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天下の再構築 ~信長幼将戦記~   作者: 飛里信成


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第五章 女房鉄砲仏法 笠寺の姫(5)

 吉法師と勝三郎が一益に捲し立てていると、弓射ちの準備をしていたはずの又兵衛が慌てて駈け寄って来た。又兵衛は二人の元気そうな姿を見ると、ほっと息をついて言った。


「何事ですか、今の銃声は?」


 準備半ばに心配して飛んで来た又兵衛に、吉法師は少し一益への怒りを収めて言った。


「一益が鉄砲を暴発させたのじゃ、危うく命を落としそうになったがの」


 すると又兵衛は安堵を込めた笑みを浮かべながら言った。


「左様でしたか、御無事で何より、しかし良い宣伝になった様ですな」

「宣伝?」


 吉法師と勝三郎は又兵衛の言ったその意味が理解できずにいると、又兵衛は笑みを浮かべたまま沿道の方を指し示した。


 するとそこにはたくさんの民衆が立ち止まってこちらの様子を窺っているのが見えた。


 一益と慶次郎、玉の三人も自分たちが知らぬ間に沢山の人の注目の中にいる事を知り、驚きの表情を見せていた。


「何じゃこの人だかりは?」


 吉法師と勝三郎は驚きながら又兵衛に訊ねた。


「どうやらあの者たちは今の銃声を、そろそろ面白い対決を始めるから皆の衆立ち止まって見ていけよ、と言う合図と受け取った様ですな」

「な、なにー!」


 実際又兵衛の言った通りであった。


 暴発の銃声が周囲に響き渡った時、その音を聞いて立ち止まった通行人の中に、先日の那古野弓対決の観衆で吉法師と又兵衛の顔を覚えている者がいた。


「あれは昨日那古野で見た吉法師様じゃないですか?」

「おぉ、そうじゃ、一体あの様な所で何をされておるのじゃろう」


 そして他の銃声を耳にして足を止めた通行中の者たちを交えて、様々な憶測を基にした噂話がされる様になっていった。


「今の音は何ですか?」

「あれじゃ、あの者が持っているあれから鳴った」

「あれは最近南蛮から伝わった鉄砲という物じゃないか?」

「おぉ、あれがそうですか、最新兵器という噂の」

「儂初めて見た!」

「儂もじゃ!」

「吉法師さま、また何か面白い事をされるのですかね?」

「きっとそうじゃ、ほらあそこを見て見ろ、昨日那古野の弓対決に出ておった又兵衛が、弓射ちの準備をしておる」

「おぉ、本当じゃ」

「どうやら昨日の対決を弓対鉄砲でもう一度やるのですかね?」

「あの様子からして、そうとしか思えぬな」

「というと、先程の銃声はもうすぐ始めるぞ、という合図ではないか?」

「うむ、きっとそうじゃ」

「あの鉄砲の男は誰だか分からぬが、面白そうじゃな」

「おぉ、おもしろそうじゃ、是非見ていきたい」

「うむ、儂も是非見ていきたい」


 通行人たちは、吉法師が何か弓と鉄砲の面白い対決事を始めようとしている、という噂を周囲に向けて発しながら、そのまま観衆としてその対決の場に留まっていた。沿道を通り掛かる者たちの間でその噂は広がり、観衆の数はどんどんと膨れ上がっていた。


 その噂は程無く笠寺の門前町の方まで及んだ。


「おい、那古野の吉法師様が向こうの畑で弓と鉄砲の対決を行う様じゃぞ」

「何、本当か、面白そうじゃ、儂らも行ってみよう」

「おお、行こう行こう!」


 この町中での町人の話を武士の姿をした二人が聞いていた。


「おい、森隆、今の話を聞いたか?」

「はい、義父上、今確かに那古野の吉法師様と」


 水野信元と義子の森隆であった。二人は織田弾正忠との会談の後、津島、熱田から笠寺を経由して大高に寄る予定にしていた。


「まさかこの様な場所に吉法師様が来られておるとは」

「えぇ、しかも弓と鉄砲の対決とは、義父上、もしかすると吉法師様は本当にうつけかも知れませぬな」


 信元は古渡で吉法師の事を訊ねた時に見せた織田家中の動揺を思い起こした。


(うつけや否や)


