太陽のようなあなたと、黄昏のような私
小学生編はこれで
今度また中学生編でお会いしましょう
前回概要:寿司屋でバッタリ合う。叡山夫婦にはバレたようです
希沙子さん:気にしなくてよろしいのに~
「戻るぞ。堂々としたまえ、今の君はどう見ても女性だ」
「……はい」
バレました。どうも、姫路凛です。
流石は叡山のトップ二人組、特にこの辰巳おじさん
挨拶の時以外、目をこっちに向けてなかったはずなのに、私に秘密があると瞬間に理解した。
そして私に理解を示し、ホルモンの調達も手伝うと約束してくれた。
アレも一応薬と分類されるからね。一応私のような子供の独断で買えるものではないけど
そこは色々、穴がありますので。
「アレには伝えないのかね」
「……今伝えたほうがいいでしょうか」
アレ、まぁ、神谷のことだけど。
本当は、頭ではわかっている。
彼なら、私を軽蔑することはしない。
寧ろ最近、私を見る目が段々エロくなっているので、アッチ型じゃなければ喜ぶんじゃないかしら。
性癖ぬきにしても、きっと、彼は私の味方になってくれる
わかっている。ずっと昔からわかっていた。
「いずれ伝えることになろう。そもそも君は、中学に上がれば、男子の制服など着れまい」
やはり大人はすごいです。
私が考え抜いて、設計した道を、一目で見抜く。
いや、若干ダメな大人もいるけれど。
「志には、私が喝を入れてやろう。まったく、弛んでおる」
「……」
しかもこの考えまで、視線を向けずに見抜いてしまうのだから、神谷が将来こうなるのかってちょっと怖くなる。
「神谷には、食事の後で伝えます。」
「うむ」
辰巳おじさんが頷く。
普段は厳しい印象があるけれど、結構子煩悩の人でもある
特に私や神谷には甘かった。
中学あたりから神谷にも厳しくいこうと決めたのか、神谷も落ち着いてきたけれど
その頃は、察してください。
もう大分余裕なくなってきましたので
「お、戻ったか。凛、長かったな、デカイ方か?」
「下に持っていくな、バカン」
「バカン言うな!神谷だ!」
「……食べ終わったら、話しがある。」
「ん?わかった」
神谷はいつもの眩しい笑顔をこっちに向けて言った。
その子供っぽさの残るあなたの笑顔でも、私は思わずドキっとしてしまう。
でも、後の勝負のため、私はすぐに視線を外し、自分の皿に醤油を垂らした
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「大丈夫か?寒そうだな」
ロングコートを羽織り、神谷と店の外に出る。
吐息が白く変わり、ビシビシと寒さが体を蝕む。
でもお話は店内でするようなものでもないので、ここで我慢するほかない。
「なんともない顔しているキミがどんな体しているのか解せない」
「知りたいか!よし、教えてやろう、まずはピーマンをだな……」
「食べないから」
「直そうとしろよ!好き嫌い!」
それだけは無理だ。無理やり食べようとすると拒絶反応起こして吐いてしまうから。
別にそれといって努力してない。本当だから。
「なんだよ、話って」
来た。
「約束“私は永遠に嘘をつかない”」
「……応。約束“俺は永遠に凛を信じる”」
私に合わせて、神谷も拳を胸に当てて、約束を紡ぐ。
本来、母上との間だけの絆が、貴方とも繋いでいく。
思わず涙出そうだけど、唇を軽く噛み、押し戻す。
「聞いて。神谷、私はね……」
そして、私は語った。
母上にも、辰巳おじさんにも言っていない。
きっと希沙子さん(おばさん呼ぶの禁止された)も、見抜けない。
私の八年の記憶。
末期っぽい鬱の影響で、殆ど風化していた記憶だった。
