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第六章 継承 濃尾の覇権(7)

 宮の飯場では宮で働く多くの人がその日の仕事を終えて、配給されている晩食に付いていた。吉法師たちは宮大工の棟梁岡部又右衛門に連れられ、ここで食事を取っていた。


「棟梁、飯、うまいっす」

「改めて飯の有難みを感じるな~」

「あぁ、何か儂泣けてきた」

「分かる、このまま空腹で夜を明かすかと思ったからな」

「もしかしたら、もうちょっとで死んでいたかも知れんからのぉ」


「そんなに簡単に人は死なないですよ」


 結が呆れ顔を見せる中で、子供衆の面々は無我夢中で飯場の飯を食べていた。雑穀米に味噌汁と漬物の組み合わせ、けっして御馳走という程のものでは無かったが、その飯場での食事は確実に子供衆の空腹を満たしていた。


「棟梁、ありがとう、本当に助かった」


 吉法師は改めて岡部に頭を下げながら礼を述べた。その吉法師のその態度に岡部は何か虚を突かれた思いがした。


(こやつ世間で噂されている印象とは大分違うな)


 吉法師は世間で織田弾正忠家のうつけの嫡男と呼ばれている。確かにその見た目の成りや行動はしきたりを重んじる武家の姿からは程遠く、そう呼ばれて当然にも思える。しかしこうして実際に会って話をしてみると、非常にしっかりしていてまともであり、何よりも武家の嫡男として生涯の責務を全うすることを前提にして日々を過ごしている様に見える。


(あの白い鳥に出会ったと言っておったな…)


 岡部は吉法師と最初に会った時に口にしていた白い大きな鳥のことを思い起こした。


 熱田の宮の御神体となっている草薙の剣、神代にその剣を用いて東征に赴き、日の本の礎を築いた日本武尊は死の際にその身を白い鳥に変え飛び去ったと言われている。そして日の本が戦乱の世を迎えている今、この熱田の周辺では謎の大きな白い鳥を見かけたという目撃情報が相次ぎ、民衆の間では日本武尊が再度国づくりのために訪れているのではと囁かれている。


 その様な折に熱田に訪れた吉法師は早々にその白い鳥に出会ったと言う。


(まさか、こやつは…)


 岡部は再び内面を観察する様な眼差しを吉法師に向けた。するとその視線に気が付いた吉法師が問い掛ける。


「何じゃ、棟梁、儂の顔に飯粒でもついておるか?」


 吉法師の心底を図ろうとした岡部であったが、その本人に問い掛けられると咄嗟に視線を逸らした。


「良かったな、飯が食えて!」


 そう言って岡部はまた職人気質の憮然とした表情を見せた。そんな棟梁に吉法師は飯場の様子を見渡しながら問い掛けた。


「しかし棟梁、この飯場にはたくさんの人が来るのだな」

「あぁ、ちょうど今その様な時間だからな」


 飯場には引っ切り無しに人が出入りしていた。全員がこの宮を支えている者たち、それは吉法師の想像した以上の人数で、多くの人が入れ代わり立ち代わり晩食を取っていた。その配膳作業が大変な労力となっている中で、吉法師は一人の大柄の男がたくさんの食膳を抱え作業しているのを目にした。


「はい、一日ご苦労様です、はいどうぞ、こちら配給です、はいどうぞ、はいどうぞ、お疲れ様です」


 その男の顔は吉法師が知っている者の顔であった。


「あれは又兵衛じゃないか?」

「あぁ、そうだがぬしは知り合いか?」


 岡部の問い掛けられながら吉法師はなぜ又兵衛が今ここで配膳作業をしているのかを考えていた。本来であれば小豆坂七本槍の功名を得た一人として、更なる功名を期待されながら美濃に向かっているはずの様に思う。


「あ奴はここで何をしておるのだ、ちょっと話し掛けて来る」


 吉法師は又兵衛の所に近寄って行くと背後より声を掛けた。


「又兵衛!」


 突如呼び捨てにして声を掛けられた又兵衛は驚きの表情を見せながら吉法師の方に振り向いた。その姿は完全に武家では無く、宮の配膳仕事に従事している者のものになっている。


