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【救世主なぞなぞ】暗くて、ジメジメして、汚いところってなーんだ?【A:○屋】

 異世界の『サイダー』と『ゴモクイナリ』という機内食(?)を満喫しながら、空の旅を終えたマルクは無事王都クラインの牢屋にいた。


そう、牢屋だ。 


それを無事というかは人それぞれだが。


「うぅ・・・。臭いし、汚いし、寒いし、お腹空いた・・・。」


日の光も届かない薄暗い牢屋。


悪党に人権などないこの世界。


『ん?牢に入れられたからには罪人なんだろ? 罪人だったら別に死んでもよくないッスか?なんか文句あんッスか?』


とでも言わんばかりの劣悪な環境である。


事実生きているのか死んでいるのかわからない、服なのかズダ袋なのかもわからない。


そんな垢まみれのボロをまとってうずくまる人影が両隣や向かいの牢屋の中に見える。


幾人かまだまともな風体の者もいるが、皆全てをあきらめたように冷たい石畳の床に座り動かない。


「どうしてだ? 一体どうしてこうなった・・・?」


体育すわりをしながら、そうつぶやくマルク。


それは昨日の昼過ぎの事だった。


********************************


快適な空の旅を提供してくれたルーデルさんとはクライン郊外の平地で別れた。


マルクは人目を避けながら、土煙をあげない程度の快速で走り、夕方には王都クラインに着いていた。


閲兵式まであと3日、もう余り時間があるとは言えない。


マルクはさっそく王都へ入るべく街門へと足を運ぶ。


関所で行く手を阻む衛兵に名を告げると、一転彼は満面の笑みで出迎えてくれた。


「おぉっ!あなたがかの高名なマルク様ですな!」


「えっ?!そ、そうなんですか?」


衛兵の意外な好感触に戸惑うマルク。


なるべく穏便に通りたいとは思っていたが、ここまで歓迎ムードで出迎えてくれるとは思ってもいなかった。


「あなたのお噂はここ王都にまで轟いております。何でも人々を癒す旅を続けていらっしゃるとか?」


「えぇ・・・まぁ、そういうことなんですけど。」


「いやぁ、ご立派だ!国王もぜひお会いしたいとかねがね申しておりましたぞ!」


「本当ですか? それはもったいないお言葉です。」


「えぇ、えぇ、もちろんです!では僭越ながら街門の守備隊長であるこのルードナーがご案内いたしましょう!さぁどうぞ、こちらですマルク様。」


そう笑顔で胸を叩きながらいうルードナーさん、人好きのするいい笑顔である。


「はい!よろしくお願いします。」


マルクは一人しみじみと今までの苦労を思い、ちょっぴり泣きそうなくらい感激していた。


(くううっ!いろいろと失敗続きだったけど、見てくれている人はいるんだな・・・。地道に頑張ってきてよかった・・・。ほんとに良かった・・・。)


マルクは衛兵に先導され、人々がきょとんとする中をフリーパス状態で王都の中をどんどん進んでゆく。


貴族時代のわずかな期間滞在しただけ、しかも馬車に乗っての移動だったので、ぜんぜん王都の地理には詳しくない。


なのでマルクにとってルードナーさんが案内してくれるのはとてもありがたかった。


「こちらです。表通りは人が多いですから、抜け道を通っていきましょう。」


そう言いながらニコニコと衛士は道を先導してくれる。 


いつの間に話を聞きつけたのだろうか、護衛の兵士の方が周りを固めてくれて心強い。


(いやぁ、王都に入ったら護衛役にカードから一人召喚しようかと思ってたけどこれなら大丈夫だねー。)


そう内心で思いつつホクホク顔で先導役を買って出てくれたルードナーさんの後へ続く、


「さぁ、こちらですよ。道幅が狭くなりますから気をつけてください。」


そういってルードナーさんが気遣ってくれる。


「はい、ありがとうございます。」


そして、マルクと護衛の皆さんは狭い路地を抜け、王城へ近づいてゆく。


「いやー相変わらず立派ですね、クラインのお城は。」


貴族時代訪れたことを思い出し、懐かしい記憶がよみがえる。


「えぇ、そうでしょう!ですがマルク様、このまま城へ行きますと人目につきますので。少し迂回しますぞ。」


そう言いながら城を迂回するように裏手のほうへ進んでゆく、そして相変わらず護衛の兵士の皆さんの一糸乱れぬエスコート、抜群の安心感だ。


「さぁ、ここですぞ」


そうしてやってきた先には地下へ続く通路がぽっかりと開いていた、入り口には見張りの兵士の姿も見える。


(あれ?こんな城への入り口なんてあったっけ?)


