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天下の再構築 ~信長幼将戦記~   作者: 飛里信成


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第五章 女房鉄砲仏法 笠寺の姫(3)

 吉法師、勝三郎、又兵衛の三人は松井友閑と別れた後、若者で賑わう笠寺の門前町を通り抜け、笠を被った地蔵が遥か先まで延々と並んでいる道を歩いていた。


「もう少し時間が経てば潮が引き向こう岸まで歩いて渡れる様になります」


 門前町で得たその情報を基に、桟橋とは反対側で、陸地の対岸となる場所に向かっていた。


 厚い雲から吹き付ける強い風は一向に止む気配が無く、沿道に居並ぶ地蔵の笠を一斉にハタハタと揺らしている。


 吉法師は沿道に並ぶ地蔵の表情を一つ一つ見定めながら歩いていた。平安期から長年に渡って沿道に並べられてきた地蔵たちには、良縁への願いと共に、尾張の国に対する平和への思いが感じられた。


(この地蔵たちと共に、尾張の人々の暮しの営みがあるのだな)


 この戦乱の世にあって、今の尾張の平和は父信秀の尽力による所が大きい。そして自分が家督を相続した際は、安定を続けながら更に発展させていかねばならない。


 都の朝廷や将軍家の支配が安定していれば良いのだが、今後もその期待は望めない。天下は古来から続く一部の血統に基づいた支配ではなく、新しい支配体形を求めている。


(やはり最終的に必要なのは天下統一か)


 津島で吉乃と交わした会話の言葉が吉法師の脳裏に浮かぶ。そのための覚悟の舞と定めた敦盛、そして次にその敦盛を披露してくれた友閑の言葉を思い出す。


(成長においては妥協せず、満足せず、常に上を、常に変化を求めよ)


 吉法師は自身の将来を重く感じていた。しかし次々と表情の変わる地蔵たちを通して見る民衆の思いには異なる物を感じた。


(民衆から見れば、儂の成長など関係無く、誰が領主であってもこの平和であり続けるという体系が重要なんだよな、とすれば儂はその体系作りまでしないとならぬな)


 吉法師は穏やかな表情の地蔵たちに向かって悩み顔を見せていた。


(あぁ駄目じゃ、また目標の水準が上った様な気がする)


 吉法師は直ぐ課題を見つけ、それを膨らませては、何か対策を講じないといられなくなる自分自身の性格を嫌に思った。


 その時であった。


パーン


 前方に並ぶ地蔵の奥の藪の中から何かが破裂する様な音が聞こえた。


「何の音じゃ?」


 吉法師は不思議に思いながら勝三郎と又兵衛に訊ねたが、二人とも首を傾げている。


パーン


 暫くするとまた同様の破裂音が藪の中から聞こえた。


「またじゃ、一体何の音じゃろう?」


 訊ねられた勝三郎と又兵衛もこれまで耳にした事の無い音であった。


「火の中に竹でもくべているのですかね?」

「竹林も焚き火の煙も見えぬがのぉ」


 吉法師たちは尚も時折藪の中から聞えてくる破裂音を不思議に思いながら歩いていると、観音像の前で腰を下ろして拝む小さな娘を見つけた。


(可哀そうに、孤児であろうか?)


 その娘の周囲に親らしき大人の姿は無く、背後から見る髪や着物が土埃で汚れている様は放浪者の孤児を連想させた。


(何を祈っておるのであろう?)


 吉法師がその娘の様子を気にしていると、娘は腹が空いていたのであろうか、突然観音像のお供え物に手を付ける素振りを見せた。


 それを見た吉法師は居た堪れなくなり、咄嗟に近付いて声を掛けた。


「そなた腹が減っておるのか?」


 吉法師に突然声を掛けられた娘はビクッと驚き、伸ばしていた手を慌てて引っ込めて振り返った。その娘は愛嬌のある丸い顔をしていたが、吉法師を警戒してその顔を強張らせていた。


 吉法師は娘の隣に腰を下ろすと観音像を拝みながら、その前にある娘が手を出そうとしたお供え物を細めで見た。


(この様なものを・・・、)


