表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は楽しく高校生!  作者: 井吹 雫
プロローグ
1/72

~登校前の稽古は当たり前~

 初めましての方も、そうでない方も! こんにちは!

 この小説を開いて下さり、ありがとうございます。

 あらすじにも記載してある通り、この小説は作者の完全息抜き小説です。どうぞお気楽に読んで下さればと思います!


「ッせぇええい!」


 朝日が差し込む、とある城の敷地内。

 剣技の稽古で爽やかに汗を流している男が、踏み込んだ足と共にとどめの一手を繰り出した。


「まっ、参りましたー!」


 一方そんな男にレイピアを突き出された為、弾みで尻餅をついてしまったもう一人の男。

 思わず手に持っていた、自前の剣も落としてしまう。


「いや、今のは中々に良かったぞ」


 そんな男へ、愛用のレイピアを一振りしてから腰に収め、凛々しく立っている男は声を上げる。


「今の一手をかわせるようになれば、きっと竜の討伐隊へ入隊する事も、可能になってくるだろう」


 そう言って、尻餅をついたままの男へ手を差し伸べ立たせつつ、相手に労いの言葉を掛けた。


「そんな、恐れ多い……」


 なんて言葉を漏らしながら、照れるように恐縮する男。

 きっと、目の前の男は憧れの相手なのだろう。

 相手が謙遜しつつ「貴重なお時間を割いて頂き、感謝致します!」なんて頭を下げたところへ、城内から勢いよく女の子が走ってきた。


「お兄ちゃ〜ん!」


 身に纏っているドレスが汚れる事を気にもせず、弾みを付けて勢い良く飛び上がった一人の女の子。

 収めた腰のレイピアに片手を添えていた男へ向かって、両手を広げてダイブした。


「姫、そんなに勢いを付けたら危険です」


 なんて言葉を掛けつつ、まだあどけなさの残る少女の全力ダイブを男は軽々と受け止める。


「だ~いじょうぶ! だってお兄ちゃんが、絶対に受け止めてくれるもん」


 あっさりと男の腕の中へ収まり、満足顔を浮かべながら男を見上げる、王の娘であるサラサ。

 それを、お兄ちゃんと呼ばれた男は笑顔で爽やかに受け流す。


「こら、サラサ! お稽古の邪魔をしてはダメでしょう!」


 そんな二人のやりとり……というよりは、サラサに向かって声を上げながら近付いてきたこの国の王妃。

 サラサが元気よく走ってきた道順を、同じく大きなパニエを華麗に操りながら颯爽とやってきた。


「いえ、丁度一段落が着いた所ですので」


 視界に入ってきた王妃へ向けて、爽やかにそう答えた男。

 抱き止めていたサラサを降ろすと、男はすっとお辞儀をして、王妃へ敬意を表する。


「ふっ、毎朝精が出ますわね」


 なんて男に、にこりと笑って男の忠誠を受け止めた王妃。

 そのまま視線を娘であるサラサに移すと、そこには不本意に地面へ降ろされたサラサが、分かりやすくぶつくさ文句を言っていた。


「はっはっは! 相変わらずサラサは、勇者が大好きだのう」


 そんなやり取りをしているところへ、恰幅の良いお腹を揺らしながら豪快に笑って登場した、この国の国王。


「国王様ッ! おはよう御座います!」


 王妃様に続いて、まさかの国王までの登場。

 いつもの日常の場であった、朝の稽古場での突然の出来事。

 瞬時に場の空気が引き締まり、国王に勇者と呼ばれたその男と、稽古中だった周りの兵士達は跪いて国王へ敬意を示した。


「良い良い、気にするでない」


 なんて、上機嫌な声を出して笑ってみせた国王。

 そのまま笑顔を絶やさず、勇者とその他大勢を優しく立たせる。


「しかし、相変わらずの腕っぷしだのう、勇者よ」


 未だ一礼している兵士達に向かって、国王は稽古へ戻るよう片手を挙げながら声を掛け、勇者と呼ばれる男へと歩み寄っていく。


「やはり、其方の剣術は素晴らしい!」


 なんて絶賛しながら勇者の側までやって来ると、嬉しそうにバシバシと勇者の肩を叩いた。


「国王様、イタイです」


 そんな寛大な様子の国王へ向けて、笑顔を崩さないまま、やんわりと言っているつもりの勇者。


「おお! すまんすまん」


 勇者のなんともストレートな言葉を平然と受け取った国王は、やはり気にも留めない様子で、叩いていた自分の手を笑いながら下ろした。


「それで、どうだ調子は? 随分と慣れてきてはいると、聞いているが」


