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第六章 継承 攻城の果て(6)

 午後になると山内の城には近隣の集落から多くの人々が集まっていた。


「吉法師様が山内様の城の修復を手伝っているらしい」

「それは本来我らが行くべきであろう」


 尾張弾正忠家嫡男の吉法師が盗賊団の襲撃を受けた山内の城に赴き自らの手を汚して修復に当たっている。そう聞き及んだ近隣の住民は家中の者総出で城に集まり、皆で城の復旧の手伝いを行う様になっていた。


 三左と川並衆が修復作業にぎこちない様子を見せる中で、八右衛門の連れてきた者たちが皆を指導するなど多方面で存分な活躍を見せている。吉法師はその中で子供衆と共に御殿の掃除を行っていた。


 部屋の奥の柱を拭き上げてふと横に目を向けと、笑顔を浮かべている様な表情の観音像が鎮座されているのが見えた。その笑顔にふと吉乃が思い浮かぶ。


(この様な所で掃除などしている場合ではないだろう)


 横から一方の自分が問い掛ける。


 吉乃が今どの様な状況に直面しているのか、それを考えると気が気でなく、早く捜索に出たいという衝動に駆られる。しかし今確かな情報も無く闇雲に動いても目的事の達成は望めないと思う。


(動くべきたる情報が欲しい……)


 吉法師は過度な辛抱が伴う中で再び床拭きを始めた。すると背後から山内の配下の城の者たちが歩み寄り声を掛けて来た。


「吉法師様、自ら掃除などされては困ります」

「恐れの多いことで」

「我らがやりますから」


 本気で困惑している彼らに対して思わず笑みが浮かぶ。


「いやいや、普段この様な機会は無いからの、自分でも何かやっていたいと思うだけじゃ」


 吉法師は何かをしていた方が気が紛れる、という意味もあっての手伝いであったが、彼らにとって尾張弾正忠家の嫡男という高家の子にまで掃除の手伝をさせているのは申し分けないと思うばかりであった。更には周囲で吉法師の近習の子供等が互いに競う様にして雑巾掛けを行っている。その頑張っている子供たちの様子に城の大人たちは触発される。


「ははは、我らはもっとやらねばならぬな」

「全くじゃ」

「御殿の奥の方はまだ手付かずの所が多い様だぞ」

「よし、行こう」


 城に集まった皆が自ら役割を見つけ率先して行動を起す様になっていた。


 やがて陽が沈み辺りが暗くなってくと周辺から訪れていた者たちは続々と帰路に付く様になっていた。城の修復は一日にして思った以上に捗っていた。


「いやぁ、片付いて行くものじゃな」

「あぁ、まさかここまで修復が進むとはな」


 折れた柱、壊れた屋根、目立って破壊された部分などがほぼ修復されている。山内と堀尾は一日にして急速に回復する城の状態に感動していた。そして御殿の廊下では子供衆が自分たちの磨き上げた廊下に満足気な表情を浮かべていた。


