【禁呪再び】大地蘇る、救世主仲間?【救世主式発毛法】
N6649DG 夢は国家公務員!?~異世界なのに転生者に優しくないこの世界~
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「頼むっ! マルク殿っ! シベニクより話は聞いた! 余を! 余を救えるのはマルク殿しかおらぬのだっ!」
シベニクさんに助け出され、久々に暖かい食事と、快適なベッドでの眠りから一夜明けて。
マルクはシベニクさんとともに、密かに設けられた謁見の場で国王と対面していた。
そして今、なぜか必死の形相の国王マクスウェル3世にゼロ距離で詰め寄られ、マルクは肩を揺さぶられている。
顔が凄く近い。
ガクガクと激しく揺らされながらなんともいえない表情で、あさっての方向を向きながら戸惑いの声をあげるマルク。
「い、いやぁ~。そういわれましても・・・。アレは・・・」
そう言い淀みつつ、ポリポリと頬を掻く。
「マルクさん! 俺からも頼む! 陛下をお救いできるのはマルクさんしかいない! このとおりだっ!」
シベニクさんもそのちょいワル系オヤジのヴィジュアルに似つかわしくないまっすぐな目でマルクを見つめて真摯に訴えていた。
国王はさらに声を上ずらせながら言う。
「地位か?領地か?爵位か?金なら幾らでも払うぞっ!」
「い、いや、そういう問題じゃなくてですね! あれは~そのぉ~事故というかなんというか・・・。」
そう必死に弁解するマルク。
だが国王は納得しない。
「このとおりじゃっ!」
そういうとついにマクスウェル国王は身を投げ出すように分厚い絨毯の上に這いつくばる。
異世界で言うところの五体投地か、焼き土下座もかくやという自らの貶めっぷりである。
「ちょ!ちょっと陛下!困ります! やめてください! こんなところを誰かに見られたらほんとに今度こそ国国事犯扱いじゃないですか!」
「いいやっ! やめん! マルク殿がうんと言うまで余はやめんぞ!ほれほれっ!どうじゃっ! これでもかっ! 」
そう言いながらぐりぐりと地面に額をこすりつけるマクスウェル王。
ある意味・・・、というか完全にタチの悪い脅迫である。
マルクの視点からは、はずみで転げ落ちた王冠の下に隠れていた『荒れ果てた大地』がまざまざと見えた。
(うーんいろんな意味で凄い光景だ・・・。もう二度とやらないと決めたんだけどなぁ・・・。)
だが一国の王にここまでされては折れるしかなかった。
「わかりました!わかりましたから! お顔をお上げください、陛下。しかし、くれぐれも他言無用に願います。」
「本当か! マルク殿?! ありがとうっ! ありがとうっ!」
ガバッ!と年に似合わぬ俊敏な動きで起き上がるとマルクの手をとり、目を輝かせながらいう国王。
「では此方へお顔を向けてください・・・。」
そう言いながらマルクはシベニクさんのときのイメージを思い出しながら、治癒魔法を発動する。
ー『大地よ蘇れ』ー
そう強く念じながら。
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そして一時ののち。
国王と、マルク、そしてシベニクはようやく型どおりの謁見の儀式を済ませると、円卓に腰掛けていた。
「・・・あ、あのー陛下、そろそろ本題についてお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
そう遠慮がちにたずねるマルク。
何故ならマクスウェル国王は先ほどからずっとニヤニヤした顔で自分の頭頂部を撫でたり、手櫛を入れたり、どこから取り出したのか手鏡で見つめたりと、思春期の乙女のように落ち着かないからである。
「・・・うん? おぉ、おぉ、すまぬすまぬ。 ついその、見とれてしまってな。 いやいやマルク殿にはなんと感謝してよいか・・・。」
「そのお言葉はもう3度目です陛下。・・・このやり取りも。」
マルクは若干げんなりしていた。
感謝されるのはありがたいし、悪い気分ではないのだが、もういい加減本題へ入りたい。
しかしやんごとなき方が蘇った自分の頭髪を愛でている光景に若干引きつつも邪魔するのも失礼かと思いじっと我慢していた。
(しかし、そろそろ・・・)
そうおもっていると、国王は咳払いしつつ、居住まいを正して、マルクに向き直った。
「ゴホンッ! ・・・失礼したマルク殿。 このご恩には改めて報いるとして、今日のこの謁見の目的をお伺いしよう。」
まだ、口元がヒクヒクしているので嬉しさが隠しきれないのだろうが、せっかく体裁を繕ってくれたようなのでマルクもそこはスルーして本題に入らせてもらう。
「ありがとうございます陛下。 シベニク様よりお聞き及びのこととは思いますが、私は天界の住人である女神テミス様より、救世主としてこの世界をより善き方向へ導くべく遣わされたものです。」
「うむ、それはここにおるシベニクより聞いておる。 マルク殿がシベニクの死に至る病を癒し、不毛の大地を蘇らせたと・・・。」
(そっちの方向はもういいよ!)
