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天下の再構築 ~信長幼将戦記~   作者: 飛里信成


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第六章 継承 都の統治者(9)

 建屋の一番奥まで逃げ込んだ四人の若い工人たちは隅の物陰に隠れる様にして座り込んでいた。


「はぁはぁ、危なかったな」

「もう少しで成敗されるところであった」

「ちょっと作戦を間違えたか?」

「そうだな、一つ目小僧の方が良かったと思うぞ」


 四人は鬼面による恐怖を煽っての追い出しが最初から十兵衛に気付かれており、演技を装って逆襲されていた事に気付いていなかった。


「どうするか、困ったな」

「帰ってくれそうにないよな」


 相手は太刀を手にした武家の者、力ずくで追い返すのは危険を伴う。四人はこのどうにも出来ない状況に困惑していた。


 するとその時、隣の棟の作業場から一人の壮年の男が通り掛かった。男は四人が妙な格好をしてコソコソと物陰に隠れて集まっているのが気になった。


「ぬしらこの様な所で何をしておるのだ、ゴキブリごっこか?」


 不意に声を掛けられた四人は思わずびくっとしたが、十兵衛とは異なるその男の姿を見て安堵し声を上げた。


「お師匠!」


 現れた男は四人の師匠であった。


 問題に対して自分たちではどうにもならなくなった状況での師匠からの声掛け、四人はこれまでの経緯を男に説明した。


「そうか、では儂が会おう」


 四人から話を聞いた壮年の男の対応は早かった。男はそのまま四人を引き連れて十兵衛のいる部屋へと向かって行った。


 十兵衛はその時部屋で一人、茶碗の中の茶柱を眺めながら次の展開を想定していた。


 もしかしたら彼らは更に人数を増やして自分を追い帰しに来るかも知れない、その時に自分はどう対応するべきか、更に強くごねて暴れてみるか、しかし藤九左衛門への依頼交渉を前にあまり事を大きく荒立てたくはない。


(今日はもう潮時か…)


 そう考えるともう潔く帰るという選択肢も必要かも知れないと思う、しかし明日訪れた時に必ず面会できるという保証は無い。もしかしたら今度は工場の中にすら入れてもらえないかも知れない。そう考えるとやはり今日もう少し粘った方が良いとも思う。十兵衛は自身の考えを堂々巡りさせていた。


 するとその時であった。


 廊下から聞こえる幾歩かの足音の後、先程の若い工人たちを引き連れて四十歳代と見られる壮年の男が十兵衛のいる部屋の前に現れた。


(この男だ、間違いない…)


 十兵衛はその男の姿を目にした時、一目でその男の持つ高い工人としての品格を見抜いた。十兵衛は深々と頭を下げると一礼して口上を述べた。


「夜分に突然の訪問、大変失礼致します。藤九左衛門殿とお見受け致す。私は京の幕府の者で明智十兵衛と申します。此度管領細川様に従って国友に訪れ、善兵衛殿に鉄砲製作の依頼をさせて頂いた所、善兵衛殿が申されるには、この国友で他に三人の協力が必要とのこと、藤九左衛門殿はそのお一人にて、是非ともご協力のほどお願い申し上げまする」


 十兵衛は壮年の男を前に一気に言上を述べると、座したままに再度会釈をした。


 すると現れた壮年の男は部屋の前で十兵衛に向かって話し返した。


「十兵衛とやら、如何にも儂が藤九左衛門である。此度は幕府の代表として鉄砲製作の依頼との事だが、儂は決まった客の依頼しか受けぬ事にしておる。善兵衛殿の指名は残念であるが、ぬしの依頼には応じられぬ」


 藤九左衛門は十兵衛の依頼に対して、即座に断わる意向を示した。


(一見さんお断りか、これはまた厳しい…)


 藤九左衛門は客との意思疎通を第一に考え、以心伝心で作業が進められる昔からの馴染みの客の依頼にしか応じていなかった。その様な関係は一朝一夕にして成し得るものでは無く、長い時間を掛けて築き上げてきているもので、突如鉄砲製作の様な難解な依頼を持ち込むのは論外なのであろうと思った。


