【○ィズニー】 女神テミス、この世の真理についてぶっちゃける 【人類を救う】
念話から二日。
テミスさんは樵小屋で待つ僕のところへ、ようやく異世界のバカンスから帰ってきた。
大きな買い物袋や、神界へのお土産だというネズミ―グッズを両手に抱えて。
「はい、これ!マルク君にもおみやげよっ!」
「・・・なんですか、これ?」
「ムッキーの耳型カチューシャよ、可愛いでしょ?」
そう満面の笑みで言うテミスさん。
このモサモサの剛毛に覆われた三角耳の生えた被り物の一体どこが可愛いというのか・・・。
「・・・お返しします。」
「あらぁ、そう?かわいいのにぃー。」
「そうじゃないでしょ!ちゃんと説明してくださいよ!」
「そうねーまずどこから説明しようかしら・・・って感じなんだけど。マルク君は何から聞きたい?」
「えーと、じゃあまずあのカーリーって人はいったい何者ですか?」
「言ったじゃない!あのロリババァは邪神なのよっ!」
もはや条件反射のように噛みつくテミスさん。
「うーん、僕が聞きたいのはそういうことではなくて。そもそも邪神っていうのはいったい何なんですか?何となく悪そうなイメージはわかるんですけど。」
そう言うと顎に指をあててしばし考えたあとテミスさんは答えた。
「えーと、一言で言うなら『人間を滅ぼそうとする者達』かな?」
「そんな・・・。じゃあやっぱり邪神って文句なしに悪党ってことですか?」
「うーん。まぁマルク君たち『人間』向けに、平たく言うとそうなんだけど・・・。私たちもわかりやすく『邪神』って言っちゃってるしねぇ。」
どうも煮え切らない答え。
「?どういうことですか?」
「んー。別に彼らは人間が憎くてこの世から人間を滅ぼそう! って言ってるわけじゃないの。」
「つまり?」
「今この世界には人間をはじめエルフやドワーフ、ドラゴンまで様々な種族が栄えているわよねぇ?」
「? はい、そうですけど。」
「そういう今の世界が『アリ』か『ナシ』かで対立しているのが私ら「女神側」と、彼女たち「邪神側」って事ね。」
「?どういうことですか?」
「うーん。この世界が生まれてからもう気が遠くなるような年月が過ぎているわ。その間私たちはずっとこの世界を見守ってきた。そして『人間』がこの世界に生まれたのはつい最近なのよ。知ってた? ・・・知らないわよねぇー♪」
そうサラッというテミスさんの言葉が一瞬信じられない。
これだけ長く栄えてきた人間が新しい種族??
正直意味が分からない。
「待ってください! そんなのおかしいですよ! 古代の文明や、王国は数千年の昔からありますし、僕の家だってそれなりに歴史だけは古かったから・・・。」
「うーん、そうね。人間の感覚ではそうかもしれない。だけどね、その古代文明や王朝の歴史の100倍よりも前からず~~~っっと昔からこの世界があるとしたらどう?
そんな長い年月をかけて世界が育まれてきたとしたら?
マルク君たち『人間』の歴史は世界にとって『つい最近の出来事』にならないかしら?」
そうテミスさんが説明する様子は嘘をついているようには見えない。
「・・・つまり僕たち『人間』はこの世界にとって新参者って事ですか?」
「そう、さすがマルク君。理解の早い生徒は助かるわ♪」
そう生徒の成長を喜びつつ、テミスさんはサラッととんでもない事を言う。
「つまり、邪神の側の言い分はこうよ。
『ほんの少しだけ世界をリセットしたい。・・・人間がいるよりも前に。』
ってわけ。」
「・・・そんな、そんなのって・・・」
言っている意味は分かるが、頭の追いつかないマルク。
そんなマルクの様子をちらりと伺いつつテミスさんは話を続ける。
「人間が種としてこの世界に現れたのはこの世界の成り立ちから言えばつい最近。でも貴方達はこの世界の有り様を随分と変えてしまったわ。
個体としての力は確かにエルフやドワーフのほうが上かもしれない。
ましてやドラゴンなんかはね。
でも今この世界で最も幅を利かせている種族って何?
人間でしょう?
