プロローグ 1
その日……俺の祖父、大道正美は俺の目の前で背中にナイフが刺される。背中に赤い液体が広がる。しかしじいちゃんはひるまず、刺した相手の手を掴み後ろに回し武器のナイフを奪いながら地面に取り押さえる。
「歩!通報しろ!」
「わ、わかった!」
俺はじいちゃんのバッグから携帯を取り救急に電話する。その間、ナイフを持っていた男は必死に抵抗する。が、全く浅くない傷を負っているはずのじいちゃんは体重をかけて抑えているため逃げられない。
「はい!○駅まえです!早く!じいちゃんが、年寄りがナイフで男に背中を刺されたんだ!」
焦りながらも通報をしあとは警察を待つだけ。しかし、やはり年か、最近の「発作」のせいで咳き込んでしまい、拘束が緩む。その隙に男はじいちゃんをはねのけ、ナイフを奪いお腹に思いっきり突き立てる。ナイフは深々と刺さる。
「じいちゃあん!」
じいちゃんが口から血を吐く。男は何度もじいちゃんの腹にくそが、くそが、といいながらナイフを突き立てる。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!
「う、うおおお!」
固まって動けなかった俺の後ろから周りにいた男性2人が男性を取り押さえる。ナイフを奪って1人が離れ、1人が取り押さえる。しかし、そういったことに慣れている、と言っていたじいちゃんのような動きではない、ただ覆い被さるだけの素人の抑えではすぐに振りほどかれる。俺はじいちゃんの元に近寄る。深い傷だ。本当にお腹がずたずたにされている。息をしているのが奇跡、というくらいに。
「じいちゃん!!じいちゃん!」
「ははは……もうだめみたいだな……歩……いままでありがとうな……」
「そんなこというなよ!おい!じいちゃあああああああん!」
救急者やパトカーのサイレン音が聞こえる。救急だ!しかし、じいちゃんの体が冷たくなって、息も、どんどん……。早く!早く来てくれ!
「ほら!救急車きたよ!じいちゃん!しっかり!」
嫌だ。いなくならないでくれ。ダメだ。待って。待って!あのクソ野郎は取り押さえた男を殴り始めている。くそ、あいつの、あいつのせいで……!
「くっ……くっそがあああああああああ!!」
午前11時ころ、F県F町にある○駅前で、男子学生が「重傷者が出た」と消防局に119番通報があった。
この通報を受け救急隊や警察官らが現場に駆けつけたところ、○駅の路上で男性(69)が近くにいた男子学生をかばい、背中に意識不明の重体。また他にも男性(24)が殴打で軽症。男性(69)は病院に救急搬送されましたが、まもなく死亡。
F県警によりますと、ナイフを持った男性(34、無職)は「人生が嫌になってやった」と供述。……
じいちゃんは64歳と高齢ではあったがそれを感じさせない人だった。
いつも俺と遊んでくれて。叱ってくれて。ほめてくれて。
じいちゃんは人格者だった。
1人だった俺を導いてくれた。人として誇れるような道を歩けるよう助けてくれた。
楽しいときは一緒に喜んでくれて。悲しいときは泣いてる俺を慰めてくれて。苦しいときは甘やかさず、しかしきちんと温かく見守ってくれて。
でも、そんなじいちゃんとはもう、会えなくなってしまったんだ……。
「今日は、一段とまた、体が重いな。」
俺は○○高校2年A組5番の大道歩。普通……よりちょっと不幸だってくらいのどこにでもいそうな高校生だ、と思ってる。いや、俺には特徴がある。それはなんといっても超ブサメンの俺の容姿だ。神が俺に試練でもあたえたのか?ってくらいひどい。
身長は180cm、体重は68kg。足は長いほうかな。筋肉は日頃鍛えているしバイト(生活費のため無断でやっているが)でも使うので同年代に比べるとずいぶん多いだろう。じいちゃんにも健全な体を作れと言われてたし。
学力は子供の頃からやることもなかったし読書や勉強とかしてたからできる方だとは思う。まぁ、通っている高校は進学校じゃないからあまり発揮しないけど。一応英語はしゃべれる。通訳とかそこまでじゃないけど会話はよどみなくできる。
これだけを見ると普通じゃないか……?むしろスペック高いんじゃ……って思うだろう。
でもな、俺はそれらを足してもぶっちぎりでマイナス評価されるものを持っている。
「醜すぎる容姿」だ。
世間一般ではデブ=ブサメン、って圧倒的多数はイメージするだろう。なんども言うが自慢でも何でも無く、俺は太っていない。だけど、たとえ痩せていても健康的でもブサイク、ってやつはいるんだぜ?