 しかしだからと言って即時に引き下がることは出来ない。


「そこを何とか、御頼み申す」


 十兵衛はこれまでと同様に必死に食い下がった。


「いや、何とかと言われてものぉ」


 藤九左衛門は十兵衛に困惑の表情を見せた。するとその師匠の表情を見た若い工人の一人が叫んだ。


「いい加減もう帰れ!」


 自分の師匠を困らせる男、その様な者にいつまでもこの場に居座って欲しくない。その様な思いから発せられた一言だった。その思いは他の三人の若い工人たちも同様である。


「帰れ、帰れ」

「帰れ、帰れ」

「帰れ、帰れ」

「帰れ、帰れ」


 四人は師匠が断りの意向を示した事に乗って、強気な態度で追い帰そうと十兵衛に迫った。


「おぉっと!」


 それに対して十兵衛は突如わざとよろける様にして太刀を拾い上げた。その瞬間、若い工人たちは先ほどの鬼に扮して成敗されそうになった時の記憶が蘇り、無意識に皆で藤九左衛門の背後に隠れた。十兵衛のその動作は若い工人らを黙らせるのに十分な効果を発揮する様になっていた。しかしそれは藤九左衛門に対しては違和感を与えるものだった。


「十兵衛殿、ぬしの太刀は何だ!」


 藤九左衛門は十兵衛の太刀から発した微かな金属音に反応して叫んでいた。若い工人たちには何のことか分からない、しかしその時十兵衛は一瞬で見破られたと思った。


「抜いてみよ、十兵衛殿、その太刀を」


 その言葉に十兵衛は困惑した。出来ればこの太刀の抜いた所は見せたくない。しかし藤九左衛門にそう言われて抜かぬ訳にもいかない。十兵衛は複雑な思いの中で太刀を抜いて見せた。


 その太刀はほとんど柄だけで刃が無かった。これでは争いになった時に戦えぬばかりか、武家の者としての威厳も無い。


 若い工人の四人はその十兵衛の刀を見て爆笑した。


「何じゃ、それは見えない刀か? 空気刀か?」

「いや、ちゃんばらごっこ用だろう」

「京の幕府の中ではやっておるのか?」

「本物をずっと腰に吊るしておると重いからな」


 四人は十兵衛が楽をしながらも武家の威厳は保ちたいと思って、刃の無い太刀をかざしているのだと思った。自分たちはこんな殺傷能力の無い太刀に怯えていた、そう考えると更にその可笑しさが増強されていた。


 しかしこの時、藤九左衛門の見方は違っていた。


(この男の話の受け答えは見た目の年以上にしっかりしている。この太刀には恐らく何か理由があるのだろう)


 藤九左衛門には十兵衛が帯刀で楽をする様な者には見えなかった。


 十兵衛には幕府の使者としてこの様な時間に交渉に訪れるこの若者には自分の任務を全うする事に必死になっている様子が窺える。恐らく困難な状況に対しては何でも必死に熟そうとしてきており、恐らくこの太刀もこれまでの状況の中でこうなったのだろうと思う。


(この様な若者がおるのか…)


 藤九左衛門は今の統治機能が衰退してきている現在の幕府に中に、この様な若者がいることがいることを驚いた。藤九左衛門の十兵衛に対する見る目が変わる一方の中で、四人の若い工人たちの十兵衛に対する雑言は続いていた。


「わざわざ鬼の面まで持ってくることなかったよな~」

「全くだ、あの様な太刀と分かっておれば即刻追い出しておったわ!」

「大方、太刀があっても使えぬのではないか」

「幕府の武家も落ちぶれたものだね~」


 若い工人の四人は十兵衛の太刀に安心して雑言を繰り返していた。


(ふっ、全く比べ者にならぬ)


