異世界からの洗礼 2
グロ?注意
戦闘描写をきちんと書きたい
肩に何かが自分にぶつかり、地面に落ちる。衝撃はさほどないが、背筋が凍る。
「む、むごい・・・・・・!」
足元には、あの猿がとても苦しんだ表情を浮かべて死んでいた。
いや、苦しんでいたか、それはわからない。そいつは顔が歪むほどの力を加えられていて、体の部分は既に肉塊となっていた。
内臓飛び出ていたそれに吐きそうになった。
(なんだよ、これ。何が起こってるんだよ)
ドシン、ドシン、と、木の倒れる音がする。とても近い。
俺は即座に音と反対に逃げる。
頭を回転させなきゃ。真っ白にしてはいけない。さっきみたいに、見てから行動なんて、ダメだ。そんなんじゃ、確実に死んでしまう!
グァァァアアアアア!
見てはいけない、と思いつつ、思わず、雄叫びの方を向く。
瞬間、大木がこちらに飛んできた。
俺は横飛びに地面に転がりそれを寸でのところで避け、大木が転んでいった。
しかし、大勢が大きく崩れた。
一応、距離は十二分にあったはずだ。500mはあった。しかし、それではだめなのだ。
奴がものすごいスピードで追いかけて来る。
俺は即座に走り出す。
その差はどんどん縮んでいく。間に合うわけはない。が、逃げなければならない。武器があっても、あの巨体と力はどう足掻いても勝てるわけがない。
後ろを見ながら走る。なんてスピードだ。たった数秒で距離が埋まるものか!威圧感で身が縮こまりそうになるが、それでも死への恐怖が俺の体を動かす。
そして、ついに、接近されてしまった!奴は後ろから奴が飛び掛かりそうだ!
「でも、間に合ったぞ!」
奴が投げた大木を使わせてもらう。横になっていても、俺の腰より大きい大木を蹴る。三角飛びの要領で突っ込んできた魔物を避ける!
さらに奴の頭目掛けて槍を突き出した!しかし、突き刺さったものの、深く傷つけることはできず、逆に吹き飛ばされる。
魔物はそのまま止まることなく、木を貫通に粉砕しつつ急停止。しかし、バランスを崩して倒れ込む。
起き上がって改めて魔物を見る。
熊の魔物か。
特徴は、大型トラック並の大きさであることと、全身が謎の半透明の黄色の液体で濡れていること。液体が地面に滴っているほど濡れている。・・・・・・いくらか体に付着したが、特に害はなさそうか。
それより、あの皮膚の固さ。槍が通らなかっ。一応、体の全体重をかけて槍を奴の頭に突き刺したのだが。
いま、槍は奴の頭に刺さっている。今あるものは、ナイフのみ。
さらに、吹き飛ばされて腕が痛い。強く打っただけだろうが。フルパワーはだせないな。利き腕じゃないだか、マシと考えよう。
「・・・・・・こんなの、いるなんて聞いてないぞ」
さっきの猿だって、あんな集団行動をするなんてことまでは書いてないし、まずこの濡れている熊にいたっては載ってさえいない。
「あのうさんくさいやつからの情報だけを鵜呑みにする気はないが・・・・・・」
もう少し優しくてもいいだろうが。なんだ?さっさと殺して、俺荷関わる不始末を本当になかったことにする気か?