 そして森隆に向かって意を決した様に言った。


「森隆、我らも見に行くぞ、吉法師さまのお人柄を知る良い機会じゃ」

「はい、義父上、いや、しかし義母上様はよろしいのですか?」


 信元はこの森隆の言葉にうっとなって思案し直した。信元はこの後、笠寺に観光で訪れている妻と娘に合流する予定となっており、勝手なる急な変更は彼女たちの機嫌を損ねると思った。しかし突然舞い込んだ吉法師の情報は尾張の国の将来、そして家の将来にかかる重要な事項に成りかねない。


 信元は再度揺らぎながらも意を決して言った。


「良い、そちらは何とかなる、いや、ならぬかも知れぬ、いや大丈夫、でないかも知れぬ、とにかく行ってみよう」


 信元はその後の負い目を覚悟しながら、森隆と一緒に噂話をしていた町人たちを追い駆けて行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 一方、一益が放った暴発の銃声は、近くにいた野武士の一団の耳にも届き、観衆として集まっている場へと呼び寄せていた。


「おい、あれを見ろ!」

「やはりさっきの銃声は我らの鉄砲であったか」

「一益め、やっと見つけたぞ」


 男たちは一益を追って来た里の集団であった。


 男たちは自分たちが売り捌くために畿内から盗み出した鉄砲を持ち逃げした一益に怒り、行方を追っていたが、その一益が子供に囲まれながら鉄砲を弄っている所を見つけて、更にその怒りを増長させていた。


「あ奴め、鉄砲を子供の遊びに使ってやがる!」

「ひでぇ奴だ、高価な物なのに!」

「直ぐにでも奪い返したいが、この観衆の中では目立つな」

「お頭、どうしやす?」


 一人の男がそれまで背後で様子を観察していた棟梁の男に問い掛けた。皆が一斉に振り向く中で、その男はぼそっと言った。


「あそこで一緒にいるあのうつけの格好をした子供、あれは那古野の吉法師だな」


 集団の男たちは棟梁の男の指差す先に、一斉に注目の先を移して言った。


「おー、そうじゃ、ありゃ那古野のうつけの若殿じゃ」

「そうじゃ、そうじゃ、前に確か見た事がある」

「しかし何で一益と一緒におるんじゃ?」


 棟梁の男は吉法師たちの方を見て少し思慮した後、皆に言った。


「よし機を待とう、ここでは目立つ、ぬしらは見張りで残れ」


「おう」


 棟梁の男を中心とした統率の取れた野武士の集団であった。男たちは一つの掛け声と共に、数人の見張り役を残してその場を去って行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 又兵衛と一益が対決に向けた準備をしている中、吉法師は一町位先の的となるかかしを見ていた。


 かかしの手前には大根や蕪の畑が広がっていて、時折吹き付ける風はそれらの葉を左右に揺らしていた。


(この風、又兵衛の弓は問題無いと言うが一益の鉄砲の方はどうであろうか、風の影響も確認できるというものじゃな)


 吉法師は風の出所を探るかの様にまた空を見上げた。すると厚さを増している雲の前に、左から右に向けて揺らぎながら流れる一筋の煙が目に入った。


(あの煙の揺らぎ方は、まるで船上での舞の様じゃな…、あ、そうか、波も煙も元は風の動きを受けたものだからな)


 煙は不規則な揺らぎで、その動きの予測を難しくさせながらも、全体としては一定の方向に流れている。吉法師は風の気まぐれさの中に、何か一定の決まり事みたいな物を感じていた。


(そもそも風って何で吹くのだろう?風神?あえの風も意志ある神の仕業?いやいや何かきっと理由があるはずじゃ、それが分かれば戦に活かせるかも知れぬ、な、悩む)


 吉法師は得意である詰まらぬ事への悩みを抱きながら、煙の出所を探る様に畑の左端の方に目を向けて行った。するとその先で益氏と天心が一生懸命に薪を焚き、先程の食材を何とか食せる物にしようと頑張っている姿が目に入った。


(はは、あ奴らはあ奴らで頑張っておる)