「吉法師様、この様な場に、如何されたのですか?」


 驚きの表情で訊ねる又兵衛に対して、吉法師は逆に問い掛けた。


「それは儂の言葉だ、どうしたのじゃ、その成りは、美濃へは参陣せなかったのか?」


 武士とは思えぬ格好をしているのは自分も同じ、しかし又兵衛は雰囲気的にそれ以上で、心底から宮に仕え武士を辞めてしまったかの様に見える。もしそうだとすればそれは織田弾正忠家として大きな家臣の損失だと思う。


 焦りの様子で訊ねる吉法師に対し、又兵衛は少し照れた表情を見せながら応えた。


「実はこの間戦勝祈願にて宮に来られた大殿に、妻が懐妊して今体調を気遣っていることを話したら、此度の美濃攻めは実際の戦は無く、圧力を掛けるだけであるから参加せずとも良い、そのまま妻を気遣っておれと言われたのです、ありがたいことです」


 どうやら又兵衛は妻の扶助のため産時休暇をもらい、その扶助の合間に宮の配膳の仕事に付いていた様であった。


(父上の気遣いであったか…)


 吉法師は又兵衛の話に納得しほっとすると共に父信秀が見せる気遣いに感心した。


 これまでも吉法師は父信秀の何気ない気遣いの話を民衆との話の中で耳にすることがあった。それら一つ一つは些細なことなのだが、常に民衆の中で好感され安定した支持と共に、安定した国内統治へとつながっている。父上がこれを素で行っているのか、それとも効果を狙って行っているのかは分からない。しかし民衆の間で功を奏していることは確かであり、自身も家督継承した際には参考にしたいと思う。


「そうか桜殿懐妊か、おめでとう又兵衛」


 吉法師は顔見知りでもある又兵衛の妻の桜の顔を思い起こしながら笑顔を見せた。


「ありがとうございます、吉法師様」


 織田弾正忠家の親子の二人から気遣いの言葉を受けた又兵衛はまた照れくさそうに笑みを浮かべた。


「それにしても又兵衛、熱田の宮は良く働く者たちばかりだな、宮の連帯感の高さなのか、先程より感心してばかりだ」


 武家でもこの宮の連帯感を活かした繁栄を試みることができるであろうか、そう思った吉法師は先程岡部に問うたことを又兵衛にも訊いてみた。


「それは大宮司様が皆にたいへんな気遣いをくださっているからでしょう、皆、日頃の恩の御礼とばかりに感謝を込めて宮に尽くしております」


 そう答えながら又兵衛は座敷の奥の方を指差した。


「いつもはこの時間、大宮司様がここで皆の一日の労をねぎらってくれているのですが、今はおりませんのであの通り、ご嫡男様が代わりに皆の労をねぎらってくれております」


 吉法師が又兵衛の指差す方向を見ると、そこには飯場に集まる者一人一人に頭を下げている一人の男児がいた。吉法師は良く知るその男児の姿を見てふと笑顔を見せた。


(はは、あれは四郎じゃないか)


 それは千秋四郎であった。千秋家は代々熱田の総領事を務める家柄で、当主季光が自ら宮の武士団を率いて美濃出兵に参加する中、嫡男の四郎が父に代わって宮のまとめ役を担っていた。隠居と思われる老齢の者と共に労をねぎらう子供の四郎の姿は宮で働く者たちに好印象で、跡目を継承するための礎の行動の様にも見える。


(四郎は嫡男としての継承を始めたか…)


 当主に万が一の事態が起きた時、家の嫡男にはその後をまとめることが求められる。四郎はこれまで舞に興味を抱き、これまで宮をまとめるということに無縁であったが、この当主の美濃出兵を機に大宮司としての継承に行動を始めている。それに対して自分は将来を考えてはみても家の継承に対しては何も行動を起こしていない。それで良いのであろうか、悩むところであるが、目の前の四郎を見ていると自由度がかなり制限され、やりたいこと、本来やるべきことが出来なくなっている様に思える。四郎の姿を目で追いながら、吉法師の笑顔は徐々に曇り悩ましき表情へと変わっていた。