とりあえず、いまそんなを考えるひまはなさそうだ。
奴が動き出す前に逃げはじめるとしよう。ナイフを取り出し構えながら、なるべく早くその場を立ち去った。
森の中に逃げる。迂回して小屋の近辺に来たはずだ。
「うん。ナイフの跡、ぴったり」
目印につけていた木のナイフの傷跡で確認したから大丈夫だ。
「・・・・・・とりあえず、どうしよ」
あの黄色の熊を倒す。無理に近い。条件を揃えて賭けにでるのもいいが、なるべくしたくない。
「村か、町を探すか」
・・・・・・魔物の襲撃を知らせるということでも十分受け入れてもらえるかもしれないが、まずそれを探すのにリスクが・・・・・・。
「・・・・・・否定的な考えばかり浮かぶ」
奴との遭遇の恐怖からか、逃げに走ろうとしている。このままではまずいかもしれない。
「熊のことばかり考えてられないしな」
さっきの猿もそうだが、ここには毒へびやらなんやらがいる。警戒すべき危険が多すぎる。
・・・・・・ああ、そういえば、先ほど、食料になりそうな木の実があったな。
川にたどりつく。黄色の液体や血を洗い流し、適当に枝で作った物干し竿にかける。
今は雲ひとつない晴天。すぐに乾くだろう。
木の実を取る。
見た目はどうみてもりんご。すこし赤の色が薄いが。さわった感触も、りんごだ。手で割って中を見る。
ここまできて中は白や黄色ではなく、赤だった。なんか、トマトみたいな赤さだ。
真ん中に小さな黒い種がいくつかありその周りは真っ赤な実。
「・・・・・・いただきます」
感謝の念というより、安全であることへの祈願の意を込めて、口にする。
「おいしいけど、微妙」
味は本当にすこしだけ甘かった。現代の品種改良をしてきたあの果物達と比べるものではないのはわかるが、まぁそんな感想しかなかった。
「個人的に甘いのは好かないから、いい方だ」
触感も少々堅めではあるが、食べれないことはない。苦味が欲しくなるが、贅沢は言わない。なんてことを考えていると、すでに半分は食べ尽くしていた。
「腹持ちがいいな。これ」
既に満腹感がある。今までの疲れが吹っ飛んだ感じだ。
「・・・・・・あれ?」
先ほど強く打った腕を動かす。ゆっくり回しても、痛みが引いている。思い切り動かしても、問題ない。
すこし痛かった腕の痛みが和らいでる。え、なんていうことだろう。人体と異世界の神秘を見た瞬間である。
「いやいやいやいや・・・・・・」
何これ?
あーもう整理がつかねー。
「どうせただの鎮痛作用!治ってる訳無い!」
そう何度も自分に言い聞かせ、せっせと添え木をしはじめることにした。
さて、すこし時間が経ち装備も乾いた。すぐに取り付ける。
さて、対抗手段を考えなければならない。
「現状ないよな」
詰んでる。猿の集団に会ってもだめ。熊はもっとだめ。他の脅威も潜んでる。
持ち物はナイフのみ。なんなんだこれは。
「・・・・・・」
なにか頑丈な棒を探して槍にするか?今から準備しても、夜になって、地形も何もわからないこちらが更に不利。それとも小屋で頑張って籠城?現実的じゃない。
不確定要素が多すぎる。
もう少し一般人にやさしくしろ。
不確定要素、といえば。
「技巧・・・・・・だっけ」
今まで忘れてたが、この先重要なものだったはず。スキル?ってやつをもらえるものらしいが・・・・・・。
「使い方なぞしらん」
口頭の説明もしくは紙に方法を書くものじゃないのか!?知らないよ!いきなり、未知の力がつかえるよ!何て言われてもさ!
「なんだ?呪文でも唱えるのか?儀式でも始めなきゃいけないのか?」
技巧?技巧・・・・・・技巧技巧技巧。ぎこうギコウぎこーギコー・・・・・・。
頭の中で唱えても、念仏を唱えても意味無し。
「・・・・・・魔法共々、使える方法、探すか。それと、もう一度おいてあった書物を確認しよう。中にもしかしたら詳しく載っているものがあるかもしれない」
そろそろ日も暮れて暗闇になり、周りが見えなくなるかもしれない。今危険な動物がいる中で明かりをつけるのは得策じゃないから、探すなら今しかない。
おれは急いで小屋に戻った。
「・・・・・・は?」
幸い、熊にも猿にも何にも会わず安全に小屋に戻ることができた。警戒しつづけすこし疲れているが、これからどうしよう、と思いながら、部屋に入った。
・・・・・・見ると、部屋が変わっていた。天井、壁にあった様々な装飾や小道具はなくなり、普通の木目の荒い板そのままだった。机などは残っている。ベッドも、簡素なものに。
棚、もとい、書物を見る。もともとあった本は全部なくなっていた。いや、一冊だけぽつんと残っている。
みると、一冊の本の上、近辺の地図らしきものがおいてある。・・・・・・なんと、そこには村があるらしい。川を上ったさきにあるらしい。
よかった。川があるならどちらかに進めばなにかしら集落があると思ったが、それが人か魔物かわからないため、除外してたのだ。
「あれらと戦う必要はなくなったな」
残りの本を見る。辞典まではいかないが、そこそこ厚い。表紙には「技巧」と漢字で綺麗な行書体でかかれた本。
「これだよ!」
欲しいものが手に入った。最初から渡してくれればよかったものを!いや、とりあえず結果論とは言え生きているし、ちょうど欲しいタイミングにくれたことは感謝しないと。
「急いで見ないと!」
俺はすぐに手に取りぺら、と1ページをめくった。
何も書いてなかった。
バン!
