【自由という名の強制】 神託メール 【空の魔王降臨】
さて、テミスさんを土方さん思い出のブラッケリー砲で打ち上げたあと土方さんと少し木こり小屋で話をしてそのまま休んだ。
土方さんはシンセングミ時代の苦労話や武勇伝、そして思い人からもらったという大量のラブレターを自慢するだけ自慢して、僕が眠くなったころ合いを察したのか天界へと還っていった。
「ではな、マルク殿今度はできれば戦場で俺の本領を発揮させてくれ。」
「そ、そうですね。できればそういう状況にならないよう願っていてください。」
「ふっ、貴殿らしい言い草だな。では、達者でな。」
手を差し出す土方さんと握手を交わし、僕は眠りについた。
そして翌朝、マルクは森の中をとぼとぼと歩いている。
幸い体力はテミスさんによって魔改造されたおかげで全く問題ない。
テミスさんのせいでクロッティア領にはいられなくなったので、このまま隣の領地へと歩いていくつもりだった。
「はぁー。疲れはしないけど、おなかはすくなぁ。」
切り株に腰かけ、昨日の治療の際に、シサナクの町の皆さんからお布施として頂いた、パンや干し肉をつまんでいた。現金でなくても十分ありがたい、マルクは感謝のできる素直な少年であった。
その時、肩から下げたバックから不意に機械的な音声が流れる
『ポーン♪神託メールが一件、届いています。』
「あっ、これかテミスさんが言ってた神託っていうのは・・・。どれどれ・・・。」
ショルダーバックをごそごそ探ると、中から羊皮紙を一枚取り出した。
「うーん、これも羊皮紙っぽくは作ってあるけど明らかにマジックアイテムだよなぁ。」
そう苦笑いしながら、羊皮紙を紐解くと、ごく薄い表面にはっきりした規則的な文字で、ご神託の内容が記されている。
マルクはあらかじめ教わっていたように、表面を撫でるように文面の続きを追いながら中身を確認した。
そうこれはいわばタッチパネル式の極薄電子ペーパーとも言うべきものである。
そこにはこう記されていた。
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件名:【高レベルモンスター情報】優先度:高
救世主様各位
高レベルモンスター「ドラゴン(通常種)」が北方山脈より襲来。
神界予測では明日正午ごろ95%の確率でクロッティア領の主要都市ザンクトを襲撃する見込みです。
ザンクトを訪問予定の救済者様は十分な警戒の上、救世主活動を行ってください。
また、討伐をご検討の救済者様は高ランクの武器防具、上位魔法以上の攻撃手段が推奨されます。
討伐の際の目安としてご検討下さい。
神託メール運営 高レベルモンスター監視部門
*この神託メールは当該諸国の近隣で活動中の救世主の方に配信しております。*
お問い合わせは このまま神託メール返信フォーマットまで。
緊急の場合は救済者様ご自身の各担当女神まで念話にてご相談ください。
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モンスター接近の続報はコチラ→モンスター速報
安全な迂回ルートのご案内はコチラ→救済者ナビ
当日配送可能。討伐の準備、武器防具の調達はコチラ→極天市場
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内容を見て愕然とするマルク、ドラゴンの襲来など穏やかではない。
「な、なんだこれ?ドラゴンがこのクロッティア領にやってくるってことなのか?うーん、各担当女神に相談か・・・。あんまり関わり合いになりたくないけど仕方がない。」
諦めると、指輪のスイッチをオンにして、テミスさんへと念話を飛ばす。
(・・・テミスさん、聞こえますか?・・・テミスさん・・・)
暫く呼びかけると、やや不鮮明な声でテミスさんの返事があった。
(あ、もっしぃー♪マルク君じゃない、どうしたの?ははぁん、さては女神ロスかしら?)
