日香が叫ぶ。すると真がさも恐ろしげに首を横に振った。

「まさか、安西さんの身に何かが?」

(あるいは……)

 安西さんが犯人なのでは、とは由依もさすがに口にできなかった。


 その時だった。洋館の玄関のチャイムが鳴った。由依ははっとして振り返る。目の前には玄関のドアがある。同時にまた恐怖心が込み上げてくる。誰かが到着したのだ。

「誰?」

「なんだね。誰か警察にでも通報したのかね」

 と冷や汗をかいた葛城がなんだか白々しいことを言う。その場違いな感じから、推理小説だったら間違いなくこいつが犯人だ、と由依は思った。

 恭子夫人が怯えた表情で、ドアののぞき穴を覗き込み、ほっとした様子で、ドアを開いた。そこにはさらさらと流れるような黒髪の長身の男性の姿があった。昔の映画俳優のようで、とても二枚目な男性だった。

「哲也君!」

 その人物こそ、恭子夫人の不倫相手の伊坂哲也だった。

「すいません。遅れてしまって、先生のマジックはもう終わってしまいましたか?」

「終わってなどいないよ……。まさに今、起こっているところだ」

 と葛城が震えた声で、またしても白々しいことを言いはじめる。

「それも史上最悪の奇術がね……」


 伊坂は、そんなことを言っている葛城を呆れた表情でちらりと見ると、返事せず、視線を逸らし、恭子夫人の顔を見た。

「今、どういう状況なの?」

「ねえ、哲也くん、落ち着いて聞いて。主人が、あの消失の部屋で殺されたの……。そして、死体が離れの近くで……」

「なんだって。先生が? それで、警察には?」

「まだ知らせていないわ」

「早く知らせるんだ」

 伊坂哲也は、じろりと周囲を睨んだ。


「死んじまったものは、急いだって変わりゃしないさ」

 と葛城が熱でもあるのか、また白々しいことを語り出した。彼は混乱している様子で、ふらふらと揺れながら、伊坂の顔をじろりと睨んだ。

「四谷黎斎は呪い殺されたんだ……。そうでもなけりゃ、あんな不思議なことが起こるはずがない……」


「ちょっと黙っていてください!」

 恭子夫人が怒鳴ると、今度は明日香が狂ったように笑い出し、それは次第にわっと泣き声に変わった。

 このままではまずい、と由依は思った。そして、一歩前に出る。

「みんな落ち着いて。安西さんの靴がここにある、ということは、彼はまだ館内にいるはずでしょ?」

 由依は、この混乱の状況をまとめられるのは自分しかいないと思って、自信ありげに言った。

「警察への通報は恭子さんに任せて、わたしたちは安西さんの部屋に行ってみようよ」

 その提案に葛城が震える。そして、ふははっと笑い出す。

「また死体が転がっているかもしれんぞぉ」

「馬鹿なことを言うな!」

 と伊坂が怒鳴る。


 ここで、恭子と明日香の二人が警察に通報することにして、残りの人間は、安西の部屋へと向かった。


 安西の部屋のドアは内側から鍵がかかっていて開かなかった。内側から閂がささっているのに違いない。ということは、誰かがこの部屋の中にいるということだ。

 伊坂が激しくノックする。

「安西さん。起きてください!」

 すると、しばらくして室内から、ゴトっと物が落ちる音がして、少しして男性の悲鳴が聞こえた。そして、ドタドタと慌てている嫌な物音がして、ドアが開かれた。

 そこには蒼白の表情を浮かべた安西がいた。由依は、一体、どうしたのだろう、と思って、安西の背後を覗くと、そこに男性の生首が転がっていた。先ほど消失の部屋の鍵穴から見た、苦悶を浮かべた四谷黎斎の顔なのだった。


             *


 恭子夫人の通報により、八王子署の警察官たちが到着したのは、この直後のことであった。遅れて、警視庁の尾形警部たちが到着し、由依たちは、警察による執拗な事情聴取を受けることになった。由依のアリバイははっきりとしていた。ここで一旦、由依の回想を終えることにする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