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天下の再構築 ~信長幼将戦記~   作者: 飛里信成


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第五章 女房鉄砲仏法 笠寺の姫(12)

 時は亥の刻となり、屋敷の中のあちらこちらで開かれていた宴席も、残り僅かな状態となっていた。


 台所の捜索を終えた信元とその妻の春、一益、益氏、又兵衛、勝三郎の六人は先程まで宴を開いていた部屋に籠り、笠寺からの地図を描きながら今後の策を議論していた。


「叔父上の大高を中心に沓掛への道は全て封鎖した。直接岡崎に抜ける道は、緒川と信近の刈谷で押えており、知多を南に迂回する道は森隆の常滑と、我ら親類筋の寺本の花井で押さえる。これで東に向かう事は容易ならぬ」


 信元は地図上に各拠点を記しながら、東の三河へと続く道を封鎖した事を説明した。


「なるほど、これであれば東へ抜ける事は出来ぬ」

「うむ、初手としては最良じゃな」

「問題はここからね」


 一益、又兵衛、春が地図を眺めている中で信元は話を続けた。


「今の課題は半蔵らが現状何処におるかという事じゃ、吉法師殿が浚われた時には未だ潮が引いておらんかった。その状況で吉法師殿を押し込んだ酒樽を運びながら渡れたかどうかは疑問で、未だこの笠寺におる可能性もある」


 信元の説明が終ると、又兵衛が地図の舟着場の指差しながら訊ねた。


「舟で渡る可能性もあると思うが、舟着場の方は如何じゃ?」


 その又兵衛の質問には春が答えた。


「夕方雨が降り始めた後は、何処に向かう舟も波風が強くて出せていないわ、恐らくこの数日は風が強く、舟での移動は無理ね」


 この春の返答に又兵衛が納得して頷くと今度は一益が訊ねた。


「そうすると半蔵らは未だこの笠寺に潜んでおる可能性もあるのではないか?」


 皆が一益の方を振り向く中で一益は地図上の笠寺を指して言った。


「この笠寺で数日風が止むのを待ち、その後一度熱田湊に出て、そこから大型の安宅船で一気に三河や駿府を目指す事も考えられる様に思うが」


 この一益の意見に、これまで陸上で包囲する事しか考えていなかった信元は少し戸惑った。


「なるほど、しかしこの笠寺で数日潜み熱田から安宅船となると、大きな者の力が必要になるな」


 そこで一益には思い当たる人物がいた。


「ここ笠寺の戸部新左衛門が関わっておれば可能じゃ」


 戸部新左衛門は笠寺の地元領主であった。元々一益たちは戸部に鉄砲を披露する予定で笠寺を訪れ、また又兵衛と勝三郎は戸部を訪れる松井友閑に付いて、吉法師と共に笠寺を訪れていた。


