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(反省会)マルク君と土方さん(五稜郭の思い出)

ここはシサナクの郊外の森のなか。


マルクはクロッティア領領主、バノール伯爵の身ぐるみを(不可抗力で)剥いでしまった後、激怒したバノール伯爵自らの猛追を受け、何とか逃亡に成功していた。


そして今、森の中の樵小屋にはマルクと、もう一人の人物。


テミスさん・・・は絶賛お仕置き中である。


(テミスさんにはちょっと反省してもらわないとっ!)


念じつつ出てきた今回のカードはおなじみトールさんではなかった。


異国の貴族のような風格を持つ、見た目も涼やかな顔立ちの黒髪の男性だった。


カードには 


土方ヒジカタ 歳三トシゾウ 特技:剣術、指揮、尋問(拷問)、色事


と書いてあり()の部分は気になったけれど、とりあえず協力を仰ぐことにした。


マルクが事情を説明すると、土方さんはやる気満々で、もみ手をしながら


「よし!委細承知した!本当はそっちは余興みたいなもんだが。なぁに俺に任せておけ。五寸釘だろ百目蝋燭だろ、水責めの桶だろ、それと竹の鋸だろ、あとは・・・。」


などと見た目にも凶悪な道具の数々を取り出し始めので、マルクは自分の精神衛生のためエグそうな道具の数々は自粛してもらうことにした。


今回はできるだけマイルドなコースでやって貰うことに話はまとまった。


生前は凄腕の「ブシ」という騎士であり、「シンセングミ」という騎士団の副隊長だったといっていたけれど、意外となんでも自分でやる苦労人な一面もあったようで、お仕置きから、仕上げのアレの段取りまで全ててきぱきとやってくれた。


そんなこんながあり、今まんまとやってきた女神テミスさんは後ろ手に縛られていた。


そのうえで土方さんに洗濯をするときのような板の上に座らされ、膝の上に板状の石の重石を何枚かのせられた格好でマルクともう土方さんを恨めしげに見上げている。


「ひどいわっ!マルク君っ!女神を騙すなんてっ!」


瞳を潤ませながら大げさにリアクションをとるテミスをマルクはジト目で見ながらいう、


「あんなウソに騙されるほうが悪いんでしょう!」


土方さんも呆れ顔だ。


「お前・・・、あのような子供騙しの策に乗るなどと・・・。そのような幼稚なザマで、まことに女神なのか?」


愛刀を手にした男は呆れ顔で自分の肩を手にした日本刀の峰でトントンと叩く。


「だってだって!マルク君がいきなり念話で、『テミスさん恥ずかしくて言えなかったんです!僕やっぱり世紀末ファッションやってみたいです!』とかいうからてっきるマルク君もようやく美の真理に気づいたと思って飛んできたのにぃ!」


「・・・あれが真理なら僕の目は一生曇っててもイイです・・・。」


「ああっ!真の芸術とは誰にも理解されないのねっ!」


「いや、そういうことでは絶対にないと思いますけど・・・。」


「しかし、まさかマルク殿の言うとおりこれほど簡単に罠にかかろうとは・・・。」


顎に手をやりながら素直な感想を述べる土方さん。


「うっさい!土方くんも酷いじゃないっ!せっかく五稜郭の戦いで死んだ貴方を天界行きの枠にいれてあげたのにっ!けっこう土方クンはどっち行きか天界の間でも微妙だったんだから!その恩をこんな仇で返すなんて酷いわっ!・・・のうっ?!おもいぃい!」


「おー、どうやらまだ反省が足りんようだな」


のたまう女神の上に淡々と土方さんはもう1枚重石を足す。



「ちょっと、女神といえどレディなんだからこの仕打ちはないんじゃないっ!もう足がしびれてジンジンしてきたわよぉ・・・。」


「いや、普通は足がしびれるとかいう程度じゃないんだがな・・・。流石は腐っても女神、というところか。」


「腐ってないわよっ!ピチピチよっ!!」


噛みつかんばかりの勢いで土方さんに抗議する女神の膝の上で首の下辺りまで積み重ねられた石の重しがガタガタと不気味に鳴る。


一般人なら余裕で膝が砕けているだろう『お仕置き』もどうやらパワー系女神にとってははあまり効果的なお仕置きとはなっていないようだ・・・。


(はぁ・・・、まぁ、予想してたけどね。)


マルクは気を取り直してとりあえず本題に入ることにした。


女神の前に金貨でギチギチになった自分の革袋を差し出し、広げて見せる。


「それより、これはどういうことなのか説明してくれますか?」


それを見て女テミスさんは嬉しそうに言った。目が金貨の色に輝いて、完全に欲に眩んでいる。


「まぁっ!やるじゃない!どんなお金持ちを治療したのかしらっ?」


「・・・クロッティアの領主様です。」


「納得だわっ!これだけの金貨そこいらの平民共が束になっても集まるはずないものねっ!」


「その認識は正しいかもしれませんが、女神としてその発言は色々どうかと思うんですけど・・・。とにかくっ!領主様の虫歯を治療したら帰り際に領主様がいきなり素っ裸になっちゃったんですよっ!絶対テミスさんの仕業でしょこれ!」


マルクは精一杯慣れない怒りの表情でテミスをにらみつけるが、女神はむしろ胸を張るように誇らしくマルクに語り始めた。


「よくぞ気付いてくれたわっ!マルク君の革袋に組み込まれた魔道アプリこそ!懐は温かいクセにお布施を払わない不届き者どもに正義の鉄槌を下すテミス式とりっぱぐれゼロの債権回収システム!名付けて、『上納クンver1.5』よっ!(ドヤァ」


