To red beer
ピルビーという村があった。
この地に着いた人々は自然から豊富な食料を手に入れ、やがて集落、そして村を作っていった。
特にここでは庶民的なビールのなかでも相当な人気を誇る「湧きでるルビー」と呼ばれるお酒が有名である。大量に生産される葡萄と小麦(に似ているもの)で作られるその赤いビールは栄養価が高く、地域のみなに親しまれてきた。
不幸なことに食糧や人を狙うといった魔物被害も少なくないことから、村の発展が妨げられることも多い。
それでもビールや土地についての情報がが首都などにも広まりつつあり、近年、注目を集めつつある。
村に冒険者がおとずれ用心棒となるなど、魔物の被害を減らしなるべく安定的な生産に向け日々研究しているようだ。
自然と豊かな土、そして名産品が売りの、田舎の村。
「ここはそういうところなのさ」
ちょびヒゲの似合う、おっとりとした中年がその湧き出るルビーをグラスにそそぎ、かおりを楽しみつつ味わう。
そして満足げに自分のでっぱったお腹をさすりはじめる。
今、そのピルビーの中にある、大きな敷地の屋敷の中。そこの1階の応接間で俺を含めてこの場に3人いる。
「・・・・・・おもしろいお話ですね」
「こんな辺鄙な地に旅人が意図せずここにくることなど珍しい・・・・・・。が、これも神のもたらした出会いというものなのかもしれない。どうですか?すこし飲んでみなさい」
そういいながら、お酒を、というか、赤いビールをこちらにもさしだしてくる。お酒なんて飲んだこともないので、違いも何もわからない。
「いえ、申し訳ありませんが、飲めないもので」
「うーむ、飲めない?しかし、大丈夫であろう。そこまで強いものではない。ここでは水のように飲むんだから、すこしはなれておきなさい」
「い、いえ」
水のようにアルコールを飲む、ってどんな体をしているのか。
「・・・・・・ゴーラお父様?無理強いはいけませんわ」
そこで娘のミルカさんがゴーラさんをとめてくれる。断りづらかったから本当にありがたい。
「おお、ミルカ。のみなさい。我等が神もこの出会いに祝福してらっしゃるのだから」
「ええ。その出会いを大切にしたいのなら、無理強いはするものではありません。アユム様、父の無礼をお許しください」
「いえ。苦ではありませんよ。それに大変ためになるお話ばかりです。先程から驚きばかりで」
「いや、こういう話ができる人がほしかったよ。なかなかここから離れることができないからな。それに、息子できた気分なのでな」
「む、息子・・・・・・」
ゴーラさんがははは、と笑い、ミルカさんは耳まで赤くしてこちらをちらみしてくる。
俺もニコニコと笑みをかえす。
ああ、ここにきてから驚きばかりだ。
「それで、どうかな?この村は?」
「ええ、皆さん、優しい方ばかりで、大変住みやすい村ですよ」
「はは、そうだろ!私としても、ここを都市として昇華させたいものだ!安心して皆で暮らせるのだからな!」
「ええ、私も、魔物に脅かされることへの不安があります。ですから、アユム様があの熊を倒して下さったこと、大変感謝しています!」
キラキラとした瞳からあふれんばかりの感謝の意がこめられていることが伝わって来る。ゴーラさんも、うんうんと頷く。
「うむ、そんな者を、手厚く扱わなかったら、いずれ神罰が下るというもの。その傷を癒すまで、昨日から君が寝ていた一室、そこをもう数日使いなさい。ああ、遠慮しなくていい。人知れず村を救ったのだ、誰も咎めやしないさ。むしろ何か不便やらがあったら、できる限り、こちらで対応するぞ」
次々と自分で決め、側近の男に指示を出す。
ああ、なんてできた人達だ。こんなどこぞの根なし草をここまで扱ってくれるなんて。
「是非、この村の魅力を見ていってください!」
ミルカさんが輝かしいほどの笑みを浮かべる。とても純粋で、おそらくこの村1番の美少女と言われる由縁でもあるのか。
父であるゴーラさんも娘の笑顔をみてほっこりしている。
周りのメイドなども、皆その笑顔に癒されていた。
自分もその笑顔につられ、自然と笑みが出る。
そして失礼なことに、日本で見ればあまり「受け」がよくないものだよな、と考えてしまった。
このミルカという少女は、俺が言えたことではないが、地球のものさしでは美少女とは反対の容姿なのである。
(ああ、意味がわからない。そして、それなら)
俺は、どうみえるんだろうな。と。
牛歩