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差し伸べられた手、(元)ハゲの恩返し。

N6649DG 夢は国家公務員!?~異世界なのに転生者に優しくないこの世界~

も同時連載中! ページ下にリンクもあるよ♪

まだ牢に入れられて一日あまり、だがマルクの精神汚染はガリガリと進んでいた。


いくらテミスさんに肉体の基礎値を上げてもらったとはいえ、お腹が減らないわけではない。


この牢獄に漂う凄まじい匂いがバラの香りに変わるわけでもなく、じめじめとしたつめたい石畳が暖かく感じられるわけではない。


そう肉体は極限まで強化されているが、マルクのメンタルは初期値のままである。


若干テミスさんとのやり取りで呷りに対する耐久値が上がっているとはいえ、まだまだふかふかの白パンよりやわらかいマルク少年の精神。


元が優しい性格なので致し方ない。


確かに、肉体は『灰になっても復活できる』くらいなので、そう簡単には死なないだろう。


が、マルクは確信していた。


(いやーこれは肉体よりも先によゆうで精神が逝ってしまいますわー。)


「これで拷問とかされちゃったらもうあることないこと全部吐くな~、無理だな~。」


そうブツブツと呟くマルク。


持ち物は全て没収され、指輪は勿論、あの忌まわしい絵柄の刷られた、素晴らしいカードを引くこともできない。

   

