マルク、救世主としてデビューするもやらかす。
同時連載の、
N6649DG
夢は国家公務員!?~異世界なのに転生者に優しくないこの世界~
も序章を大幅加筆して読みやすくなりました。ぜひそちらも応援よろしくお願いします♪
「うん、このくらいでいいかな・・・。さぁ坊や、目をゆっくり開けてみて。」
マルクはトマス君の顔にかざしていた手をそっと下ろした。
8歳だという男の子は、緊張しているのか口を一文字に結び、手をぎゅっと握りこんでいた。
マルクに言われて、恐る恐る目を開いてゆく。最初は眩しいのか細く、ほんの僅か開かれていた瞳がゆっくりと開くと、数年ぶりに見る母の姿を見つけた少年は興奮気味に叫んだ!
「みえるっ!おかぁさん!僕おかぁさんの顔が見えるよっ!」
「まぁトマス!あぁ、あぁ・・・神様なんていうことなの!あっ、ありがとうございますマルク様、なんとお礼を言ったらよいか・・・。」
涙を流し、子供を抱きしめマルクに頭を下げる母親。
どよめく群集。
「いえいえ、見えるようになってよかったね、トマス君。みえにくいところとかあったらいってね。何とかできると思うから。」
トマスの頭を撫でながら満足げに微笑むマルク。
「お代は・・・、お代はこれで足りますでしょうか? あの・・・、お時間をいただければなんとかもう少しは・・・。」
どう見ても農民の風体の二人。おそらく全財産であろうなけなしの銀貨数枚と、小銭の全てを差し出し、マルクの顔を見ながら不安げに告げる彼女にマルクは笑顔で答える。
「お代は結構ですよ」
「いえっ!そんな訳にはまいりません!ぜひ、私の感謝の気持ちと思って受け取ってください。」
「そういうことでしたら、トマス君とお母さんのお気持ち、ありがたく頂戴します。」
マルクは一つだけ銅貨を摘まむと腰の革袋へ納めた。
そのくらいであれば、二人は十分に生活していけるだろう。
「ありがとうございます、ありがとうございますっ!」
「いえいえ、それではこれからも元気に過ごしてくださいね。」
2人を見送ると、さっきまで胡散臭げに遠巻きに見ているだけだった群衆の列ができ始めていた。
(まぁ、そりゃあ仕方ないよね、いきなり私は救世主です。今からあなた方の病やけがを治療します。なんていっても不審だよねぇ…。)
現金だとは思いつつも、そんなある意味当たり前の反応をマルクは苦笑しながら見つめながら次の患者を招き寄せていた。
そう、彼は今ここシサナクの町で救世主としての第一歩を踏み出したところであった。
いや、正確には二歩目、であったが。
最初は隣村のクラピナでマルクは救世主活動を始めたのであったが、ここでマルクは治癒魔法に不慣れであるがゆえに、
『やらかして』
しまったのであった。
(うまく力をコントロールしないとまた同じ失敗をしちゃうからなぁ。気を付けないと・・・。)
マルクはその時のことを思い出して少々凹んだ・・・。
クラピナの村、マルクはそこでも今のように何人かのけが人や病人を直してやり、いきなり現れた救世主を名乗る若者を不審がる村人に信じてもらうことに成功した。
そして村中の病人やけが人を治療し終えたところへ、椅子ごと村の若者に抱えられ男が姿を現した。
禿頭の男、この村の村長シベニクは40歳を迎えようとしていた。まだ老人とは言えない。
だがその顔は苦痛に歪み、体はやせ衰えている。
「うぅ・・・、ワシを殺せ、もう殺してくれっ・・・。」
苦しげにうめく村長にわかり椅子を担いできた若者の一人が告げた、
「マルク様。村長は半年ほど前から寝たきりになり、今はこの状態だ。最近は苦痛で夜も眠れず、このように。薬も試し、神殿から治癒魔法師にも来てもらったが効果はなった。・・・診てやってほしい、頼むっ!村長は王都から10年前に帰ってから、私財をなげうってこの村を発展させてくれた。自分は質素な生活をし、我々と同じように汗を流して!どうか、村長をっ・・・!」
ゆっくりと村長の体を椅子ごとマルクの前に置いた。
「分かりました。できる限りのことはさせていただきます。」
マルクは手をかざしながらゆっくりと唱え始めた、
「神界の偉大なるテミスの名に於いて、この者に癒しの手を差し伸べん。」
テミスが教えた詠唱とも言えない呪文がこれであった・・・。
あの日、星になったテミスが翌日の昼頃、頬っぺたに小さな絆創膏一つを貼って(無事に?)帰ってきたので、マルクは治癒魔法の使い方について習っていた。
というより、
「救世主の十八番って言ったら奇跡! なかでも定番は人々を癒すのはお約束よっ!絶対一度はやっておくべき!これをやらずして救世主人生のスタートに何をする!」
「もう召喚したじゃないですか・・・。」
「あれはノーカンよっ!!揚げ足取らないのっ!女子に嫌われるわよっ!」
「因みに・・・だれが言ってたんですか?」
「決まってるじゃない!」
「私よっ!・・・とか?」
「そっ、そうよっ!マルク君エスパー?先生怖いわっ!いつの間にそんなスキルツリーが覚醒したのっ!!」
「いえ、なんとなくテミスさんのこともわかってきたので、多少は…。」
「そうなのっ!相思相愛ねっ♪先生嬉しいわっ!!」
「いえ、それは違います。断じて。」
「「・・・」」
というやり取りを挟みながら、わけのわからない理屈によって強制的にレクチャーされたのである。
「そんな感じで、美人女神の名を唱えてるのよっ!あとは『えーい治れ―!』ってマルク君が強く念じてくれれば大丈夫♪」
「えっ・・・、そんな簡単でいいんですか?」
敢えて美人云々の部分はスルーして問うマルクにテミスは鼻息荒く断言した、
「へーきへーき、女神の力でカンストさせた治癒魔法レベルを甘く見ちゃだめよっ!」
(うーん、どうも胡散臭い。本当は詠唱なんか必要ないんじゃないか?
