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【自由という名の強制】神託メール再び、空の魔王も再び【徹三に感謝】

結局、少年の事はテミスさんに聞いても詳しいことは分からなかった。


わかったのは、自分達がテミスさん達からありきたり、かつ大げさに『救世主』と呼ばれているようにあの少年達は邪神から『魔王』と呼ばれているらしいということくらいだった。


「カーリーがどこから連れてきたのかはわかんないけど。私のカードの中の物や人を知ってるんなら、同じ空間軸から連れてこられた異世界人かもしれないわね・・・。」


「でもどうしてわざわざ『魔王』候補を異世界から連れてくるなんてそんな面倒な事を?」


そう言うとテミスさんは人差し指を立てて左右に振りながら言う、


「ちっちっちっ、マルク君。もし私が貴方の前に降りてきたときに『この世界の人間ぶっ殺すから手伝って♪』って言ったとして協力してくれるかしら?」


「・・・しませんね。ホントは救世主もやりたくなかったくらいですし。」


「もぉーまたそんなこといってぇ ♫ いつまでもクヨクヨしてたら人生楽しくないわよ?とにかくそういうわけだから代理人を立てようって言ったってこの世界ではなかなか難しいでしょうね。『無理強いはしない』っていうのもルールだから。」


「あれ?ルール違反?あれ?おかしいな・・・?ルールってなんだっけ?」


「?どうしたの?マルク君?」


「いや、ちょっとだけ世の不条理について考えていただけです。」


「うーん。ウチの救世主様は哲学者ねぇ。」


「・・・」


二人が不毛な会話をしていると突然、例の音声がこだました。


『ポーン♪神託メールが一件、届いています。』


「えっ?また神託メール?」


「あら、珍しいわね。こんな頻度でメール配信なんて。運営頑張ってるわねー。」


のほほんというテミスさん、多分天界の運営にこんな人はいないだろう。


「バカンスでハッスルしてる女神もいますけどね・・・。」


「私は頑張ってるからこそのご褒美なのっ!」


そうお互いにいいつつ、羊皮紙に装われた魔導ディスプレイを開く二人。




************************************


件名【要人暗殺】【優先度】高


救世主様各位


天界の占星術課によりますと、ディシュタイン王国において近々執り行われる、王都クラインでの閲兵式において、現国王マクスウェル3世が式典中に襲撃され、国王が暗殺されるとの予言が発表されました。


今回の予言的中率は占星術課によりますと90%、暗殺による国王死去の可能性は100%です。


なお、暗殺に伴う政情不安、内乱、後継者争いなどのに絡んだ宮廷闘争が発生する可能性があります。


念のため当該地域周辺で活動中の救世主様は十分に注意してください。



神託メール運営 占星術予言部門


*この神託メールは当該諸国の近隣で活動中の救世主の方に配信しております。*


**********************************


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**********************************