 娘が手にしようとした饅頭は、もうだいぶ時間が経っている様で(かび)が生え色が変わっている。


 吉法師は憐れむ様な目で娘を見つめた。しかしその吉法師の憐れむ様な目線を嫌った娘は強い調子で言った。


「われは腹など空いておらぬ」

ぐぅ~


 娘はその言葉とは正に裏腹に、お腹を鳴らしていた。


 強がりを見せる娘に孤児の陰惨な影は無かった。そんな娘に吉法師はぷっと吹き出して笑顔を見せた。


「遠慮するな、これを食え」


 そう言って吉法師は先程食べずに取っておいた握り飯の入った包みを娘に差し出した。


 娘は少し戸惑いながらその包みを受け取り、中の握り飯を見ると、それまでの我慢を一気に解放させるかの様にモグモグと食べ始めた。


(子供だな)


 吉法師は自分が与えた握り飯を食べる娘の姿を見て何か親近感を感じていた。同時にこの娘をこの場所に一人このまま置いて立ち去る事は出来ないと思った。


「そなたはこの様な場所で何をしていたのじゃ?」


 問い掛ける吉法師に娘は握り飯を頬張りながら答えた。


「願掛けじゃ、モグモグ、我も玉の輿に乗りたいと思うての」


 娘は握り飯をくれた吉法師に対して警戒感を緩めていた。


 玉の輿と言うのは笠寺の玉照姫から来たのであろう。吉法師は娘が玉照姫に(あやか)りながら、前向きに生きる事を不思議に思いながら明るく返した。


「ははは、それじゃ姫とお呼びせねばのぉ」


 娘は姫と言う言葉に更に気を良くして言った。


「そうじゃ、我を姫とお呼びなされ、モグモグ、後ろもぬしらもじゃ、皆で呼べば我の願いが届くかも知れぬからの、モグモグ」


 娘は握り飯を頬張りながら、勝三郎と又兵衛にも姫と呼ぶ事を要求していた。


「それで姫、そなたは誰かと一緒ではないのか?」


 そう吉法師が訊ねた時であった。


パーン


 近くの藪の中からまた先程の破裂音がした。吉法師と勝三郎は咄嗟に藪の方を振り向いたが、草木が生い茂る藪の奥を見渡す事はできない。勝三郎が藪の近くまで確認をしに向かう中、娘は先の吉法師の質問に答えた。


「皆その辺におる、モグモグ……」

「え?」


 娘にそう言われた吉法師は、又兵衛と一緒に藪の近くにいる勝三郎の所に来て言った。周囲にはやはりそれらしき人は見当たらない。


「二人ともどう思う?」


 吉法師が訊ねると、勝三郎は目を細めて囁いた。


「もしかすると、あの娘っ子、狐さんとかが化けているんじゃないですか?」


 吉法師はこの勝三郎の狐さんという言葉に、津島の祭りで狐の面を被って現れた吉乃の事を思い浮かべた。


(吉乃は狐じゃないだろう)


 吉法師は変な連想をする自分を可笑しく思っていると、今度は又兵衛が囁いた。


「いや、あの握り飯の喰いっぷりは猪じゃな」


 吉法師は「なるほど!」と思った。確かに握り飯をモグモグと貪り食う娘の姿は野性的な猪を連想させるものがあった。


「あほか又兵衛、猪が化けるか、猪は突っ走るのみじゃ!」


 又兵衛は子供の勝三郎にあほ呼ばわりされてショボーンと頭を項垂れた。


(そりゃそうだ)


 吉法師も一度納得した自分を頭の中で修正していた。


 その時であった。


 三人は背後の藪の中から、何かがゴソゴソと草を掻き分けながら近付いて来る音を聞いた。


「おい、又兵衛の言う通り本当に出て来るんのじゃないか、仲間の猪が」


 吉法師はまだ完全に猪はないと修正できていない頭で、勝三郎に言った。


「吉法師様まで何を言いますか、猪など出る訳け…」


 そう言う勝三郎の目の前に藪の中から突如ぬっと大きな猪の顔が現れた。


「うわっ、本当に出たー!」


 勝三郎は飛び上がって驚いた。


「娘っ子の仲間か!」

「いや、えっ?」


 しかし良く見るとそれは猪を担いだ一人の男であった。


 男はずっと藪の中にいたためか、土埃や蜘蛛の巣や小枝などを体中に纏わり付けていて、一言で言うと汚い。そして男は藪から出て来ると近くで吃驚した表情をしている勝三郎を見て言った。


