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勇者は楽しく高校生!  作者: 井吹 雫
二年生・一〇月
8/72

第三週 〜勇者のいるクラスだから出来る事〜


「じゃあ、昼休みで決まった出し物は飲食店だけど、皆何か具体的にやりたい事とかある?」


 昼間の多数決もあって、文化祭の話し合いがようやく一歩前進した勇者のクラス。

 そう言いながら皆の前に立っている健太は、隣でチョークを持っている乙音と目配せしながら皆へ問う。


「前に言っていた通り、せりな先生が優勝を狙いたいってのもあるんだけど……。なんせあと二週間もないからな」


 なんて言葉を落とした健太は、チラリと窓際でパイプ椅子に座っている担任を見る。

 そこには体育祭以降、すっかり生気を取られてしまったかのような腑抜けた様子の担任、せりな先生。

 きっと、勇者が蹴り砕いた棒倒しの棒の弁償代金が、想像以上に痛手だったのだろう。

 クラスの話し合いなど全く興味がないのか、椅子を横にし、行儀悪く背もたれへともたれ掛かっていた。


「……。やっぱり、飲食店で定番って言ったら、喫茶店か?」


 そんな、あまりに呆れた担任の態度。

 まるでそれを見なかった事にでもしたいのか、健太は素早く顔を担任から背けると、皆に向き直って様子を伺う。


「えーっ。なにか一つの食べ物を厳選してっ! 屋台みたいなお店にすれば良いじゃんっ! 喫茶店なんて拘束される時間が多過ぎて、他のお店を見に行けないよ!」


 一方、健太の言葉を受けて反論した加奈子。


「出店とかで出せるような簡単な物にしてさっ! 安い材料で高く売ったら、売り上げも出るしっ」


 なんて言葉を発した瞬間、せりな先生が勢い良く起き上がる。


「売り上げ!?」


 仮にも教師である筈だが、生徒の前でゲスさを一ミリも隠そうともしないせりな先生の態度。

 分かりやすく一気に元気となった担任を見て、クラス委員の二人は思わず苦笑いをしてしまう。


「確かに、それは一理あるけど……、でもごめん。もう申請が遅過ぎて、調理室を使う事も、出店を出す場所もないの。だから、教室内で出せる物を考えて欲しい」


 そんなせりな先生の事は放っておいて、乙音は加奈子の意見に説明をする。


「あっ、そうなんだっ。……ううん、私の方こそごめんっ」


 出来ない理由を述べられた加奈子は、理由が自分たちの行動が遅かった事。

 更に自分の反論した理由も、拘束が面倒くさいというわがままだっただけに、あっさりと納得して謝罪をする。

 そんなやりとりが繰り出されていた中、ずっと話を黙って聞いていた勇者。

 スッと静かに挙手をして、皆へ向けて言葉を発した。


「すまない。定番の喫茶店というのは、……つまり、メイド喫茶という事か?」


 健太と乙音、そして加奈子のやりとりで少しばかり静まり返っていた教室内。

 そこに勇者の突拍子のない発言が、大きく木魂した。


「この国について学んだ際、現代の風潮として定着した、新しい文化の中で『メイド喫茶』と言う、いわゆるコスプレ喫茶があると習ったのだが」


 なんて、大真面目に語っている勇者の声。

 話している内容を聞いているうちに、前の席の加奈子を含むクラス全員が、ポカンとしながら視線を勇者へ送っていた。


「喫茶店をやるとなれば。その……メイドの服を、我々全員が着なくては、いけないのか?」


 そう言って、勇者は困ったような顔をする。


「俺は……その、女物の服を着た事がないのだが。どうすればいい?」


 もはや勇者の中では、メイド喫茶は確定し、男である勇者でさえも着なければいけないのではと思っている。

 大真面目に悩んでいる様が見て取れたので、我慢が出来なくなった加奈子が、ついにケラケラ笑いながら突っ込みを入れてしまった。