 吉法師はそれを見て思わず笑みをこぼした。


 又兵衛と一益が対決の準備を整えてやって来たのはそんな時であった。一益には慶次郎と玉も付いている。


 吉法師は一度周囲を見渡し、たくさんの野次馬が自分たちを窺っているの事を確認すると、再度二人を見返して言った。


「ま、あまり観衆は気にせずやろう、先ずは又兵衛から放ち、三射して的のかかしに多く当てた方の勝ちじゃ」


「おう!」


 又兵衛と一益の二人は威勢をあげると、先ずは又兵衛が勝三郎の引いた射場の線の方に歩み寄って行った。


 観衆から大きな声が上がる中、又兵衛は真剣な面持ちで、時折吹き付ける強い風の中、迷いも無く一の矢を放った。


ビシッ


 始めに放った又兵衛の矢は、的のかかしの真ん中に命中した。


おおー!


 沿道の観衆から声が上がる中、一益は一町先の的に簡単に矢を当てる又兵衛に対して、驚きの表情を見せた。


「何じゃ、あ奴すげえうめぇ、用心棒と言われておったが只者ではない、一体何者なんじゃ」


 思わず呟いた一益に横にいた慶次郎が答えた。


「おやじ、あの男、なかのまたべえ、とか申すらしいぞ、さっき火を起こしていた時、畑を荒らすな、と憤っておった畑の主に、通り掛かった武士らしき者がそう説明しておった」


 それを聞いて一益は更に驚いた。


「何じゃと、中野又兵衛、確か小豆坂七本槍の一人じゃないか、その様な男を用心棒として連れているという事は、もしやあのうつけの格好をした小僧は…、」


 一益は吉法師の顔を凝視した時、慶次郎が言った。


「きちほうし、とか呼んでおったぞ、誰じゃ、有名なのか?」


「やはりかー」


 一益は吉法師の事を知って急に不安になった。


 自分はこれまでこの様に人に注目されながら勝負事を行った事など無い。それに対して相手は小豆坂七本槍の(つわもの)で、対決を取り仕切っているのは子供とはいえども那古野の城主と、こういった場に慣れている。


 皆が初めて目にする鉄砲の実演に期待する中、一益はたくさんの人々の視線を背中に受けて、体が震えるのを抑えられずにいた。


「おやじ大丈夫か、やっぱ儂代わろうか?」


 慶次郎はこの状況を良く理解できていないためか、この対決でも鉄砲射ちが楽しめる様で、一益のことを心配する余裕を見せた。


 しかし一益は慶次郎に弱気を見せる事を嫌い、逆に気を奮い起こした。


「いや、大丈夫じゃ」


 そう言って一益は勝三郎のいる射場の線の方に向かい鉄砲を構えた。その一益に対し、吉法師を始め、観衆の者たちは皆、一益の背後より静寂を持って注目した。


(い、いかん、手が…)


 気を奮って射場で鉄砲を構えた一益であったが、その手だけは嘗て無い緊張で震えが止まらず、照準が定められずにいた。


 すると中々発射出来ずにいる一益に一際大きい声援が届いた。


「父上、しっかり!」


 娘の玉の声だった。近くで応援する娘の玉の言葉を受け、瞬間的に一益の手の震えが止まった。


(よし、今じゃ)


 一益は鉄砲の引き金を引くと、火縄が火皿に落ちる。


バーン!


 鉄砲から白煙と共に大きな音が周囲に轟き、観衆の皆が驚きの声を上げた。


「うおっ、びっくりした!」

「何て大きな音じゃ!」


 しかし発射された鉄砲の玉は途中から右に大きく曲がり、的を外れ遥か遠くに消えて行った。


「鉄砲の玉はどこに飛んで行ったのじゃ?」

「いや、何かずっと右の方みたいじゃ」

「うーん、風で曲がったのかのう?」

「あー、確かに左からの風が強くなってきておるからのぉ」


 ちょうどこの時、的のかかしには先程よりも強い風が吹き付けていて、カタカタと音を立てていた。


「おやじぃ、あれでは駄目じゃ・・・」

「父上、外してはなりませぬ、あのかかしを御馳走と思うて、撃ってくだされ!」


 慶次郎は一益に助言しようとしていたが、玉の力の籠った激励に覆い被せられていた。


 一益は次の射撃の準備をするため、また鉄砲の筒の中の煤を取り除いて奇麗にした後、また火薬を入れて押し固めていた。その間に、又兵衛は強くなっていた風の動きを読んで的のやや左を狙って放ち、早々と二の矢も命中させた。