「凄いピカピカになったな」

「内蔵助、滑って頭打っとったけど大丈夫なん?」

「ちょっとたんこぶ出来た、名誉の負傷じゃ」


 そう言って弥三郎と九右衛門に頭を見せる内蔵助に犬千代が突っ込みを入れる。


「内蔵助の頭より廊下の床の方が心配じゃ」

「何だと犬千代、儂、頭悪くなったらどうすんじゃ」


 それを聞いて内蔵助は怒りの表情を見せた。しかし犬千代はフッと鼻で笑うと尚も内蔵助に挑発する様な言葉をぶつけた。


「大丈夫じゃ、ぬしの頭はそれ以上悪くならん」

「何だと、許さーん!」


 怒りが頂点に達し飛び掛かってくる内蔵助を犬千代がひらりと躱す。すると内蔵助は勢い余って廊下に飛び出し再び転倒した。


「いったー!」


 思わず叫ぶ内蔵助に犬千代は笑いながらまた突っ込みを入れた。


「内蔵助、廊下壊すなよ、ぬしの怪我はほっときゃ治るが廊下はほっといても直らんからな」

「そこを動くな、犬千代!」


 犬千代の挑発に内蔵助は激怒しながら再び飛び掛かるが犬千代はさっと躱す。更に追い掛ける内蔵助、直後に二人は鬼ごっこを始めていた。


「二人共やめろよ」

「まったくじゃ」


 弥三郎と九右衛門は二人の争いに成す術もなく呆れていた。


 吉法師は八右衛門と共に城内を歩きながら修復の状態を確認していた。ここもあそこも壊れていた場所が修復されている。人が集まった時の事を成し遂げる力は多大であり、あらためて天下の再構築で必要となるのは人の力であると思う。吉法師は修復の状態に達成感が満たされる思いを感じたが、次の瞬間逆に喪失感が生じているものに気が付いた。


ぐぅ~!!


 空腹による腹の虫が必死の訴えを起こしていた。思えば朝からろくに食事も取らず作業を続けていた。


ぐぅー!!

ぐっぐぐ~!

ぐぐっぐぐー!

ぐぅう~!


 吉法師の前にやって来た子供衆も皆で腹の虫を合唱させていた。


「は、はらへったぁ」

「もう力を使い果たした」

「まずい、ここ食いもん無いじゃないか」

「ある訳無かろう、我慢じゃ!」


 内蔵助と犬千代も空腹で休戦状態になっていた。吉法師は何か達成感以上に空腹の絶望感を感じる様になっていた。するとその時、御殿前の広間に荷駄の一団が到着し、城の者たちが大きな歓喜の声を上げながら荷駄に集まっているのが見えた。


「ん、何じゃ?」


 吉法師が不思議に思っていると、五郎八がその荷駄の所から何やら運んできた。


「吉法師さま、差し入れが届きました」


 そう言って吉法師に一つの包みを渡す。それは握り飯しであった。それを見た子供衆が喜びながら自分の分を受け取る。


「おお、助かった!」

「まさに渡りに舟じゃあ」

「うまーい!」

「うまい握り飯じゃあ」


 五郎八が差し出す握り飯にさっそくかぶり付く子供衆の面々、御殿の外でも皆が笑顔を見せながら届いた握り飯を口にしている。その中には三左が握り飯を片手に川並衆の者たちと意気投合しているのが見えた。


「誰からの差し入れか?」


 吉法師は差し出された握り飯を前に五郎八に訊ねた。


「近くの城で備蓄されていた物の様です」

「ふ~ん」


 誰からの差し入れであろうか、運んで来た五郎八も詳しくは分からない様であったが、何か思い当たる節が浮かぶ。


(おこいと彦左衛門だな……)


 おそらくあの二人が今の我らに最も必要な物を予め予想し、最も必要な時を見計らって届けて来たのであろう。荷駄には皆に行く届くほどの握り飯が積まれている。おそらくあれだけの量を準備するのはこちらでの作業よりも大変であったに違いない。しかし皆にとってここで確実に必要になる物であり、誰もが準備できる物でも無い。


(ふっ!)


 吉法師は手にした握り飯に二人の姿を思い浮かべながらかじりついた。


 その後城には慰労のための酒と肴が持ち込まれる様になっていた。一部で宴が催される様になる中で、堀尾と山内が改めて礼を言うために吉法師の所にやって来た。


「吉法師様のおかげで城の修復がだいぶ進みました」

「此度は多大なご恩を頂きありがとうございました」


 その山内の言葉に吉法師は真剣な表情で言い返す。


「いや山内殿、これは恩では無い」


 恩では無い、意味が分からずキョトンとする二人に吉法師は一転して笑みを浮かべて見せた。


「これは恩では無く縁じゃ、我らは縁あってこの城の修復という目標に携わり今その達成感を共有しているのじゃ」


 そのさり気ない吉法師の言葉は二人の心に刺さった。恩は何か上下関係を感じさせるが縁には親近感を感じる。本来異なる系統の織田家を主君とする関係の中で、親近感の意を示される事に感動の涙が溢れる様になっていた。するとそこに山内の奥方が数人の女房衆を連れて現れた。