というか、なまじ筋肉がありなおかつ子供の頃から運動で日焼けしてるから余計醜くみえる。らしい。
曰く「お前は初対面で近づきたくないし近づかれたくないタイプ」な顔だそうだ(陰口で言われていたことだ)。鏡で毎日見てるから俺としてそう思わないが……。ま、この顔のせいもあって父さんも母さんとも、色々あった訳だし……。
「はぁーしんどいな……」
最近昔のじいちゃんと一緒にいたころの夢をみる。いろんな思い出だ。1つ思い出しただけで連鎖的にいろんなことが思い出せるほど俺の頭の中にはじいちゃんとの記憶がある。だから夢でじいちゃんのことが出るのはそれは前々からよくあることだ。しかし、なぜか最近は色々なじいちゃんとの思い出の最後に「あの出来事」の夢を見る。そう、あの不幸な事件だった「じいちゃんの死」。唐突に突きつけられたあの衝撃。前々からじいちゃんに頼らず自分で巣立つ様にしつけられてきたので俺は立ち直ることができた。しかし、それでも唯一の家族だ。未だにあの出来事を思い出すと息が苦しくなり辛さで倒れそうになる。それでも、俺は、絶対に強く生きる。だって……。
「わ、あいつみちゃったよ。最悪」
「えー、あのどんくさいやついるの?ほんとだよまじふざけんなよ~」
……思考に耽っていたらいつのまにか学校の近くまできていたらしい。近くから聞こえた俺に対して本気で嫌がっている声で現実に戻される。はぁ、今はじいちゃんの事は考えてないでさっさと学校いかなきゃ……。ここはじいちゃんとは関係ないからね。
「早く死ねばいいのに」
「なにしに学校きてんのww」
違う生徒からのわざと聞こえるようにいった言葉を俺はスルーする。いつものことだしな。あと悪いな、死ぬのは当分先だ。死ぬのは老衰って決めてんだ。あと将来の生活のために学校はあるんだぞ?お前らは楽でいいだろうがな。こちとら、ここの高校に入学したのもあまり3年間でお金がかからず、就職とかに有利な場所だからな。
じいちゃんが亡くなったとき、じいちゃんの持っていた財産はいつのまにか残してあったじいちゃんの遺書のおかげでわずかにだが俺に分配された。じいちゃんは昔結構稼いでたらしく、その時のツテも多い。そんな関わりのある人達のわずかだから、俺が高校生活送る分は足りている。あと生活費を稼ぐためにバイトいれてるくらいだ。……バイトかー。最近の気怠さは疲れからだろうか……。うーん……。
そう考えながら周りの批難めいた目や罵倒をスルーする。ルーチンワークに近い。
……ただ、いつも思うが、いいねえ、お前らは……青春ってやつ送っててさ……。俺が送るとしたら、どんな生活なんだろうな……。
そう思いながら歩いていると後ろから聞き慣れた声が聞こえる。
「あっるぇ~?歩じゃ~んw」
「……」
後ろから聞き慣れた声が聞こえる。振り向かなくても分かる。よく……は知らないけど知ってる2人の男女だ。またお前らか……こんな、とっても怠い日に、めんどくせぇ……。
「おい無視すんなよ~長い付き合いの、クラスメイト、だろ~?」
そう、こいつらは一応ではあるが、中学から知っている2人。
笹川康平と篠田伊織。この2人の関係はお付き合いしている、らしい。昔からとても仲が良く「バカップル」なんていじられていた。本人達はまんざらでもなさそうだが。
……今日はいらついていたからか、つい返事を返してしまう。
「……なんでしょうか」
「あ?なんでしょうか、じゃねーよ!お前は家に戻れよ!学校の空気が汚れるだろうが!」
「……」
康平は顔も体格もそこそこよくて人つきあいもイイヤツ、と言われている。腹黒だがな。唯一背が低いことを気にしてるとか。
となりの伊織はよくある文学少女って感じ。
綺麗な黒髪を長くのばして大和撫子風の清楚な感じ。こっちのコンプレックスは女性らしくない胸、だそうで。
「んじゃさっさとみんなの邪魔にならんように帰りな!木偶の坊!」
「・・・・・・ふっ」
笹川がこちらを煽り、伊藤が嘲笑うように、軽く笑う。
それに対して周りからクスクスとあざ笑う声が聞こえる。俺は「何も言い返せない弱虫」って思われてるらしい。だが俺にとってそう思われても構わないし、他にどう勝手に思われようが、どうでもいい。
じいちゃんにも「争いは何も産まない」、って言われてた。教えは守る。
