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救世主契約(あくまでも本人の自由意思によるものです。)

2作目の連載となります。


駄女神にロックオンされた主人公の運命やいかに?!

「ふぅ・・・しかし畑仕事がこれほど大変とはなぁ。」


ある晴れた日の朝、早朝からマルクは畑仕事に汗を流していた。


ここはクローディア王国にある小さな農村スールニ。


「随分土は柔らかくなったと思うけど、はぁー腰が痛い、ちょっと休憩しよう。」


鍬を杖代わりに手を休め、手拭いで汗をぬぐう。背筋をピンと伸ばし、トントンと叩くと、近くの岩に腰かけ、皮袋に入れた水を一口飲んだ。


彼はマルク・ホーバット16歳。


農民である。


農民になぜ姓があるのか?


没落貴族だからである。


と言っても彼が無能領主だったわけではない。両親ははやり病で亡くなり、スールニの村で祖母と静かに暮らしていた10歳のある日、継子のいない叔父から養子に迎えられた。


彼は駆け落ちした貴族の種だったのである。


降って沸いた養子の話で叔父がいることをマルクは初めて知ったが、彼は優しい男だった。


「死んだ父の面影がある」


そう言っては頭を撫で、貴族の暮らしに慣れないマルクを優しく見守ってくれた。しかしその幸福な時間は3年で終わった。


叔父は領地経営のイロハも教わらぬうちに魔物討伐の軍に出て戦死、いきなりマルクは領地経営を任されることとなった。


そして、ようやく得領地経営が軌道に乗った3年後、日増しに勢いを増す魔物群れは突如マルクの相続した領地へ押し寄せてきた。


領地はあっという間に魔物の支配下に置かれ、マルクは殆ど着の身着のままこの村へ逃げ延びてきた。



現在は祖母の残した家に住み、子供のころを思い出しながら田畑を耕している。


「しかし、平民から貴族、そしてまた平民かぁー。なかなか波乱万丈な人生だよなぁ、我ながら。もぅこれ以上何か起こるなんてこともそうそうないだろうなぁ~。うん?」


<パァアー>


突然上空から虹色の光が差し込み、マルクを照らすように広がってゆく。


「虹か?今日は一日晴れてたはずなんだけど…?」


まぶしい光の中目を凝らすように上を見上げると、ゆったりとした衣を身に纏った美しい女性がゆっくりと降りてきた。


「え~。どういう事・・・?」


あっけにとられている間にも女性はぐんぐん高度を下げ、やがてふわりと、音もたてず、マルクの前に降り立ち、美しく微笑んだ。


「あ、ど、どうもこんにちは。」


我ながら間抜けな一言だったと思うが、目の前の女性は気にした様子もなく、微笑みながら告げた。


「初めましてマルクさん。私は創造主様の使者として、マルクさんの元へ遣わされてきた女神のテミスと申します。」


「え、えと・・・、マルク・ホーバットです。その・・・、よろしく。」


何とかそう答えるとテミスと名乗る女神は、まるで練習してきたかのように、ワントーン高い笑顔声でセリフを読み上げるように喋りはじめた。


「おめでとうございます!あなたは厳正なる抽選の結果、救世主に選ばれましたぁ!」


告げると、テミスは言葉を切った。


ニコニコと満面の笑みでマルクの返事を待っているらしい。


「えっ?嫌ですけど?」


「えっ?」


「えっ?」


「・・・・・」


しばしの沈黙のあとマルクは仕方なく念を押すことにした。


「いや、だから、お断りしますよ?」


「なんで!?ねぇ、なんで?!」


さっきまでの美しい微笑はどこへやら、テミスはいやいやをする子供のように首を振りつつ淡々としたマルクへ聞き返えした。


「何でっていわれても・・・。ほら、僕見てのとおり農民ですし、畑仕事もありますし、家畜も世話しなきゃいけないし、結構忙しいんですよ。だから救世主とかはちょっと・・・。」