(違いますよっ!・・・?なんか念話が少し聞き取りづらいような気がするんですけど。)
マルクにテミスさんは陽気な声で答える。
(あー、今異世界だから。今オフだから、ハラジュクってところで買い物してるのよぉ。基地局経由してるからちょっち念波悪いかもねー)
(あぁ、僕を救世主にしたご褒美で遊んでるんですね・・・。)
(んもー、人聞きの悪い事言わないのっ♪ で?どうしたの?これからこっちの世界の女神様たちとクラブに行く予定だからもう少ししたらちょっと念波入らないかも。何か用事?)
おちゃらけてるのか冷静なのかわからないテミスの言葉で、マルクは本題を切り出した。
(あぁ、そうでした。今神託メールが届いたんですけどコレって?)
(あぁ、さっきのやつねー。見たまんまよぉ。)
あくまでもノンキなテミスさんに違和感を覚えつつマルクはさらに尋ねる。
(・・・来るんですか?ドラゴン・・・)
(そうねぇ。神託メールが95%って言ってるってことはほぼ100%来ると思うわよ。5%は万一予報が外れた時のポーズみたいなもんね♪)
(そういうもんなんですか・・・。因みに以前神託メールには従う必要はないって言ってましたよね?)
(そうよ。別にスルーしても全然問題ないわ。)
(え・・・でも、ドラゴンは来るんですよね?ここクロッティア領のザンクトに。)
(えぇ、勿論来るわよ?あたりまえじゃない。)
それは、つまり・・・確信に変わりつつある推論をテミスへ投げるマルク。
(あのー、もしかしてそうなった場合けっこう被害が出てしまうのでは・・・。)
(そうねぇ~。まぁ壊滅よね、ドラゴンだし。壊滅って言ってもまぁ市街地の80%くらいが蹂躙されるくらいかしらね。もちろん北方山脈からザンクトまでの町とか村も壊滅しちゃうでしょうねー。)
(あの、そこに住んでる人たちとかはやっぱり・・・)
(死ぬわよ?当たり前じゃない。マルク君どうしたのそんな当たり前のこと聞いて?)
・・・やはり、なんとなく予感はしていたが、そういうことらしい。
これではまともな良識の持ち主に、選択の自由などあって無いようなものだ・・・。
これで従うのも従わないのも自由とかちょっとした詐欺である。
しかし、本当にどっちでもよさげであるのがこのサイコ女神の恐ろしいところだ。
(ねー。じゃないですよっ!それってもう神託に従うしかないじゃないですか・・・。)
(えーっ?別にスルーしてもいいのよ?いったじゃない。)
(できるわけないでしょ!そんな寝覚めの悪い事っ!一生後悔するレベルですよっ!)
げんなりしながら言うマルクにテミスは変わらず明るい声で続けた。
(まぁ、マルク君優しいからねー。あっ!こういうのはどう?)
(・・・一応伺います。)
マルクが力なく言うと、女神は危機とした声色で語り始めた。
(私だったらザンクトまでの村々は蹂躙されるままに任せるわ。それからー、騎士団とかも壊滅して皆が 『もうだめだっ!助からないっ!全ておしまいだっ!』 って絶望しかけたところに颯爽と現れてドラゴン退治を請け負うの! あとは宝物庫の半分くらいの報酬と、バノール男爵に焼き土下座を入れさせて一件落着! う~ん、我ながら素晴らしいプランだわっ!)
(はい。却下で。)
(えぇ~つまんないの。)
マルクはサイコ女神の意見を聞いたことに後悔したが、先ほどから大きくなってきた不安を聞いてみる。
(・・・、もういいです。因みにドラゴンが最初の村を襲うのっていつくらいなんですか?)
(えーっと、ザンクトが明日の昼だから・・・。今日のお昼くらい?)
(スグじゃないですか!そんなっ!もう間に合わないなんて・・・。)
夜が明けてすぐに歩き始めたとはいえ、昼までそんなに時間が残されているとは思えない。
マルクの、というよりこの世界の常識から考えて、クロッティアの中心部に近いここから最初の村をドラゴンが襲撃するのに間に合うとは思えず、村々を襲う悲劇を考え愕然とした。
・・・ところにテミスさんのノー天気な声が響く。
(へーきへーき。ー今なら間に合うわよー?)