「……」
「……で、さー」
……俺をすこし見て、すぐにこやかに笑いながら会話を始めた、もう二組の男女。
坊主頭で体の大きさも俺とよく似ている(無論向こうの顔は整っている)男の名前は大城俊介、茶髪のツインテールを揺らしながら歩く小柄でおっとりしている女の名前は村井美紗。
さっきの二人よりももっと長い付き合いである。
小学生からの知り合いだ。何かと縁がある。お互い、何も知りやしない関係だが、なぜか会うことが多い。
二人は幼馴染だそうで、いつもくっついていることが多い。そして、大城も村井も有名な剣道の道場に通っていることで有名だ。
……それ以上はしらない。彼らは俺に対して「無関心」だ。あちらからも、こちらからも情報がいくことはない。さっきの二人より話を聞くことも、ない。
さて、さっさと教室にいくか。……にしても、本当に体がたるい。
2年A組は4階立てのこの学校で3階の中央階段上がってすぐにある場所だ。教室に入った瞬間周りから汚い物を見る目で見られるが、すぐみんな自分たちのグループで話を始める。
こんな環境だが、まだ高校はある程度自由だからいい。特に何か決まって全員ですること、ということが少ないからまわりからの反感も買わない。中学までの無駄に縛られたあの空間より、だいぶましだ。
俺は自分の左端の窓側の席に座る。たるい体を立って支える必要がなくなり少しラクになるか、と思ったが相変わらず辛いな。少し机の上で休むか……と思っていると。
「……この書類早く出してよ、お前だけなんだよ。」
目の前にプリントが出される。……差し出されたのは体育祭関連の話か。やりたいスポーツの種目を書いて提出するようだ。……でも、俺こんなプリントもらってない……。
あ、今笑いながらアンケ用紙らしきものをくしゃって捨てた奴らがいた。あいつらの仕業か……。俺以外に迷惑かけるなよ、お前ら……。
「・・・・・・すいま」
「いいから黙ってかけ。」
……謝罪の言葉よりも、事務的に早く終わらせた方を望むようだ。適当にサッカーとでも書いておこう。
「……はぁ、やっとそろった」
用紙を集めながらため息をついてのはこのクラスの中心的存在の委員長。藤宮菓苗。活発で社交性があり、周りはいつも笑顔が絶えない、そして彼女自身も笑顔が絶えない人だ。俺は彼女の周り、に入っていないがな。
容姿は茶の短髪で体型もいかにもアニメにもよくでるちょい褐色部活美少女ってところ。
なんだったか。ソフトボールだったか?のエースだ。ちなみにウチのソフト部は全国レベル。相当強いわ……。
男性がちょっと苦手らしく、結構威圧的な態度になる。俺に対してはとくに露骨だ。
なんだって嫌な顔してこちらにきて、どうもすいませんねぇ。うわ、みんなの批判する目が。俺わるくないんだがなぁ。
キーンコーン……
ここで予鈴がなる。俺はいっつも朝遅くきてる。来て数分後に予鈴がなる時間帯だ。わざとだが。……藤宮さん、俺の分が出てないから書いてもらおうにもいないから書類だせなくてさらに怒っていたのか。これは俺も悪いな。申し訳ない。
「はーい、みなさんおはようございまーす」
この人は担任の伊藤巴さん。20代の数学教師だ。身長は低めだが顔は整っている。まだ彼氏なんかは仕事が恋人、ということでいないらしい。雰囲気はみんなの癒やし系、って感じか。若いのに教え方が上手なので質問に来る生徒も多いし人気もある。
……まぁ一番は母性あふれる場所が豊満でいらっしゃるからでしょうね。もちろん質問する生徒は男子が多いですよ。
「今日も休みは……いませんね。」
また、生徒には少し甘い節がある。まぁ若いからね。そんな性格も人気の秘訣か?仕方ないか。まぁそんな人でもね……。
『はぁ……大道って子、扱いめんどくさいんですよね……どうにかならないですかね大場先生』
『ああ、あの浮いちゃった子か……』
とかって職員室でいわれますけどね。あ、大場先生は学年主任の先生だ。60代の男性だったかな。
さて、朝の連絡で特になさそうだ。……ちょっと頭痛がつらい。今日は今までで一番辛いな……。ホントなんでだろうか……。仕方ない、やっぱり授業が始まる前に、少しだけ寝るか……。
あー、だりー……。
この日はそんないつもの、普通の日常だった。
はず、だったのに。
感想等、お待ちしております