「そんな!貴方は選ばれたのよ、神に選ばれし救世主!他の誰にもない才能が・・・」


「えっ!僕にそんな才能があるんですか!?」


「・・・なかったんだった。ごめんなさい。い、今のは忘れて。」


「・・・・」


二度目の沈黙。


マルクは貴族時代に培った社交的な笑みを努力して浮かべると努めて爽やかに言った。


「じゃっ、そういうことで。お疲れ様でしたー。」


にこやかに告げると、くるりと踵を返した。


・・・テミスがいた。


目の前に、今は背後にいるはずのテミスが一瞬のうちに、必死の形相で。


「ちょっとぉ~!待って!お願いぃ~。いかないで!。っていうか畑仕事まだ途中でしょ?もう少しここでおねぇさんとお話しましょっ!ねっ?ねっ?」


「いや、なんかここにいたらずっと絡まれてめんどくさそうだな、って思ってつい・・・。」


「つい・・・って、どんだけ救世主になりたくないのよ、キミはっ!」


「だって・・・救世主とかになったらいろいろ責任重大じゃないですか?もし僕のせいで世界が滅びたりしちゃったら困りますし。」


責任ある立場というものに懲りていたマルクはしみじみと語るがテミスは何だそんな心配かとばかりにマルクを安心させるように言う、


「そんなぁ、大げさよぉ、世界の一つや二つ滅びてもまた創ればいいんだから。気楽に気楽にぃ♪リラックスよっ♪」


「気楽に気楽にぃ♪じゃないですよっ!女神様って快楽殺人者かなにかなんですか?自分のせいで世界が滅びるとか、さすがに後味が悪すぎるんで・・・、っていうかこの世界が滅んだら僕も死ぬ、って事ですよね?」


「・・・・」


三度の沈黙。


マルクは悟った。


いや、誰でも悟る。


この女神は狂っている。


相手にしてはいけない、そうマルクは確信した。


「ちょっと僕、痛いのとか苦手なんで、死ぬとかそういうのは・・・。じゃっ、そういうことで!」


「くっ!・・・あっ!おねぇさんにいい考えがあるわ!こういうのはどうかしら?もしぃ、この世界が滅んでもぉ、君は特別に別の世界に転生させてあげるわん。しかも没落前の貴族スタートで!われながら冴えてるぅ!そうしましょ?ねっ♪」


「ねっ♪じゃないでしょ!何ですかその『世界が滅んでも俺だけ生き残ればオールオッケーェエ!YEAH! みたいな世紀末的な物の考え方は。怖いんですけど・・・。」


「ちいっ、ダメか・・・。」


「だめですよ、もうなんていうか舌打ちとかしてる時点で女神としていろいろダメだと思います。」


「・・・・」


4度の沈黙。


いまだ! 今しかない! マルクは鍬を放り投げ、張り付けた笑顔で可能な限りの速度で手足を動かしながら早口で告げ、そして全力スプリントダッシュを決めた。


「じゃっ、僕はこれで。そろそろ羊たちを畜舎に入れないといけないんで、いや、ほんとに、お会いできて光栄でした。ではではでは、ごきげんよう、ごきげんよう。また逢う日までさようなら~」


「ま、っ、て、っていってるでしょ~♪(ガシィ)」


逃走は叶わなかった。力加減はされているようだが、疾走しようとしたマルクの体は女神の片手に抑えられて微動だにしない。



「え?つかまれた肩が重すぎて微動だに出来ないんですけど。・・・えぇー、これって強制なんですか~?」


クレイジーな女神のクレイジーな身体能力からは逃れられないと知り、マルクは心底迷惑そうに尋ねた。


「い、いやあねぇ、強制なわけないじゃない!これはあくまでも貴方の自由意志よ。どーしてもやりたくないっていうのなら無理強いはしないし、やらなてもいいのよぉ。そんな無理強いして救世主なんかやらせたら私が創造主様に怒られちゃうもの。」


テミスは一度言葉を切り、口に手をあてて大げさな身振りで言った


「えっ?!もしかして救世主になりたくない!とか…?」


まるで誰かに言い訳するように白々しい演技を続けるテミス。


「・・・さっきから僕は全力で拒否してるように見えないですかね?」


「そうだったの!意外だわっ!!」


茶番をマルクはジト目で見つめるが、テミスは引きつった笑いを浮かべ、元気なおたまじゃくしのように泳いでいる目を逸らすばかりである。


女神は動揺している!よし、今だ!今ならいける!


「・・・、じゃあ改めて言いますね、おことわr」


「石鹸!」


「へ?」


唐突に女神の口から出た単語にマルクは完全に虚を突かれ思わず聞き返す。


「石鹸つけるから!神界で今話題のエリクサーをブレンドして、エンシェントドラゴンの香油を贅沢に配合した最高級品よっ!これを使えばお肌もツルツル、お洋服の汚れも浄化の光に照らされたように真っ白にっ!!


今回はぁ!この「神の石鹸」をなんと3個もつけちゃう、ええいっ!もってけ泥棒!