「あははははっ! ……うーんとっ、別にまだメイド喫茶をやるとは言っていないよっ。というか、勇者君はメイド服を着てみたいのーっ?」


 勇者の誤解を解きつつ、ついでに軽くからかいの言葉を投げ掛けた加奈子。

 すると案の定、勇者は慌てたように「そんな事はないッ!」と断言する。

 一方、そんな二人のやりとりを余所に、顔を見合わせ頷き合った健太と乙音。


「コスプレ喫茶……、良いかもしれないな!」


 言葉を落とした健太の声に、クラスの皆は視線を送る。


「あっ、いや! メイド服を着たいって訳じゃないよ? でも、何かをモチーフにしたコスプレ喫茶ってのは、良いんじゃないか?」


 自分の発した声で注目を集めた事に気が付いたのか、健太はそのまま皆へ向けて思いを伝えた。


「うん、そうね。良いかもしれないわ、コスプレ喫茶」


 そんな健太へ同意するかのように、言葉を紡ぐ乙音。


「自分達で決めて、自分達のやりたいように出来る。どうせなら提供する私たちが、何より楽しめる物が良いと思うの」


 流石、クラス委員へ自ら立候補した乙音の意見。

 言葉巧みに皆を洗脳し、同意でまとめるかのように導いていく。


「……うん、良いんじゃない?」


「ああ。どうせやるなら、楽しい方が良いもんな」



「何のコスプレにする?」



「えー! 私、めっちゃ可愛い服が着たいな~」


 信頼が厚い乙音の言葉を受けて、徐々に心が動き始めたクラスメイト達。

 各々の意見を発するにつれて、だんだんと話す声が大きくなっていく。


「……コスプレ喫茶は決まりね。では、何のテーマのコスプレ喫茶にするのかを、決めたいと思います。何か意見がある人」


 そう言って、クラス全体へ語り掛けた乙音。

 ついでにそのまま、主導権を健太へ戻す。


「はーい! 折角このクラスには、留学生として異世界から勇者が来ているんだし! そんな勇者にも楽しんで貰いたいから、異世界をモチーフにした店が良いと思いまーす!」


 そんな元気な意見を、手を挙げたことで健太に指されたクラスの男子が発言する。


「良いね~異世界をモチーフ! 俺、勇者の格好をしたい!」


「じゃあ俺は、騎士の格好―!」



「いやいやっ、やっぱり黒魔術士でローブだろ」



「俺、全身にポスカを塗ってトロールやろっかな~」


 なんて一人が意見を発したのを皮切りに、口々喋り出す男子達。

 一方の女子達も、各々に自分の思いを伝え始めた。


「えー! 何が良いかな」



「折角だから、一緒のやつにして、お揃いの色違いにしない?」



「メニューとかも、異世界の物を出したいね!」



「私はリアルに、ドレスを着たいな!」


 すっかりやる気となった勇者のクラスメイト達。

 まるで、話し合いが全く進まずにだんまりだった今までが嘘かのような、次々発言される意見達。


「じゃあ、あれだな! テーマは異世界! 名前はー……、そのまま『異世界喫茶』でいっか!」


 そう言って、クラスメイトの意見をまとめていく健太。

 隣では笑っている乙音が、決められた事項を次々に黒板へ板書していく。


「それじゃあ皆! 自分の描く異世界の人達の姿を、それぞれ再現出来るように考えて、用意してくれよ!」


 流石は一年以上同じクラスで共に生活をしていたクラスメイト達。

 健太が皆に指示を出した所で、丁度ホームルームを時間を知らせるチャイムが鳴り響く。

 ノリの良いクラスの元気な返事を聞きながら、勇者はそんな空気の中で、一人取り残されたような気分になった。



ごめんなさい!汗


作者のリアルの仕事が年度末から新年度に変わる為の準備で、今日&明日と残業します。

その為、次回の更新日が二日後ではなく、今回は三日後の4月3日(月)0時〜1時の間となります。


どうぞ御了承下さい!汗

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