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勇者は楽しく高校生!  作者: 井吹 雫
二年生・十二月
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13/72

第二週 〜この国はご自由にお使い下さい精神が溢れている〜

わわわっ!!

またまたブックマークをつけて下さった方が!!

本当にありがとうございます!


これからもまったりと頑張ります!!


「勇者ー! 帰ろう、ぜ!」


 なんて、軽くジャンプをしながら近付いてきた健太。

 明らかに嬉しそうな様子で、未だ座っている勇者を軽く急かす。

 一方の勇者は少しばかり疲れたのか、何処と無く元気がなかった。


「……ああ。ケンタは本当に、素直なんだな」


 そう言いながら、荷物をまとめた勇者。

 何気なく周りを見回すと、そこには勇者と同じように、緊張から解き放たれたクラスメイト達が帰り支度をしている。

 強張った身体をほぐす者。

 健太と同じように、すぐ様仲の良い友人の元へ駆けていく者。

 乙音や慎之介のような部活をしている者は、足早に支度を済ませて、既に教室から出ようとしていた。


「……この国は、素晴らしき忍耐の付け方をしているのだな」


 それぞれに行動開始したクラスの皆を見ながら、勇者はポツリとそんな事を言う。

 そのままゆっくりと視線を健太に戻した勇者。

 すると、丁度目が合った健太が「えっ? 忍耐?」と聞いてきた。


「ああ……。身に付けた知識を活かし、数日に渡って行われる定期テスト。身体を動かしている訳でもないのに、此処まで疲れるとは……」


 なんて言って、勇者はゆっくりと肩を回す。

 そんな珍しい勇者の姿を見て、何かを察知した健太。

 嬉しそうに微笑むと、こんな事を口にした。


「そっかー! 勇者もテスト期間の辛さが、分かるかー!」


 そう言いながら健太は、ニコニコと笑って勇者の回している肩を叩く。


「それなら無事にテストも終わったし! 今日はこれから、パーっと遊びに行こうぜ!」


 軽くではあるが、勇者は急に肩を叩かれた事でびっくりし、思わず目をぱちくりさせた。

 そのまま再び健太へ視線を合わせた勇者。


「遊びに……行く?」


 意味がよく分からなかったのか、健太が発した言葉を、勇者はただポツリと繰り返した。




・・・・・・




「……っぅぅうぁ晴~れ~るぅなっ♪ 晴~れ~るぅなっ♪ もぉ~おっとぉ降れぇ~えっ!」


 僅かな灯りの中、最高にノリノリでマイクを持っている一人の男。

 健太を含めたクラスメイト数人の男子が、それを見ながらあんぐりと口を開けている。


「……何で勇者は、この曲を歌えるんだ?」


 そう言って、健太の隣に座っている一人が耳打ちをする。


「俺も分かんない……。えっ、実は勇者『あしろ・やき』が大好き、だった?」


 一方の健太も、マイクを片手に大熱唱している勇者に視線を送りつつ、そう答えてみる。

 再び視線を勇者へ戻した二人。

 しかし勇者は、そんな皆の疑問に全く気が付いていない様子で、流れる画面へ集中している。

 そのまま皆の事は御構い無しに、大サビを無事歌い終えた勇者。

 とんでもなく気持ち良さそうにマイクの電源を切ると、微笑みながら着席した。


「……えっ、勇者君! どうしてこの曲を知っているの?」


 歌い終えた事で周りの者が思わず拍手を送っていると、その中の一人のクラスメイトが声を掛ける。


「異世界では、演歌が流行っているの?」


 なんて問い掛けた事で、残りの皆も一気に勇者へ視線を送ってしまう。

 すると勇者は、ぽかんと口を開けて首を傾げてしまった。

 素っ頓狂な声で「演歌……とは、何だ?」何て口にしている勇者。

 それを受けて、健太は思わず突っ込みを入れてしまう。


「ちょっ! 知らないで歌ってたんかい!」


 うっかりそのまま笑ってしまった健太。

 楽しそうに一頻り笑うと、勇者へ向けて「本当に勇者は、良いキャラしているよなー!」と笑顔をみせる。


「演歌は……。まあこの国でいう、昔ながらの独特な歌の種類って事だよ!」


 改めて勇者に説明をしようとしたが、いざ口を開くと上手い言葉が見つからなかった健太。

 いつも真面目な勇者に、正確な知識を与えてあげる事が出来ず、笑ってはいるが少しばかり申し訳なさそうな顔をする。

 一方、その表情を見て「……そうか、ありがとう」と声を発した勇者。

 本来なら納得がいくまで問い詰めてしまうが、優しい健太を困らせたくなくて、これ以上突っ込むのをやめた。


「ごめんなー、上手く説明出来なくて」


 そう言って、健太はやはり気にしている様子。

 それを受けて、勇者もこんな事を口にする。


「……ケンタが謝る必要はない。俺がこの国の文化について、勉強不足だっただけの事だ」


 なんて言葉を落とした勇者は、続けて「すまない」と謝罪をした。


「いやいや! 勇者が謝る事じゃないよ!」


 勇者はそのまま頭を下げたので、慌ててしまった健太。


「ほらっ! 次の歌を入れようぜ!」


 そう言って隣に座っている友人へ無理矢理マイクを手渡すと、慣れた手つきで機械を操作した。

 すぐ様新たな曲が流れ始めると、それに合わせて健太はタンバリンを叩く。


