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奇術邸殺人事件  作者: Kan
10/12

10 羽黒祐介の調査

 由依は頭の中に浮かんでいる映像をできる限り、写実的に語った。安西の自殺の話が終わり、もう何も語ることがなかったので黙り込むと、祐介が静かに頷いた。

「わかった。事件に関することは大体、分かったよ」

「うん。分かったんならいいや」

「大変だったね」

「まあね」

 祐介は、尾形の方を向いた。

「尾形さん。ひとつお聞きしたいことがあるのですが、凶器と鉄仮面は現場から発見されたのですか?」

「凶器は、離れの近くの山の中で発見されました。斧でしたよ。だけど、鉄仮面は見つかりませんでした。館内も山の中も調べたんですがね……」

「なるほど、そうしたら、これから三人で奇術邸に行くとしようか」

「今から?」

「事件解決は早い方がいいですからね。尾形さん。僕の推理が正しければ、そこで真相を明らかにできると思います。

 と祐介は言って、立ち上がった。


            *


 そして三人は、猛烈な雨が降りしきる中、電車で八王子の奇術邸に向かった。車窓から見える景色は白くなっていた。しばらくして、高尾山口駅からタクシーで奇術邸に向かった。洋館は、灰色の空の下、重々しい静寂に包まれている。

 真と明日香が三人を出迎えてくれた。明日香は、まだぐったりとしている様子で、二学期が始まってからも、紫雲学園には通わず、自宅にとどまっているのだった。由依に気づくと気まずそうに部屋に引っ込んでしまった。恭子夫人と伊坂哲也はどこかに外出しているという。真は、三人を食堂に案内した。

「そうですか。お二人はいらっしゃらないのですね。それは残念だな」

 と祐介は何かを考えている様子でそう言ったが、あまり残念そうな表情ではなかった。

「どうですか。恭子さんと伊坂さんですが、あれから不審な行動などはありませんか?」

「そうですね。この二週間もの間、マスコミに張り込まれていたので、仕事と買い物以外ではあまり外出していないようですね」

「そうなのですか。分かりました。ところで、消失の部屋に案内してほしいのですが……」

「消失の部屋ですか……」

 真は疲れている様子であった。


 祐介は、消失の部屋にたどり着くまでの長い廊下に興味を持っているらしく、その装飾のない白い壁を注意して眺めていた。廊下の窓も観察した。この窓にも、鉄格子が外側と内側から取り付けられている。留め金を確認する。そして四人が、消失の部屋の扉まで来ると、祐介はその扉を丹念に観察した。そして鍵穴を覗き込み、室内に入った。


 挿絵(By みてみん)


 祐介は、興味深そうに室内を調べていた。そして窓の外の崖を観察した。コテージのような離れが見えている。祐介は、窓の下に視線を落とした。気になるのは崖の途中に引っかかるようにして一本、倒木があったことだ。

「あの倒木は?」

 と祐介は真に尋ねた。

「あれは事件の起こる数日前の台風の際に、風で倒れたんです」

「なるほど。もし、あの木が倒れていなかったら、この部屋から離れは見えなかったのではありませんか?」

「よくお気づきですね。そうです。あの木が倒れる前、その窓の前に枝葉が広がっていて、様子はよく見えなかったと思いますよ」

「そうなのですね」

 と祐介は納得した様子であった。真は、なんでそんなことが想像できたのだろう、と首を傾げた。祐介は、その後三人を連れ、エレベーターを使って地下室へと降りた。地下室には、大道具と小道具が所狭しと溢れていた。

 祐介は、透明なガラスケースのことが気になるらしく、それを観察し始めた。ガラスケースは透明で上からかぶせるもので、何も入っていない。しかし、その下の黒い台は厚みがあるようだった。祐介は、その台を持ち上げて重さを確認している。ただの台にしては、ずっしりと重い。

「一体、なんでこんなに重いのでしょうね」

 祐介は、台に興味を持ったらしい。それを真に渡して、他の場所に映すように言った。

「扉のセットもありますね」

 祐介は、マジック用の木製扉を気にしている。それは、あの消失の部屋の扉とそっくりの外見だった。鍵穴を覗き込み、扉をどかして、下の床を調べる。そして納得した様子で、立ち上がった。

 

 最後に四人は、離れへと向かった。祐介は片道、何分程かかるか、時計で確認している。離れに到着すると、死体のあったあたりを調べた。

 祐介は、屋内に入り、物置部屋の床の埃を調べ、離れの何も置かれていない正方形の部屋を観察し、満足した様子で頷くと、尾形の方を向いて、

「この事件の真相は分かりました。おそらく本当の殺害現場は、この部屋なのでしょう。すぐにルミノールなどで血液反応を調べてください。そして、この部屋の指紋なども徹底的に調べてください。上手くいけば、真犯人を特定できる物的証拠をいくつか炙り出せるでしょう。おそらく、僕の推理が正しければ、これはまさにマジシャンにしか出来ない犯罪です」

 と言った。尾形はあまりの早さに衝撃を受けた。

「わ、分かったのですか!」

「ええ。それでは、消失の部屋に移動しましょう。そこで真相をお話しします」

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