でも残った傷は消えなかった。
どう傷つけられたのかは忘れた。
でも確かにあったはずの八年。
そして、私を蝕む呪い、性同一性障害。
私の、今世の呪い対策。今後の道。
全て全て、教えた。
「そう…なのか……」
あなたは悲しそうな顔で、空を見上げる。
都会では、もはや星なんて数えるほどしか見えない、薄汚れた夜空。
私は全てを伝える。
大切なあなただけに。
太陽のようなあなたには、隠し事したくなかった。
でも恐れていた。
「私は、恐れていた。いいえ、今でも怖いの
黄昏の色しか知らない私にとって、太陽は最後の一筋の光
貴方にまで見捨てられたら
私は、長夜に入ってしまい、恐らく二度と起きることができない」
貴方は黙っている。
優しい貴方のことだ、私でも、きっと見捨るようなことはしない
事実に、あの八年でも、貴方は私の隣に居てくれた。
私は、枷になってしまったのだ
「貴方のこと愛していた。愛してしまった。
でもダメだった。貴方は太陽のような人
黄昏なんかじゃ相応しくない。
知ってる?晶は、貴方のことが好きだった
貴方も、晶と一緒に私を見てくれて、助けようとしてくれた
それじゃダメなの。貴方も、晶も、幸せにならなければ」
ぽつり、涙が溢れた。
耐えようとした。でもできなかった
八年間、いいえ、十年間、やり方が忘れたかと思った
最初の頃はまだ沢山泣いた。でもいつの間にか、泣く所か、表情すら変わらないようになった。
溢れ出した、十年間の思い。
それを、私如きでは止められるわけがない
「だ、から…死んだのに…」
でもダメだった
「許して、くれなかったの…」
神様が、生きよと、時間を巻き戻した
「ねぇ、神谷…私、あたしはぁ…」
涙溢れ、ぐちゃぐちゃになった顔をあげて
私は問おた
「私は、どうすれば、正しいのかな…どうすれば、許して、くれるのかな…」
生まれて、別に悪事を重ねたわけではなかった
寧ろ進んでいいことしようとしていた。
何故私がと
そう考えたら、涙が益々勢いを増した
目の前に、私より25センチも高い巨人がいる。
太陽のような、大切な貴方
涙のせいで、貴方の顔が見えない。
でも、あなたはそこにいる。
抱きつきたいけれど、貴方に甘えては、本当に貴方は私を甘やかすしかなくなる
もう、詰んだ。
やはり私、呪われて……
「阿呆……」
「えっ?」
いきなり、抱き寄せられた。
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優しいあなた、太陽のような貴方
きっと、私を哀れんでいるのね……
「本当に、何故頭いいのに、こうもお前は阿呆なんだろうな」
「ぐす…」
返事ができない、何故なら私は確かにバカだからだ
前世から、私は人の感情には疎い。
他人の感情はもちろん、家族、果てに自分の感情すらよく理解できない。
死ぬ直前に、ようやく自分の本当に気持ちに辿り着いたくらいだから。
「いいか、約束だ。“俺は、お前には決して嘘をつかない”」
「ぐす、っえ?……」
「凛、知ってるか?」
俺は、昔からお前のことが好きだった
最近になって、女にしか見えないから、余計に意識した
お前って、人気あるんだぜ?取られないようにするに精一杯だ。
…
色々と、教われた。
神谷の、偽りのない気持ち。
全て、知らなかった。
何故?
何故そんな、欠陥だらけの、紛い物の私を、皆が?
「欠陥だらけ、結構じゃないか。完璧の人間なんていやしない
お前は性別のことを呪いと言った。
そんなの嘘だよ。
お前に掛っている一番厄介の呪いはね、自分を許さない厳しさだよ」
アレは、呪いじゃないの?
厳しいの、ダメなの?
