12.偶然は続きますね
「あら……」
「ん? どうした潮里?」
「ああ、須田と瀬戸だな」
同年代の青年グループの中に、また見覚えのある人がいるなぁ、と思っていましたらご本人でした。
須田くんと瀬戸くんでした。
ここでお会いできるとは思ってもみませんでしたね。
「えっ!? 南波さんっ!?」
「東峰先輩に南波先輩までっ!?」
須田くんと瀬戸くんはとても驚いた表情をしていました。
そうですよね。こんなところで会うとは思いませんよね。
「俊矢、剛? 知り合いか?」
おふたりのお友達でしょうか?
見覚えがありませんので、星篠学園の生徒ではなさそうです。
中等部時代のお友達ですかね?
「ああ、うん。高校のクラスメイトと先輩」
「こんちには。須田くんと瀬戸くんのクラスメイトの南波 潮里と申します」
「あっ、はい。ありがとうございます」
挨拶をしてお辞儀をすると、何故かお礼を言われました。
「ふふふっ。どうしてお礼ですの?」
「あっ、いえ。……何となく? つい?」
「ふふふっ」
つい、でお礼をするんですか?
笑っては失礼ですが、あたふたとしているのが可笑しくて、笑いが零れてしまいました。
「こいつら、別の高校に通っている俺達の中学時代の友達」
「仲がよろしいのですね」
あら? そういえばわたし、友達同士でお出掛けってしたことありませんわ!
なんだかんだ、お出掛けは兄様ばかりですわね。
大変です! これは問題ですわよね!?
「南波さん達も買い物?」
「……ええ。やっと怪我が治りまして、お出掛けの許可が出ましたので。須田くんと瀬戸くんには本当にお世話になりましたわ。お礼をいたしませんと。そうだわ! 皆さま、ランチはまだですわよね? ぜひ、ご一緒にどうでしょう?」
ここで須田くん達と一緒にお食事でもすれば、クラスメイトとご一緒したという事実が出来ますわよね?
「ねぇ、兄様。お礼にご馳走しても構わないでしょう」
「勿論だよ」
「えっ! い、いえ、お礼なんて気にしないで下さい!」
「そうですよっ! 俺達は本当に構いませんからっ!」
「遠慮しないで。いつも潮里がお世話になっているしね。それに君達とじっくり話す機会が欲しかったしね」
「「………」」
兄様、ナイスです!
ここはわたしの為にもご一緒して下さいね。
「俺達を入れて7人か。どこにする?」
「ここからならうちのホテルが近いな。そこのレストランにでも行こうか。今から連絡すれば、問題ないだろうし」
「そうだな。じゃあ、車を呼ぶか」
「わたしなら大丈夫ですわよ」
「治ったばかりなんだ、あまり無理をするな」
それもそうですわね。
ここはお言葉に甘えて、車で移動する事にしましょうか。
そうと決まると兄様達はすぐにスマホを操作し始めた。
兄様はレストランへ、和登くんは車の手配を。
「何だ? どういう事だ?」
「一緒に昼飯って事か? おい、俊矢? 剛?」
「「ごめん……」」
◇ ◇ ◇
あら……、星篠さんが先程すれ違った場所と同じ処で、男性にぶつかって転びました。
男性の方は面識はありませんが、特徴が一致しますのであれはたぶん北大路くんだと思います。
やはりあれは攻略イベントなのでしょう。
だって、すれ違い様にぶつかって転ぶなんてベタなシチュレーションですもの。
「潮里、何を見ているんだい?」
「えっ? はい、またクラスメイトを見つけまして……」
わたしが星篠さん達の方へ視線を戻すと、ちょうど北大路くんが星篠さんの手を取って立ち上がらせているところでした。
兄様が思いっきり顔をしかめていますが、……兄様はしかめっ面でも綺麗ですわね。
「潮里、あれには関わるなよ」
「クラスメイトですので全く接触しない、という訳にはいきませんが、極力関わろうとはしませんよ?」
「うん、それでいい。何かあったら、すぐに僕に言うんだよ?」
「気に留めておきます」
でも、確約はしませんよ。
「潮里?」
兄様はわたしがはっきりと返事をしなかった事が不満だったようです。
凄んでも駄目ですよ、兄様。
星篠さんの行動については兄様にも言えない事が出てくるはずですもの。
「………」
これは譲りませんよ、とばかりにわたしは無言で微笑んで兄様を見つめておきます。
「……仕方がないな。でも、言える事だけでも言うんだよ?」
「勿論ですわ、兄様」
「うん。じゃあ行こうか」
しぶしぶ納得した兄様にエスコートされて、ランチするお店へと向かった。