「確かにあの者が関わっておれば、一時的に吉法師を隠す事は可能じゃな」

「それに熱田で安宅船を密かに手配することも可能かも知れないわね」


 地元の領主が吉法師を浚った服部半蔵と裏で結託しているかも知れない、それは衝撃的な意見であった。


「もしそうであったとなると今の我らでは太刀打ち行かなくなる」

「いや、しかし本当に関わっておるかは分からぬ」

「戸部の動向を探って置く必要がありますね」

「うむ、やはり応援が欲しい所じゃの」


 その信元の言葉を受け、それまで地図とにらめっこしていた勝三郎は意を決した様に又兵衛に向かって言った。


「又兵衛、我らは風が止む前に陸路で熱田と那古野に戻って応援を依頼し、西への非常線を張ると共に、熱田から笠寺の舟着場を押さえよう」


 勝三郎は水野家による非常線が東のみで、西の方はがら空きになっている事が気掛かり思っていた。勝三郎も今の事態に対して、子供ながら一生懸命対応しようとしていた。


「それは良き案じゃ、それであれば熱田から安宅で一気に東へ抜ける事は出来ぬ」

「西の伊勢方面に抜ける事も押さえる事ができますね」

「うむ、東西で非常線を張る事が出来れば、その後包囲網でも展開しやすい」


 一益、春、信元の三人は幼い勝三郎を健気に思いながら褒めたが、又兵衛は少し驚きを現して訊き返した。


「良いのか、勝三郎、那古野で吉法師殿の失踪の話が御家老に伝われば、その場で責任を問われるのではないか?」


 勝三郎は目の前の地図に西側の包囲網を描き足しながら言った。


「確かに那古野でご家老に知れたらその場で大問題となり、真の追求を受けると思う、故に那古野では内密にて同志を募るつもりじゃ」


 勝三郎の言葉には吉法師救出に対する強い思いが込められていた。又兵衛と信元はそんな勝三郎に関心した。


「分かった、勝三郎」

「よし、先ずは東西で非常線を張ろう、相手の行く手を抑えた後に完全包囲して、追い詰めて行こう」


 皆の方策がまとまる中、勝三郎は再度押し黙っていた。


 この自分の意見が最後どの様な結果になるかは分からない。もしかしたら余計に事態を悪化させる方向に働き、吉法師失踪の責任を更に重くさせる事になるかも知れない。それを考えるとこの先の恐ろしさが湧いてくる。であるからこそ、これで駄目なら致し方無いと思える方策にしたかった。


(後はやるしかない)