 一方その間にも又兵衛のもとには何人もの食膳を求める者たちが訪れており、又兵衛の手持ちの食膳は見る見るうちに減っていた。


「それでは吉法師様、私は一度厨房の方に参りますので」


 遂に手持ちの食膳を全て配給しつくした又兵衛は吉法師に軽く一礼すると廊下の奥の方へと去って行った。吉法師はその後も悩まし気な表情で暫く四郎の様子を眺めた後、子供衆がいる皆の場所に戻って行った。


「えぇ、あの暴れ猪を捕まえたのですか!?」


 その時、子供衆の皆は結の前で誇らしげに暴れ猪を捕まえた時の話をして盛り上がっていた。


「吉法師さまの合図で最初に九右衛門が行く先の障害となる板を掲げたのだよな」

「あぁ、それで一瞬たじろいて方向転換しようとした暴れ猪の両前足に内蔵助と犬千代が同時に縄を掛けた」

「そうそう、それでその駆ける自由を奪った時に、吉法師さまと九衛門が後ろ足にも縄を掛けたという訳だ」

「我らにとってはそれほど大層なことでは無かったが、我らがそれを一瞬でやって見せたから宮大工の者たちはひどく驚いておったな」

「まぁ、結局最後は暴れ猪の力が強くて、おとなしくさせるには大人の力が必要だったけどね」


 自慢げに話す子供衆に感心していた結であったが、何故かそこまで勝三郎の話が出て来ないことが気になった。


「凄いですわ、皆さん、それでその時勝三郎さんは何をしていたのですか?」


 盛り上がっていた子供衆であったが、その結の問い掛けに一瞬静まり返る。


「あれ、そう言えば勝三郎はその時何をしていたっけ?」

「ん?先ずその時いたっけ?」

「どっかでさぼっておったか?」


 宮で問題となっていた暴れ猪の捕獲、その貢献に対して忘れられている自分に勝三郎は憤慨して主張した。


「儂が皆のいる捕獲の場に誘導したのであろうが!」


 自分もしっかりと暴れ猪退治に参加していた。結がいるこの場で一人さぼっていた勝つさぼろうくんなどと呼ばれるのは避けたい。勝三郎は語気を強めてそう返した。


「そうか、勝三郎が暴れ猪を我らの策に引き込んだのだっけ」

「引き込んだというより、追われていたというのが正解だろう」

「ま、おとり役としては成功だよね」


「ひ、ひどい」

「ははははは」


 誘導役とおとり役でだいぶ印象は異なるが勝三郎も多分に腹を空かせるほどに貢献していることは間違いが無かった。


ふっ


 皆が笑顔を見せる中で吉法師も一瞬笑顔を浮かべたが、脳裏に焼き付いた四郎の姿を思い起こすと、自身は嫡男としてどうあるべきかという考えに耽り、再び表情を真顔に戻した。


(今自分が四郎の様に家督の継承を前提に嫡男としての任を全うするとすれば、那古野で居留守の家臣をまとめ周辺の城と連携して待機か…)


 吉法師の一つの思考が現在の織田弾正忠家の継承を前提とした嫡男としての任を思い描く。


(つまらぬ…)


 それはこれまで築き上げてきた織田弾正忠家のまとめ役となることであるが何か気が進まない。それは父の立場が絶対的な尾張の領主では無く、あくまでも守護斯波家に仕える守護代織田大和守家の一家臣であり、他の武家や家臣からから見て単なる尾張の代表という立場に過ぎないということにあると思う。この熱田の宮の様に目的に対して一枚岩の様な集団とはほど遠い様に思った。


 吉法師は次にもう一つの思考として、継承を前提として今成しておきたいことを思い描いた。


(尾張を一枚岩の集団にするためには、自らの所でその核となる尾張最強の家臣団を作り上げることが必要…)


