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奇術邸殺人事件  作者: Kan
12/12

12 四谷明日香

 由依はその後、テレビのニュースで、伊坂哲也と四谷恭子が逮捕されたことを知った。鉄仮面と離れの指紋の他、伊坂哲也のスマートフォンから、削除済みの死体の映像のデータが残っていたのである。ふたりは共犯で、邪魔になった黎斎を殺害し、その罪を安西に被せて、自分たちは黎斎の遺産と後継者としての地位を手に入れ、ゆくゆくは結婚するつもりだったという。

 ふたりが、鉄仮面を二週間もの間、ガラスケースの台の中から出さなかったのは、洋館の周囲にマスコミが張っていて、外に持ち出すことに不安を感じていたからであった。ほとぼりが冷めるまでは、ガラスケースの台というトリッキーな隠し場所に入れておくつもりだったそうだ。

 安西は、警察とマスコミの追求に憔悴しきっていたらしく、自分の将来に絶望して、自殺してしまったのだろう。由依は人間なんて呆気ないものだな、と悲しい感慨にふけった。

 羽黒祐介と尾形警部は、また事件の捜査に明け暮れているらしく、この頃は連絡がない。



 由依が心配していたのは、明日香のことだった。あれから明日香は紫雲学園に一日も来ていなかったし、精神的に不安定な状態が続いているという噂を聞いていた。父親が殺されたのだから、それも無理のない話だと由依は思った。

 次の休み、由依は上京し、明日香は会ってくれない気もしたが、自分の好物のいちご大福を持って、奇術邸にやってきた。

 玄関の前にマスコミの姿はないが、どこかに隠れているのかもしれない。由依は、玄関は危険だと考えて、またしても兎のように走り込み、塀によじ登って越えた。

(この入り方、ちょっと慣れてきたな……)

 由依が裏口からロビーに入るとそこは、やはりこの前と同じく、死に絶えたように静かだった。由依は、不安を感じた。今の明日香は、自分を受け入れてくれないのではないか、という不安が胸の底から込み上げてきた。それでも、ここまで来たのだから、なんとかエールを送って帰りたいと思った。


「明日香!」

 由依は叫んだ。その声は冷たい洋館の壁に消えていった。反応はない。由依はたまらなく不安になる。

(いないのかな……、それとも)

 由依の胸にさまざまな不安がよぎった。安西が死んだ時のことも連想した。明日香の身に何かが……?

(そんなの、嫌だ……!)


 その時だった。二階の手すりの前に明日香が現れた。白いネグリジェのような格好で、いくらか顔色が良くなったようでもあった。それでも明日香は、由依を見ると、悲しいような気まずいような、複雑な表情をして、一歩引き下がろうとした。由依は、慌てて叫んだ。

「明日香! わたしの好きないちご大福買ってきたよ! 一緒に食べよっ!」

 それが由依の精一杯の励ましの言葉だった。由依は、いちご大福を持ち上げ、息を呑んで、明日香の反応を待った。心拍が速くなっている。時間が止まっているように感じられる。


 明日香は、しばらく黙ったまま、悲しげな表情で、由依を見下ろしていた。由依は、まずかったかな、と思った。

 その時、彼女はそっと目頭を押さえると、小さく頷き、にこっと微笑みを浮かべたのだった……。






            奇術邸殺人事件 完

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