思わず本を地面にたたき付ける。
突っ込む気力もない。
何だよこれ。ふざけられることじゃないだろ。ぬか喜びさせたかったのかあいつ!
「・・・・・・なんか細工しなきゃいかんのか?それこそ、異世界に来たんだ。魔力か?」
何にしろ無理だよ。知らないんだから。
・・・・・・とりあえず、これからやることは決まったな。
「まずは、寝るか」
明日からの準備をして仮眠をし、今は夜中。謎の光も日が暮れたあたりから見えなくなっていった。月の明かりも生い茂る森に隠され、完全な闇。夜目は聞かないほうなので、身動きせずに音に集中する。
・・・・・・日中暖かい空気だったせいか、今はわりと寒い。
荷物がいくつか増えており、その中にあった蝋で手元を明るくしておく。
たぶん、何もおきやしないはず。奴らが夜に行動しているならまずいが。
それに、猿の方はともかく、熊の方は死んでいるかもしれない。頭に刺さったあれをどうするかはわからないが、傷はそう安々と治らないだろう。
「・・・・・・夜明けとともに、村に出発だな」
一応、できる限りのことはしている。
カラカラカラカラ・・・・・・
木がぶつかり合う音が鳴り響く。俺は荷物を持ち急いで小屋の入口に立つ。
小屋の200mほど先に、木のつたと枝で鳴子をいくつか作っておいた。夜中の索敵にしては十分だったようだ。
川の反対側から音がなったようだ。そして、相手は・・・・・・。
「おい、あの熊まだ生きてるのかよ・・・・・・!」
一応、高さを考えて作っている。背の低い奴、高い奴両方を考え、音の大きさでわかりやすくした。ここまではっきり聞こえるのは、高めのところにおいたもの。
淡い光源でだが、目でも確認する。頭には今だ槍が刺さっていて、こちらにまっすぐ突進していた!
俺は外に置いておいた棚に上り、小屋の屋根にのぼる。奴は急停止し上にのぼった俺を見上げる。追い撃ちとばかりに、上を向いている奴に思い切り上に持ち込んでいた土をかけてやる。ちょうど奴の顔に直撃、目などにはいったのか、とてつもなく低いうなり声で悶え苦しんでいる。
「さすがにここまでやればいいだろ!」
奴が立ち上がり悶えているのを見ていると、ちょうど槍が手に届いた。俺はそれを思い切り引っこ抜く。意図せず、武器の回収ができた。
ブン
突然、俺の頬をかすって何かが通りすぎた。
「は?」
向かってきた方向には、今なお悶え、額から血を流しはじめた熊しかいない。
俺は何かヤバい、と感じて荷物を持ち下に落ちる。
ブンブンブンブンブン!
屋根に明かりを向ける。上空には蜂の大群がいた。
夏に良くみる大きめの蜂。そいつはなにやら黄色くてかっていた。数匹こちらに向かってくるのを後退しながら槍を振り回し追い払う。
なんだ?あの蜂は。どこから出てきた?木に巣なんかあったか?いや、なかった。あんなの、前からいなかった!
ぱき、と音がした方をみると、熊もこちらに回り込んできていた。
まずい。
俺は即座に走って逃げた。
ドスドス、といつもより鈍いが着実に熊が追いかけて来る音と大量の蜂の羽の音が近づてくる。
怪力を持つ手負いの獣。今、脚は遅いが、捕まれば今確実に、殺される。
数の暴力で攻め立てる虫。殺傷力はわからないが、圧倒的な速さと数でこちらを攻撃してくる。確実に足止めとダメージが蓄積される。
俺は逃げながらも、持っていた長い木の棒に火をつけ、蜂に対して振り回して撃退しつつ熊からなるべく距離をおくよう逃げる。
離れれば蜂を攻撃していき、数を減らしていく、ということをしている。
他に有効な手口を思いつかない。数は減っているはずなのだが、次から次へと攻め立ててくる蜂をみると、手応えがない。
蜂の出現もだが、不思議なのは熊だ。
奴の視界から完全に離れた距離で、移動する方向を変えたはずなのに、確実に最短距離でこちらに向かっている。俺の位置を完全に掴んでいる。
それに、奴の回復速度はわからないが、奴の目を潰したはず。現に、奴は下を向いて四足歩行でこちらに向かってきている。
「なんだよ、これ!」
蜂に火をあてると、ものすごく燃える。たまにそれに引火してある程度固まって奴らを撃退することができる。