 勝三郎は皆が自分の考えに笑顔で同意する事に対して、緊張感を籠らせながら笑みを見せた。


 勝三郎と又兵衛が出立の準備を始める中で、信元は一益に訊ねた。


「一益殿、儂らは対岸の大高に入り、東への非常線の指揮をとるが、一益殿は如何致す?」


 この信元の問い掛けに一益は少し考えた後、勝三郎と同様に意を決するかの様にして言った。


「儂は益氏と共にもう少し笠寺に残って半蔵の足取りと、戸部の動向を探ろうと思う。上手く行けば後ろから包囲網に追い込む事ができるじゃろう」


「なるほど」

「うむ、良い案じゃ」


 その案について信元と又兵衛は理解を示したが、春は心配事がある様に思えた。


「一益殿、相手はあなたも良く知るあの半蔵ですよ、あなたには三人のお子もおれば、この笠寺の領主の戸部新左衛門の関わりも分かりませぬ、安易な行動は危険です」


 その意見は尤もであった。


 一益は里の上忍として君臨する半蔵を、里の鉄砲を勝手に持ち出した分際の立場で、逆にその足取りを取ろうとする事は、極めて難事であると理解していた。


 部屋の端では慶次郎と天心が遊んでいた。春の言う通り、この子供たちまで危険に晒す事は出来ない。一益が言葉を詰まらせていると又兵衛がそれを見かねて言った。


「一益殿、無理をせずとも良い、儂が熱田からこちらに応援を出すから」


 しかしその又兵衛の言葉に一益は首を横を振った。


「いや、我らが原因で吉法師殿は浚われたのじゃ、少なくとも相手の居場所が特定出来るまでは何もせずにはおれぬ」


 一益は強く責任を感じていた。


「うーむ、やはりここも応援の人足がが欲しい所じゃのぉ」


 信元がボソッと呟いた時であった。


ガラッ


 徐に部屋の襖が開くと同時に、一人の女性が入って来た。


「あー、皆戻って来てる!」


 森隆の妻の照であった。照は部屋に入って来ると同時に、慌てた様子で皆の近くまで寄って来て言った。


「誰か玉ちゃんを知らない?着物を着換えに出て行ったきり戻って来ないの」


 その照の言葉に皆がどよめいた。


「何ぃ、玉もいなくなったのか?」

「まさか吉法師様と一緒に浚われたのではあるまいな」


 親代わりとなっている一益と益氏は心配になって、即座に廊下に飛び出して行った。


「玉ぁー!」

「玉ぁ!、玉ぁ!」


 二人は玉の名を叫びながら、所かまわず屋敷の中を探し始めた。一方でこれまで生活を共にしていた慶次郎と天心の二人の子供は気楽にしていた。


「ふぁー、玉の事じゃ、きっと何処かの宴席に紛れ込んで御馳走を漁っておるのじゃろう」

「いや、玉の事じゃ、着替える前にあの着物姿で玉の輿先を探しておるのではないか」


 慶次郎は天心に言われた玉の姿を想像した。


 その玉は着物を纏って愛想を振り撒きながら、美味しそうな料理に周りを囲まれている。


「なるほど、それも有り得る」


 慶次郎と天心は互いを見て薄笑みを浮かべていると、春と照が近付いて来て、二人に声を掛けた。


「さぁ、一緒に玉ちゃんを探すわよ」


 皆は手分けして再度、今度は玉の姿を求めて屋敷内を探し始めた。


(早く玉殿を見つけて、那古野に向かわねばならぬ)


 勝三郎は焦る気持ちを抑えて、又兵衛と一緒に屋敷の廊下を探していた。すると奥座敷の二階から聞き覚えのある声が聞こえて来た。


よいよいちー

よいよいちー


 勝三郎と又兵衛は思わず目を合わせた。


「おい、又兵衛あの声は?」


 又兵衛もまさかと思いながらその声のする座敷の入り口の襖を開けた。


よいよいちー

よいよいちー


 そこには那古野の弓対決で対戦した岡田助右衛門と下方左近が三人の商人たちと酒を飲みながら陽気に与一の舞を踊っていた。


「あー、やっぱり助右衛門と左近じゃないか!」


 驚く勝三郎と又兵衛は踊っている助右衛門と左近の隣を見て再度驚いた。


「あぁ、玉じゃないか!」


 そこには玉が華やかな着物衣装を着たまま一緒に踊っていた。


「こちらじゃ、こちらにおりましたぞ!」


 又兵衛が廊下で捜している皆に声を掛けると、他の皆もこの座敷に集まって来た。一益と益氏は真っ先に飛んでくると玉を抱きしめながら声を掛けた。


「探したぞー、玉ぁ~」

「本当に心配したぞー」


 その時、又兵衛と勝三郎は助右衛門と左近に質問をしていた。


「二人ともなぜここにおるのじゃ」

「あぁ、それにあの娘を連れ込んで躍らせているというのはどういう事じゃ、まさか浚って来て無理矢理躍らせていたのか?」


 突然の又兵衛と勝三郎の乱入に驚いた助右衛門は、踊りを止めて言った。


「儂はこの笠寺の近くの出でなぁ、今し方この笠寺に戻って来た時に、久々に幼馴染のこの者らと出会って急遽一席設ける事にしたのじゃ」


「そうそう、それにあの娘っこは我らが連れて来たのではなく勝手に自分で来たのじゃぞ、儂はぬしらの縁の娘かと思うておったわ」


 そう言って、左近は三人の商人の方を見た。


「いやいや、我らは逆にこの娘っ子は二人の知り合いと思うておりましたわ」

「ああ、我らがこの様な奇麗な着物姿の娘っ子に知り合いがおる訳なかろう」

「どう見ても、御武家の御息女さんじゃ」


 この宴席の場には、玉が自らの意志で入り込んでいる様であった。


(どういう事じゃ)


 皆が玉に視線を向ける中で、玉はその理由を述べず押し黙っていた。その中で慶次郎と天心が呟いた。


「やはり、ここの料理のお零れを頂こうとしておったのじゃろう」

「いや、あの玉が着物で踊っておったのじゃぞ、玉の輿狙いに相違あるまい」


バキッ


 勝手な推測をする二人に玉は無言のまま拳を喰らわすと、口を重そうにしながら答えた。


「実は廊下でここの皆とすれ違った時、吉法師様の名を口にしておったのを耳にしたのじゃ、それでこの者たちが吉法師様の行き先を知っておるのではないか思うて、ここに潜入しておったのじゃ」