「あんたら、こんな所で何をメソメソしとるの?」


 奥方は山内と堀尾にそう言い放った後、吉法師に話し掛けた。


「さぁさぁ、吉法師様もこちらに来られてご一緒にどうぞ」


 そう言って吉法師や子供衆の皆を宴の席の方へと招いた。そこでの食事は乾物や漬物、汁物など簡単なものばかりであったが、今ここでできる最高のおもてなしの様に思う。


「奥方この漬物美味いよ」


 吉法師はそう言って笑顔を見せた。何にしても一つの目的を成し遂げた後での皆との食事は楽しい。近くでは三左がすっかり川並衆と意気投合していた。


「いやあ、ほんと美味い酒じゃ!」

「全くじゃ、この酒の切れ味は三左殿の槍の様じゃ!」

「それじゃ天下一の酒じゃないか!」

「ははははは」


 盛り上がる三左と川並衆に対して五郎八、祖父江、関の三人は目の前の酒に手を付けずにいた。その三人を前に堀尾は一人酒を呷りだらしない姿を見せている。そんな堀尾に山内は耳打ちして問い掛けた。


「ぬし、飲み過ぎではないか、我らがすこぶる酒を呷っていてはまずいであろう」


 自制を促す山内に堀尾は笑顔を見せる。


「ははは、我らが飲むのを控えておったらお三方は気が安まらぬであろう」


 そう言われた山内は彼らの立場でこの場を見渡してみた。彼等からすればこの場は敵地になったかも知れない場所、そこで今双方が寄り集まり仲良く酒宴を開いている状況は何か異常とも思える。


(なるほど……)


 堀尾はいち早くこの状況に気が付き、率先して敵意の無いことを態度で見せている。そして自分には三人が代わるがわる疑わしき様子を探っている様子が窺える。まだ自分は信頼に至っていない。そう思った山内は酒を呷る様にして立て続けに飲み干すと、徐に立ち上がり皆に向かって叫んだ。


「儂、取って置きの特技を披露いたーす!」


 そう言って山内は上着を脱ぐと裸足になり大声を上げながら裸踊りを始めた。その踊りの場は川並衆の面々が加わり熱演の場となっていく。山内はひたすら真面目に全力で乱れた姿を演じていた。その無防備な姿からは裏で何かを画策している様な事はない、安心してもらいたい、という必死の思いが伝わる。


(ふっ)


 五郎八はふと笑顔を見せた後に酒に口を付けた。関と祖父江も同じく笑みを見せながら酒を口にしていた。


 吉法師と八右衛門、そして子供衆は酒に盛り上がる大人たちから少し離れた場所で、食べ物を摘まみながらも何か盛り上がりには欠ける状態となっていた。


「我らに酒は無いんかのぉ」

「子供にはまだ早いと」

「つまらぬのぉ」

「早く元服したいものじゃ」


 子供衆は楽しそうにしている大人たちが何か羨ましく思えていた。酒が無いから盛り上がれない、と思う一方で違う理由が表に出て来る。


「いかん、腹満たされたら眠気が……」

「儂もじゃ、今日は疲れた」

「もう寝よう」

「そうじゃな」


 そう言いながら子供衆の四人は次々とその場で寝入ってしまっていた。


 吉法師はその子供衆の様子をやれやれと思いながら見ていた。昨夜にこの城に突入し夜明けからは修復にてほとんど休息も出来ていない。もうここで力尽きる様に寝入るのは致し方の無い状況と思う。吉法師は目の合った八右衛門に笑みを見せた。


 するとその時、一人の娘が畏まった様子で自分に向かって来た。


「吉法師さま、此度は本当にありがとうございました」


 それは山内の娘のはるであった。


 此度盗賊団に連れ去られた彼女もかなり辛い思いをしたであろう。しかし表情は未だ明るいものでは無いが、自分から礼に訪れる所からすると大分気は落ち着いたのであろうと思う。


