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(まさかの)マルク、領主様の身ぐるみを剥ぐ(山賊デビュー?!)

するとそこへ、遠くから輿がやってくるのが見える。


豪華な装飾が施された輿には二本の担ぎ棒が突き出ており、それを屈強な男が8人がかりで持ち上げている。周りには露出の多い服を着て、食べ物や飲み物を捧げ持つ女や、周囲を油断なく警戒する騎士たちが続く。


そして輿の上にはでっぷりと太り、いかにも金持ちです!というような風体の男が載っている。太い眉、大きな目、厚い唇に、その周りを覆うような髭。全ての作りが大ざっぱな顔に、傲慢な表情を浮かべて輿の上で頬杖を突きながら、こちらへゆっくりと向かってくる。



「おぃ、領主様だぞ・・・。」


「あのブタめ、何の用だこんな処へ・・・。」


「しっ!声が高い。」


マルクの周りにいた人々は口々に囁やいていたが、輿が近づくにつれ誰もが口を閉ざし、

マルクの前に出来ていた列は誰が言うわけでもなく、さっと左右へ別れ領主の輿へ道を開けた。



(本当はここで、「待ちなさい!」とか、救世主らしくいうべきなのかもしれないけど、手っ取り早くこの人を治療してお帰り頂いたほうが話が早そうだもんなぁ・・・。)


マルクもそう諦めて成り行きに任せている。


別に気弱なわけでもなく、自分がこの町にずっといるわけでもないのだから不必要に引っ掻き回すのはやめようと思ったのだ。


『何やってんのよっ!ここで悪徳領主と救世主が大立ち回りをやるっていうのがお約束でしょっ!何フラグ回避しようとしてんのよっ!軟弱者っ!薙ぎ払えっ!』


テミスさんがいたらそういうこと請け合いだが、幸い今はサイコ女神は不在である。



そんなことを考えているうちに、輿はマルクの目の前まで来るとゆっくり下りる。


が、担ぎ手が膝をつくと、輿はその高さで止まり、領主はふんぞり返って輿の上からマルクを見下げる格好で、おもむろに口を開いた。しかしなぜかその声は小さく口調はもごもごとして聞き取りづらい。



「ワシはこの周辺のクロッティア領を修めるバノール男爵だ・・・覚えておけ。貴様が救世主などという大層な身分を自称する小僧か?あん?」


「えぇ・・・。まぁ、一応。」


「ふん、おるのだそういう手合いは。どこの馬の骨ともわからぬ輩が神の使いなどとほざいて仕込みの病人や、盲目の少女なんぞを仕立てて純朴な領民を騙すわけよ。」


そう顔をしかめていう領主にマルクは淡々と反論した。


「いえ、私は決してそのようなものではありまえんが?」


しかし、バノールはその答えを予期していたかのように煩げに続ける、


「分かっておる! 皆そういうのだ。・・・ではワシがその力を証明するチャンスをやろう。」


そういうとおもむろに頬杖を突いた片手を放し、大きく口を開く。



(うわっ・・・。これは・・・。)


酷い虫歯だった、どこから手を付けてよいかわからぬほどの。


というかこの世界では歯医者と言えば、「ペンチで歯を抜く簡単なお仕事です」という状態なので、普通に治療するとなる総入れ歯は間違いない。



「虫歯が痛かったので、頬杖をついていたんですか?」


「?!・・・そうだ。治癒魔法も薬師の薬も痛みを和らげる程度で、一つも治りはせん。どうだ、お前もどうせなにも出来んだろう。」


口を閉じ、元の姿勢に戻りそう弱弱しく告げる領主。どこか拗ねているようにも見える。


事情を聴いてしまうと、権威や威厳はもう感じされず、マルクには虫歯をこらえているかわいそうなただのデブのおっさんにしか見えなくなっていた。


まぁマルクの世界で歯虫歯は痛風などと同じように贅沢病の一種なので、あまり同情はわかなかったが。



「うーん、それはつらいですね。虫歯の治療は初めてですが、まぁやってみましょう。」



「フン、出来るものならな!できなかったときは相応の覚悟をしてもらおう。」



痛みをこらえながら強がってみせる領主にマルクは苦笑しながら告げた、


「わかりました。灰になるまで燃やされる、とかでなければ。」


「?何だそれは? おかしなことをいう奴だな。」


「いえ、こちらの話です。お気になさらず。・・・では。」


そう言いつつ手をかざす。領主は意外にも素直にマルクの手のほうに向かって顔を寄せてきた。


(・・・・)


そしてほどなく、


「はい、終わりましたよ。これでどうでしょう?」



「・・・?!痛くない?!痛くないぞっ!」


領主は目を見開くと目を白黒させ、続いて口を開くと確かめるように、指で触る。


「触っても平気だ!どうなっておるのだ。おい!鏡を持てっ!」


背後から先ほどの女性が一人、やや大ぶりな手鏡を恭しく差し出した。


「おぉ!おぉ!なんとっ!!」


嬉しそうに叫ぶ領主。


(うーん。これ絶対領主様の元々の歯じゃないよね・・・。なんか歯並びも違ってるし。何か作り物めいて見える気がするんだけど・・・。)


その光景を見ながらマルクが内心そう思ったのも無理は無かった。


鏡の中には、異世界の歯が命の芸能人バリに整いすぎていた。その白すぎる歯、その大ざっぱな造形の口に似合わぬ繊細で美しい歯並び。


いわゆるインプラントというやつなのだが、マルクが少年知るはずもなかった。


(まぁとりあえず本人も満足しているみたいだし、これでいっか。)