このまま人間達が繁栄していけば、いずれエルフもドワーフも住処を追われ滅ぶ・・・、かもしれない。
そしてそれ以外にも多くの生き物の種を絶滅へと追いやるでしょうね。」
なるほど、少し頭も落ち着いてきた。
うん、やはりテミスさん達神界の住人に・・・というか少なくともテミスさんに自分たちの常識を当てはめて、怒ったり、落ち込んでもバカバカしい気がしてきたぞ・・・。
「・・・だから『邪神』達は僕らを滅ぼしてもう一度少し前のこの世界の状態からやり直したい。そういうわけですか?」
そう答えるとテミスさんはニコニコしながら手を叩いた。
「そうね、さすがマルク君、正解よ♪よくできましたー。ぱちぱちぱち。」
「でも、そんなのあんまりじゃないですか?いくら神様だって・・・」
そう言いかけた僕にテミスさんはキョトンとしている。
「そうかしら?なにかおかしい?」
いつものテンションでそう当然のように言うテミスさんにマルクはさすがに茫然としてしまう。
「えっ・・・それはちょっと・・・。」
「えっ?だって貴方達は私たちが創り出したんだもの。違うかしら?」
「けどっ!僕ら一人一人生きてるんですよ?」
「貴方だって自分で種を蒔いた作物を育てたり、刈りとったり、自分の都合に任せて田畑を耕しているでしょう? それとどこが違うのかしら?」
「そんな極端な!植物と人間は違います!」
「えーっ。 あんまり違わないんだけどなぁ。」
マルクの主張は残念ながら、というか予想通りテミスさんにはあまり響いていないようだ。
「だから「邪神」達も私たちも、『人間の未来は自分たちが決めるべき』って言う立ち位置は同じなの。ただそれが『このまま生かすべき』なのか『最早滅ぼすべき』なのかっていう意見の違いよ。・・・わかってくれたかしら?」
確かにテミスさんたちにとってはそういうものなのかもしれない。
もっとも『人間』枠から言わせてもらえばとても納得はできないけれど。
まてよ・・・でもそうなるとカーリーさんへの態度はちょっと違和感があるな・・・?
「・・・じゃあ何で、テミスさんはカーリーさんをそんなに敵視してるんですか?僕はてっきり人間を滅ぼそうとする邪神だからだと思ってましたけど?」
「うーん。それはちょっと違うかな。彼女達と私たちは元々同じ一つの天界の仲間同士だったんだけど、この意見の対立のせいでちょっと前、マルク君たちの時間で言うと2千年位前に二つに割れちゃってね。」
そう言いながら過去(2千年位まえらしい)の記憶がよみがえってきたのか、だんだんテミスさんはヒートアップしてくる。
「そいでその時にまぁ神様同士の引き抜きあいがあったんだけどね。・・・あんのロリババァが根こそぎ私がツバつけてた神様達を引き抜いて行っちゃったのよっ!
おかげで私のキャリアに次元の裂け目よりも深いヒビが入ったの!
この罪、償わせずにおくべきかっ!マルク君もひどいと思うでしょ!?思うわよねっ!?むきぃいいいい!!もー思い出しただけでむかっ腹立ってきたわ!!」
マルクに差し戻されたムッキーのカチューシャをへし折らんばかりに捻じ曲げるテミスさん。
「えーと。つまり、私怨なんですね?」
「・・・そうともいうわねっ!」
結論、やはり天界の人たちと自分は決して分かり合えない。
自分が人間で、テミスさんたちが神である限り。
全員が全員「こんなん」ではないかもしれないが・・・。
少なくともテミスさんとは無理だ。
だとしたら今のところ落としどころを見つけるしかないようだ。
そうマルクは考えることにした。
『人間』という種族の存亡を前にしても案外冷静なマルク、どうやらテミスと過ごすうちにどうやら少し耐性がついてきたようだ、悲しいことに・・・。
「えーと、じゃあもうそれはいいです。 今ふと思ったんですけど、なんでカーリーさんたちは直接自分たちで人間を滅ぼさないんですか? いや、そんな事されたら滅茶苦茶困りますけど。」
「それは私たちの中でお互いに直接手を下さないっていう紳士協定があるからよ。っていうのも両陣営とも『まぁ、ぶっちゃけ人間とかどうなってもどっちでもいいやー』っていう神様が多くてね。」