 これを聞いて皆が笑顔になった。


「ははは、そういう事であったか」

「何じゃ、玉の勘違いであったか」

「まぁ、大事無くて良かった」


 皆が安堵する中で、玉は一筋の涙を流した。


「玉ちゃん!?」

「お、おい、玉…」


 一益も益氏もこれまで見せた事の無い玉の表情に戸惑った。


 すると玉は悲しみを抑え、絞り出す様な声で言った。


「この着物…、今日吉法師さまと出合わねば着る事は無かった、食事だって寝る場所だってどうなったか分からない、吉法師さまは我らをこれからの思い出を共有する家族と言うてくれた、それなのに、突然いなくなってしまって…」


 玉は自分の事の以上に突然姿を消した吉法師の身を案じていた。そこまで他人を思いやる玉を、一益も益氏も、そして慶次郎も天心もこれまで見た事が無く、大いに戸惑っていた。


(そこまで吉法師殿の事を…)


 皆が押し黙る中、助右衛門と左近は皆よりも驚いた表情で勝三郎と又兵衛に問い詰めた。


「ちょっと待て、勝三郎、又兵衛、吉法師様がいなくなったと言うのはどういう事じゃ?」

「そう言えば、吉法師様の姿が見えぬ、まさか浚われたのか?」


 二人の問い掛けに又兵衛は平然と答えた。


「先程この皆で宴席を行っている中、突如厠に行くと言って離席した後そのまま消えた、今まで捜しておったのじゃが、どうやら伊賀の半蔵に浚われたと思われる」


 それを聞いて助右衛門と左近は驚いた。


「何じゃと、大変な状況じゃないか?」

「それで何処に向かったのか分からぬのか?」


 驚く二人に又兵衛はまた平然と答えた。


「今の所分からぬ、そうだ、ぬしらこの笠寺に参る途中、吉法師殿を見ておらぬか、恐らく酒樽に押し込まれて運ばれておると思うのじゃが」


 二人はここに来るまでの道中を思い返して見たが、それらしい者たちとすれ違った記憶は無い。


「いや、儂らはその様な者たちは見ておらぬ」

「うむ、それらしき者たちには会おうておらぬな」


 助右衛門と左近が首を左右に振るその後ろで、三人の商人たちは一つの心当たりと共に囁きあっていた。


「おい、酒樽って、まさかあの時の神輿じゃ」

「そうじゃ、きっとあれじゃ」

「うむ、確かにあれは何か不自然な雰囲気があった」


 その囁きを耳にした左近は三人に訊ねた。


「何じゃぬしら見たのか?」


 皆が注目する中で、三人の商人たちはその時の様子を話し始めた。


「我ら今日はたまたま戸部様の御家来衆の用事で笠寺に来たのじゃが、門前町の入口で大変な人の集まりがあって、我らも一緒に観ておったのじゃ」

「その集まりの事が戸田様の耳に入った様で、その様子について訊ねられたのじゃ」

「御方らの弓と鉄砲の対決ですな」


 そう言って商人たちは又兵衛と一益の方を見た。それは昼間に行った弓と鉄砲の異種対決の事であった。


「ほぉ、その様な面白そうな事をしておったとは」

「うむ、儂らも参加したかったのぉ」


 助右衛門と左近が異種対決の話に食い付き、又兵衛が思わず苦笑する中で、商人たちも思い出し笑いを浮かべて話を続けた。


「それが我らが戸部様と話をしたのは、戸部様の寄進した仏像の前でな」

「戸部様はご自分の仏像の首が落とされた挙句、上下逆さまに置かれ立腹しておりましたな」

「まぁ、我らはそこから新たな商売ねたを得たがな、ははは」


 酔った延長で酒の肴の様な話をする商人たちであった。この当該の一益と勝三郎は思わずまずいという顔をしていた。


「それで酒樽を運んでいた者たちはどんな様子だったのじゃ?」


 信元が話の本筋を訊ねると三人は話を戻して言った。


「その時酒樽を神輿に担いで運ぶ者たちは四人で修験者の様な格好をしておったな」