 鉄砲の射撃は一発の準備に長い時間が掛かっていた。


「鉄砲と言うのは一発の射撃に時間が掛かる物であるな、弓であれば十矢、いや二十矢は射る事が出来る」


 又兵衛の言葉を吉法師は黙って聞いていた。確かにこれほど射撃の間の準備に時間を掛けていたら敵に近付かれ、討たれてしまうであろう。


(このままでは実際の戦では使い難いな)


 吉法師がそう思っていると、ようやく一益が次の射撃の準備を終えて射場の線まで足を運んで来た。


「よし、今度は大丈夫じゃ!」


 外しはしたが、一発撃って一益の緊張感も薄らいでいた。


「父上、もう外せませぬぞ、しっかり」


 一益に声援を送る玉に一益は軽く手を振ると、射場に立って的のかかしに照準を定めた。


(もう外せぬ)


 一益は今回、十分に狙いを定めて引き金を引いた。


バーン!


 白煙と共に飛び出した鉄砲の玉は真直ぐに的に向かって行く。


「よし!」


「お、良い感じ!」

「今度は真っ直ぐじゃ!」


 皆が的に命中すると思ったその時であった。


「あー、駄目じゃ」


 慶次郎が叫んだのと同時に、玉は急に左に大きく曲がり、的の左横を掠めた後、更に左後方に逸れていった。


バシッ


 遠方で鉄砲の玉は何かに命中したためか、その近くにいた沿道の者たちが騒ぎ立てている。その様子を見て、勝三郎が走って確認に向かった。


「あー、外れた!」

「何じゃ鉄砲は音だけの脅し道具か?」

「射程距離も長そうじゃが、当たらねばのぉ」


 沿道の観衆からは、二射目も的を外した一益に対して、溜息の籠った声が上がっていた。


「あー、もぉ、おやじ、下手くそじゃ」

「あー、父上、目の前の御馳走が、逃げて行きます」


 慶次郎と玉も残念がっていた。一益も自信を持って撃った二射目も外れ落胆していた。


 吉法師は又兵衛に今の玉筋について訊いた。


「又兵衛、あの鉄砲の玉の曲がり方は一体どう言う事じゃろう、風とは逆方向にあの様に大きく曲がるものなのか?」


 又兵衛は少し考えて言った


「吉法師さま、弓でも矢柄の形や矢羽の付き方によって、あの様に風の向きとは逆に曲がる事があります。恐らく一射目もそうですが、鉄砲は勢いが強い分、その傾向が強く出やすいのでしょう、とすれば命中精度は問題になりますな」


「うーむ、射撃に掛かる準備といい、命中精度といいまだまだ実戦では使えぬ、ということか」


 吉法師が鉄砲に対する見解を考えていた時、勝三郎が二射目の玉の確認から戻って来た。


「吉法師、すごいですよ、鉄砲」


 興奮気味に報告する勝三郎に、吉法師と又兵衛は着目した。

 