また話が毛根へ戻らないうちにマルクは話を続ける。
「ええ、私は今までに神託を既に二度受けています。」
「ほう?それは・・・。」
『但しメールで』などとは言わずマルクは続けた。
「はい、一度目は北の山脈よりドラゴンが襲来し、バノール男爵領の領地を蹂躙するというものでした。」
「なに?! それはまことかっ!」
「ええ。 実際現れたのは数十体のワイバーンの群れとドラゴンでしたが。 幸い女神様の力をお借りして召喚した使徒と共に麓の村々に被害が出る前に撃退することができました。 つい4日ほど前のことです。王都へその知らせが伝わるにはいま少し時間がかかりましょうが。」
「なんと! 数十体のワイバーンだけでも手を焼くというに、ドラゴンと共に退けたと申すのか・・・。
にわかには信じられん話じゃ・・・。いや、だが『この』素晴らしい奇跡の力を前にしては信じるしかないであろうな。」
驚きつつも、そう自分で納得しながらうんうんと感慨深げに頷く国王を見ながら、マルクの心境は複雑だった。
(できれば『発毛』基準の評価は・・・ハァ。まぁ、納得してくれてるならなんでもいっか・・・。)
マクスウェル陛下が身をもって実感したマルクの救世主としての力は今のところこれだけなのだから、とりあえずそう納得するしかないだろう。
あとは数日経って、北の山脈近くの辺境から、ルーデルさんの蹴散らしたワイバーンやドラゴンの情報が入り、評価の基準が改まるのを祈るのみである。
気を取り直してマルクは言葉を続ける。
「二度目の神託を受けたのは二日ほど前です。 そしてその神託はこう告げていました。 マクスウェル陛下、王都クラインにおける閲兵式において暗殺さる、と。」
「なんと・・・。それはまことか・・・?」
「はい、陛下恐れ多いことながら。 そしてこの予言もおそらく、ドラゴンのときと同様現実のものとなるはずです。 私はその神託を受けて、及ばずながら王都へマクスウェル陛下をお守りするために馳せ参じた次第です。」
「しかし、バノール男爵の私怨によって捻じ曲げられた情報によって牢に入れられた。そういうわけです陛下。」
その言葉を継いでシベニクが言うと、国王は声を張り上げて言う、
「なんとけしからんっ! 男爵風情が思い上がりおって! うむ、そうじゃ! バノール男爵は領地召し上げの上死刑! マルク殿それでよいかな?」
その勢いのまま、さらっと言う国王にマルクはあわてて否定する。
「お、お待ちください陛下! 結果的にバノール男爵に誤解を与えるような事になってしまったのは事実。罰するには及びません。 ただお尋ね者の布告を撤回していただければ十分です。 私を牢に入れた兵などもくれぐれも罰を与えることの無いよう願います。」
そうあわてて言うマルクにあっさり前言を翻す国王。
正直男爵一人なんかどうでもいい、そんな態度だ、権力とは恐ろしいものである。
元貴族のマルクは少しだけバノール男爵に同情した。
「おぉ、なんと慈悲深いことよ。 わかった、マルク殿がそう申されるのなら余としてもことさら過酷な処分は下すまい。」
「ははっ、陛下のご配慮に感謝いたします。」
(よかったー。 これで大量に処刑にされたり、路頭に迷う領民の人が出たりしたら寝覚めが悪すぎる・・・。)
心の中でマルクは一人胸をなでおろすのであった。
「しかし・・・、これで二人も余の暗殺を予言するものが現れたというわけじゃな。いまだ信じがたいことではあるが・・・。」
「えっ?」
マルクは唐突にとんでもない事実を知らされ、呆然とする。
「マルク殿を遣わした女神テミス殿ではないが、やはり女神の予言を聞いたという剣士が数日前に訪れてな。」
「ほう、それはまことですか?」
どうやらシベニクさんも初耳のようだ。
「その時はとても信じる気にならなんだ。 だが剣の腕は確かであったので、今は傭兵隊の元で食客扱いとして遇しておる。」
(何だって?! そんなの聞いてないぞ?!)
心の中でわめきつつも思い出した。
『*この神託メールは当該諸国の近隣で活動中の救世主の方に配信しております。*』
神託メールの文面には確かにそうあった・・・。
つまり救世主は自分一人ではないという可能性は十分に考えらたのだ。
「そういうことであれば早速引き合わせるとしよう。だれか!」
部屋の外で控えていた兵士が姿を現し、国王の頭部に目が釘付けになりながら動揺していたが、命令を受けるとその剣士を呼ぶため部屋を駆け出していった。
こうして、マルクは初めて自分以外の救世主と対面することになった。
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次回、初めての「同業者」との対面です。そのゆくえやいかに?