大いにあり得るな・・・。)
そ思いながらも取り敢えず素直に言うことを聞くことにして、やはりせっかくだから、という理由でクラピナへやって来たのであった。
流されやすい救世主である、自分でも悲しくなるほどに・・・。
その胡散臭いレクチャーを思い出しながらマルクは治癒魔法を発動した。
すると、みるまに顔に赤みが差し、苦痛に歪んでいた表情は穏やかになる。
そして苦痛の去った自分の体を手を広げ、目を見開いて驚きと共に見る。
(やっぱりすごい効果だなぁ…。何度見てもびっくりするレベルだよ…。)
そう考えながら手をかざしていた次の瞬間、
「ぬおっ!ぐぐぐぐぐっ!」
元気に回復したように見えたシベニク村長が両手で頭を抱え呻きだした。
(えっ!?なんでだ?!こんなの聞いてないぞ?!)
「大丈夫ですか村長っ!しっかりしてください!」
「やはりな!だから俺は言ったんだ!こんなどこの馬の骨ともわからんような自称救世主に頼るのはやめようとな!」
「今更そのようなこと・・・。」
動揺する周囲、そしてマルク、いきなりの急展開に体が固まって動けない。
村長の叫びはさらにほどくなり、
「ぐぅっ!ぬぁああああああああーーーーー!!」
叫んだ瞬間、
(ファサアッ!!)
「「「・・・」」」
誰もが言葉を失った。
そしてシベニクの目には滂沱の涙が流れていた。
風にそよぐ馬の尾のような毛並み。
((((生えてるぅー!!))))
シベニクの禿頭にブロンドのサラサラ、フサフサロングヘア―が出現していた・・・。
「ありがとう!ありがとう!マルクさんっ!ワシはぁっ!ワシはあきらめとった!これから先もずっハゲとして生き、そして灰になるまで、いや灰になってもハゲなのじゃとっ!お前さんは・・・。なんということをしてくれたんじゃ! 村の皆よ!わしは今日限りで村長をやめるぞぉ!ひゃっほい!」
「いや・・・、あの、病気・・・。はもう平気そうですし、もう心底どうでもよさそうですね・・・ハハハ。」
そう苦笑いするマルクだが、いきなり村長が辞職すると言い出した村人はそれどころではない、
「「「えっ!!」」」
「えっ!じゃねぇよ!オレはな!髪と共に失われた青春を取り戻すんだよっ!」
ノリノリでもはや口調まで変わってしまった村長に村人はドン引きである。
あの村人がリスペクトし、マジ感謝していた村長の面影はどこにもなかった。
マルクは一瞬、治癒魔法を応用すれば元に戻るのではないかと思ったが、シベニクの豹変ぶりを考えるに一度蘇った森をむやみに伐採してしまえば、シベニクは心のふるさとを失い文字通りショック死しかねない。そう結論付けてやめることにした。
・・・一度失った自然は容易には元には戻らない。
そして容易に戻ったからと言って、それを容赦なく刈り取るのは人として許される事ではないだろう・・・そう心の中で結論付けるのであった。
そしてほどなく村人から、
「ハゲの守護聖人マルク」
という二重にややこしい二つ名が囁かれるようになって、いたたまれなくなり、逃げるようにクラピナの村をあとにしたのであった。
ちなみにそのあとテミスさんを問い詰めた結果、しぶしぶ呪文はただの自分の売名行為だということが判明したので、トールさんに再び射出してもらい、マルクは今、手加減だけを考えながら治療に集中している。
もはやルーティンと化した打ち上げは見事なもので、もう少しすれば衛星軌道に乗せられるようになるだろう。
他人の善行で名を売ろうなどという女神の風上にも置けない女神はそれ以来どこかへ消えてしまったが。
(まぁ、その方が気楽だしね・・・。)
勿論精神を蝕まれずにすむと、マルクは大歓迎であった。
お読みくださりありがとうございます。
なぜ日本人はやたらと気にするんでしょうねえ?
海外では~だけどイケメンはたくさんいるんですが、不思議です。
ブクマ評価、感想お返事掻きます。おまちしておりますー♪