 藤九左衛門は十兵衛と十兵衛を嘲笑する自分の弟子たちを見比べながら、十兵衛の使命とその生きる重さ感じていた。そしてその様な若者を助けてあげたいという思いが生じ始めていた。


 藤九左衛門は十兵衛にふと笑顔を見せて言った。


「十兵衛殿、分かった、ぬしの依頼を受けよう、今の依頼が完了したらさっそく鉄砲製作について検討させてもらいたい」


「えぇ?!」


 再度強く依頼を断ると思っていた若い工人たちはその師匠の言葉に驚いた。紹介も無く突然訪問してきた者の依頼を受ける。それはこれまでに無い極めて異例な師匠の対応だった。


 しかしその藤九左衛門の返答に対しても十兵衛は納得しなかった。


「いえ、藤九左衛門殿、是非とも今からお願いしたい」


「えぇ!?」


 若い工人たちは今度は十兵衛の返答に驚かされた。師匠のこれ以上無いであろう異例で破格の返答に対して、十兵衛は当然それを受け入れると思っていた。


 十兵衛自身も藤九左衛門が現状可能な最良の返答をしてくれていて、それに納得しない自分の返答が如何に身勝手であるかは重々承知していた。しかし今の一刻を争う幕府の状況であれば、一刻も早く藤九左衛門に対応してもらうのが自身の使命であり、今から直ぐに、という点においても是非とも通したいと思う。


 しかし藤九左衛門は部屋に入って十兵衛の面前に座すと、十兵衛を諭す様にして応えた。


「十兵衛殿、それは無理というものじゃ、今は別の客との間で製作中のものがある。十兵衛殿の依頼を優先しその客の納期が遅れれば、その客が困り我らの信頼関係が崩れる。儂はそれを望まぬ」


 最大限の譲歩をしたつもりであった。それでも十兵衛の納得は得られないことに藤九左衛門は困惑していた。


 この後、暫く部屋の中では行灯の灯火が揺らぐだけの時間が流れた。


(さすがにこれ以上は無理か…)


 十兵衛は思った。


 自分も大分交渉を粘って来たが、さすがに藤九左衛門殿も旧知の客に迷惑をかけることは受け入れられるものではなく、これ以上の譲歩は得られない様に思われる。もう自身も妥協の方向を考え始めなければならない。


 十兵衛は三度茶が注がれた茶碗を手にした。中を覗くと幾つもの茶柱が上下にうようよと浮き沈みしているのが見えた。


 その時であった。


「旦那様、また客人が」


 そう藤九左衛門に話し掛けたのは最初に案内してくれた工場の下男の者であった。その男の後ろには四人の男たちが連なっている。


「すまぬ、めっきり来るのが遅くなった」


 四人の先頭で来た男が藤九左衛門に話し掛けた。それは藤九左衛門が本来待っていた客人であった。


「えっ、あなたは?」


 十兵衛はその客人の顔を見て驚いた。


「大立者、やはりまだここにおったか?」


 その客人は橋本一巴であった。驚きの表情を見せる十兵衛に更に一巴の背後にいた者たちが話し掛けた。


「十兵衛ぇ、もう話はまとまったかぁ?」

「宴ぇ、今日一の活躍の見せた大立者のぬしがおらんでまとまらぬ状況ぞぉ」

「さっさと連れて来いって、我ら言明されて来たわぁ」


 一巴の後ろからついて来た三人は兵衛四郎の工場の治五郎、徳二郎、勘三郎の三人だった。三人は宴の途中、兵衛四郎らに早々に連れて来るように言われ、抜け出て来た様であった。


「お二人はお知り合いでしたか?」


 一巴は近く美濃攻めに際し、旧知の藤九左衛門に大量の矢の製作を依頼していた。藤九左衛門は十兵衛と一巴が顔見知りである事を意外に思いながら訊ねると、一巴はニヤッと笑みを浮かべて答えた。


「藤九左衛門、その男は凄いぞ、今国友の中広場では山法師との戦いに勝利した戦利品の百済寺樽を囲って宴が開かれておるのだが、この男の話で持ちきりじゃ、自らの太刀を折りながら兵衛四郎を助けて、その後も更に凄腕の山法師と壮絶な太刀回りを見せておったとな」


(えぇ!!) 


