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輪廻物語  作者: 恥丸
ウルダ編
5/8

幼女王

 ウルダの城下街の大通りにある広間。

 そこには、広間の中心を開けるようにウルダ国民が群れを成していた。

 彼らの眼差しは、中心部にある“それ”である。


 それは、かつてのウルダの栄光でもあった。

 それは、かつてのウルダの誇りでもあった。

 それは、かつてのウルダそのものであった。


 それは、権威を剥ぎ取られ、力なく鎖に繋がれている。

 それは、今まさに自分に降りかかろうとしている暴力に為す術なく鎖に繋がれている。


 逃げられぬように、群衆の目に見えるように。

 それは、足枷がはめられて繋がれている。


 民衆は、そのものから発する最後の言葉に期待を膨らませていた。

 一体どんな、鳴き声がするのだろうか。そう待ちわびた。


 皆の期待を背負って、それは口を開いた。




「朕は国家なり、そのことを肝に命じて執行せよ!朕は、命乞いなどするものか!」


 民衆は、思っていた鳴き声と違うことに怒りを感じた。怒りは次第に熱狂の渦へと変わっていった。



 その光景を、王女は見ていた。

 齢5歳の王女は、民衆の狂気を特等席でまざまざと見せつけられていた。

 国衛隊の服を着た若者が、群衆の面前に立たされた王女に石を持たす。


「投げろ」


 たった一言そう言い放った。


「お父様に?」

「ああそうだよ……、お父様は遊んでくれるそうだ」

 若者は、げひた笑みを浮かべる。

 王女は、何かの遊びだと思ったのであろう。楽しげに、石を受け取った。


 そう、これは儀式であったのである。

 王女は、王の娘である以上罪を精算しなければならなかった。が、神の血筋を途絶えてしまうことと、まだ物心が付いていないということで、免罪の余地ありとされた。

 だが、王に石打することによって、魔族ではないことを証明すれば……の話である。


 王女は、そんなことつゆ知らずに、健気に父である王に石を投げた。

 石は、王に届かず地面に落ちる。だが、王とは縁を切ったという意思は群衆に伝わった。

 王女の、民衆のための通過儀礼は終わった。

 

 王女は自分の投げた石を拾いに行こうとした瞬間、王女の頭上をいくつもの、大小様々な石が飛んでいった。

 さすがの5歳でも、その狂気に気づいたようだ。

「お父様!みんなやめて!!」

 王女は振り向いて、皆を静止させる。群衆の熱狂の渦の中にその叫びは混ざり、虚空に消えていった。

 王は、石が身体に当たるたび、身を捩らせるように痙攣させる。だが、決して屈することはなかった。


 齢5歳の王女は、恐怖で立ちすくむしかなかった。


 一通り石が投げられると、門番であることを印す被り物を被った初老の男が、王の前へと駆け出してくる。

「ダビド殺しの罪人が!少しは悔い改める態度を取ったらどうだ!!」

 そう言って、手に持っていた大きめの石で頭をぶっ叩く。

 その一撃でようやく王は膝をついた。いや、むしろ全身の力が抜け、ボロ雑巾のようになった。

 王は息も絶え絶えで言う。

「朕は…そな…た……らの蛮行を……許す……」

 男は、トドメを指すように、おおきく振りかぶって石を叩きつけた。

 

 

--------------------------------


 

 軍部と国衛隊の壮絶な闘い。

 軍部の人間は、国民に追い立てられ、国衛隊に徹底的に殲滅された。

 

 内乱の興奮が引いていく波のように治まった頃、王宮では新王が建てられ、そこに各国の視察団が国際関係上の保安視察に訪れていた。

 いまはカンジュナの貴族がウルダ国の視察のため、王の許しを得ようと王宮にやってきていた。

 

「…………」

 

 髪は長く栗色で少し縮れて、王を印す黄金色の額当てが鈍い光を灯す。

 深い闇を湛えた黒い瞳、小さく結んだ開くことのない口元。

 まるで、人形のように玉座に鎮座している。

 

 父王ウルダドネザルの一人娘、ウルガル王女が新王の座に就いたのだ。

 

 カンジュナの視察団は、幼い女王の返答がないことに戸惑いを覚える。

 そこに、女王が座る玉座の隣に立っていた男が代わりに応える。

 

 その男、国衛隊の制服から神官の服に衣替えしたスズリである。


「遥々カンジュナより、ようこそウルダへ」


 スズリが、話し始めると視察団の一行は、女王を差し置いてスズリの方へと顔を向けた。

「ウルダでは、内乱が起き、王は処刑されたと聞く。まことか」

 視察団の一人がそう言った。

 スズリは、眉一つ動かさずそれに応える。

「まことです。しかし、オース条約には反していないのでご心配なさらずに、むしろ魔族の配下をこの世から消し去ったまで……」

「その方の王女が王になり統治する、と……」

「はい、しかし女王はまだ幼い。代わりに私が摂政している」

「ほぅ……」

 視察団一同は顔を見合わしている。

 何やら、国のあり方について話しているようだった。

 彼らは、すぐに話しを切り上げる。そして、視察団の一人が、懐から巻物を取り出して、王と一団の間に置かれている台座に置いた。

「では、カンジュナ王より承った書簡を受け取り給え」

 台座の上に置かれた巻物は、控えていた侍女の手によってスズリの下に。

「承った。では、そちらはウルダ国の内情を王に伝えるがよろしい。下がれ」

 一団は、カンジュナ式の礼で王宮を後にした。

 

 王宮の外、彼らは語らう。

「あの者、反乱の首謀者と聞く。娘も……父王を目の前で殺されたと。なんといたわしいことか……」

「卜占では、あの幼女には天命の相が出なかったそうだ……」

「仮初の王か…」

「我が国に災禍が降りかからぬように、王に進言せねば」

「ああ、ウルダが良き判例にならんことを」



 彼らの背中を見送ったスズリは、女王と共に王の部屋、スズリに割り当てられた部屋へと戻っていった。

 女王は、何もしなければ動くことはない。スズリは、そんな彼女の背中を押して歩くよう促す。

 部屋に入り、スズリは書簡を机に放り投げ、椅子にも腰を放り投げた。腕を組み、女王を眺める。

 ふと、右手を自身の顎に添えて笑みを浮かべるスズリ。

「コマはいくらでもある……」

 スズリは立ち上がり、ウルガル女王の前に進み出て顔を撫でる。

「覇王になるため、役立ってもらうぞ」



王様かわいそうすぎて鬱になりそう…

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