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はじめての召喚 ~雷神、怒りのフルスイング~

テミス先生による救世主入門講座(N○K教育

決して逃れることができない、「自主的な」契約を済ませて救世主になったあと、

マルクは自宅でテミスから救世主についての研修を受けていた。


「じゃあ早速、救世主のお仕事について説明するわねー。

渡した冊子の3ページを読んでちょうだい。」


『キャリアゼロ年から始める!誰でもわかる優しい救世主の仕組み。』


『監修:女神テミス 出版:天界神学会』


そう書かれた冊子。


うん、限りなく胡散臭い。


が、ほかに頼るものがいないので大人しく聞くページを開き、読んでみることにする。


『救世主はどんなお仕事か?それを考えて不安に思っている人もいるかもしれません。


「救世主って危ないの?」


「怖いの?」


「磔刑にされるの?」


「やっぱり、奇跡とか起こせないとダメ?」


そんな心配しているあなた、何も不安に思う事はありませんよ。


救世主のお仕事は安全で、楽しく、みんなに好かれる好感度抜群の天界で今大注目の職業です。


皆さんも救世主についての正しい知識を身に着け、楽しい救世主ライフをエンジョイしましょう!』


「職業だったんだ・・・。」


「ねっ?楽しそうでしょう?」


「いやいや、どう見ても自作自演でしょ?」


「疑り深いわねぇ。マルク君も。でもそういう地に足の着いたところ、先生好きよ♪」


「はぁ・・・。」


「もうね、今までの救世主と来たら、才能は豊かな子ばっかりだったんだけど、ちょーっと魔法や剣で強くなったからってすぐ調子に乗っちゃってねー・・・。


『うぉおおお!俺の剣で世界を平和にしてやるZE!それが俺のジャスティス!』


とか、


『この溢れる力はなんだっ!俺の右手が叫んでいるっ!悪をお前の魔法で滅ぼせと!』


みたいになぁーんか変なスイッチ入っちゃう子ばっかりで、みーんな自滅するか敵を侮るかしてサクッと死んじゃうのよねぇ、もー先生参っちゃったわ。」


「えぇ~・・・。それはちょっと、酷いですね色々と・・・。」


「でしょー。だからね、私決めたのっ!特別な才能なんていらない、フツーのじみぃーな子でいいから、ちゃんと私が洗の・・・まちがえた、導いてあげられる素直な心を持った子にしよう!って。マルクくんっ!私の目は間違っていなかったわ!先生嬉しい!」


「テミスさん、今すごく不穏なこと言いませんでした?」


(・・・・)


「気のせいよっ!」


「そうですね、もぅいいです。僕の聞き間違いでした・・・。」


マルクはそれ以上突込むのをやめて、大人しくテミスの教えの続きを聞くことにした。


しばらくの時間が過ぎ、日没を迎えたころ、ようやく冊子の説明が終わり、マルクは救世主というものをなんとなく理解した。


まず分かったこと。


救世主に決められた使命はない、病んだり傷ついた人々を治癒魔法で助けて回っても良いし、剣や魔法で人間を脅かす魔物と戦ってもよい。


宗教指導者になって魂の救済を目指してもいいし、立身出世して国王になるのもアリとのこと。


要するに何でもオッケーだ。


たまに「神託」という形で創造主様のメッセージがテミスさんから届くが、それに従うかどうかは自由にきめてよいとのことだった。


唯一の制約らしい条件はただ一つ、


「この世界を善き方向に導く行動や、手段であること」


これだけ。


なので神界サイドからオススメはしないが、「善き世界の実現」のための手段であれば、殺人や、粛清も認められてしまったりもする、らしい。


自分は絶対やりたくないけど。


ただし、大前提として創造主様とやらの意思にあからさまに反するようなことは決してしないように釘を刺された。


その場合、事前にテミスさんから警告があって、それでも守らない場合は容赦なく神の裁きが下る・・・、らしい。そこから先は怖くて聞かなかった。

まぁ逆らう気もないしね。


次に救世主としての能力の適性を判断してもらったのだが…。


「あらー。これは思った以上に才能無いわねー」


「・・・」


「あっ、だ、大丈夫よっ!テミス先生に任せなさいっ!あっ!グットニュースよ!治癒魔法の適性ちょびっとあるみたいだから、私がスキル強化すれば灰になっても復活できるわよ!良かったわねっ♪」


「お言葉ですが、そもそも灰になるような状態に陥りたくないんですが・・・。」


「うーんでもねぇ。戦闘系のスキルが全然駄目ねぇ。


体力や魔力とか、基礎値はある程度私のほうで弄ってあげられるわぁ。


だから単純に力は強くなるし、三日三晩寝なくても疲れないし、谷底へ落ちても死なないし。治癒魔法は無限に使えるようになるけど・・・。


才能のないものはどうしようもないわねぇ。う~ん、これだとちょっと騎士団とかモンスターの群れに襲われたら勝てないかも・・・。」


「う~ん、騎士団やモンスターの群れが「ちょっと」と言っちゃう感覚もアレだと思いますけど・・・。でも救世主してたらそういうシチュエーションもあり得るんですか?」


「そうねぇ・・・こればっかりはケースバイケースだから私もなんとも言えないけど。う~ん・・・、そうだ!こういうのはどう?