魔法で出した火だからか、蜂を倒したい、とずっと思っているため、蜂に燃えうつったものの、そのあと他の草木に引火することはないようだ。というより、ここの草木が異様に燃えつきにくい。先程からかなりたつが、持っている棒が燃え尽きないのも、それが理由かもしれない。植生しているものは、なぜか燃え尽きる前に火が消えてしまうのだ。
あちこちに刺されたりかすったりでダメージが蓄積されていく。
地球での蜂の針が注射針なら、こちらのそれはまさしくナイフ。
「刺す」というより「えぐり出す」という方がしっくりくる。あまり考えたくないが、体中が「虫食い」状態だろう。元の醜悪さもあいまって、都市伝説級の恐怖映像だ。
「怖いのはに苦手なんだよ!」
どうにか大事な部分は必死に守りながら、逃げる。
ここまでの力がどこから沸いてくるのか。体力の限界というのは案外深いらしい。
が、問題はそこじゃない。終わりが見えない。もう、体力的より、精神的に苦痛である。疲れがひどい。今にも倒れそうだ。
でも、死ぬよりマシだ。
「うおぉぉぉお!」
死にたくない。単純だが、辛い経験からくる思いというのはこれほど強いものらしい。
歩は、すでに意識を外において、ひたすら駆除をしつづけた。熊はさきほどから既に姿が見えない。歩は決心し、今ある蜂を全て倒すことに決めた。
折れかける心を恐怖が無理矢理矯正する。痛みで怯える体で蜂を燃やしていく。利き腕を守るようにもう一方の腕で防ぎ、足を奪われないために動きつづける。
その皆から避けられた顔も、今となっては人と認識されないものとなっている。それでも、命あるまで、最後まであらがいつづける。
我に返ると、最後の一匹を倒し終えていた。
空はすこし薄赤くなっている。
「・・・・・・」
もう、声は出ない。
これに打ち勝ったが、このあとすぐにでもずっと眠ってしまいそうだった。
全身が赤と黄色の液体で濡れる。革の装備はとうにズタズタ。満身創痍。
ドン
後ろを振り向く。
そこには、熊が、奴がいた。
しかし、奴の様子はとても変わっていた。
ついさっき見たときよりも一回り縮こまっていた。
よろよろと歩いて、あと数歩のところで、目の前に倒れた。
ああ、そういうことか。奴の頭の傷から、中が見えた。
空洞だった。
思えば、この黄色の液体を垂らしていた時から、熊は蜂に寄生されてたのかもしれない。
他の虫の幼虫の卵に蜂が卵を植付け、その幼虫から蜂の成虫が食い破って出てくる、なんてこともあるらしいから、なるほどそれだろう。
奴の頭から人間の頭ほどの大きい個体が赤と黄色が混じった液体とともにズルりと出てきた。これが、いわゆる女王蜂、か。脳の中でこいつを操っていたのか。ぴくぴくと動いているため、まだ生きているようだ。
こちらが近づいても、顔を向けるだけで精一杯のようだ。みると、片方の羽のつけねあたりからごっそりと削られていて、治り始まっていたようだ。もしかしたら、俺が最初に熊に刺したときの傷か?まぁ、どうでもいい。
俺は槍を振り上げる。こいつには後遺症が残るであろうほどの傷を負わされた。死の恐怖を味わわされた。これを振り下ろせば、やっと地獄の時間が終わる。
「・・・・・・お前はあとだ」
いつのまにか、後ろに3体の猿がいた。
襲い掛かってきた奴らだが、動きが遅く感じた。さっきからの集中がまだ続いていたか。
右から飛び掛かった奴の腹を槍で払い斬り、そのままの勢いで真ん中のやつを突き刺し、最後にきた猿が口を開けてきたところをナイフで顎から突き刺す。
「・・・・・・逃げられた」
振り返ると蜂は数匹の蜂に自分の動かない羽の代わりに動かせ、ぎこちないながらも逃げていく。
「・・・・・・ああ、そういや、村に向かっていたのか」
猿から武器を抜き取り、荷物を持ち直す。
俺はおぼつかない足取りで村へ向かう。方角ならのぼったきた太陽を見ればわかる。
異世界から二日目。ここまで異世界がきついなら、あの神に無理言ってでも、地球に返してもらうんだったな。
次回予告
「美醜逆転」の世界
「ようこそ、可愛らしい旅人さん」
「技巧」の力
「魔法と、技巧、か」
襲いかかる、「敵」
「これより、「蒸発」を開始する」
何をしてでも、「生き残れ」
発進異世界ウォーカー
To Red Beer
てきなのやります