「テミスさんこれ・・・」


顔をヒクつかせながら言うマルクにあくまでもフラットなテンションのテミスさん。


「うーん。死んじゃうみたいねぇ。マクスウェルのおっちゃん。」


「おっちゃんって・・・。」


「え?だって55でしょ?おじいちゃんっていうのはまだ可哀想じゃないマルク君?」


「ちがーう!そう言う事じゃなくて!・・・はぁ。で? 今回もやっぱり僕がやらなきゃダメなんですよね?」


げんなりした顔でテミスさんに問うマルク。


「えっ?今回『も』べつにやらなくてもいいわよ。強制じゃないんだから。」


それを聞いたテミスさんは以前の念話越しの会話でもそうしていたであろうようにキョトンとした表情をしている。


「・・・でも助けないと・・・?」


テミスさんの答えは分かっていても、そう言われると問い返さずにはいられない。


「?9割死ぬわよ。当然でしょ?」


「んあぁああああっ!嫌だ―っ!この断れる体で絶対断れない鬼畜システムっ!」


そう言って頭を抱えるマルク少年にどこから取り出したのかティーカップに入った紅茶をすすりながらテミスさんはしみじみと言った。


「苦労人ねぇ、マルク君真面目だから。」


「誰のせいなんですかっ!」


「?えーと、ご両親の教育がよかったから?」


「ちがう!そうじゃない!父さんも母さんもいい人でしたよ?! けど、今の答えはそうじゃない!」


「?変なマルク君。」


結局、いつも通り二人の会話は最後までかみ合う事は無かった。



こうしてマルクは『自主的に』ディシュタイン王国の王都クラインへと赴くことにしたのであった。


翌日。


マルクはドラゴン退治へ出かけたあの草原にいた。


そして目の前には愛機「シュトゥーカ」を駆るルーデルさんの姿。


降下してくるとマルクが待機している真横にピタリと愛機を着陸させてきた。



いつ見ても見事な操縦だ。


因みにテミスさんは、


「あ、私ちょっと用事を思い出したわ~!じゃあね~ルーデルさんによろしくねっ♪」


と、わざとらしく言うと朝早くどこかへと逃げるように去っていった。


そんなにルーデルさんの言っていた『ちじょうそうしゃ』というのが恐ろしいのだろうか?


「やぁ!マルク君!こんなに早く再会できるとはな!」


「えぇ、自分としてはもう少し間隔を空けてお会いしたかったんですが、ちょっと今回も急ぐもので・・・。」


ルーデルさんは快活に笑った。


「ハハハハッ!紳士はそう嘆くものではない。状況は把握している。自国の国王の暗殺となれば急ぐのは当たり前だ。さあ!乗り給え!」


「すみません!よろしくお願いします!」


爆音に負けず言いながらマルクは後部座席に乗り込み、再び機上の人になった。


「いくぞ!発進だ!」


飛行機が上昇を終え、しばしの美しい穏やかな空の旅が始まったとき、ルーデルさんが思い出したように言う。


「そうだマルク君、忘れていた。君の足元に紙袋があるだろう?開けてみたまえ。」


「?はい。」


そう言われてマルクが中身を開けると細長いビンに詰められた水と、きつね色のコロコロした物体が薄い木の皮のようなものに包まれていた。


「これは?」


「ドラゴンと戦うなどという貴重な経験をさせてくれた君へ、私からのささやかな礼だよ。食べてみたまえ。」


「えっ!ありがとうございます。」


そう言ってまずビンを手に取る。冷たい! まるで今井戸の底からくみ上げた水のようだ。


「そのガラス玉を押し下げて飲むのだ。」


言われてみて初めて透明なガラス瓶に小さなガラス玉でフタがされているのが分かった。


何とも面白い作りだ。


ガラス玉を何とか押し下げると、『しゅっ!』と微かに音がする。


口をつけると、何とも言えない刺激と、さわやかな甘みが口の中に広がった。


「おいしい! エールは得意ではないですけど、コレはすごくおいしいです!」


「はははっ!そうかね。口にあったようで何よりだ。」


マルクは続いて期待を込めながら、きつね色の物体を口に運ぶ。


うまいっ!甘酸っぱい風味と、柔らかな麦の粒のような白い穀物。


そこに混ぜられた、細かく刻んだ具材も味が染みていてとても美味しい。


「ルーデルさん!これも最高です! こんなおいしいものが食べられるなんて!ルーデルさんの国ではいつもこんなおいしいものが食べられるんですか?」


「いやぁ、実はな。恥ずかしいのだが、それは私の母国の食べ物ではない。」


操縦桿を握りながら、ルーデルさんは照れたように言う。


「えっ?どういうことですか?」


「それはな、私が天界に来てから知り合ったテツゾー・イワモトから教えてもらった食べ物なのだ。

・・・残念ながら我が母国の食糧事情はジャガイモに血のソーセージやベーコンに、酢漬けのキャベツとマルク君の住むこの世界とあまり変わり映えがしないからな・・・。」


確かにそれでは普段自分が食べているものとそう変わらないな、マルク少年はそう思いながらも不思議だった。


「そうなんですね。こんなすごい『シュトゥーカ』を作ることができるのに・・・。」


「そうなのだ・・・科学技術なら世界一を声高に叫んでも私は構わないと思っているのだが・・・。食い物だけはな。」


「ふふふ、なかなかうまくいかないものですねぇ。」


「全くだ!ハハハ!」


そんな会話を交わし、テツゾーさんに感謝しながら二人は王都へ空の旅を続けるのであった。



お読みいただきありがとうございます。

テツゾーは実在の撃墜エース、岩本徹三氏がモチーフです。

そして第二次大戦中の日本のパイロットが食べていた戦闘食の御馳走であるサイダーとお稲荷さんをいつも救世主を頑張っているマルク君へのご褒美に用意してみました 笑



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