 吉法師はこの時、今は継承にてその自由に制限が掛かることは好ましくなく、自由に動ける環境の方が必要であると思った。自身が納得のできる家の形を作り上げる。どの様な戦でも戦い抜くことができる家臣団を作る。そう思いながら吉法師は大きな戦の中心にいる自分の姿を思い描いた。何千、何万の敵が自分の首を取ることを目標に殺気立っている。この状況に対応できる様にならなければならない。吉法師はその圧倒される戦場の光景に思わず身震いをした。これが武者震いというものか、その瞬間吉法師はそう思ったが、それは直ぐに違うと思った。


「ちょ、ちょっと厠に行きたい!」


 それは単なる尿意だった。


 しかし吉法師のその一言は子供衆にとっては単なる一言ではなく困惑の一言であった。結との話に盛り上がっていた子供衆はその一言に反応し騒ぎ立て始めた。


「え、吉法師さま、厠ですか?」

「何、如何する、誰ぞ!」

「勝三郎、ぬし付いて行け、誰も付いて行かぬのはまずい」

「え、儂、いやじゃ、この間はもう少しで切腹に追い込まれる所であったし」

「内蔵助、お前が付いて行けよ!」

「いや儂は結殿との話に忙しい、久右衛門行けよ」

「いや、儂は方向音痴じゃから厠に辿り着ける自信が無い」


 先の事件以来、吉法師が厠に行くとそのまま姿を消し、後で咎めを受けるということが厄介な通例となっていた。勝三郎と犬千代、九右衛門は厠への共を拒否し、犬千代と弥三郎もそっぽを向いて関知せずの態度を見せている。子供衆の皆が切腹の恐れのある吉法師の厠への帯同よりも、結との談笑を望んでいた。


「も、もれる、誰ぞ行くぞ!」


 吉法師を襲う急激な尿意、しかしこれが弾正忠家の真の立場なのだろう。危難との天秤で本当に必要とする時に動く絶対的な家臣の関係が無い。絶望的な状況の中、声を上げる者はまた同じ者であった。


「しょうがないなぁ、儂が一緒に行こう」


 そう言ったのは棟梁の岡部であった。


 その時、岡部は仕方ないと切り出しつつも、ここで二人きりになることで吉法師の真意を測る良き機会になるのではと思った。日本武尊の新たな国づくりの意思を託された子供は尾張で今うつけ者と囁かれる子供、その乖離に対して今後の自身を対応を考えても内心答えを出しておきたいと思っていた。


「おぉ、棟梁であれば適任じゃ」

「ここの厠の場所も知っておるしのぉ」

「万が一においても武士で無ければ切腹もない」


「ぬしらなぁ~」


 吉法師は子供衆たちに怒りをぶつけたい所であったが、もはや状況は予断を許さない。棟梁の岡部と共に一時飯場を抜けて厠へと向かった。


「まずい、まずい」


 歩く振動が尿意を高める。吉法師は振動を極力抑えながらその歩を急がせつつ、岡部に付いて飯場の外にある厠へと急いだ。


「ほら厠はあそこじゃ」


 そしてようやく厠が目の前に見えた時だった。


「あっ!」


 二人は厠の前にある木の枝を見て驚いた。そこには先の大きな白い鳥が留まっていた。


(や、やはり、この鳥は…)


 その鳥の放つ雰囲気は尋常では無く、強い意志の塊で成り立っている様に感じられる。岡部はその白い鳥を目の当たりにして、これまでに見せたことの無い緊張した表情を浮かべた。


「き、吉法師、あ…、あの鳥はぬしに…」


 岡部は初めて吉法師の名を呼んで、白い鳥の出現の理由を説明しようとした。しかしこの突然の神秘的な事態にうまく言葉にならない。


「と、とうりょう、わ、わしは…」


 一方で吉法師も緊張のためか声が震えている。


 しかしこの時の吉法師は白い鳥どころではなかった。


「かわやー!」


 もう尿意は限界点に来ていた。吉法師は白い鳥を完全に無視してその横を通り過ぎるとそのまま厠へと駆け込んで行った。


 呆気に取られる岡部と白い鳥、するとそこに千秋四郎が現れた。白い鳥は気を取り直して四郎の方に目を向けると吉法師への口添えを、といった様子で何度かくちばしを開いて見せた。そして最後に首を縦に大きく振る動作を見せた後、また夜空へと羽ばたいて行った。