「何じゃ、勝三郎じゃないか?、こんな所で何をやっておるのじゃ?」


 男は勝三郎を知っている様であったが、特にその後の勝三郎の返答には関心が無い様で、言いっ放しのまま、勝三郎の横を通り過ぎ娘の方に向かって行った。


「おーい、玉ぁー、食いもん獲って来たどー!」


 そう言って男は自慢げに大きな猪を掲げ、玉と呼ぶその娘に見せた。


「娘の名は玉と言うのか、で、勝三郎、あれは誰なのじゃ?」


 吉法師と又兵衛が勝三郎に訊ねていると、また同じ藪の場所でゴソゴソという音と共に、今度は土埃に塗れたやんちゃそうな男児が叫びながら飛び出て来た。


「おやじー!それは儂が仕留めたんだからなー」


 土埃を立てながら走るその男児は、猪を担いでいる男の所に行くと、強くそれが自分の手柄である事を主張していた。


 吉法師たちが何事と思いながらその様子を見ていると、また更に同じ藪の場所から、今度は利発そうな男児が、頭に鳥の糞を乗せて出て来た。


「父上!玉!大根が手に入りましたぞ、これはまだいけますぞ」


 その男児はどこかで拾った様な干乾びた大根を、大層な戦利品の様に掲げながら、やはり吉法師たちの前を通り過ぎ、先の二人が向かった娘の所に向かって行った。


「勝三郎、何なのじゃあれは?」


 吉法師が改めて彼等のことを訊ねると、勝三郎は首を捻りながら答えた。


「父の知り合いの者だとおもうのですが、ええと、思い出せませぬ」


 それを聞いて吉法師は改めて男の方を見た。

 

 男は捕まえた大きな猪をどうだ、と言わんばかりに娘に見せ付けているが、娘は迷惑そうな顔をしており、その隣では活発な方の男児が文句を言っている。


 吉法師はその様子を見て思った。


(先ずはあの娘、一人ぼっちの孤児ではなさそうで良かった、しかし大きな猪はあの子供が仕留めたというのか、一体どうやって?)


 猪の体は大きく、子供の力では弓でも槍でも獲るのは困難に思えた。


 その時であった。


「兄御、駄目じゃねえか、これ忘れていったら困るであろう」


 そう言いながら藪から更に一人、髭にたくさんの蜘蛛の巣を付けた男が、添え木と金具の付いた鉄筒を持って出てきた。


(何じゃあれは?)


 これまで見た事の無い物であった。吉法師がその武器らしき鉄筒が気になっていると、猪を担いだ男が言った。


「おぉ、すまぬ益氏、この鉄砲をなくすわけにゆかぬ」


(鉄砲!?)


 それは最近熱田の商人から良く聞く武器の名であった。元は南蛮の物で、火薬の力で鉛の玉を飛ばす武器らしく、最近では種子島鉄砲として畿内の方でも作られ始めていると聞いていた。


 吉法師は咄嗟に鉄砲を手にするその男に近寄ると、横について歩きながらまじまじとその鉄砲を見つめた。


 その鉄砲は台木が添えられた長い鉄の筒で出来ており、一方の柄の部分には小さな引き金と着火のための金具が付いている。火薬のにおいを漂わせるこの武器は、これまでの弓や槍といった単純な武器とは異なる超近代的な武器に思えた。


(これが鉄砲というものか、これを使えばあの様な小童でも大きな猪を仕留める事ができるのか、是非撃つ所を見てみたい)