「この国はなー! 本当に色んなジャンルの、曲があるんだぜ!」


 微妙となってしまった空気を変える為、健太はわざと明るい声を発して笑顔を見せる。

 再び室内に、音と歌声が響き渡り始めた。

 すると、ぽつりとした声で言葉を落とした健太。


「でも……あれなんだな。自分にとって当たり前過ぎる言葉でも、こうして改めて意味を伝えようとすると、案外伝えられないものなんだな」


 なんて話す健太の声。

 勇者はゆっくり視線を向けると、健太は静かに微笑んでいた。


「そう考えると、勇者は凄いな。きちんと思いを言葉に出来るし、意志もはっきり伝えられる」


 流れるようにタンバリンを叩きつつ、そう言って勇者へ視線を向けた健太。


「俺はなー……。乙音みたいにしっかりもしていないし、慎之介みたいに真がブレない男でもない」


 相変わらず微笑んではいるが、健太のその表情はどこか寂しそうな様子が伺える。


「せめて皆が楽しい、一緒にいるとホッとするって思ってもらえるような人間になりたいなー、とは思っているんだけどさ……。でもそれじゃあ、だめだな」


 視線は勇者へ向いているが、まるで独り言を発しているような健太の様子。

 それを黙って見ていた勇者を余所に、健太は一人で決意を固める。


「うん。俺も、自分の言葉には責任が持てるようになりたい! ちゃんと勇者と、対等に話せるように」


 そう言って、ようやく勇者の姿をきちんと捉えた健太。

 それを受けて、勇者も自然と表情が柔らかくなった。


「……ああ。ケンタは十分、素晴らしい人間だと思うぞ」


 そんな言葉を落とした勇者へ、健太は笑って「そうかー? やったね!」と返事をする。

 すると、丁度まもなく終了の時間を意味する、部屋へ備え付けの電話が鳴った。


「ところで勇者さ。どうしてさっきの歌を知っていたの?」


 なんて言って、帰りの支度を始めた勇者へ健太が話し掛ける。

 そんな健太の声に反応して、顔を上げた勇者。

 暫しの間を空けて、健太が発した言葉の意味を察する。


「……ああ、あの曲か。あれは留学するにあたって、この国の文化の一つであるテレビ番組を観ていたら、間で流れていたCM(シーエム)から学んだのだ」


 そんな言葉を発し、おもむろに鞄の中を漁り始めた勇者。

 一方健太は、案の定「CM?」と首を傾げている。


「ああ。そのCMに出演していた、とある宇宙人が『この国のあしろ・やきは、泣ける』と、言っていたんだ」


 そう言った勇者の声。

 鞄の中へ視線を向けている表情からは、明らかに尊敬の志しが垣間見える。


「俺と同じ『異世界の人間』ではないが、同じくこの世界の住人ではない宇宙人でも『泣ける』と感じ取れたあしろ・やきに、個人的に興味を持ってな」


 ようやく目当ての物を発見出来たのか、勇者はそれを嬉しそうに鞄から取り出した。

 勇者が自身の鞄の中から出した物。

 それは、若かりし頃のあしろ・やきのCD(シーディ)だった。


「聴き取りやすい歌詞に、力強いが何処か寂しい歌声。この方は、あの宇宙人が伝えていた通り、本当に素晴らしい」


 そう言って勇者は静かに目を閉じ、手に持っていたCDを胸へと当てる。

 それを見て、目を大きくした健太。

 本当はあの宇宙人役が、この星の住人であると伝えるべきか、思わず迷ってしまう。

 言葉を詰まらせながらも、ようやく健太は「……そう、なんだ!」と笑顔を見せる。


「それで勇者は、あの歌を歌えたんだなー」


 なんて明るく言った健太へ、嬉しそうに頷いた勇者。

 そこへ他の友人達が、未だ部屋の椅子に座っていた二人へ声を掛けた。


「おーい! 早くしねーと、延長扱いにされるぞー」


 そう言って、先に扉から出てしまった友人達。

 それを受けて、健太も慌てて立ち上がる。


「今日は楽しかったなー! 勇者、また来ようぜ」


 そんな言葉を落としながら、何気なく勇者へ視線を送った健太。

 すると、同じく帰る為にCDと、何故かこの部屋のマイクまでをもさり気なく鞄の中へ入れた勇者を目撃してしまった。


「ちょっ! 勇者ー!! それはこの部屋の物だって!!」


 なんて言って、健太は思わず突っ込みを入れる。

 すると勇者は、素っ頓狂な声でこんな言葉を発した。


「なぬ? このマイクとやらは『御自由にお使い下さい』精神ではないのか?」


 大真面目に健太へ問い掛けながらも、鞄へ入れかけているマイクはちゃっかり手から離さない勇者。


「えっ? 御自由にお使い下さい精神? ……うーんと! 確かにこれは、自由に使っていいものなんだけど! それはこの部屋にいる間だけ! 持って帰ったら、犯罪になっちゃうって!」


 そう慌てながら言った健太は、続けて言葉を発する。


「それに! マイクだけ持って帰っても、あしろ・やきは歌えないぞ!」


 笑いながらも勇者を諭した健太。

 一方勇者はそんな健太の言葉を聞くと、ようやく納得したかのように「そうか……」と言って、残念そうにマイクを鞄から取り出した。


『あしろ・やき』は、一応この物語の中での演歌歌手という事でお願いします。苦笑


勇者が歌っている演歌の歌詞については、突っ込まないで頂けると助かります。笑


そして、次回の更新は4月23日(日)の0時〜1時です!

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