「四郎殿、今の白い鳥は?」


 岡部はその光景を四郎の隣で圧倒されながら見ていた。


 あの鳥は日本武尊の意思を持った熱田大神の化身ではないかと思う。そして四郎はこの宮の大宮司の嫡男で、祖先は日本武尊の近臣者と考えれば、白い鳥が一先ずその意思を預ける相手として最適な者だろうと思う。


 四郎が白い鳥が飛び去った方向を見上げながら呟いた。


「吉法師さまに天下の再構築をせよと言っている様だね」


 それは岡部が感じた印象と同じであった。


「やはりそうか、あの鳥は熱田大神の化身、吉法師、見込まれたものだな」


 自分ははっきりと認識できた訳では無い。しかしそれは決して錯覚や幻などではなく、印象としては確実に伝わってきている。岡部は四郎と同じ方向を見ながら神妙な面持ちを見せた。その岡部の方に顔を向けた四郎は現実の中の一つのことを思い出した。


「あ、そうだ棟梁、国友の勘三郎殿が先ほど納品に来られましたよ、それを伝えに来たのをすっかり忘れていました」


 近江の国友に発注していた金属製の宮具、それは以前岡部が注文を出していた本殿の宮飾りであった。その四郎の話に岡部も思考を現実に戻した。


「そうか、そろそろ着く頃と思っておったが今着いたか、さっそく本殿に持って行き合わせてみるとしよう」


 そう言って岡部は厠の方に顔を向けた。


「それにしても長いな、吉法師」


 もしその宮具が本殿に取り付けてみて不具合があれば、勘三郎に持って帰ってもらい国友で修正を施してもらうつもりでいる。そのためには先ず厠に向かった吉法師を他の皆の所に戻さなければならない。


 夜分遅くにもう一仕事、その岡部の状況を察して四郎が気遣う。


「吉法師さまであれば、私が皆の所にお連れ致しましょう、棟梁はどうぞ勘三郎殿の所に行ってあげてください」

「いや、でもそれは…」


 この四郎の気遣いに岡部は最初少し申し訳なく思った。しかし吉法師と四郎は幼少の頃からの顔見知りで歳も近い。尾張の国の重要な良家の二人、そこであの白い鳥の意思についての話となれば、かえって自分はいない方が良いかも知れない。


「そうか、四郎殿、ではよろしく頼む」


 そう言って岡部は足早にその場を離れると、そのまま宮の受入れ口で待つ勘三郎のところへと向かって行った。


「あぁ、すっきりした…、あれ四郎、棟梁と白い鳥は?」


 暫くして厠から出て来た吉法師は棟梁と白い鳥の姿が見えず、代わりに四郎が待っているのを不思議に思った。


「両者ともに吉法師さまの用足しの時間が長くて待てなかったみたいですよ」


 そう言って四郎は笑顔を見せた。


(あなたに天下の再構築をする様にとの天命が出ています…)


 本当は直ぐにも吉法師にそう伝えるべきかも知れない、四郎はそう思った。しかし今は何か違うという様な気がしてならない。皆の所に戻りながらの吉法師との会話は四郎が話を聞く側の一辺倒となっていた。


「それでさぁ、厠でさぁ、一人の爺さんがさぁ、紙がねぇ、紙がねぇって大騒ぎしてたんだよ、ちょっと周りを探したんだけど見当たらなくってさぁ、あちこち探してやっと見つけて、爺さんの所に放り込んでやったよ、四郎、ちょっと厠の紙の置き場所を考えた方がいいんじゃない!」


 吉法師が中々厠から出て来れなかったのは紙が無くて困っている爺さんの対応をしていたためであった。


(吉法師さま、そっちの紙(神)対応をしてたのね…)


 四郎は吉法師の話を聞きながらそう思った。


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