マルクは細かいことはもうスルーする逞しさを身に着けつつあるので、あの女神の魔法だから仕方ないと割り切ることにした。



「如何ですか、バノール様?もう痛くないと思いますけど?」


声を掛けられて、新しく生まれ変わった歯に夢中になっていたバノールははっとした表情で我に返り、手鏡を女召使いに返すと、居住まいを正し。わざとらしく咳ばらいをしつつ、さっきとは一転周りを威圧するような力強い声でマルクに告げた、


「ごっほん!た、たしかに痛みはもうないようだな。歯もきれいに治っているではないか。誉めてやろう。」


そういうと「ビシイッ!」とマルクを指さすと腰の上に立ち偉そうにふんぞり返って告げた。


「よかろう、マルクとやらっ!今回はその功績に免じてワシの領内で勝手に救世主を自称し、怪しい治療を行っていたことを不問にしてやろう!但し、すこしでもおかしな素振りを見せたらすぐにしょっ引くぞっ!分かったな?」


「はぁ・・・。ありがとうございます。」


全然ありがたくなさそうな声色でマルクは言う。



「ふんっ!分かればよいのだ。では帰るぞ!輿を上げろっ!出発する。」


「輿を上げろ―!出発だ!領主様がお帰りになられるぞ!者ども頭を垂れ、お見送りせよ!」


傲慢に言い放つ領主の言葉を受けて護衛の騎士長と思しき男性が声を張り上げる。


心配そうに成り行きを見守っていたものは慌てて思い思いの場所で平伏し、この迷惑な嵐が過ぎ去るのを待っていた。


(騒々しいおじさんだったなぁ・・・。まぁ貴族ってこういう人、多いんだよねぇ・・・。短い貴族人生を思い出したわ・・・。ともあれ何とか収まってよかったよ・・・。)


また難癖をつけられてはたまらないのでマルクも平伏しつつバノール男爵を見送ることにした。 


輿が向きを変え、ゆっくりと進みだす。


そして群衆のただ中まで進んだその時、



「うおっ!!なんじゃこりゃぁ!!」



突然音程の狂った男爵の叫びがこだまする。



人々が何事かと目を開けるとそこには、



生まれたままの姿で、というか出荷前の豚さんのような領主のすがたがあった。



「りょ、領主様っ!」


「なっ!何がおきたんだ一体!」


「わはははは、こりゃあいいぜ!」


「ぎゃはははは!みろよあの間抜け面!」



狼狽える護衛の声は、領民の抑えきれない爆笑の渦にかき消された。


「こ、こらっ!無礼者っ!静まれっ!静まれっ!」


「誰が顔を上げてよいなどと言った!騒ぐものはひっとらえるぞ!」


そう護衛の騎士たちが声を張り上げるが、町の広間に集まった領民の殆どが爆笑しているのだから捕らえるも何もない。


一向に収まる気配のない騒ぎを尻目にマルクは激しく動揺していた、



「な、な、なななんで?何で領主様が裸にっ!僕は、僕は何にもしていないはずなのに・・・あ、アレ?」


マルクはその時気付いた、自分の腰に伝わるずっしりと伝わる重みに。



「ま、まさかっ!いや、けどそんな・・・。」


(ゴクリ!)


おもわず喉をならす、背中を嫌な汗が流れているのがわかる。


だが、確かめなければ。


重いのだ、財布が。 


異様に。


(頼むっ!勘違いであってくれ、頼むっ!)


祈りながら袋を開け、そっと細めた目で財布代わりの革袋の中を見ると。


・・・、中にはギッチギチに金貨が詰まっていた。



(ああああああああっ!!やっぱりぃいいい!!これ絶対領主様の身ぐるみ剥いで、現金化しちゃってるだろっ!くっそぉおおおおお!あの駄女神めぇええ!なんてことを、なんてことをしてくれるんだぁ~!せっかく丸く収まりかけてたのに台無しだよぉおお!)


あの時治癒魔法のレクチャーをしながら彼女は言っていた、


『救世主なんだからってタダ働きなんかしちゃあダメよっ!貧乏人は仕方ないけど、とれるところからはしっかりとるっ!これが仁義ってもんよっ!』


その時はあいまいにすませていたが、まさかこんな小細工をしていたとは・・・。



マルクが己の迂闊さを呪ったその時、


「マァルゥクゥウウウウウッ!!きさまぁあああああ!!」


貝殻から生まれたヴィーナス状態で硬直していたバノール男爵は、従者に渡されたマントを身に巻き付けようやく再起動を果たし烈火のごとく怒り狂っていた。


「ばっ、バレたぁああああ?!!なんでぇえええ?!!」


騒ぎの元凶をひっ捕らえるべく、文字通り顔を真っ赤にしてすごい勢いで輿を走らせ、ぐんぐんこちらへ近づいてくる。


当たり前だろう、どんな理屈かわからなくても、この場にいるものでぶっちぎりで怪しいのはマルクしかいない。


「そこをうごくなぁああ!」


「むりですぅううう!!」



・・・、こうしてマルクは救世主としての第二歩を記した地をあっさりと追われることになったのであった。


女神の謎システムによるえげつない集金によって。


お読みいただきありがとうございます。

まさに外道!なテミスの集金システム。いかがだったでしょうか?

次回はマルク君によるお仕置きから始まる回となります 笑




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