第五週 〜踏み込んではいけない大人の諸事情・前編〜
「……と言う事で。このクラスも今日が最後になる訳だが……」
すっかり暖かくなった二年生最後の登校日。
窓が開いているからか、風が吹く度淡い色のカーテンが気持ち良さそうに泳いでいる。
次に登校してくる時は、もうこの教室は使わない。
そんな教室の風景を、穏やかな気持ちで眺めていた勇者。
静かに目を閉じ一息付くと、再び目を開け教卓の前で話している、見慣れない男性へと焦点を合わせた。
「あいつ……ぅゔんっ。せりな先生は、まさかこんな日に、インフルエンザとなってしまいました、が」
なんて言葉を落としながら、淡々と話している一人の男性。
決してその男性の事を勇者も知らない訳ではなかったが、普段ならHRの時間、其処に立って話しているのは違う人。
しかし、今其処へ立っている男性から発せられた言葉によると、せりな先生は来ないらしい。
「仮にも二年間受け持ってきた、クラス最後の日……。そんな大事な日に体調を崩すなんて、あい……せりな先生は本当、最後まで君達へ迷惑を掛けているな」
そんな言葉を落としつつも、何処か呆れているというよりかは心配をしているかのような男性の様子。
すると、そんな男性の言葉を受けて、クラスメイトが笑いながらこんな言葉を投げ掛けた。
「大丈夫ですよ総司先生! せりな先生が何かやらかしてくれるのは、いつもの事ですから!」
明るくそう話したクラスの男子の言葉を聞いて、クラス中が明るく笑う。
「そうそう! いつもの事で〜す」
「二年も担任だったんだもん。今更そんな、インフルで休むくらいじゃ驚かないって」
「それより、総司先生が来てくれたんだからさーっ! 最後に色々、聞きたい事があるんですけどーっ」
「あっ! 俺も聞きた〜い!」
なんて無邪気に手を上げた一人の生徒へ向けて、男性は「なんだ?」と何気なく問い掛ける。
「えっ!? 聞いていいんですか!?」
「まじで〜!? 本当に?」
「それじゃあ、遠慮なく聞きますけどー」
「せりな先生とは、いつからお付き合いをしているんですかーっ?」
一人がおちゃらけた事により、あっという間にスイッチが入ったクラスメイト達。
楽しそうにグイグイと突っ込んでくる為、思わず男性……基、総司先生は一歩後ろへとたじろいでしまう。
「……なっ! 何故、そんな事を聞く!?」
まるで、聞かれた事柄へドキリとしているかのような総司先生の態度。
普段の冷静沈着な授業中の彼とは明らかに違う態度に、クラスメイト達は更に言葉を浴びせていく。
「だって〜! 二人って付き合っているんでしょう?」
「えー! ていうか、二人は主従関係でしょー?」
「違う違う。総司先生が、金で養っているんだって」
「きゃ〜! 私も総司先生に、養われた〜い!」
なんて、次々に好き勝手喋っていく生徒達。
あまりに高校生らしからぬ、エグい大人の諸事情を無邪気に話していくものだから、うっかり総司先生は再び声を上げた。
「なっ!? 誰が一体、そんな話をしていたんだ!」
普段の自分の教師としての勤務態度だったら、こんな言葉は浴びせられない。
大慌てで盛り上がっている生徒達に問い詰める総司先生。
すると、クラス全員が声を揃えて言葉を発する。
「「「「せりな先生でーす!」」」」
見事に殆どの生徒が同じ名前を上げた為、総司先生は片手で頭を押さえてよろめいた。
「だって、いつもせりな先生言っているよ?」
「『主任が代わりに、家賃を払ってくれた!』」
「『主任が、食事代を与えてくれる!』」
「『主任は金持ち!』って、目をキラキラさせて言っていた時もあったぜ!」
すっかり総司先生に対して、敬語が消えかけているこのクラスの生徒達。
自分の知らない所でこんなイメージが出来上がってしまっていた事を、総司先生は今ようやく知って後悔する。
よろめいた事で黒板に軽くもたれかかった総司先生。
やっと声を絞り出すと、途切れ途切れとなりながらもこんな言葉を発した。
「……それに、ついては。君達の担任に……事実確認をした上で、……いつか返事を、しようと思う」
なんて言いながら、総司先生はどうにか足元から崩れ落ちるのを堪えて前を向く。
「以上……。これで、二年生は終了だ。明日からは春休み。休みが明けたら、高校生活最後の三年生となる。クラス替えもあるが、気を引きしめて勉学へ励むように」
そう言って総司先生は、クラス委員へ合図を送る。
それを受けて健太が号令を掛けると、皆は素直に音を立てて立ち上がり、笑顔を見せつつ礼をした。
こういう悪ノリ、作者大好きです。笑
でも皆さんは、程々にですよ!←
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