誇らしげに宣言するテミスに心底府ドン引きするマルク、


「何なんですかその博徒の元締めみたいなネーミングは・・・。」


しかし相変わらずスイッチが入ると周りのリアクションなどどうでもいいらしく、テミスは得々として『上納クンver.1.5』語り始めた。


「この『上納クンver.1.5』の凄いところはねっ、なんと!下限は銅貨1枚から上限は金貨100枚までの上納最低資産が設定できるところにあるのっ!」


「・・・それはつまり?」


「ふっふーん。例えばマルク君みたいに心優しい救世主なら上限の100G以上の資産を持つ人生勝ち組の金持ちだけから強制的にお布施を回収するように設定できるの。逆にね、『出すもんは出してもらわなあきまへんなあ』、って言うビジネスライクなマインドの救世主の皆さんは銅貨1枚に設定していただければ、極貧家庭のなけなしの一張羅まで容赦なく換金して救世主の皆様のポケットへお届けしちゃうのよっ!(はぁと)」


「えーと、一応聞きますけど、なぜその人の身に着けているものから直接?」


もはや女神がクロであることは(尋問の前からだが)確定しているが、一応我慢して尋ねるマルク。


「それはね、アプリの債権回収可能範囲が狭いからなの。この辺はまだまだ改修の余地のあるところねっ!」


そう言いながらうんうんと思慮深げに頷く女神、今回、同情の余地はなさそうである。


「はい、分かりました。土方さん、重石追加で―」


「はいよー。よっこらせっと。」


「はうっ!!ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!私は可愛いトマスくんの事を思ってやったのっ!まさかこんな事になるなんてっっ!」



必死に弁解するテミスの言葉を勿論素直に信じてよいはずがない。


「わかるでしょそんな事!僕が治療した人が、目の前で一瞬でいきなり身ぐるみ剥がされるイリュージョン!・・・とかどう考えても僕が怪しまれるでしょっ!・・・その辺の事は考えなかったんですか・・・?」


「・・・う〜ん、え〜っとねテミスおねぇさんね。『うわぁ!これを見たらきっとマルク君びっくりするだろうなぁ!!うふふふふっ!』ってそれだけを考えてたのね・・・。だからぁ、ほかのことはあんまり・・・てへぺろっ♪」


「そうですか・・・、わかりました。素直に答えてくれる辺りがテミスさんのいいところですよね♪」


「そぉ?マルク君に褒められると私照れちゃうわっ!もーどうしましょ♪」


「やだなぁテミスさん照れちゃうだなんて。」


そう言って見つめあい、どちらからともなく微笑みあう二人。美しい光景である。


「うふふふふ♪」


「あはははは♪」


そして微笑をたたえたままマルク少年は土方に向き直って言う、


「土方さん、もう十分でしょう。テミスさんの重しを取ってあげてください。」


「・・・仕方がない。」


そう言うとおもむろに腰の日本刀に手をかける。


「な、なな、何するのっ!土方クン落ち着きましょっ?!ねっ?!」


「動かないで頂きたい・・・。」


そう焦りながら言うテミスさんに耳も貸さず、土方さんは日本刀を抜くと刃を一閃させた。


チィンッ!


そして日本刀を鞘に納めた瞬間轟音を響かせてテミスさんの上に載っていた重しが真っ二つになり左右へ落下する。


「ひ、土方君?!マルク君?!・・わかってくれたのねっ!二人ともっ!テミス嬉しいっ!!」


切られていないのを確認し、立ち上がると、静かに微笑を浮かべる二人へそう言いながら駆け寄るテミス。


≪スカッ!≫


「あ、あれ?」


しかしテミスの喜びの抱擁はスルーされ素早く左右に回り込んだ二人にがっちりホールドされてしまう。


≪ガシッ!≫


「・・・土方君?マルク君?お、おねぇさん肩が痛いな~。ね、ねぇ、離してくれない?」


そう左右を見ながら問いかけるテミスに最初に答えたのはマルクだった、あくまでも笑顔で。


「ちょっと、お散歩しましょっか?テミスさん。」


その光景に激しくデジャヴを感じた女神がぶんぶん首を振りながら言う、


「えっ・・・。いやぁ。ちょっと、今日は気分じゃないっていうか。外は寒いし、お家でみんなでお話でもしましょ?やぁよ、やぁよ!」


そういいながらUターンしようと身をよじるテミスに、今度は反対側から土方がやはり笑顔で言う、


「はっはっはっ!何を申されるかテミス殿!トール殿の腕には及びませんが、不詳土方、私の全身全霊の霊力を注いで、思い出のブラッケリー砲で打ち上げて差し上げます!ご安心召されよ。」



そう言いながら二人は女神を戸外へずるずると引きずっていく。


「いやぁあああ!なんでこうなるのぉおおおおお!!」


・・・その後、ジタバタする女神を簀巻きにし、装填棒で押し込み、土方さんの渾身の魔力を込め満天の星空へ発射した二人は揃って言った。


「「たーまやーっ!!」」


それは夏にはまだ早い初夏の夜のことであった。

お読みいただきありがとうございます。

皆さんご存知新選組の鬼副長の登場でした。殺陣はありませんでしたねw

ブラッケリー砲とは当時五稜郭に設置されていた砲台です。


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