「・・・どうでもいい・・・ですか。」
(人間という種の存続が「どっちでもいい」、とか「どうでもいい」というのは絶対味わえない感覚だろうなぁ・・・。)
「ええ、まさにそんな感じよ。それに私たちもほかにも仕事はいっぱいあるからね。人間の事でいつもそれでいがみ合ってるわけじゃないし。基本は仲良くやってるから。」
「ちょっと理解しがたいですけど、まぁその感覚だとそんな程度の感覚の神様も多そうですね。」
「そうなのよ。そんなわけで『同じ神様同士、タイマン張ると恨みが残るから、やるなら代理戦争にしなさい!神様同士の争いは禁止!』って創造主様がおっしゃったわけ。
だからそれぞれ『人間の営みが続く方向へ』、『人間が滅びの道を歩む方向へ』それぞれ代理人を遣わしてるってわけなの。
そしてご存知の通り、私たちはそんなマルク君みたいな子たちを『救世主』って呼んでるのよ♪」
正直人間にとっては迷惑も甚だしいが、そんなサイコな神々に創られた時点でこの運命は受け入れるしかないのだろう。
「なるほど・・・。えーと、因みに創造主様の立ち位置って?」
「もちろん両方のトップよ。
別に天使と悪魔に分かれているわけじゃあるまいし。
ただ、創造主様は自分の創った者達だから出来れば絶えて欲しくない。というお気持ちでいらっしゃるわ。まぁ、それ以上でも以下でもないんだけど。」
「・・・テミスさんはどうして『こっち側』なんですか?」
テミスさんは少し考えてから頬をポリポリ掻きながら言った。
「う~ん。まぁ私も出来れば創造主様の創った者を多少出来が悪くても大切にしたいからかなぁ。」
「は、はは。出来がわるくても・・・ですか・・・。」
マルクはそう苦く笑うことしかできない。
戦に、飢えに、病。
裏切りや憎しみに、騙しあい。
すこし負の側面ばかり見すぎな気もするが、それでも確かに人間が出来がいいとはとてもいえないだろう。
「それとね・・・」
「?」
「異世界では人間のおかげで面白く発展している世界もたくさんあるもの。
例えばね、私がよく行く異世界も世界は既に『人間』で溢れかえりそうなの。
おまけにしょっちゅうお互いに憎しみ合って殺しあったり、貧富の差でばたばた死んだり、自分たち全部を何百回もぶち殺せる武器を手に入れたっていう、ぶっちゃけいつ一瞬で壊れても、滅んでもおかしくない危うい世界なんだけどね~。
でも、「ネズミ―」の「アイランド」とか、「パシフィック」とか凄いのよ!かわいいし面白いし、楽しいの♪ そういう人間しか考えつかないようなものをたくさん作って、その世界の中でもほんの一部だけだけど、のほほんと毎日楽しくのんびり一生懸命暮らしている人間が住んでいる・・・。
そんな星を見てるとなーんか滅ぼしちゃうのって、先走りすぎっていうかもったいない気がするのよねぇ・・・。
だからかな~自分の世界もせめてネズミ―ができるくらいまでは見守ってあげたいというか、守ってあげたいっていうかね~。」
そう恥ずかしそうにはにかみながら言うテミスさんの表情は慈愛に満ちているような気がした。
「テミスさん・・・」
そうのほほんというテミスさんはいつもと変わらないが、ようやく欠片だけそこに神様らしきものをマルクは見た気がした。
(確かにサイコで、詐欺師で、駄女神かもしれないけど、テミスさんはテミスさんなりに僕たち人間の事を・・・)
「だってさーネズミ―高すぎるんだもん!向こうの世界行くだけでお金かかるのにさー。せっかく有給取っていっても財布が気になって楽しめないんだもん!
こっちに『ネズミ―』ができれば旅費の心配もしなくていいし『神界割」とか『神界ファストパス』とか作らせれば・・・とかねー♪ ゆめひろがるわぁ~♪」
・・・盛大に気のせいだった・・・・
(・・・はい、自分の事しか考えてなかったー。いつもどおりー。)
そう心の中で即自分の気持ちを上書きしながら、マルクは一人白目を剥くのであった・・・。
お読みいただきありがとうございます。
ちょっと毛色の違う話になりましたけど、そろそろこのサイコ女神が何故救世主?
みたいなところも書いておこうかな、と。