「足音を押し殺しながら早々に我々の横を運んでおった」

「うむ、時間も遅く何か尋常ならぬ違和感があったな」


 これを聞いて皆の意気込みが上がった。


「間違いない、その者たちじゃ!」

「やっと尻尾を捕まえた!」

「それでその者たちは何処の方向に向かって行ったのですか?」


 春の問い掛けに商人たちは、少し考えて答えた。


「確か対岸に続く方に向かっていたな」

「じゃがあの時間、潮が満ち始めていたから、そのまま渡れたかどうか」

「いや、北の方に深みを避けて渡れる場所がある、あの場所なら渡れたはずじゃ」


 これを聞いて信元が言った。


「北から対岸に渡ったとすれば、その後の向かう先は沓掛に間違いなさそうじゃな、だがそのためには幾つかの川を渡らねばならぬ故、東への非常線を張った今の非常線で沓掛への道は阻止できるであろう」


 又兵衛は更に助右衛門と左近に声を掛けた。


「儂らはこれから西への非常線を張りに熱田と那古野に向かう、こちら水野殿はこれから大高から東の防衛線に入る、ぬしらにも吉法師殿の救出を手伝って欲しい」


 二人はまだ状況が良く把握出来ていなかったが、とにかくこの状況を知る中で酒を飲み続ける訳には行かないと思った。自然と二人は捜索の仲間にと加えられていた。


「分かった、で、我らは如何すれば良い?」


 訊ねる助右衛門に又兵衛は答えた。


「この笠寺から足取りを追ってくれるか、ちょうど応援が欲しかった所なのじゃ、詳細はこちらの一益殿に訊いてくれ」


「分かった」


 又兵衛が伝え終ると、春が侍女の二人を連れて来て皆に言った。


「我らはこれから早速大高へと参ります。この後の皆さんとの連絡には我ら水野の侍女を使いに出します、それでは吉報を」


 そう言うと春は二人の侍女と共に一瞬にしてその場から姿を消した。それを見ていた慶次郎は料理を口にしながら天心に声を掛けた。


「おい天心、あのおばさんも消えたぞ、すげー」

「いや、という事はさー、あ、やっぱり」


 天心は先程と同じ状況に、再度同じ展開を予見していた。


「お、おい、春、じゃまた皆の衆、ちょっと待ってくれー」


 信元は慌てて袴の裾を掴むと既に見えない春を追いかけて行った。


「照殿、ぬしは行かぬのか?」


 又兵衛は水野家で一人残った照に声を掛けた。


「えぇ、私は後から玉ちゃんと一緒に行くわ」


「そうか」


 そして又兵衛は次に勝三郎の方を見て言った。


「よし儂らも行くか、勝三郎」

「うむ、それでは皆の衆、お元気で」


 そう言って二人は笠寺に残る一益、益氏、照、慶次郎、天心、玉、そして助右衛門、左近と一通り顔を合せた後、吉報を願って屋敷を離れた。


 夜の笠寺の門前町は行き交う人影も無く静まり返っていた。


 勝三郎はこの笠寺を離れる時に吉法師がいない事に寂しさが募った。本当にこのまま離れて良いのか、一方でそう思うが、一刻も早く同志を集めて西への非常線を張るという難題を進めなければならない。


 勝三郎は後ろ髪を引かれる思いの中、又兵衛と共に地蔵が立ち並ぶ道を小走りで進んだ。穏やかな顔をした道の地蔵たちは、何か自分を見送ってくれている様に思え、その顔は楽しい時間を過ごした皆の顔と重なっていった。そして吉法師救出への思いは皆の中で家族の様に一つとなりながら、知恵と行動を分け合い動いている。


(皆と共に吉法師さまを救出する、この笠寺は良き思い出の場としなければならぬ)


 そう思った瞬間、勝三郎の目の前に笠寺観音の姿が浮かんだ。勝三郎は笠寺観音の御加護と共に、吉法師の救出に自信が湧き上がって来るのを感じていた。


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