 その話を聞いた若い四人の工人たちは驚いた。


 先ほどの刃の無い太刀は持ち歩きを楽をするためではなく、山法師との命を掛けた戦いによるもの、その話を聞いた若い工人たちは驚くと同時に、折れた刀を見て笑い飛ばしていた自分たちの言動を恥ずかしく思った。この十兵衛という同年代の男は太刀を振り、自らの命を張って、人を助けることができる。そして幕府を代表して鉄砲製作の依頼を背負っており、命の使い方、時間の使い方が自分たちと比べ物にならない程に大きい。


(こいつ、半端ねぇ…)


 若い工人たちの十兵衛を見る目は完全に変わっていた。


 しかし当の十兵衛はそんなことを自慢する訳でもなく、その時の自分に足りなかった部分、今後の自分に必要な部分を気にする。


「いえ、最後は一巴殿に助けられまして」

「そうだったな、ははは」


 二人の会話の様子を見ていた藤九左衛門は一度若い工人たちに目を向けた後、一巴に向かって言った。


「ところで一巴殿、御注文の矢の件だが…」

「おう、そうそう、どうじゃ、進み具合は?」


 二人は同年代で一巴は長年自身が戦で放つ矢を藤九左衛門に依頼していた。一巴の弓矢の命中精度の高さは藤九左衛門の製作の技術があってこそであった。


「それが三百本ほどは完成したのですが、残り二百本はまだこれからにて」

「そうか、だが納期までひと月ある、十分間に合うであろう」


 一巴は藤九左衛門の話を聞いて矢の製作自体は順調であると思った。すると藤九左衛門は今度は一度十兵衛の方を振り向いた後、申し訳ない表情を浮かべながら一巴に言った。


「一巴殿、そこなのだが、数を減らすか、納期を遅らせてもらえぬであろうか?」

「何?」


 それはこれまでに無い藤九左衛門の申し出であった。旧知の客を大事にする彼が一度自分と決めた約束を覆そうとしている。戦に持ち込む矢の数は重要である。藤九左衛門は当然それを知ってこの様な申し出をを行っている。一巴はその申し出に対する藤九左衛門の真意を探った。


(原因は十兵衛か…)


 この時、藤九左衛門の隣りにいた十兵衛が驚いた表情をして藤九左衛門を見ていた。十兵衛は一巴の視線が自分に向けられているのを見ると、自らその理由を話した。


「申し訳ありませぬ、一巴殿、私が幕府の使いにて鉄砲製作の依頼を本日より早急にてとお願いしておりました」


「そうか」


 一巴は十兵衛の話を聞いて困惑の表情を浮かべた。藤九左衛門が自分の依頼を中断して他の依頼を優先しようとしている。それは普通であれば有り得ない。しかし兵衛四郎を助けたこの十兵衛の依頼となれば、それは有り得る話だと思う。きっと藤九左衛門も十兵衛の心意気に接して助けるべきと思ったのであろう。藤九左衛門の思いが以心伝心で伝わる様な気がした。


「うーむ、まぁ、いいだろう」


 そう言って一巴は藤九左衛門と十兵衛に笑顔を見せた。


「申し訳ない、一巴殿」

「一巴様、ありがとうございます」


 藤九左衛門と十兵衛は一巴の承諾に対し、即座に礼を述べた。


「実は内緒の話だが此度の美濃攻めは斉藤方に圧力を掛けるのが目的で、本格的な戦にはならぬであろうとの見通しでおる。恐らく三百本あれば大丈夫あろう」


 それは思いがけぬ一巴の計らいあった。これで藤九左衛門も即座に鉄砲製作に目を向ける事ができる。善兵衛の挙げた三人が揃う。十兵衛はここに来て始めて安堵の表情を見せた。しかし一巴はそんな十兵衛に厳しい表情を向けた。