「?地下ですか?クライン城ではなくて?」


「・・・はっはっはっ!マルク様!何を隠そうここはやんごとなき方が通られる城への隠し通路なのです!ささっ!陛下を待たせてはなりませんので急ぎましょう!」


「あっ、そうですね!すみません。」


少し間があったような気がしたが気のせいなようだ。


相変わらずルードナーさんは笑顔でどんどん前へ進んでゆく、マルクは前後を護衛の兵士の皆さんにがっちりとガードされて暗い地下の通路を降りていった。


「すごいですねー。こんな隠し通路があるなんて!」


「ははははっ!そうでしょう! 特別な方しかお通ししない秘密の地下通路ですからな。」


そう言いながらどんどん地下を下る、だんだん道幅は狭くそして暗くなってきた。


「いや~ずいぶん長いんですね。」


「・・・もう少しですよ、マルク様。」


だんだん地下独特の湿気と冷気とともに、なんとも言えない匂いが漂ってくる。


「何か匂いませんか?」


「はっはっはっ!気のせいでしょう。」


「・・・ちょっと遠くないですか? それに匂いもまるで、汚水のような。」


「・・・」


「あっ、すみません!失礼なことを。


「いえいえ、よろしいのですよ。マルク殿。もう着きましたから。」


そう言いながらルードナーさんは立ち止まり、頑丈な鉄扉に手をかけて扉を開け放った。


扉を抜けたその向こうの景色は・・・、見事なまでに牢獄だった。


もうどう見ても見間違いがないほどに。


「へ?」


呆気に取られるマルクの両脇を、エスコートしてくれていた兵士の皆さんががっちりと掴む。


ほとんど持ち上げるようにして、グイグイと扉の向こうの牢獄へと引きずり始めた。


「えっ?えっ?兵士の皆さん?なっ、なにをするんですか? ちょっと!ルードナーさん!」


そのマルクの言葉に振り返ったルードナーさんの顔に笑顔は一欠けらも浮かんでいなかった。


その顔は険しく、正義感に燃えている。


(なになに?一体どうしちゃったの??)


困惑するマルクに燃えるような瞳でびしぃっ!と人差し指を突きつけ、ルードナーさんは練習してきたかのようにスラスラと見得を切り始める。


「まだシラをきるか悪党っ! 往生際が悪いぞ、このエセ救世主め!貴様の罪はバノール男爵によって一部始終告発されておるわ!」


(あぁぁぁぁぁあっ!!そういうことかぁあああ! バノールさぁあーん!)


心の中で悶えながら何とか弁解を試みるマルク。


その間も全力で牢獄へINさせようとする兵士の皆さんに抗って、鉄扉の取っ手をガッチリと掴んで離さない。


「えっ!そっそっ、そんな!!ごっ、ごご、誤解なんです! あれは不幸な事故というか、女神の、いや、ある意味悪魔のいたずらというか!その・・・。」


「何をわけのわからないことを! まやかしの奇跡で人々をたぶらかし、男爵相手に追い剥ぎのようなマネまでしおって!おいっ!はやくぶち込め!」


兵士達の圧力はさらに強まるが、ここで諦める訳にはいかない、まだだっ!まだあきらめる時間じゃない! ここから逆転だ! ・・・出来るかな?・・・。


「話せばわかる!話せばわかります!衛士さん!話し合いましょう?ねっ!ねっ!ぬぎぎぎぎぎっ!」


「えーい!何だこの馬鹿力は!全員で押し込めろ!」


しかしマルクは扉の取っ手に手をかけたまま、テコでも動かない。


女神の魔改造はダテではないのである。


「おい!手を離せ!いい加減にしろっ!」


そう怒鳴る兵士の皆さん、


「やだっ!手を離したら牢屋へ入れるんでしょ?!」


そう怒鳴り返すマルク、


「あたりまえだっ!!」


「いーやーだぁあああー!」


そんな拮抗した状況に終わりは突然訪れた。


『ボギッ!!』


鈍い音を立てて、鉄扉の取っ手が根元から捻じ切れたのである。


残念ながら、マルクの肉体は強化されても、鉄扉の強度が上がるわけではなかった・・・。


「あっ・・・!」


「よし! 今だ! 全員で押し込め!」


「「「「「うぉおおおおおおっ!衛兵だましいみせろぉおおおお!!」」」」」


「ちょぉおおおおおおお!!見せなくていいからぁああああっ!!!」


『ガッシャン!!』


「「「「「よっしゃああああああ!!!!」」」」」


こうして奮戦むなしく、やり遂げた感で兵士達が異様な興奮ムードの中、救世主マルクはあえなくブタ箱行きとなったのであった・・・。


*********************************






お読みくださりありがとうございます。

マルク君がいい人すぎて辛い・・・。いつか報われますように・・・。


そんなマルク君と、作者を是非応援してくだいませ。



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