 なんて、突如何かを話し出した国王と、それについて答える勇者。


「そうですね。随分、馴染めてきてはいると思います」


 一体何を話しているのかは分からないが、そのまま他愛のない話を交わし始めた二人。

 すると、王妃と姫に向かって「王妃様〜! サラサ様〜!!」と、この城へ仕えているメイド達が探している声が聞こえた。


「あ〜! いっけな~い! 今日は舞踏会のドレス合わせがあるんだった!!」


 メイド達の声を聞いて本日の予定を思い出し、慌てて城内へと戻っていくサラサ。

 一方、そんなサラサとは対照的に、大人の余裕を魅せる王妃。


「サラサ、貴女が走ったところでやる事は変わらないのだから、可憐になりなさい」


 なんて言葉を投げかけつつ、勇者と国王に一礼をして城内へと歩き出す。

 長い髪を、見事なまでのヤドカリヘアーにまとめて去っていく王妃の背中。

 遠くでは王妃に向かって「お母様! はやくはやく!」と、サラサが叫んでいる。


「……あやつが可憐な大人になる日は、来るのだろうか」


 そんな二人を笑顔で見送りながら、呆れたように言葉を落とした国王。

 すると、微妙にフォローとなっていない言葉を国王に掛けた勇者。


「大丈夫ですよ。世の中には何万と男がいますので、きっと姫君を好いてくれる方が、何処かに居るはずです」


 それでも国王は、そんな少しズレている勇者の真っ直ぐな言葉も、やはり大した事ではないとでも言うように笑顔を向ける。

 すると、何かを言い忘れたのか、城内へと入っていったサラサが慌てて顔を出し、勇者に向かって大きな声を上げる。


「そうだ、お兄ちゃ〜ん! 遅刻しちゃうよ!」


 サラサの良く通った可愛らしい声。

 その声にハッと何かを思い出し、慌てて着ていた鎧を脱ぎ出す勇者。

 普段は動じる事を中々見せない、勇者の意外なまでの慌てっぷり。

 そんな勇者の面白い一面を発見し、国王は思わず「ほぉ」と顎を撫でながら傍観した。


「すまぬな。我の我が儘の為に、こっそりとあんな事を頼んでしまって」


 着ていた鎧も転がり落ち、この国では見慣れない服をわたわたと着ていく勇者。

 そんな勇者を眺めながら、優しく声を掛けた国王。

 すると、やっと着替え終わった勇者が国王へ振り返り、そして楽しそうに笑ってこう言った。


「いえッ! とっても、楽しいですよ! こんなに面白い依頼を受けたのは、本当に久しぶりです」


 言っている言葉は、今まで頼んできた歴代の依頼時に返ってきた言葉と同じ筈。

 それでも、明らかに今までの引き締まった顔の勇者とは違う表情。

 とんでもなく緩みっぱなしの笑顔を、国王へ見せた勇者。

 脱いだ鎧や自身の愛用レイピアをそのままにして、さっと持ち替えたとある鞄の中から、転移結晶を取り出した。


「では、国王様。願い通りに私が、姫君に相応しい婚約者を見つけ、最高の者を連れて来たいと思います。必ずや!」


 滅多に動じない国王が思わず引いてしまう程、満面の笑みを見せてそう言った勇者。

 そのまま手にしている結晶を天へ掲げ「転移!」と叫ぶと、青い光と共に空間の中へと消えていく。

 綺麗に姿が飲み込まれた勇者のいた場所。

 そこには寂しげに残された、勇者の道具一式。

 それを見ながら、国王はぽつりと呟く。


「……あやつに、任せて大丈夫だったのだろうか」


 笑いながらも心配している国王の思い。

 そんな心配は空を切り、国王の落とした言葉は、誰の耳にも届かなかった。




・・・・・・




「フンフンフフーン」


 国王が心配している事は露知らず、淡いピンク色の雲が行き交う歪みの空間を、楽しそうに浮きながら泳いでいく勇者。

 今日もとてもご機嫌で、鼻歌なんぞも歌ってしまう。


「よし、今日も素晴らしい一日を、満喫するぞ!」


 両手を使って掻き分けながら到達した目的場所。

 歪みの最終地点では、いつものゲートで入国審査をしている、見慣れた女性が立っている。


「あら、勇者様。今日も一日、頑張って下さいね」


 異世界に入国する為、国から支給された真新しい定期を見せてゲートを潜り抜けた勇者。

 流石に緩んでいた笑顔を引き締めると、無心で「ああ、行ってくる」と返し、歪みの外へと出て行った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