「厳しいのは別に悪くないけど、何事もやりすぎはよくないってこと。
お前は自分に厳し過ぎただけだ。」
でも、私、紛い物で、体が弱くて、人の心が分からなくて……
「約束、“どんなお前でも、俺が許す”」
一瞬、体中力が抜けた。
まるで、付けていた重りが消えたかのように、
心が軽くなり、体に力が入れなくなってしまう
私の体重全てを受け止めて、貴方はニィと笑った。
「ほら、お前も、約束だ。」
「ほぇ?ぐす…や、やくそく?」
「そうだ。もう、二度と、俺から逃げないでくれ。自分を卑下にしないで、公平に評価してくれ。」
頭を上げる。
そこにあるのは、貴方の太陽のような笑顔と、
悲しみの雫だった。
「お前のように、八年?の記憶は持ってないさ。でもな」
悲しそうに、貴方は私の頭を優しく撫でる
「俺は、11年間、ずっとお前が好きだったぞ」
え?私?あ、でもそれって友達の……
「俺を晶とくっつけたかった?アホか、あいつはただの幼馴染だ。
俺が好きって、もしかしたら本当かもしれないが。俺は前から、お前一筋だ。」
それって、あっち系じゃ……
「なぁ、性別ってなんだと思う?」
「…?」
「チ○コ付いているか付いていないかって決めんのか?違うと思う。」
じゃ、何で決めるの?
「俺が、スカートを穿いても、男だ。何故なら俺は男だって自認しているからだ。
チ○コなんか、スカートと一緒で、ただの外見だろ。
だから、例えズボン穿いてても、付いてても、心が女なら、お前女だろうが。
俺は別にお前がズボン穿いてっから、付いているから、それども尻がおっきいからお前が好きじゃねぇ
お前が、凛だから、好きになったんだよ。」
「神、谷?」
「八年後、お前は約束まで破って、俺から逃げると言った。
それは許さん。逃げるな。俺の隣にいろ。
いじめ?させねぇ、お前の記憶ん中の俺は阿呆だったが、今の俺は絶対にお前を泣かさない
お前が八年後自殺するって聞いたとき、俺の気持ちが判るか?
猛烈に死にたくなった、どうしようもなく悲しかった。言葉も出れない
でもお前がここにいる、だから持っていられたんだ。
もうあんな気分は沢山だ、もうどこにも行くな、悲しませないでくれ。」
「私、紛い物……」
「構わん。どうしても嫌なら、俺がいつかお前を本物にしてやる。
ほら、俺って薬業の息子だし、もしかしたら行けんじゃないか?
だから、いいんだ。自分を許して、いいんだよ。」
そっか、自分を許していいんだ。
欠陥だらけで、よかったんだ。
紛い物でも、構わなかったんだ
「約束してくれ、もう、逃げないで。もう…」
「うん…約束する、“もう、逃げないよ”」
「ああ、幸せになれよ。俺もいる、俺を幸せにするのはいい
でもお前も幸せにならなきゃ。
幸い、お前が隣にいてくれれば、俺は幸せだぜ。だからさ、
一緒に目指そう、二人とも幸せになれる未来を」
「うん、約束する、“一緒に、幸せ、見つける”」
二人の約束によって繋がれた絆
約束は、破らない。二度と、あの時のように
だから大丈夫。太陽のあなたが居てくれれば
私も、輝いていける。
「ん?雪降ってきたな。」
「ほぇ?本当…」
「入るか、風邪ひいてしまう。」
「でもバカは風邪引かないんじゃ…」
「バカンいうな!神谷だ!あ」
「ふふ…」
「悪い、つい癖で……」
軽く笑い、神谷の腕の中から離れる。
離れた体温が、ちょっと、悲しく思えてしまう。
だからあなたの手を取った。
暖かい
「中入ろ」
「…ああ、行こうか」
きっと、呪いはもう解けた
神様の奇跡によって
だから、これからも大切なあなたと、一緒に歩んでいこうと思う。
その呪いを融かした光を、二度と手放さぬように
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中学編です、宜しければどうぞ