「命中したのは道端の一際大きな地蔵だったのですが、何とその首を刎ねていました」


 これを聞いて吉法師と又兵衛は驚いた。


「何、勝三郎、本当かそれは?」

「あの距離で地蔵の首を刎ねるとは何と言う破壊力じゃ、弓ではあり得ぬ!」


 吉法師は再度鉄砲の玉が飛んで行った方を見渡した。未だ多くの通行人がその場で足を止め、何やら騒いでいるのが見える。


「そうか、あの者たちは鉄砲の威力を目の当りにして騒いでいたのか?」


 この時、吉法師たちはその地蔵について、鉄砲の破壊力を示す対象物としてしか考えていなかった。


「それで勝三郎、地蔵の首は元に戻して来たのか?」

「はい、取り敢えず胴体に乗せて来ましたよ、自然な感じで」


 よくよく考えれば、地蔵の首を落したままでは、またうつけ者との評判を広めかねない。吉法師はその勝三郎の言葉を聞いてほっとした。


「そうか、では大丈夫じゃな」


 吉法師は改めて鉄砲については、連射と命中精度に問題はあるものの、音の迫力、遠射、そして破壊力に弓に無い特長を持っているとの見解をまとめていた。


「三の矢を射るまでもないですか?」


 又兵衛は吉法師に確認した。


 二射目の勝負で二対無となり勝負が付き、吉法師の見解も整ったこの状態において、三射目の意味合いが薄らいでいた。


「そうじゃな」


 一益も二射目を外してから落胆しており、精神的な勝負も付いている感じであったため、吉法師はこれ以上の勝負の継続は不要と思った。


 そんな吉法師に叫ぶ者がいた。


「勝負はまだついておらぁぬ!」


 慶次郎であった。


「勝負は三射のはずじゃ、まだ一射残っておる」


 御馳走はともかく、何か勝負に負けたまま良い所なく終るのが気に入らなかった。


 近くの勝三郎が慶次郎に言った。


「何を言うておるのじゃ、最後の一射を一益が当てて、又兵衛が外したとても二対一で又兵衛の勝ちじゃ、最後の一射は勝負の意味がないであろう」


「その様な事は無い、おやじぃ、最後の一射は儂が撃つ!」


 説明に納得しない慶次郎は吉法師への対決の続行と一益への承知を求めた。


(やらせぬよりやらせた方が早いであろう)


 吉法師は慶次郎の勢いを見て、勝三郎に撃たせてあげる様に合図を出した。そして一益も慶次郎にやってみよ、と射撃を承諾した。


「やったー!!!」


 慶次郎はこのお祭りの様に人が集まっている対決で一射できる事を燥いで喜んだ。そして自分であっと言う間に鉄砲玉を込めると、射場に持ち込み的に狙いを定めた。


 先程までの一益の時に比べて、子供の慶次郎が持つ鉄砲は非常に大きく見える。


「おっ、何じゃ今度はあの子供が撃つのか?」

「鉄砲は子供でも撃てるのか?」


 観衆の注目を集める中で、慶次郎は引き金を引いた。


ばーん!


 慶次郎の射撃は発射時の反動を上手く逃がし、一益よりもその射撃は安定して見えた。そして玉込めの仕方も心得ているのであろう、鉄砲の玉は的に向かって真っすぐに飛ぶ。


ばしっ!


 玉は的のかかしのど真ん中に命中し、又兵衛が命中させた矢と共に的のかかしそのものをバラバラに吹き飛ばした。


「おぉー!」

「あの小僧、当ておった!」

「すごい破壊力じゃ、」


 周囲の観衆から大きな歓喜の声が上がった。吉法師はそれを見て思った。


(やるな慶次郎、鉄砲も極めれば命中精度は上げられることじゃな、であれば残る課題は連射性くらいか)


 吉法師はそう思いながら又兵衛の方を見ると、又兵衛は何か他の人以上に鉄砲に対して衝撃を受けていた様で、バラバラになった的のかかしを呆然と見ていた。


(矢ではここまでの威力は出せない)


 勝負の的に当てた数で言えば、二対一での勝ちであったが、この威力を目の当りにして、何か又兵衛は最後に勝ったと言う思いが得られずにいた。


 慶次郎は最後の一射を見事的に当てた事で、たくさんの野次馬たちに囲まれ英雄の様にもてはやされていた。吉法師もこの状況を深く考え込んでいた。


(まだ何か鉄砲の可能性を測り切れていない様な気がする)


 吉法師は鉄砲に対するもっと大きな可能性を感じ、いつもの悩み顔を見せたその時であった。近くの観衆から吉法師の見解に意見を添える様に声が上がった。


「この鉄砲というのはすごいな、これなら子供や女子でも屈強な武士に勝ててしまうのぉ」


 この声に吉法師は思わず振り返った。そこには武士の姿をした男が吉法師に笑顔を見せて立っていた。その男の顔を見ながら吉法師は思った。


(そうだ、まさにその通りだ!)


 吉法師はその男の言葉で鉄砲の最大の可能性を理解した。


 鉄砲は火薬の力を使い、火薬の力はどんな屈強の武士の力にも勝る。それは鉄砲を極めれば、力の無い武士は元より、子供や女子、年寄りでも屈強な武士にも勝てる、という事を意味しており、それを此度の対決で慶次郎が実証していた。


(鉄砲か、何という武器が登場して来たんだ、これがこれから広がっていくのか!)


 吉法師は又兵衛と慶次郎の様子を見比べながら、今後の鉄砲の存在を誰よりも強く重要なものと認識していた。



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