新しいシチュー
月乃が帰って来たことを聞きつけて、地球食堂にはさらに多くのお客がやって来た。
地球堂は前よりもっと忙しくなり、陸も手伝いを始めた。月乃も変わらず歌を歌ったが、週に2回、太陽が歌うことになった。だからシチューを食べた常連さんの中には「今日は太陽の野菜だ」なんて言う人もいた。
森から帰って来た3人とも、一生懸命にそれぞれの仕事をした。
今日の地球食堂にお客さんはいない。
代わりにカウンターに座っているのは、月乃と太陽だ。
「陸が厨房にいるなんて、新鮮ね」
「休みの日にすごいね」
2人がめいめい感想を述べると、陸は声を立てて笑った。
「これでも一応、毎日作ってるんだけどな」
農家の2人は畑の仕事をして来たので、厨房の陸を見るのは初めてだった。以前、陸は地球堂の手伝いを面倒に思っていて、よく逃げていたから。
今日は陸が初めて、明日の日替わりシチューを作るというので、出来上がりを待っている。
「あれからさ、月乃は偉いよなあって思ってさ」
月乃は思っても見ないことを言われ、びっくりした。
「わたしが、偉い?」
「そう」
陸は鍋の中の具が煮えているのを確かめ、お手製のホワイトソースを加えた。両手を頬に付いて待っていた太陽は、鼻をくんくんいわせ、微笑んだ。
「毎日毎日、畑で歌って、おまけに鹿のためにも歌って、それはすごく大変なことで、本当すごいなって思ったんだ。おれもしっかりしなきゃって気がしてさ」
月乃は優しい笑顔を見せた。
「そうね、のどが痛い時も、まだ眠っていたいなあっていう時もあるから、大変よ」
太陽もこくこくと頷いて聞いている。
「でもね、人のために何かをするって、素敵なことでしょ。だから全然、平気」
そう言った月乃の目は、あの日の朝日のようにきらきらと輝いていた。
「陸もそう思わない?」
陸はお客さんの美味しい、と喜んで食べてくれる顔を思い出し、頷いた。
「お姉ちゃんってやっぱりすごいや!」
太陽がそう言うと、陸と月乃は声を立てて笑った。
「よし、出来た!」
「ピンクのシチューね。きれい!」
陸が作ったのは、ホワイトソースの中に、鮭と人参、たまねぎに、トマトが入っている、ピンクのシチューだった。
陸のシチューが美味しかったか、ですって?それはもちろん、美味しいですよ。
何たって、歌で育った野菜たちですからね。
この話のテーマは、「誰かのために何かをする喜び」です。
それは『空色の授業』も同じです。あちらはなかなか長い道のりですので、再確認のように、こちらを書き上げました。