そしてさらにっ!いまならなんとぅっ!神界で話題の天使の羽衣と同じ素材を利用した最高級ボディタオルも付けちゃうわ!」


「石鹸かぁ・・・。石鹸を作っている南の町が魔物に襲われてたみたいで、今高いんですよねぇ。今の稼ぎじゃとても手が出なくて・・・。ちょっと欲しいかも(ボソッ」


(手応えありっ!もう一押しよ、もう一押しすればこいつは堕ちるわっ!)


「でもなー、救世主とか途中で『やっぱナシで』みたいにできないじゃないですかぁ、さすがに人として。それに物を最初に貰っちゃうと、あとあと断りづらいっていうかなんて言うか…」


「あら、そんなことを心配してたの?大丈夫よ辞めたくなったらいつでも辞めれるんだから♪」


歯切れ悪く言うマルクに、テミスは満面の笑みを浮かべ、女神なのに悪魔のように囁く。


「えっ?本当ですかそれ?救世主とか、神様とか簡単に辞められないポジション同率1位な気がするんですけど・・・。」


「そんなことないわよぉ、辞めたくなったらいつでも私を呼んで言ってくれていいのよ?」


「・・・、『どうせ二度と現れないからね♪』とかじゃないですよね?」


「オ、オホホホホ!そ、そんな訳ないじゃない。そんな心配性の貴方にこの指輪を渡しておくわ。心の中で念じればいつでも私と会話できる素敵な魔法の指輪よ、嵌めて御覧なさい。」


無理して笑いながらテミスは細い金の指輪をマルクに向かって差し出した。

マルクが人差し指にあてがうと、大きさを合わせたように指になじんだ。


(本当かなぁ・・・。)


(本当よっ!疑り深い男は女子に嫌われるわよ!)


「わっ!」


半信半疑のマルクの頭の中に勢いよくテミスの声が響く。


「ねっ、いい加減信じてくれたかしら?」


「えっ、ええまぁ。」


「じゃあ試しにちょっとだけ、ちょっとだけ、救世主やってみましょ?女神様のお、ね、が、い♪」


「うーん、そこまで言うなら。」


「ほんとうにっ!ありがとう!貴方はきっと引き受けてくれるって信じてたわ!」


(よっしゃぁあああああ!ちょろいっ!ちょろすぎるっ!これで今月のノルマ達成よ私っ!もうこれでもう「お前を創るんじゃなかった」とか、「駄女神」だの言われなくて済むのねっ!くぅううううっ!見えるっ!私の明るい未来がっ!夢の長期休暇がっ!ありがとうマルク少年!君の尊い犠牲は忘れないわっ!!)


「あの、指輪・・・。」


「・・・」


「ちょっと、念話の調子が悪いみたいねっ!邪悪な魔力でも漂っているかしらっ!指輪についた宝石を押すとオンオフが出来るから、普段は切っておいてね♪」


「そうですね、邪悪な魔力が、ゼロ距離から漂ってきている気がしますよ。・・・まぁ、ちょっと女神様も情状酌量の余地があるみたいなんで、とりあえず引き受けますけど。石鹸も気になるし。」


「ありがとうっ!ありがとうっ!いい人だわ、貴方ほんっとうにいい人っ!おまけで天国行きのチケットもサービスしちゃう。片道だけど天使の送迎付きで、席はなんと最前列!かぶりつきよっ!」


「臨終のときにしか使えないじゃないですかそれ・・・最後にもう一度確認しますけど、ほんとうに辞めたくなったらすぐやめられるんですよね?」


「ええ、ほんとうよっ!女神に二言はないわっ!」


(・・・・)


しばし女神と見つめ合った後・・・、マルクはついに陥落した。


「分かりました。救世主、やります・・・。」


「やたっ!じゃあこの契約書にサインしてね♪えいっ!」


「イタタっ!人の指勝手にナイフでスパーッと切るとか女神としてどうなんですか!っていうか人のレベルでも余裕でアウトなんですけど?クレイジーにも程がありますよ?」


「男の子なんだから細かいこと言わないのっ!ハイハイ、治癒魔法かけたからもう痛くないでしょっ!じゃあこれで契約完了ね、ムフフー♪じゃあ一枚は創造者様のところへ送って、っと。ハイ、もう一枚は控えになるから無くさないで大事にしまっておいてね♪」


目の前で契約書の一枚が消え、もう一枚がマルクに差し出された。


こうして・・・、自らの「自由意志」により「自主的」に、没落貴族マルク・ホーバットは女神と救世主の契約を結んだのであった。

お読みくださりありがとうございます。


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