(えっ?!ホントに?!)
(ちっちっちっ、テミスさんを甘く見てもらっちゃあ困るわっ!念じながらカードを引いてごらんなさい。きっとあのカードが・・・あっ!そろそろ待ち合わせの時間だわっ!じゃあマルク君頑張ってねー、あとねー、今回のカード引くときはなるべく広い場所で使うのよー!じゃ~ね~♪)
(あっ!ちょっ!)
(プッ、プープープー・・・念話を終了しました。)
激励(?)の言葉を残すとテミスさんとの念話は一方的に切れた・・・。
「はぁ・・・でも間に合うっていうなら、やるしかないだろ!開けた場所か…。よしっ!」
お布施の黒パンと、干し肉を詰め込むと、森を一気に駆け下り始めた。
魔改造された身体能力で土煙を上げながら森を爆走するマルク。
なるべく目立ったことはしないようにしてきたが、今はそんなことを言っている余裕はない。
「ハァ、ハァ、ハァ!っ、こ、ここなら・・・。」
森を抜け、街道近くの平原に出るとマルクは息を整え、念じながらカードを引いた。
萌え萌えテミスちゃんは女教師コスプレだった、死にたい。
カードを裏返すと高い鼻に尖った顎の端正な顔立ちをした男が描かれ、こちらに向けて不敵に笑っている。軍服らしき制帽には翼を広げた鷹のような意匠があり、首元には勲章なのだろうか大ぶりな十字の飾りがついている。
カードの下のほうにはこう記されていた。
『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル 武器:ユンカース Ju87 シュトゥーカ』
そしてカードが淡く光り、消えるが目の前には何も現れなかった。
「あ、あれ?ルーデルさん?」
初めてのパターンに辺りをきょろきょろと見渡しながら、呆気にとられるマルク少年。
すると突然頭の中にテミスさんの物ではない念話が響いてきた、
(おい!ガーデルマン!・・・いや、失敬、マルク君!そこは山肌に近すぎる。時間が惜しい!タッチアンドゴーで拾うから、この先の平原へ向かって走れっ!)
(!?はっはい、わかりました!)
いきなり念話で怒鳴られてしまったが、あれこれと考える余裕はない、マルクはそのまま全力で平原の中央向かって駆ける、すると彼方の頭上から異様な音が急速に接近してくる、
・・・ォン、ブオンブォンブォンブオンブォンブォン・・・
その怪音に頭上を見上げると、鳥のような物体が爆音を響かせながらこちらへぐんぐん迫ってくる。
「あ、あれは?鳥?・・・まさか?!」
そう驚きと共に呟いたマルクの気持ちを読んだかのように再び念話が響く。
(そうだ、いいぞっ、進路そのまま!)
疾走を続けるマルクに覆いかぶさるように、鉄の怪鳥は草原へとゆるゆると降下する。
駆けるマルクと地面を舐めるように並走する格好になったとき、怪鳥の頭部が開き、中からカードと同じ人物、ルーデルさんが顔を出すと爆音に負けずにこちらへ叫んだ。
「マルク君っ!乗りたまえっ!早くっ!」
「は、はいっ!」
マルクは必死に怪鳥へ取り付くと、ルーデルさんに引っ張り上げられ、転がりこむようにその中へ体を転がりこせた。
「ようし!上出来だ!さぁ、行くぞっ!特大のイワン(ドラゴン)を退治しにな!」
「あ、あの?」
「自己紹介がまだだったな私の名はハンス・ウルリッヒ・ルーデル。そしてこいつが私の愛機シュトゥーカだ。新しい相棒を歓迎するぞっ!」
「あ、はい・・・。よろしくお願いします。」
「まぁそう緊張するな。では行くぞ!少しいそがねばな!」
そうルーデルさんは愉快そうに言うと、シュトゥーカは爆音を響かせながら上昇し、素晴らしいスピードで北の空へと翔け上がっていった。
お読みくださりありがとうございます。
さて次話では空の魔王が大活躍?