完全に詰みである。



「うーんキツイなぁ・・・。」


つぶやきつつ鉄格子に寄り掛かったマルクはいつの間にかウトウトと眠りについていた。


環境は最悪だが、郊外から走ってきて、鉄扉の取っ手が捩じ切れるまで奮闘したので、自分でも思いがけず疲労していたらしい。



「・・・さん。」


心地よい、とはとても言えないが、モヤモヤとしたまどろみの中、誰かが自分を呼んでいる気がする。


そう思っていると今度は体を揺さぶられている感覚と同時にはっきり声が聞こえてきた。


「マルクさん!大丈夫か! しっかりしてくれ! オレだ! シベニクだ! クラピナの村でお前さんに命を助けてもらった!」


「あ・・・あれ、村長さん? 髪が・・・ある?」


そうまだぼんやりした頭で言うとシベニクさんは自分のフサフサの髪を誇らしげにかき分けながら苦笑いしていった。


「ハハハッ、何言ってんだよ!これもアンタが生やしてくれたんだろ!」


「そうだった・・・生やしたんだった・・・、間違えて・・・。でも、なんでシベニクさんがここに?」


「なんでもなにも、恩人のマルクさんが王都でとらわれたって聞いて慌てて飛んできたんだよ。すまねぇ、遅れて悪かった。」


肩を貸してくれ、強張った体を牢から出してくれた。


マルクも少しずつ頭が働きだすと同時に、疑問に思う。


「いえ、悪いだなんて・・・。すごくありがたいんですけど、どうしてシベニクさんは僕を助けることができたんですか? もしかして牢破り?」


「バカ野郎、いくら俺でもそんな無茶はやれんよ。 言ったろ、王都で青春を取り戻すってな。」


「?」


「俺はな、今近衛騎士団の客将としてマクスウェル3世陛下の側近くで仕えてるのさ。」


「えっ!?」


「これでもな、昔は騎士団連中から『鬼シベニク』と恐れられてたんだぜ?」


そう言いながら悪戯っぽく笑うシベニク。


その顔つきはどう見てもチョイ悪系オヤジのそれである。



「・・・(青春ってそのことだったのか?)・・・」


「まぁ、いいからまず俺の館で湯でも浴びてさっぱりしろ。そのあとで体の温まるモンでも食わせてやる。」


状況を納得しつつも言葉の出ないマルクにそう言いながらシベニクとマルクは最敬礼で見送る看守を尻目に、表へ出る。


途中どこからか話を聞きつけたのかルードナーさんが飛んできて、マルクらの前に現れたが、シベニクさんが目だけで人を殺せそうな殺気を放ち、


「お前、よくも俺の命と髪の恩人に舐めたマネしてくれたなぁ。 後でしっかり礼をしてやるからな?」


と凄むと、足をもつれさせ盛大に転びつつ逃げていった。


・・・シベニクさんの髪とともに復活したオーラがハンパない。


そして、ユーリアはシベニクさんの家で湯を手配してもらい、久々の湯あみをする。


このとき初めて救世主の契約を結んだときに貰った神界の最高級石鹸を使ってみた。


凄かった。


髪も素肌も、一撫でしただけでツルツルになり、何の手入れも必要のない仕上がりになった。


浄化の効果もあるのか、体調も気分もすっかり良い。そしてなぜか体は白いオーラで守られるように輝いていた。


衣類も洗濯したのだが、一度水洗いすると白い輝きを放ち、洗濯物は文字通り『新品』に蘇っていた。


しかも水から引き揚げたとたんに天日干ししたかのようにパリッと仕上がって・・・。


「なんだこの・・・色々と過剰すぎる石鹸は・・・。」


そうマルクは一人呟くが、そもそもエリクサーやエンシェントドラゴンの香油が入っている時点で石鹸としてあり得ないくらいオーバースペックなのだから仕方あるまい。


そうして湯あみから出て、身支度を整えると、食卓には肉料理や魚料理など様々な食べ物がところせましと並んでいた。


「おうっ! マルクさん、さっぱりしたな!・・・というか神々しくすらあるぞ。一体何が起こったんだ・・・?」


案の定シベニクさんを困惑させてしまった、申し訳ない。


「まぁいい、食事を用意しておいた。ひとり身で、使用人の手配も済んでいないから、近くの宿屋で用意させたものばかりだが、味はなかなかイケるぞ。」


シベニクさんは切り替えたのかそう言うと、自分も料理に手をつけ始めた。


「ありがとうございます。シベニクさんっ!うぐっ、うぐっ!おいしいです、おいしいですぅううう!」


今度こそ本当に自分が救世主としてやってきた苦労が報われた気がして、マルクは思わず泣いてしまった。


いや、これが泣かずにいられようか! そんな心境である。


「いやいや、泣かなくても・・・。」


「すびばせん、(グズッ!)シベニクさんのやさしさが染みてっ!僕っ、僕っ!(ズビーッ!)」


そんなマルクを見てシベニクは若干引きつつも心底同情していた。


「そ、そうか。・・・なんというか救世主なのに幸の薄い人生を送ってきたんだな、マルクさんは。」


そう言いつつ鳥の串焼きにかぶりつき、ワインを呷る。


そして泣きながらやわらかい高級白パンにかぶりつくマルク少年を見ながら告げた。


「今日は私の館に泊まって行くといい。陛下にはオレから事情は説明してあるが、明日改めてマルクさん自身から恩赦の礼かたがた事情を説明するのがいいだろうよ。マルク君にお願いしたいこともあるしな。」


そう言われてマルクはやっと本来の目的を思い出した。 


噛り付いていたステーキ肉を飲み込むと、シベニクさんに告げる。


「そうだっ!僕はマクスウェル殿下の閲兵式での暗殺を防ぐためにこの町へ来たんです!」


それを聞いて流石に目を見開くシベニクさん、そりゃそうだろう。


「それは本当か?!閲兵式といやぁ明後日だぞ?!」


にわかには信じられない様子だ、さっきまでの打ち解けた表情はなく、ルードナーさんには向けたのはまた違う凄みのある顔でマルクを見つめ返す。


「はい、確か(9割)です!神託メールがあったんです!」


全てをそのまま告げても余計にややこしいのでそう言うに留める。


シベニクさんはそんな僕の目を何かを見極めるように見つめていたがやがて納得したのか笑顔に戻るといった。


「わかった。マルクさんのいう事なら信じよう。それも明日陛下の御前で説明してもらいたい。そんなわけで明日からは忙しくなる。せめて今日くらいはゆっくり寛いでくれ。」


「はいいぃぃ~。ありがどうございまずぅううー!(グズズズッ!)」


「救世主が泣くな、泣くな!しっかり食べろよ?」


そう苦笑いしながら言うシベニクさん。


そして食後に立派なベッドの着いた寝室に案内してくれた。


「事が事だ、明日は謁見の時間一番に向かうから早いぞ。」


「わかりました、おやすみなさい。ほんとうに今日はありがとうございました。」


「気にするな、マルクさんから受けた恩からすればほんの些細なことだ。ではな、しっかり休むんだぞ。」


そう言ってシベニクさんが去った後。


久々のベッドでゴロゴロを堪能し、そのあまりのフカフカ具合に、樵小屋や、牢獄での日々を思い出してまた泣きそうになりながら、マルク少年は久々に訪れた平穏な夜に感謝しながら瞬く間に眠りに落ちていった。

お読みいただきありがとうございます。

マルク君、報われてよかった!


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