ピンチの時はね、敢えて殺されるのっ!あくまでも自然によっ!ここがポイント♪そして敵がいなくなったあとで復活すればいいのよっ!死んだフリならぬ、


『ちゃんと死んでますよ!作戦』


どうかしら?我ながらタクティカルな名案だわ♪」


「却下!!何ですかそれ!ハリのあるダンディボイスでなに作戦名叫んでるんですか一体?!それ思いっきり死んでるじゃないですか僕!」


「マルク君、慌てないの、先生言ったでしょ?灰になっても大丈夫よ♪ってね。」


「人に死を強制する女神ってけっこう狂ってると思うんですけど・・・。僕痛いの嫌なんで、却下で。」


「んもうっ!冗談よ!じょーだん!大切なマルク君にそんな痛い思いを女神である私がさせると思う?」


「ハイ。」


(・・・・)


「ま、まぁっ!失礼しちゃうわ。先生ちゃんと考えてあるから!ほらっ!これを見て!」


言いながらテミスが差し出したのはタロットカードのような四角い札の束だった。


「?それはなんですか?テミスさん?」


「よくぞきいてくれたわっ!このカードの中にはね、私が天界でコネを作った異世界の者達が封じられているわ。英雄から異界の古の神までね!


今の私やマルク君がいる世界の魂とか神とかを呼び出しちゃうとね、この世界の女神たちがうるさいのよぉ、ホントに。


そりゃあもう他の女神なんかへの根回しがややこしいんだけど、異世界の存在なら彼女たちの管轄外だから割合ルーズだからねっ♪」


興奮気味に言うテミスに、マルクは気のない返事を返す、


「はぁ・・・、そういうもんなんですか。」


「そういうもんなのよっ!でね!このカードのすごいところは、なんとっ!あなたの意思を汲んで、その時に必要な存在が貴方に力を貸してくれるの。


どうっ?どうっ?すごいでしょ?!貴方のピンチをズババーン!っと解決♪

もーなんて素敵なのかしらっ!治癒魔法がちょっぴり使える意外に大して取り柄のないあなたにピッタリのアイテムだと思わない?!」


「・・・そうですね・・・。」


「取り敢えず今一枚引いてみなさい!習うより慣れろ!よ!」


「分かりました・・・。」


マルクはカードの束を手元に引き寄せると精神を集中した。

強い思いが頭を駆け巡る。


(朝までは平穏な人生だった。しかしこのわずかな時間ですべてが狂ってしまうなんて…。この目の前のテミスというクレイジーな女神のせいで・・・。もうあの穏やかな日常は戻ってこないんだろうか・・・。戻ってこないだろうなぁ〜。トホホ…。)


思いを巡らせながら引いたカード。


なんということだろう、表面はテミス自身がデフォルメされた萌え萌えテミスちゃんがウインクした絵柄が描かれていた。コレは何なんだ・・・。


テミスがウィンクするカードを破り捨てたい衝動に駆られつつ裏返すと、現れたのは金色のハンマーを持った巨漢。


隆々とした筋肉に覆われた肉体を鎧に包んだ長髪を振り乱した男の絵姿。


カードの下の方にはこう書かれていた。


「雷神トール 武器:ミョルニル」


すると次の瞬間、カードが輝き、家の天井にまで届きそうな巨漢がマルクとテミスの目の前に現れた。


「えっ!いきなりすごいの引いたわね!あれ?でもなんでこんな戦闘向けのカードが出たのかしら?」


そう不思議そうに言うテミスを無視して、トールはマルクに向き直った。


「トール、さん?」


「・・・」


言葉はない、しかし全てを理解したかのようにマルクに向かって微かに頷き、いたわるようにそっとマルクの肩に手を置いた。


そしてテミスに向き直ると、おもむろにハンマーを横に振りかぶり、腰を深く落とす。みるまにすさまじい力がトールへと集まってゆく。


軌道の先には、引きつった顔のダ女神がいた。


「えっ何、トールさんどうしたのハンマーを振りかぶったりしちゃって?お部屋の中なんだから危ないわよ?」


「・・・えっ?えっ!?ええっ!!嘘よね?ちょちょちょ、ちょっと待って!私が何をしたっていうのよぉ~!マルク君止めて!この下品で野蛮な異世界ハンマー男を止めてちょうd・・・・」


【ギャオンッ!!! ドグゥアッ!! カッ!!!】


「ッ?!」


反射的に手で顔を覆った。


凄まじい風切り音、鈍い音、そして爆発的な光の膨張。


ほぼ同時に起こったそれに、目の前が真っ白になった。


目の前が白に塗りつぶされるその直前、トールのフルスイングで地上から天空へと斜めに駆け上がってゆく雷と共に、ジャストミートしたミョルニルでマルク家から射出される女神の姿を幻視した気がした。


視界が戻ったとき、ハンマーを振り切ったままのトールだけがそこにいた。


そして、


「トールさん・・・ありがとう、すっきりしたよ。」


「・・・」


来た時と同じように、マルクを心からいたわるように肩を二度叩いて、会釈をすると彼はどこかへと還ったのか消えていった。



もはや自分の背後の壁と、自分の座っている椅子とテーブルだけを残して消しとんだ我が家。


正直結果だけで言えばありがた迷惑であった。


だが少なくとも自分の気持ちを代弁してくれたトールの気持ちにマルクは素直に感謝していた。


だが、やはり問題はある。


「家、どうしよ・・・。」

このカード欲しい・・・。


お読みいただきありがとうございます。評価、ブックマークしてくれたら狂喜乱舞。

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