「此度は災難であったな、もう大丈夫なのか?」


 吉法師は少しはるの表情を確かめながら問い掛けた。


「は、はい、大丈夫です」


 少し表情を硬くしながら応えるはるに、吉法師は躊躇いながら再度問い掛けた。


「ところではる殿、盗賊団に浚われている時に何か話を聞いておらぬか、例えばこれから向かう先とか?」


 はるが浚われて連れて行かれそうになった場所、そこは今吉乃が捕えられている場になっているのではないかと思われる。吉法師ははるの姿の先に吉乃の姿を思い描いていた。


 一方吉法師の問い掛けにはるは連れ去られている時の自分と盗賊団の会話を必死に思い起こしていた。苦しい思いと共に彼の者たちの断片的な話が思い浮かぶ。そして暫しの時間の後、はるは俯きながらか細い声で答えた。


「北の突破は難しそうだ、東のショウブに向かう、そう言っていました」

「東のショウブ?」


 東のショウブとは何であろうか、そう思いながら更に問い掛けようとした時、吉法師ははるの目に再び涙が溢れているのに気が付いた。身動き出来ぬ状態で見ず知らずの地に連れて行かれる恐怖が再び込み上げて来たのであろう。


「すまぬ……」


 吉法師ははるに思い起こさせてしまったことを詫びた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 次の日の朝、山内の城には各所から早馬による知らせが矢継ぎ早に届いていた。寝起きで現れた吉法師に五郎八が伝える。


「祖父江様と関様ですが、昨夜西の国境の方で原因不明の火の手が上がったとの連絡があり急遽戻られました。吉法師様にはよろしくとの言伝です」


 その報告に静かに吉法師が頷くと次に八右衛門が言上する。


「父上からの早馬ですが、美濃方の一部が父上の守る北の国境を攻撃しようとする動きがあるとの事で、急ぎ川並衆と共に戻る様にとのことです」


 吉法師はそれらの報告に少し驚きつつもなるほどと思った。


 今祖父江が守る西の国境と生駒が守る北の国境は美濃出征において物資輸送や兵員移動の重要な拠点となっており、もしここが攻撃を受けて混乱すれば、大柿に集結している尾張本軍に動揺が生じ、美濃方に圧力を掛けられる様な状況では無くなる。


(これが戦の勝負の駆引きか……)


 戦の勝負は実際の戦闘で決まる以前に戦術の駆け引きで凡その態勢が決まる。国境での勢力は補給上の導線においても退路の確保においても重要で、国境での安定性の勝負が尾張全軍の勝負に繋がる。そう思った時であった。


(ん、ショウブ?)


 その時吉法師は昨夜はるが耳にしたという盗賊団の言葉を思い出した。


(確か盗賊団は東のショウブに向かうと言っていた。西と北の国境の警戒は厳しいゆえ、東で勝負事を起すということであろうか?)