「ただし、一つ交換条件がある」


 その一巴の一言に十兵衛は身構えた。


 一巴は法外な金銭とか、残りの矢の支払いの肩代わりなどを要求して来るのかと思った。


「な、何でしょうか?」


 十兵衛は恐る恐る訊ねた。要求が法外な金銭となれば自分の判断できる所では無くなり、これまでの話が降り出しに戻ってしまう。ここまで来て、それば非常に困る。


 十兵衛が身構えると一巴は再度笑顔を見せて言った。


「鉄砲が出来たら是非儂に試射させてくれ」

「えっ、弓の達人の一巴様に鉄砲の試射を?」


 十兵衛は一巴の要望が金銭では無かったことに安堵しつつ、意外な要望に驚きの表情を見せた。そんな十兵衛を見て、一巴はまた笑顔を見せた。


「今、何かと堺商人の中で話題となっている鉄砲だが、同じ飛び道具として儂は興味があるのだ、是非今の弓との比較評価を行いたい」


 それを聞いて十兵衛も笑顔を見せた。


「一巴様、それは是非、こちらからもお願い致したい。一巴様の様な方に鉄砲の評論をしてもらえれば、国友の鉄砲技術も短期間で飛躍致しましょう」


 藤九左衛門の工場では鉄砲製作を優先するという話は、この後、急速にまとまっていった。


「さぁ~、十兵衛を連れて行くぞぉ」

「早う戻らねば百済寺樽、飲みつくされるぞ」

「早う、皆さんも準備をされてください」


 治五郎、徳二郎、勘三郎の三人は周囲に百済寺樽の銘酒臭を振り撒きながら、藤九左衛門らに宴への参加を煽った。


「いや、良いのか、一巴殿」

「よいよい、先ずは儂ももう一度行くから久々に一献飲もう、ぬしらも来い」


 そう言って一巴は若い四人の工人たちも誘った。


「えっ、我らも?」

「参加して良いのか?」

「いや、でもな」

「うん、ちょっとな」


 若い四人の工人は自分たちも誘われたことに気兼ねする思いがした。十兵衛が立役者として開かれている宴、恐らく場違いな思いをするのではないか、という気がする。


 すると師匠の藤九左衛門が四人に向かって言った。


「ぬしらは是非参加すべきだ。日々技術を磨きその腕は成長していても、工人として生きるための成長には不十分じゃ、我らの仕事は幅広い人の関係の上に成り立っておる、それを感じる良い機会だ」


「分かりました、師匠」


 多くの人と接する機会を得ながら自分の能力を発揮できる場を求めていく。今回の十兵衛を見て思った。藤九左衛門は若い四人に対して、十兵衛の様に積極的に外で活躍することができる様にならなければならない、この宴への参加はその切っ掛けになればと思った。


「さぁ、行くぞ!大立者の騎馬を組め!」


 皆の準備が整い一巴がそう号令を掛けると治五郎、徳二郎、勘三郎の三人は腕を重ねて騎馬を組んだ。


「えっ、いや、それはちょっと」


 少し戸惑う十兵衛であったが、一巴に促されてその騎馬に跨ると、騎馬は皆が待つ中広場の宴に向けて小走りに進み始めた。直ぐ後に一巴と藤九左衛門、そして若い四人の工人が続く。


 十兵衛は皆より少し高い位置で、皆を見下ろしながら藤九左衛門への依頼の交渉について振り返っていた。


(粘って念じていれば状況は変わる…)


 何度か挫折しかけたが、最終的には藤九左衛門に依頼を了承をしてもらえた。しかし振り返って考えてみると、自分は依頼を無理強いして粘っていただけで、藤九左衛門が了承の方に思いが傾く展開になった時の要因が思い付かない。


(要因はあれかな?)


 辛うじて浮かんだのは茶碗の中で浮き沈みする茶柱だった。運が良かっただけという事かも知れない。しかしそれはそれで大事な事の様にも思えた。


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