 初めて目にする鉄砲に吉法師の興味は尽きなかった。


 鉄砲を持った益氏と呼ばれた男は、鉄砲に顔を近づけて見つめ続ける吉法師を見ると、他の者たちに向かって訊ねた。


「ええと、こちらはどちらの御子ですか?」


 この益氏の問い掛けに対し、他の皆が知らぬと言う顔をしている中で娘が言った。


「この兄ちゃんには握り飯をもらったのじゃ」


 この娘の言葉を聞くと男たちは一斉に驚きの声を上げた。


「えぇ!」

「玉ぁ、我慢出来なかったのか?」

「せっかく我らが食料持ってきたものを」


 しかしやんちゃな男児だけは少しその驚き方が異なっている。


「ずるいぞぉ、玉ぁ、一人で握り飯食うて」


 娘はそんな男児の言葉は無視し、他の三人に向かって言った。


「では我はこの生のいのししと残飯一歩手前の大根を前にどうすれば良いのじゃ、もしかしていただきますと、言わねばならぬのか?」


 娘の強い口調に三人はタジタジとなっていた。


 その様子を又兵衛は可笑しく見ていた。


「ははは、あのお供えの饅頭に手を付けようとしていた娘っ子の言葉と思えぬのぉ」


 そう言う又兵衛の隣で勝三郎は猪を担いだ男の名を思い出そうとしていた。


(誰だったかな~、確か以前父上と一時期、一緒に、ん?、一?)


 勝三郎は咄嗟に猪を担いだ男の許に行き指を指して言った。


「思い出した、ぬしは滝川一益(たきがわいちます)じゃろ、どうしたのじゃこの鉄砲は?」


 滝川一益は伊賀の出で、勝三郎の池田家とは遠縁の関係にあったが、商売の関係で津島に通う中で博打に嵌り、一族の金を使い込んで、一緒にいた従弟の益氏共々一族の里から追い出されていた。


 勝三郎は流浪の身となっているはずの一益が、4百貫(約一千万円)はすると言われている鉄砲が買えるはずがないと思って追及した。


「里の者が盗んできたものを更に盗み出して来たんだよね」

「あほか、慶次郎、声に出して言うな、盗んで来たんじゃない、黙って持って来ただけじゃ」


 やんちゃな方の男児は慶次郎と言い、あっけらかんとして鉄砲の入手先を明かした。


「父上、世間ではそれを盗んで来たと言うのですよ」

「もう、父上は、駄目じゃないですか」


 一益は子供二人の(たしな)めに反論で言い返した。


「しかしな、ここは生きるという事が大事なのじゃ、此度はこれがあったからこそ、この通り猪が仕留められたのじゃぞ」


 慶次郎はそれを聞いてまたその手柄を主張した。


「その猪、儂が獲ったのじゃからなー」


 一益は慶次郎の頭をポンポンと褒める様な態度を見せながら言った。


「そうじゃな慶次郎、これはぬしの手柄じゃ、じゃがぬしは鉄砲をいじり過ぎじゃ、これは子供のおもちゃではないのだからのぉ」


 後半は窘める様な言い方だった。


「いまや鉄砲は慶次郎が一番うまいからのぉ」


 しかし益氏が称賛する言葉を言うと、慶次郎は得意気になって笑顔を見せた。


「何でぬしらはこの様な所で狩りなどしておったのじゃ?」


 ここで吉法師が訊ねた。


 しかし一益は突然名も知らぬ子供が上位目線で質問して来た事を不審に思い、勝三郎に訊ねた。


「勝三郎、こちらの御子は?」


 勝三郎は一瞬吉法師の方に目を向けた後、一益に答えた。


「何じゃ、知らぬのか、この方こそ尾張の…」


 勝三郎がそう言った所で、吉法師は勝三郎の背中を強く(つま)み、自分の身分を知らせるなと、暗に示した。勝三郎は慌てて言い直した。


「あた、あ、いや、こちらは尾張の有名な石問屋の御嫡男様じゃ、そして向こうの大きな男がその用心棒」


 咄嗟に勝三郎は目に入った道端の地蔵を見て、吉法師のことを石問屋の子と紹介した。吉法師は変な形で紹介をされ、なんじゃいそりゃ、と思いながら横目で勝三郎を睨んでいた。