「東の方を気にした方が良いな……」


 そう吉法師が呟いた時であった。


「吉法師殿、葬儀列の奴らを追っていた又十郎が戻って来たぞ」


 小六が小右衛門と葬儀列の盗賊団を追っていた実弟の又十郎を連れてやって来た。小右衛門と又十郎が状況を説明する。


「江南の先まで行った所で見失ったらしい」

「奴らは分かれて逃げておったが、別で追っていた喜太郎と内匠も自分と同じ様な所で見失ったらしい、あの江南の先にはきっと何かあるぞ」


 江南の先、そこは北の国境に対して東に位置する場所に当たり、その意味ではるの話とも一致する。小六が話を続ける。


「我らはこれから北の国境に戻らねばならぬ、吉法師殿、奴らを追ってくれ、そして吉乃様を頼む」


 小六のその懇願に併せて配下の川並衆の者が五頭の馬を引いて来る。


「この馬を使ってくれ!」


 小六は吉法師の移動のために馬を差し出して来た。そして隣にいる実弟の又十郎に指示を出した。


「又十郎、吉法師殿たちを連れて宮後に向かえ、安井様に協力を求めるのだ」


 その指示を聞いた又十郎は思わず首を捻った。


「兄者、安井様も確か美濃出征に出ていておらぬのではないか?」

「城には留守居役の若殿がおるはずじゃ、若殿を尋ねられよ」


「うーん、分かった、兄者」


 又十郎はまだ何か引っ掛かる点がある様であったが、先ずは承知して見せた。


 その後出立の準備が進む中で、吉法師は山内と堀尾に最後の挨拶と共にこの後の指示を行った。


「山内殿、堀尾殿、この城も復旧が進みもう大丈夫であろう。しっかり守備を頼む。ここを通る街道は那古野、清州、津島から西と北の国境に通じる重要な街道じゃ。尾張の守りとして頼む」


 その言葉はもはや一国の領主の言葉の様であった。


「吉法師様、此度は大変お世話になりました、ここの治安は我らが守ります」

「岩倉の殿の事は我らにお任せください。以後吉法師様に危害を加える事はさせませぬ」


 その畏まった二人の様子に吉法師は笑みを見せた。


「ははは、また寄らせてもらうよ、山内殿の取って置きの特技を観賞しにね」


 その吉法師の言葉に周りの皆が昨夜の山内の全力での腹踊りを思い返し笑みを浮かべた。


 小右衛門が吉法師の所に来て出立の馬の準備が完了したことを伝えると、続けて小六と八右衛門が吉法師に話し掛けた。


「吉法師殿、宮後の安井家は儂の母の実家に当たる。捜索の拠点として安心な場所じゃ、吉乃様のことを頼む」

「吉法師さま、私も一度北の国境に寄った後で宮後に向かいます、妹の事、またよろしくお願いします」


「うむ、承知した」


 そう言って吉法師は用意された馬に跨る。他の四頭には三左と五郎八、そして子供衆は内蔵助と九右衛門、犬千代と弥三郎の組に分かれて馬具の調整された馬に跨っていた。


「では出陣じゃ!」


 吉法師が威勢の良い声を上げると見送りに表れた城の者たちが一斉に歓声を上げて吉法師たちを見送った。


(吉法師さま、ありがとうございます)


 その中にははるや山内の奥方たちの姿もあった。


 ゆっくりとした馬の足取りで城を出た吉法師は城を出て直ぐの場で待機している又十郎を見つけた。吉法師が声を掛ける。


「又十郎、この後の案内役、頼むぞ!」


 友好的に話し掛けたつもりの吉法師であったが、又十郎にとって吉法師は主従関係がある訳でも無く、自分より若いであろう吉法師が上からの目線で話し掛けて来る事は良い気分がしなかった。


 又十郎が皆に向かって冷たく言い放つ。


「ぬしら馬は大丈夫か、わいはちんたら走るのは性に合わぬから宮後まで一気に跳ばす。のろまな奴は置いて行くぞ」


 そう言うと又十郎はいきなり馬を駆けさせた。他の皆もそれを見て馬を急発進させる。


「あいつ我らをなめやがって!」


 内蔵助は又十郎の対応に憤ると同時に犬千代に向かって叫んだ。


「犬千代、勝負だ!」


 しかし犬千代は内蔵助が誰との勝負を言っているのか分からない。


「何じゃ、又十との勝負か?」


 問い掛ける犬千代に内蔵助は駆歩を速めながら叫んだ。


「ぬしと両方に決まっとるが―!」


 その内蔵助の言葉に犬千代も駆歩を速める。


「受けて立つ!」


 又十郎の後を勝負事にして追う内蔵助と犬千代、しかしそれを迷惑に思う者たちがいる。


「おい、速過ぎだ、危ない、勝負やめろー!」

「勝負に我らを巻き込むなー!」


 二人の後ろに跨る九右衛門と弥三郎にとって、自分たちの存在を顧みない勝負事は単なる迷惑でしかなかった。


 三騎の後を吉法師の馬が続きその後ろに三左と五郎八の二騎が続く。吉法師は前の三騎を見ながら思った。


(東の勝負ってまさかこれか?)


 吉法師は盗賊団が言っていた東の勝負という意味を考えながら、前の三騎を追っていた。


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