「おぉ、そうか、笠寺にはたくさん石像があるからのぉ」

「だが、商売人て割にゃ、その格好はうつけの様じゃな」


 益氏は吉法師に感心して見せたが、一益はその格好に問題ありと茶化していた。


 勝三郎は吉法師の冷たい視線を感じながら、一益に言った。


「い、一益、そういうぬしこそ、藪の中で土埃だらけになっておるではないか、人の格好など言えぬであろう」


 その勝三郎の言葉に、一益は少しむっとしながら言った。


「いや儂らだって、好きこのんで土埃になっとる訳ではないわ!」

「全く、不幸じゃ、本当であったら今頃は、」

「まぁ、もらい事故みたいなものですね」


 一益と共に二人の男児が頷いていた。


「実は笠寺の戸部の館でこの鉄砲を披露し、そのまま一夜の宿と宴を得る予定だったのですけど…」


 そう説明する益氏に続いて娘が言った。


「昨日来られるはずだった舞の師匠が、一日延びて今日になったとかで、我らは会えぬ様になってしまったのじゃ」


 この娘の言葉に吉法師たちはギョッとした。


「まったくひどい話じゃ、本当なら今頃は皆で宴の最中であったはずなのに」


 一益が不満を漏らす中、吉法師、勝三郎、又兵衛の三人は顔を見合せてヒソヒソと囁き合っていた。


「今の話の舞の師匠って、友閑先生のことじゃないか?」

「えぇ、きっとそうです、一日遅れで訪れると申しておりましたし」

「ということは儂らにも原因があると言うことかのぉ?」


 吉法師たちは再度この一益たちの集団を横目で見た。三人の子供を含め皆が土埃に塗れ、宛てのない放浪者の集団の様になっている。


 皆が元気である事は何よりではあったが、松井友閑の予定を変え、彼らにそのとばっちりが及んでしまったことに対しては、何か申し訳無い思いがした。


 干乾びた大根と獲物の猪を前にして娘が言った。


「はぁ~、宴の御馳走がこの残飯一歩手前の大根と生の猪ですか、あっ、涙が!」


 娘の何かを狙った様なこの言葉に皆の心が揺さぶられた。


「おいおい、玉、暗くなるな、もっと明るく考えよ、きっと料理すればうまくなるぞ」

「そうじゃ玉、儂の撃った猪じゃ、美味いに決まっておる」


 一益と慶次郎に続き、動揺を見せながら益氏が言った。


「天心、蒔きじゃ、火を焚いて料理の準備じゃ」

「分かった、叔父上」


 利発そうな男児は天心と言った。益氏と天心は薪になる枝木を探しにまた藪の中へと駆け込んで行った。


 吉法師は娘の言葉を気にしながら、益氏が置いていった鉄砲を見て思った。


(そうだ!)


 名案の浮かんだ吉法師は一益の方に近寄って行き言った。


「ぬしらその鉄砲で勝負をしないか?」


「へ?」


 首を傾げる一益に、吉法師は又兵衛を指差して説明した。


「この者は少々弓に心得がある。そうじゃな~、あの向こうの田畑に立つかかし目掛けてどちらが上手く当てられるか勝負じゃ、ぬしらが勝ったら、ここの笠寺名物でも何でも馳走しよう」


「はぁ?うつけの商売小僧の言う事は分からんのぉ」


 一益はこの吉法師の提案にあまり気乗りがしなかった。


「はい、やります!」

「やるやる、おもしろそうじゃ!」


 しかし玉と慶次郎は笠寺名物でも何でも御馳走という言葉に目を輝かせていた。二人の様子を見ると一益もその提案を断る事が出来なかった。


「分かった分かった、やってやろう、どうせ暇なんじゃ」

「よーし、決定!」


 吉法師は早速この鉄砲の撃つ所が見れることを楽しみに感じていた。一方で又兵衛も先の弓対決の名誉挽回と共に、鉄砲との異種勝負を楽しみに感じていた。


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